プロフィール
〈Profile〉
世良マリカ(せらまりか)
神奈川県出身。世界三大ミスコン「ミス・ワールド2019ジャパン」にて、史上最年少16歳、現役高校生で「ミス・ワールド2019日本代表」に選出。慶應義塾大学2年生。また環境問題や教育格差、貧困問題などSDGsに関心を持ち、現在BSテレ東『日経ニュース プラス9』 木曜日SDGsコーナーのレポーターを務める。
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NTT東日本はアートと深いつながりが……!?
今回、世良マリカさんが向かったのは東京都新宿区西新宿にある、NTTインターコミュニケーション・センター (ICC)。運営する株式会社NTT ArtTechnologyの小笠原さん(右)にご案内いただきながら、最先端のアート技術をみていきます。
世良マリカ(以下、世良):世良マリカと申します。小笠原さん、本日はよろしくお願いいたします!
小笠原:よろしくお願いします!
世良:本日はテクノロジーを駆使した最先端のアートを体験できると聞いて、ICCに来ました。ここはどのような場所なんでしょうか?
小笠原:ここICCは、日本の電話事業100周年を記念して構想された科学技術と芸術文化の融合をテーマとするNTT東日本の文化施設です。コミュニケーションというテーマを軸に科学技術とアートをかけ合わせて、アーティストやサイエンティストを世界的に結び付けるネットワークや情報交流の拠点となることをめざしている場所なんです。
世良:NTT東日本というと光通信のイメージがありますが、アートにも取り組んでいるのが意外です!
小笠原:そうですよね。でも実は、私たちは1997年からテクノロジーとアートに取り組んでいまして。最近では、株式会社NTT ArtTechnologyという、よりアートに特化した会社を立ち上げたんですよ。
世良:へえ〜、そうなんですね! いろんなアートに触れていくのが楽しみです!
超高精細スキャンで、凹凸の立体感まで再現された富嶽冨嶽三十六景
小笠原:今回世良さんにご覧いただくのは、ICCにある葛飾北斎のデジタルアートになります。
世良:あ、この絵知ってます! 葛飾北斎の『冨嶽三十六景』ですよね。このICCにあるなんて知らなかった!
小笠原:世良さん、実はこれ、私たちの技術によって再現されたレプリカなんです。
世良:えぇ! そうなんですか? でもこれ、版画のタッチとか和紙の質感とか、完全に本物じゃないですか? 近くでみても全然レプリカってわからない……。
小笠原:そうですよね。ICCでは、超高精細にデジタルスキャンできる技術を駆使して、こうした文化財の質感や凹凸等の立体感まで再現し、レプリカを展示しているんです。
世良:なるほど〜。どんなに顔を近づけても、これがレプリカとわからないですね。でも、どうして芸術作品をデジタル化しているんですか?
小笠原:例えば浮世絵版画は、空気や光に当たることで、劣化してしまうんです。なので、本物をデジタル化して、本物に限りなく近いレプリカを展示することで、現物は保存したまま、作品の劣化の機会を減らし、価値を維持できるんです。
小笠原:例えばこの『冨嶽三十六景』の本物は山梨県立美術館にあるんですが、保存の観点から限られた期間だけ展示されています。でもこうしてデジタル化し、限りなく本物に近いレプリカを作ることで、現地に足を運ばなくても、公共施設や病院等に飾ったり、モニターに表示したりして、質の高い作品を身近に鑑賞することができるようにしているんです。さらに普段は劣化を防ぐためにガラスケースに入れて、照明が暗いところで展示されていますがこのレプリカであれば明るい場所で直接、ゆっくり鑑賞できます。
世良:なるほど。テクノロジーを駆使することでいろんな人がアートに触れる機会を作っているんですね。しかも、文化財として価値の高い本物は良い状態で保護できるんだ。
小笠原:そうなんです。近年では、首里城やノートルダム大聖堂が燃えてしまったり、熊本城が地震で崩れてしまったりして、文化財を消失してしまう痛ましい出来事がありました。ですが、その中でもノートルダム大聖堂は3Dスキャンを実施しデジタルアーカイブを作成していたため、復旧が早く進んでいるんです。事故や災害が起きてからでは遅いので、私たちとしてはさまざまな文化財をデジタル化し、保護していく重要性を考えています。
小笠原:こちらはオルセー美術館に展示されている、印象派の作品です。これもさきほどの『冨嶽三十六景』と同様、高精細のデジタル作品になります。
世良:油絵には凹凸があったりするものですが、それも忠実に再現されていますね。実際に、デジタル化する際にはどのような技術が使われているのですか?
