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エンタメ×テクノロジーの挑戦。“おもしろい”を拡張するバーチャルコンテンツの裏側【やさしいテック学】

2023.11.21(最終更新日:2023.12.06)

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フィンテックやフェムテック、アグリテック、エドテック……日々進化し続けるテクノロジーと特定の領域をかけ合わせた、「◯◯テック」。最近よく耳にするけれど、実際、どのような技術が使われていて、なぜ注目されているのか? よくわからないという方も多いのではないでしょうか。

本企画【やさしいテック学】では、現役大学生の世良マリカさんが、気になるテック業界の有識者へインタビューを敢行。目まぐるしく変化するテックについて、学んでいきます。

第7回目は、吉本興業のグループ会社・株式会社FANYを訪問! 吉本所属タレントが公演を行う際のオンラインチケット販売やライブ配信を運営するFANYですが、2022年からはメタバースやアバターを活用した事業を行うプロジェクト「FANY X(ファニーエックス)」をスタートさせています。

最先端のデジタル技術を積極的に取り入れ、新たなエンタメの形を生み出し続ける「FANY X」。実際にメタバース空間でコンテンツを体験させてもらいながら、その立ち上げの裏側に迫ります。

吉本興業が仕掛ける、デジタル領域での新しいエンタメの形

今回世良さんが訪れたのは、新宿区にある吉本興業の東京本部。芸人さんたちのYouTubeなどにもよく出現する、おなじみの旧小学校を改築したオフィスです。

今回は「FANY X」を運営する、株式会社FANY 新規開発事業部の田中爽太さんにお話を伺っていきます。

▲株式会社FANY 新規開発事業部 田中爽太さん(左)

世良マリカ(以下、世良):お笑いと最新のテクノロジーを掛け合わせたコンテンツを体験できると聞いて、とても楽しみにしていました。本日はどうぞよろしくお願いいたします! 

田中爽太(以下、田中):こちらこそ、よろしくお願いいたします!

世良:さっそくですが、「FANY X」はどのようなプロジェクトなんですか?

田中:もともと吉本興業では、ファンとタレントを繋ぐデジタルプラットフォーム「FANY」を運営してきました。その中で、最先端のデジタルイノベーションとエンタメを融合させて新しい取り組みをしていくプロジェクトとして立ち上がったのが「FANY X」です。

田中:「FANY X」で取り組んでいるのは、主にメタバース事業とタレントアバター事業の2つです。メタバース事業では、企業や自治体のメタバース空間を構築する際のサポートやプロデュースを、タレントアバター事業では、吉本興業に所属する芸人やタレントの皆さんのアバターを貸し出して、イベントやキャンペーンを盛り上げるお手伝いをしています。

世良:なるほど。そもそも吉本興業さんがこうしたテック系の事業を展開している、というのが驚きでした。

田中:2021年頃にメタバースに注目が集まりはじめ、吉本興業としても未来のエンターテインメントのために何かできないかという話が上がっていたんです。そこで僕らは、多くのタレントさんが所属している強みを活かしつつ、今までに力を入れてきた地方創生にも繋がるような事業を考え、展開してきました。

さらに2023年5月には、ゲームを作成したり遊んだりできる世界規模のプラットフォーム「Roblox」を活用した新プロジェクト「FANY X lab on Roblox」もスタートしました。Robloxを舞台に、ゲームをはじめとしたさまざまなエンタメコンテンツの開発にも力を入れています。

世良:「FANY X」のなかでも、かなり幅広い取り組みをされているんですね。ただごめんなさい、正直まだどんなことができるのかあまりイメージができていなくて……(笑)。

田中:いえいえ、そうですよね(笑)。実際に体験していただいた方がイメージが湧くと思うので、さっそくいくつかやってみませんか?

世良:ぜひ! 楽しみです。

ノンスタ石田さんがフィードバック!? 東大と共同開発したVR漫才

田中:まず最初に体験していただくのは、「VR漫才」です。バーチャル空間上で漫才を疑似的に体験することで、掛け合いプレゼン力やコミュニケーション能力を向上できないかという発想から生まれたプロジェクトで、東京大学さんと共同研究をしながら開発を進めています。

今から世良さんにはVRのヘッドマウントディスプレイを頭に装着して、NON STYLEの石田さんと漫才をやっていただきます。

世良:え、私が漫才をするんですか⁉

田中:はい! VR上でNON STYLEの井上さんになりきって、石田さんにツッコミをしていただきます。最終的には、そのツッコミに対して石田さんによる採点とアドバイスがあります。ツッコミのセリフはちゃんとディスプレイ上に表示されるので、安心してください(笑)。

世良:よかった(笑)。でも採点があるなら、頑張らないと……!

田中:声の大きさや間の取り方などが採点項目になっているので、ぜひ意識してやってみてください。最初に稽古をしてから本番という流れになるので、さっそく始めてみましょう。ヘッドマウントディスプレイを被って、リモコンを両手に持っていただくと、目の前にサンパチマイク、右隣にアバターの石田さんが見えませんか?

