AI導入によって「人の仕事が奪われる」というのは誤解?
AIの導入・進化によって、人間が行っているすべての仕事が近い将来に AIに奪われてしまうと心配する声を耳にします。
しかし、AIの研究が進むにつれ、むしろ、AIを活用することで、人間がより効率的に仕事をこなすことが、導入の観点として重視されてきています。
AIの進化・発展は業務分担や指示命令系統の明確化をもたらします。かつてAIは、何でも万能にこなすことが可能な新たなツールとして捉えられていた時期もありました。しかし、AIの研究が進むにつれて、AIを上手に活用することで我々の生活や仕事に大きなメリットをもたらすことがわかってきました。
たとえば、人間が方向性や方針を決めて実際の行動はAIに任せることで、効率的に業務に取り組むことが可能になります。具体例を挙げると、「営業」において基本方針を人間が決定して「テレアポ」や「営業メールの送付」をAIが行うようなケースが考えられます。
AIによって代替されると考えられる仕事や資格の特徴
ただし、AIによってなくなると考えられる仕事や資格があるのも、紛れもない事実です。なぜなら、計算の正確性や作業スピードだけでいえば、AIのほうが人間よりもはるかに優れているからです。
そのような仕事として挙げられるのは、人間よりもAIの方が正確かつ迅速にできる仕事、AIだけで自己完結できる仕事、緊密なコミュニケーションを必要としない仕事や資格です。
AIよりも人間のほうが優れていること
AIよりも人間のほうが優れている点はたくさんあります。特に、以下の3点では、AIは現時点において人間に遠く及びません。
【1】未知のことに対する連想力・想像力
AIは、人間が新たな知識を与えない限り、原則として知識量は増えません。つまり、人間はAIの知らないことを知っているという点で優れていると言えます。AIは正確な情報を大量に保持することが可能ですが、みずから能動的に知識を獲得することはできません。
しかし人間は、たとえ知らないことがあっても、連想力や想像力を駆使して正しい答えに近付くことができます。こうした連想力や想像力も人間のほうが優れている点だと言えます。
【2】データが不十分な状態における決断力
AIは十分なデータがあれば回答を導き出すことができます。裏返していえば、データが不十分な状態では回答を導き出すことができないということです。
これに対し、人間の場合はデータが不十分でも、想像力を用いて一定の仮定の下に「決断」をすることができます。
こうした決断力は、人間に特有の能力です。このように、想像力や決断力が求められる仕事は、AIが進化・発展しても簡単にはなくならないと考えられます。
【3】感情に基づくコミュニケーション
AIはそもそも感情を持たず、また、他者の感情を微妙な表情や言動等から推し量ることもできません。
感情に基づく緊密なコミュニケーションは人間にしかできないものです。人の感情と向き合うことが必要な職業は、今後もなくなることはないと考えられます。
AIが進化・発展してもなくならないと考えられる仕事や資格
それでは、AIが進化・発展してもなくならないと考えられる仕事や資格とについて、それぞれの特徴や理由を解説します。
営業職
営業職は、顧客のニーズを引き出すため、緊密なコミュニケーションが必要な仕事です。特に、顧客自身が真のニーズに気づいていない場合には、それを顕在化させるために高度な思考力とコミュニケーション能力が必要です。
場合によっては、顧客の表情を瞬時に判断しながら、「ここでもう一押ししよう」とか「いったん引いて様子を見よう」などを決断しなければならないこともあります。
こうした臨機応変な対応はAIには困難であるため、AIが進化・発展しても、営業職は完全にはなくならない仕事だと言えるのです。
ただし、同じ営業でも、顧客のニーズが明らかなで誰が対応しても同じ場合であれば、AIに簡単に取って代わられます。たとえば、複数の商品・サービスをあらかじめ決められた基準によって比較し、ベストと判断されるものを選んですすめるような営業です。
なお、チャットボットのように営業職をサポートする営業ツールはAIの進化・発展によりとても便利になっています。営業職がどのようにAIを使いこなす必要があるのかは重要なポイントです。
医師・看護師
医療用ロボットなどの開発・進化によって、医師の仕事をAIで代用できる場合もあります。
しかし、AIは独力で新たな医療知識や医療技術を獲得することができません。それらをAIに与えることは医師にしかできません。
また、医師や看護師の仕事は、患者に寄り添って緊密なコミュニケーションに基づいて病気や手術の不安を取り除くというものです。このような仕事はAIでは代替できません。