小笠原:デジタル化については、連携している株式会社アルステクネさんが開発をした「*高品位3 次元質感画像処理技術DTIP」という技術が使われています。テレビの画素数を表すのによく4Kや8Kと言いますが、この技術で制作した画像20億画素ほどあり64Kに相当します。
世良:20億画素!? 途方もない数字ですね。筆の質感や和紙の繊維は、その超高精細のスキャンによって再現されているんですね。
小笠原:そうですね。さらにスキャンして終わりではなく、絵を再現するのに、絵の具の色一つひとつが正しいかどうか、学芸員さんと協議しながら進めたりしてますね。特に葛飾北斎が使う青色は「北斎ブルー」と呼ばれるほど独特で美しい青色です。その絶妙な青を再現できるように、何度も協議して、色校正をしています。
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世良:ただデジタル化するだけでなく、絵のバックボーンや知識、技術の検討が必要になってくるんですね。
*DTIP(Dynamic Texture Image Processing)
色相、彩度、明度に加え三次元(3D)質感再現を含めた統合的な画像処理を行い、原画の持つ質感、色合い、筆さばきを限りなく忠実に再現する、株式会社アルステクネ・イノベーション/株式会社アルステクネの独術技術のこと。
浮世絵の奥行きをさらに感じられる、裸眼VRとは?
世良:ここには大きな北斎の絵画もありますね。こんなに大きく印刷されていても、やっぱり本物にしかみえない……。
小笠原:そうですよね。他にも、最近では葛飾北斎の晩年の名作として知られる長野県の岩松院本堂の『鳳凰図』という巨大な天井絵も再現したんですよ。大きさは間口6.3m、奥行き5.5mで、北斎最大の作品と言われています。
世良:すごい! そんなに大きなものまで再現できるんですね。
小笠原:さらに岩松院の本堂と同じ大きさの部屋を作り、プロジェクションマッピングを利用してお寺の壁や雰囲気を出して、その場にいるような光景を再現したり、「鳳凰図」の世界を体感していただいたり、とデジタルならではの表現もしました。
世良:面白いですね。このモニターに映っている『冨嶽三十六景』はなんですか?
小笠原:これは裸眼VRといって、VRゴーグルなしでも、視点の動きに合わせて絵が動き、絵の中に入ったような体験ができるんです。絵をみて歩いてみてください。
世良:わ、波が動いてる!! 本当に絵の中を歩いているみたいです! 今まで絵を平面として鑑賞していましたが、こうして奥行きを感じられるのはいいですね。
小笠原:特に浮世絵は版画なので、実は何枚も重なっていて、この裸眼VRは絵の中に入ることで、その重なりを体験することができるんです。
さて、世良さん、裸眼VRで北斎の世界観に触れていただいたところで、次はもっとどっぷり北斎の世界観に入ってもらいますよ!
世良:もっと? そんなことができるんですか??
プロジェクションマッピングで360度全身で北斎の世界観を味わう
世良:ここも北斎の絵が映し出された部屋ですね。
小笠原:ここは「3Dダイブシアター」といって、プロジェクションによって北斎の世界観を体験できる展示になります。
世良:あ、すごいお魚が泳いできました! これはカツオですかね?
小笠原:そうですね、先ほどみていただいた、『冨嶽三十六景』の「神奈川沖浪裏」ですが、絵の中に、船で移動している人たちがいて、それは江戸に魚を届ける押送船だったという説があるんです。このスペースでは、「神奈川沖浪裏」を元にイメージを膨らませて、プロジェクションマッピングで表現しています。
世良:なるほど〜。わーすごい! タコに、クラゲまで、まるで海の中にいるみたい!
世良:こうして360度全身で北斎の世界観を体験できるなんて、面白い展示ですね! 1枚の絵から、デジタルならではの表現を駆使して、メディアアートの魅力が最大限に詰まっていますね。
今後、アート×テクノロジーはどのように進化していく?
世良:小笠原さん、今日はたくさんの展示をみせていただきまして、ありがとうございました! 私自身、普段から美術館に行くことも多いですが、テクノロジーを駆使することでこんなにアートが魅力的になるなんて、驚きの連続でした。アートとテクノロジーの関係性は今後もより強固に、そしてより進化していきそうですよね。
小笠原:最近ではVRやAR、メタバースという単語をよく耳にしますが、私たちも今、メタバース内に美術館を開くといったバーチャルミュージアムの展開に注目しています。それ以外に今日ご覧いただいた様々な技術やネットワークを活用し、美術館や博物館以外の身近な場所で文化財を鑑賞できるようにしたいと思っています。今までは作品をみるためにはその場所に足を運ばなければならないという物理的な課題がありました。ですが、私たちのテクノロジー技術を用いることで、現地に行くことができない方にもアートを楽しめるような新しい鑑賞の形をお届けし、アートをより身近に楽しめるようになることを期待しています。
世良:たしかに、メタバース上にアートが鑑賞できる仕組みがあったらいいですよね。現地に行くことができない方もアートを楽しめますね。今後もアートとテクノロジーの発展は楽しみなことばかりですね。
他のブースには、歌川広重や洋画のコーナーもあったので、もう少し散策して帰りたいと思います!
(文:高山諒、写真:飯山 福子、編集:金澤李花子)
衣装提供:AOI WANAKA(https://instagram.com/aoiwanaka.official)