世良:わ、見えます! 本当に舞台に立っているみたい。

田中:それでは、井上さんの声と動きに合わせて、ディスプレイ上に表示されているセリフを喋っていきましょう。

世良:わかりました。「どうも~NON STYLEです!」

▲「なんでやねん!」とNON STYLE井上さんになりきってツッコむ世良さん

~体験終了後~


世良:難しかった……! 最後に石田さんと井上さんから、「ツッコミ」「動き」「滑舌」「トーン」「落ち着き」の5つの項目で、それぞれしっかりアドバイスをもらえて驚きました(笑)。

田中:お疲れ様でした! 最初は世良さんの緊張がこちらにも伝わってきましたが、後半は関西弁もばっちりでしたね!

世良:ありがとうございます! 普段の会話にも活かせるコメントもいただけたので、これはたしかにプレゼンのいいトレーニングになりそう。

よしもとのエンタメを世界へ。 Robloxを舞台に“次世代のおもしろい”を拡張する

田中:では続いて、2023年5月に「FANY X Lab on Roblox」でリリースされた「ダイアン落とし」をやってみましょう。その名の通り、落とし穴をつくってダイアン・津田さんを陥れるゲームです。津田さんをたくさん落とすと「スー」が手に入り、便利なアイテムを手に入れることができます。

▲Roblox上でプレイできる「ダイアン落とし」

世良:すごい、津田さんがいっぱいいる!

世良:シンプルなゲームだけど、津田さんを落とすのがクセになって楽しいです。このゲームの企画はどうやって生まれたんですか?

田中:ライトユーザーにもわかりやすいシンプルなゲームが多いRobloxのなかで、どんなゲームをつくろうか考えたときに、うちの社員がとにかく人を穴に落とすゲームをつくりたいと(笑)。そのアイデアにハマる芸人さんとして、ダイアンの津田さんが選ばれました。

ちなみに第2弾の「無限ジョイマン〜ありがとう オリゴ糖〜」では、無限に湧いてくる偽物のジョイマン高木さんの攻撃をかいくぐりながら、無限発生装置を破壊して、手に入れた「オリゴ糖」の数をユーザー同士で競います。

▲偽のジョイマン高木の攻撃をかいくぐる「無限ジョイマン〜ありがとう オリゴ糖〜」

世良:そちらも気になります(笑)。ゲームの中に人気の芸人さんが出てくると、ファンの方同士で盛り上がりそうですよね。

田中:そうですね。差別化できるポイントは何かと言えばやはり、所属する芸人さんたちの存在なんです。彼らをゲームに登場させることで、まずはファンを中心に一定数の方々に楽しんでもらえるというのが強みだと思います。

実際に、夜にファン同士でRoblox上に集合して、ゲーム内のチャット機能を通して交流をしていたりとか。今までにも、ファンが集うオープンチャットなどはありましたが、バーチャル空間を舞台に、より体験型のファンコミュニティになっているというのは、一つ新しいポイントかもしれません。

世良:面白いですね。こうしたコンテンツを、吉本興業のオリジナルサイトなどではなく、Robloxというプラットフォーム上で公開することならではのメリットもあるんでしょうか?

田中:Robloxは、世界中で平均6,600万人以上のデイリーアクティブユーザーを誇るプラットフォームなので、日本だけでなく海外の方々にも見ていただけるというのは、ゲームクリエイターさんや芸人さんにとって、すごくポジティブなことだなと思います。

田中:世界中のユーザーに遊びにきてほしいという思いから、お笑いイベントやライブビューイングを楽しめるバーチャル劇場の「月面劇場」も、専用アプリからRoblox上に移転しました。

吉本興業は全国に12の劇場を持っていますが、数多くの芸人さんが所属しているので、なかなか舞台に上がれない方もいらっしゃるんですよね。だからこそ、「月面劇場」や「FANY X Lab on Roblox」のプロジェクトが、彼らにとってお金を稼げる一つの場にもなったらいいなと。今後は、バーチャル上でも活躍するタレントさんが増えていくと思います。


※インタビューや体験の様子はこちらの動画からもご覧いただけます。(クリックでYouTubeへリンクします)

地域メタバースでつながり人口を増やし、地方創生へ

世良:芸人さんたちの新しい活躍の場にもなっていくんですね。冒頭では、メタバース事業で地方創生にも取り組んでいるというお話もありましたが、具体的にどのように進めているんですか?