多くの患者は身体だけでなく気持ちも弱っています。そうした人々に寄り添って安心して治療を受けてもらうためには、患者の気持ちを理解することができる医師や看護師の存在が不可欠なのです。
介護職
日本では高齢化の進展が著しく、AIを活用して介護をサポートするツールがたくさん登場しています。
しかし、要介護者との緊密なコミュニケーションが求められる介護職は、AIが進化・発展してもなくならない仕事と言うことができます。
すなわち、心の通う介護は人間にしかできません。介護職は、AIを活用した介護ツールを上手に活用して、顧客に喜んでもらえる介護サービスを提供することが重要です。したがって、AIの進化によって、介護職がなくなることは考えにくいといえます。
カウンセラー
カウンセラーは相手の相談に乗る職業です。「心理カウンセラー」や「キャリアカウンセラー」などの職業があります。これも、AIが進化・発展してもなくならないと考えられます。
なぜなら、相談相手の話し方や表情を観察しながら適切な助言を行うことは、AIには困難だからです。
たとえば、相手の心理状態や健康状態などによって、「正しい助言であっても今は言わないほうがよい」といった臨機応変な判断は人間にしかできないことです。
コンサルタント
コンサルタントは、クライアントの悩みの相談を受けて適切な回答を提示する仕事です。「経営コンサルタント」や「キャリアコンサルタント」といった職業があります。
コンサルタントは、クライアントの悩みの内容が漠然としていることも少なくありません。その場合、悩みの明確化から相談に乗る場合があります。そのため、高度な論理的思考力、問題点を察知する能力、クライアントのおかれた状態に即した解決策を組み立てる能力が必要です。
また、クライアントの気持ちや思考に深く入り込む必要があり、人間的に信頼してもらえないと仕事になりません。
そのような高度な察知能力と問題解決能力、コミュニケーション能力をAIが備えるのは困難なので、AIが進化・発展してもコンサルタントの仕事はなくならないと考えられます。
教員・保育士
教員や保育士は、未来ある学生や子供にさまざまなことを教える仕事です。教育において重要なことは、生徒の信頼を得ることです。多くの知識を知っていることも大切ですが、人生における悩みや苦しみについて適切にサポートし、温かい心で寄り添ってくれる教員や保育士は、きわめて重要な存在です。
AIツールを駆使して授業を実施することで、減っている仕事も部分的にはあるかもしれませんが、それ以上に生きていくことに悩む若者や子供も増えています。信頼できる教師や保育士の仕事がなくなることは考えにくいです。
アーティスト・クリエイター
アーティストやクリエイターは、AIが持つことのできない創造力が必要な職業です。2022年9月に、AI作品が絵画コンテストで優勝したという報道がなされ、世の中に衝撃が走りました。しかし、AIに指示を与えたのは作家であり、作家自身の手で描き足しもし、完成までに80時間以上を要したとのことです。人間の指図・操作なくして、人々を感動させることができる美術品や音楽をAIが創り出すことはできません。
また、音楽においても同様です。音楽においてはAIを活用した作曲ツールなどがあり、作曲家の仕事をサポートしてくれています。しかし、新しい詞やメロディーなどは、優れたアーティストやクリエイターによって生み出されるものです。
AIがどれほど進化・発展しても、アーティストやクリエイターの仕事がなくなることはないと考えられます。
データサイエンティスト
データサイエンティストは、データを分析してビジネスに活用する職業です。AIに指令を与え、使いこなす側です。
つまり、データサイエンティストがいなければAIの高度なデータ収集・抽出能力も意味をなさないということです。AIが進化・発展すればするほど、AIを使いこなす側であるデータサイエンティストのような職業が必要になってくるのです。
まとめ
かつてはAIの導入によって、人間の仕事がすべて奪われてしまうといわれていました。しかし、AIの研究が進み、人間にしかできない仕事の特徴がはっきりしてきました。
人間には感情があり、創造力や想像力があります。
人間が持つこうした特徴を活用することが求められる職業は、AIが進化・発展しても簡単にはなくならないと考えられます。今後、AIの進化・発展によって利便性が向上していくにしたがって、AIをいかに上手に活用していくのかという視点を持って仕事に臨むことが重要です。
※本記事は、2023年1月23日に公開した記事を元にリバイスしております。