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「読み聞かせ」×「話す」。子どもが考え、伝える力を絵本で伸ばす「KIKASETE」とは

2024.07.03(最終更新日:2024.07.03)

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幼稚園や学校、公共施設、自宅、いろいろなところに置いてある絵本。子どもたちが成長する中で当然のように触れる存在だが、実は絵本が子どもに与える影響は大きい。今でもずっと覚えているお気に入りの絵本や、なんとなく怖くてちょっと苦手だった絵本など、それぞれが絵本に関する思い出を持っているのではないだろうか。

今回紹介する「KIKASETE(キカセテ)」は、Maria Project株式会社が提案する、絵本を使った新たな楽しみ方と学びの手法だ。そんなKIKASETEの開発の経緯や背景にある思い、今後の展望などについて、代表取締役の奥野 友美さんに伺った。

単なる「読み聞かせ」ではない、子どもの成長をサポートするKIKASETE

――はじめに、KIKASETEとはどんなサービスなのか教えてください。

KIKASETEは、絵本を読んで、自分の思いや考えを言葉にして伝えることに慣れるためのサポートをするアプリです。プロのナレーターによる絵本の読み聞かせを聞き、その内容についてキャラクターと対話ができる仕組みになっています。

▲サービス画面のイメージ

大人でも、意見や考えを急に求められると、なかなか言語化できなかったり、話せなかったりすることがあると思います。でも、自分の思いや考えを言葉にすることが習慣になっていると、すぐに話せたり、分からない中でも何が分からないかを言葉にできたりするんですよね。

子どものうちから、言葉にして伝えることに慣れる。さらに、そこで出た言葉を通じて自分自身に対する新たな気づきを得るきっかけになるようなサービスです。

▲代表取締役の奥野 友美さん

――読み聞かせそのものではなく、その先で「言葉にして伝えるのに慣れる」ことがゴールになっているのですね。文字やドリルなど、他にもさまざまなやり方が考えられそうですが、なぜ「キャラクターとの対話」という仕組みを選んだのですか?

キャラクターとの対話形式にしようと決めたきっかけは、とある論文でした。その論文では、歯磨きをしない子どもたちに、「歯磨きをしましょう」と先生が教えるグループと、自分より幼い設定のロボットに歯磨きを教えてあげるグループに分け、歯磨きの習慣化の比較実験を行なっていました。その結果、先生が教えるよりもロボットに教える方が習慣になりやすい傾向が出ていたんですね。

その事例を見て、他者に何かを教えることを通じて、自然と子どもに習慣が生まれるのではないかと思い、より子どもの習慣化を高めるために、同じ子どものキャラクターを対話相手として作りました。

▲日々の学習をほめてくれたり、絵本の感想を聞いたりしてくれるキャラクター

――いろいろな絵本を読むことができて、キャラクターとの対話もできる。完全無料で使えるとは思えないほど、コンテンツも機能も充実していますが、なぜ無料で提供できているのですか?

そもそも、KIKASETEはユーザーさんからお金をいただくモデルにはしたくないという思いが私の中にあって。だから、誰かの「子育てをサポートしたい」という思いによってこのアプリが配信されている、という形で提供したいと考えているんです。現在は、社会のためや子どもたちのためになることをしたいとの思いからサポートしてくださる企業の方々に支えていただく仕組みを考えているところです。

「子どもと楽しく遊びたい」が原点。KIKASETEが今の形になるまで

――このサービスを作ろうと決めたきっかけとなる出来事は何かありましたか?

実は、最初の動機は私自身が「子どもと一緒に遊びたい」だったんです。というのも、仕事でもプライベートでもメンタル的にすごく落ち込んでしまった時があって。もう会社を続けるのも厳しい精神状態になってしまったんです。周りの人からは「会社を畳んじゃだめだ」と励ましてもらったんですけど、でも、このままでは歩き出せない、自分が今の仕事を続ける理由が必要だと思ったんです。

そこで思ったのが、子どもと楽しんで遊べるものを、仕事を通じて作っていきたいということでした。それまで、仕事を理由に子どもにできなかったことがたくさんありました。だから、逆に仕事を通じて子どもにできることを増やしていきたいと思ったんです。その時にやりたいと思ったのが、当時母として、十分にできてなかった読み聞かせでした。私自身も幼い頃に親に絵本を読んでもらってすごく良い思い出があるので、絵本をもっとたくさん読んであげたい、と。