田中:基本的には、企業や自治体のバーチャル空間をつくって、お客さんを集めるサポートをしています。例えば2022年には、兵庫県養父市と連携して「バーチャルやぶ」を構築しました。養父市は兵庫県で一番人口が少ない市で、その数も年々減少してしまっているんですね。そこで、すぐに移住とはいかなくても、まずは養父市に関心を寄せてくれる“つながり人口”を増やしていきたいという思いをお聞きして、養父市のバーチャル空間をつくるサポートをさせていただきました。

▲養父市の観光名所やステージがバーチャル上に展開されている

バーチャルの市であれば、世界中どこにいても訪れることができますし、文化や伝統工芸の体験を通してより気軽にまちの魅力に触れられますよね。それをきっかけに養父市を好きになってもらって、実際に現地に足を運ぶお客さんを増やすというのが狙いです。

世良:たしかに、よく知らない地方にいきなり旅行で行くのはハードルが高いですし、そもそも選択肢に挙がりづらいけれど、バーチャルで観光の疑似体験ができると一気に親近感が湧きそうです! とはいえ、特に地方ではメタバース自体を理解してもらうのに、まだまだハードルがありそうだなと思うのですが……。

田中:おっしゃるとおりです。地域の方にメタバースをご理解いただくのは私たちが常に抱えている課題でもあります。ただ、養父市は国が進めているデジタル田園都市国家構想の自治体に選ばれていて、デジタル領域の新しい取り組みに積極的であること、そして市長さん自身もアクティブな方だったことが、「バーチャルやぶ」の実現に大きく影響していたと思います。

それに加えて、ただバーチャルのまちをつくるだけでなく、そこに芸人さんたちが関わりながら面白おかしく浸透させていけるというのが本興業の強みであり、貢献できるポイントかなと。地域とお客さんの間を、エンタメの力で繋ぐのはどこにも負けないと自負しています。

世良:なるほど。芸人さんたちは「バーチャルやぶ」にどのように関わっているんですか?

田中:定期的に「バーチャルやぶ」で開催されるイベントに出演したり、コンテンツ開発に関わったりしてもらっています。2023年3月には、ゲームクリエイターとしても活躍するマヂカルラブリーの野田クリスタルさんとコラボした「バーチャルやぶ」限定のVRゲームランドをオープンしました。野田さんのファンをはじめ、新しいユーザーの方々に養父市を知っていただくきっかけになっているなと感じています。

吉本興業が大切にしてきた、常に挑戦しつづける姿勢

世良:エンタメの軸は守りつつも、想像以上に新しい取り組みにどんどんチャレンジされていて驚きました。まさに、“おもしろい”が拡張していくような感覚で、ワクワクします。

田中:ありがとうございます。吉本興業はエンタメ業界の中でも、新しいことへの挑戦にすごく前向きな風土があるなと感じていて。というのも、弊社はもともと寄席の興行からスタートしていますが、お客さんが減ることを危惧して、当時流行り始めたラジオなどの新しいメディアへの出演を禁止していた時代があったんです。でも落語家がこっそりラジオに出演したところ、この落語を生で聞きたいという人たちによってむしろ劇場にお客さんが増えたと。

世の中に新しいものが出てきたときって、どうしても慎重になりますよね。ただ、吉本興業としては挑戦することが結果的に会社やタレントさんにとってプラスに働いてきた歴史があるので、常に挑戦しつづけるスタンスは今も続いているのかなと思います。

世良:素敵なエピソード。吉本興業にはそんな歴史があったんですね。今後の新しい挑戦として、何か考えていることはありますか?

田中:今話題になっている、生成AIを活用した取り組みを考えています。具体的には、タレントさん本人と同じように話したり返事したりしてくれるバーチャルヒューマンの開発ですね。実はすでに社外パートナーさんにEXITのりんたろー。さんをAIでつくってもらっているところなんです。

今はまだ上手く話せない「AIりんたろー。」ですが、ジッター(※EXITのファンの名称)の方々に提供していただいた「りんたろー。だったらこう返す」というデータを学習させて、ファンとともに育てていく予定です。ゆくゆくは、忙しいりんたろー。に代わって、YouTubeの収録をするようになるかもしれません。

世良:すごい(笑)。本当に上手くいけばりんたろー。さんが2人いる、みたいなことになるかもしれないんですね! 今日は、これまで体験したことのない最先端のコンテンツに触れられて、すごく面白かったです。ぜひ多くの方に遊んでいただきたいなと思いました。ありがとうございました!

〈Profile〉

[聞き手]

世良マリカ(せらまりか)

神奈川県出身。世界三大ミスコン「ミス・ワールド2019ジャパン」にて、史上最年少16歳、現役高校生で「ミス・ワールド2019日本代表」に選出。慶應義塾大学3年生。また環境問題や教育格差、貧困問題などSDGsに関心を持ち、関心を持ち、学業にも励んでいる。

【Twitter】
https://twitter.com/seramali_jsmn

【Instagram】
https://www.instagram.com/seramali_jsmn/

[話し手]
田中爽太(たなかそうた)
吉本興業ホールディングス 株式会社FANY プラットフォーム事業部 サービスオペレーションセクション兼新規開発事業部。「FANY X」にて最先端テクノロジーを活かし、タレントのアバターを活用したサービス、メタバースにおけるエンタメ企画制作、地方創生、生成AIのサービスなどを手掛けている。


(取材・文:むらやまあき、写真・編集:高山諒)