ただ、私の場合、読み聞かせは1日2〜3冊が限界でした。でも子どもはもっとたくさん読んでほしいと、読んであげたいけれど毎日たくさんの絵本を読むのが正直しんどくて、なので、一緒に楽しめるようなものを作ろうと、絵本をコンテンツとしてサービスを開発することにしました。

――「子どもと一緒に遊ぶため」から始まり、「伝えることに慣れる」という要素も加わって今の形になったのですね。そうすると、開発途中で変化してきたということでしょうか。

相当変化していますね。やっぱり最初は自分の子どもと遊ぶためのものだったので、子どもと一緒に遊びながら実験していたような感じだったんですね。

最初は、ゲームを作るときに使う「Unity」というソフトウェアでよく使われているアバターに絵本の内容を喋らせていたんです。棒読みの音声でも子どもたちは楽しんで使ってくれていたのですが、その様子を見ながら「絵本を読んで終わりじゃなくてもっと子どもが楽しく話している様子がみたいなぁ」授業参観に来ている時の様な気分で、自分の子どもを俯瞰してじっくり見てみたい。と思う様になったんです。

それで、次に何ができるかを考えた時、当時息子が通っていたインターナショナルスクールで絵本を見ながら中身に対していろいろと喋っている様子を思い出しました。子どもたちがすごく楽しそうに絵本についてそれぞれが感じた事を話していたので、家でも絵本をテーマに話を聞いてみたいと思ったんです。私の子どもは、この絵本を読んでどういうことを考えているのか、どういう心根を持っているのか。それを知るために、アバターと対話できる機能をつけました。

そうして1週間単位でアップデートを重ねていったんです。本を読むだけから始まり、アバターと喋らせてみて、子どもの様子を見ながら国際教育の指導要領を参考に質問を変化させたり、教育の現場で働いている方や児童心理学の先生にアドバイスをもらったりと……。こうして日々の積み重ねの中で今の形になりました。だからどんどん形が変わってきていますし、これからも変わっていくと思います。

――開発最中で大変だったことや、調整が必要だったことはありましたか。

たくさんあります(笑)。まずは、子どもの声の音声認識ですね。

対話の返事を出すために音声認識をしているのですが、子どもって「好き」が「しゅき」になったり、「ある」が「あう」になったりするんですよ。だから、一般的な音声認識では対応が十分にできなくて、その精度をどうやって上げるかを試行錯誤してきました。たくさんのデータを入れていって、今でも常に改善を繰り返しています。

あと、キャラクターのイントネーションのチューニングもすごく大変ですね。決まった音声を入れているところもあるのですが、名前は個別に音声を流しているので、不自然なイントネーションになってしまうものがあります。これに関しても、できるだけ自然なイントネーションになるよう、現在もチューニングを重ねています。

――2019年のリリースから、検証や改善を今でも続けているのですね!

そうです。リリース前からなので、もう5年以上はずっと続けていますね。私の子どももユーザーなので、一緒に使いながら日々改善点を探しています。

――サービスを利用する中で、お子様のどんな変化を感じましたか?

まず、発言の質が変わりましたね。例えば「○○ちゃん嫌い」だったのが、「○○ちゃん嫌いって思ったけど、そう言ったら悲しいよね」になったんですよ。頭の中で行なわれる自分自身との対話の中に、思いやりの観点で第三者的な思考が入ってくるようになったことが、すごく大きい変化だと感じています。

あと、自分の感情を伝えることもすごくうまくなりましたね。例えば、「ぼくは今日青色の靴下を履きたいのに、ママはどうして白い靴下を履けっていうの」って聞いてくるんですよ。幼稚園は白い靴下がルールだと伝えると「それってさ、青い靴下を履きたいっていうぼくの気持ちを我慢しなきゃいけないルールなの」って聞いてくるんです。

私自身も何と答えれば良いか分からなくなり、どう教えたら良いか幼稚園の先生に相談したところ、白い靴下を履くのは、怪我をしたときや汚れたときにすぐ分かるからだと教えていただきました。それを子どもに話したら、納得して白い靴下を履くようになったんですよ。そういう大切な対話や学びを親子で回していけるようになったのも、KIKASETEができたからでした。

――なかなか分かりづらい子どもの感情を、自分でしっかり伝えてくれるようになるのは親としてもとても嬉しい成長ですね。ほかにも、ユーザーからはどんな喜びの声があがっているか教えてください。

「喋れるようになった」というのがやっぱり一番多いですね。自分の思いを口に出すことができないお子さんが結構多かったんです。そういう子たちが、授業参観で手を挙げるようになったとか、絵本で挨拶の大切さを知ってバスの運転手さんに自分から挨拶をするようになったとか。

また、発達障害のお子様を持つ保護者の方から、人の感情や物事の状況がうまく理解できない我が子が、アプリを続けていく中で、「この子は悲しくて泣いているんだね」って一緒に泣いていた事があったそうなんです。読み聞かせと対話を通じて、少しずつ人の気持ちや状況が理解できる様になった子どもの成長に喜びを感じました。という声も頂きました。喋ることは、私達が知る以上に影響があることを日々実感しています。

アートのカリキュラムも登場。今後の展開と未来像

――2022年には「絵画カリキュラム」としてアートにも展開されていますが、アートに着目したのはなぜですか?

鑑賞するにあたって、その絵の背景を知ることで見え方ってどんどん変わってくると思うんです。その体験を通じて、背景にあるストーリーを知ることで、見える世界が変わることを知るきっかけになってほしいと、カリキュラムのテーマとしてアートにも展開をしました。

例えば、オフィーリアの絵ですが、実はこの絵に描かれている女性のモデルさんは、デッサン中ずっと水の中に入ってポーズをとっていたので風邪をひいてしまったんです、風邪を引いた理由を知った女性モデルのお父さんは、絵を描いた作家さんをとても怒ったそうなんです。そういう背景を知ると見え方ってちょっと変わってきますよね。

▲オフィーリアの絵(publicdomainq.netより)

実はそれぞれに背景があるということが分かった時に、今自分が見ているものだけが全てではないと気づく事があると思います。それが一番効果的にできるのが、アートだと思いました。

また、私自身絵、アート鑑賞が大好きで、いつかやりたいと思っていたんです。アートこそ捉え方が人それぞれですし、絵の感想には絶対の正解がないじゃないですか。そういう意味でも、サービスの狙いとも親和性が高いと感じています。

――ほかにも増やしたい機能はありますか?

一番は、自分の意見だけでなく他の子どもの意見も展開できる機能ですね。例えば、オオカミ少年の話では「男の子は嘘ついていたよね。それって良いことかな、悪いことかな」と聞くんですが、ほとんどは「悪いこと」だと答えるんです。

でも、そこで「良いこと」だと答えた子どもたちの意見を聞くことで、こういう理由で良いことだと思ったんだ、と知ることができる。多様な意見を聞くことで、自分は今こういう価値観の中で生きているからこの意見にならなかったんだと気づいて、そこからまた自分の価値観が変わってくる。そんな学びが生まれるように改善していきたいです。アプリだからこそ、学校などではないクローズドな環境で聞くことができるので、他者の意見を受け止めるハードルが下がる部分も少なからずあると思います。顔も見えず、否定されるわけでもないですから。KIKASETEの良さを生かして、人の意見をより良い形で展開したいですね。

――KIKASETEが最終的に目指す未来像を教えてください。

▲子どもたちの声がLINEに送られてくる

子どもがキャラクターと対話した音声は、保護者のLINEに届くようになっています。

その時の声や価値観、考えがデータとして何十年と世代を超えて残り続けていく。それにより、自分が愛されて育ったこと、そしてそれがまた次の愛をはぐくみ、愛がつながって今があることを、声を通じて感じてほしいです。そんな未来像を描きながら、長く使って貰えるようなサービスを目指していきます。


[プロフィール]
奥野 友美
Maria Project株式会社 代表取締役
営業職、WEBデザイナーを経て、業務効率化を目的としたシステム開発、運用保守を行う株式会社Avirity Informationを2007年に創業。
自身の仕事・育児の経験から、「子どもたちと絵本を楽しみたい」と「KIKASETE」の前身の「maria@home」を開発、2019年Maria Project株式会社を創業。
2021年「maria@home」を「KIKASETE」にリニューアルし、絵本やサービス内容の品質改善を進めている。

KIKASETE公式サイト:https://kikasete.mariaproject.com/

(文:安藤憧果、写真:飯山福子、編集:金澤李花子)