「共有と共感」で女性同士がつながる。「ユーザーの質」が最大の強み
――はじめに、Touchとはどういうサービスなのか教えてください。
林田:Touchは、同じステージの女性と繋がり、共有と共感”を繰り返す中で、楽しい時間を増やしたり、反対に寂しさや孤独を無くすためのサービスです。
例えば、趣味や行きたい場所の共有から、「彼氏から返信が来ないんです」「私もその経験あるよ」といった恋愛話、あるいは子育てについて「こういう時ってどうしていますか?」「私はこうしていたよ」といった話……。日常で起こりうることの共有と共感がとにかく繰り返されているんです。
もちろん、そこから実際に会って親しくなる人もいますが、Touchで一番使われている機能ってメッセージ機能なんですよ。累計約80万マッチングに対し、メッセージ送信数は約1000万件にものぼります。
――マッチングアプリというと、会うために使うツールのイメージがありますが、Touchではメッセージをやり取りするだけの人もいらっしゃるのですね。
林田:そうなんです。会ったりメッセージしたりする人とメッセージだけの人、どちらもいるのは男女のマッチングアプリとは違うところかもしれませんね。ほかにも男女のマッチングアプリと違うのが、友達は1人じゃなくていいので、複数の方とマッチしてメッセージしたり会ったりするのが普通なんですよ。だから、「Touchで出会った人で集まる会」としてユーザーの6人が集まって女子会をした、なんて話も聞きました。これは同性の友達を作るからこその特徴だと思っています。
――女性同士向けの他のマッチングアプリとの差別化ポイントを教えてください。
林田:なんといっても「ユーザーの質」です。とにかくここにこだわって開発してきました。女性が友達を作るためのプラットフォームなので、安心して利用してもらうために勧誘目的や恋愛目的のユーザーをしっかり省けるようなシステムを作っています。
アプリを使うとみなさん気づくかもしれませんが、勧誘の取り締まりがやたらと強いんですよ。まず、メッセージ一覧に勧誘の取り締まりについてのバナー広告を常に出していますし、20回に1回アプリを開いたときにポップアップを表示する仕組みにしています。
また、勧誘専用の通報ボタンを作っていて、それで通報が入ると通報された人のプロフィールにその回数が載るんですよ。
さらに、新規登録する時には同意書にサインが必要なんです。この同意書は法律にのっとって弁護士に作っていただいたもので、勧誘等の行為が発覚した場合に、警察に伝えたり所属していると考えられる組織への通報をしたりする旨を記載しています。それでも構わない人のみ、同意のサインをしていただきます。
――それは、安心できますね。なぜ、他のアプリよりもセキュリティにこだわるのでしょうか?
アプリのローンチ前の仮説検証(MVP検証)の時に、これくらい厳しくしても良いかをユーザーにヒアリングをしたんですね。そうしたら「いいですよ。だって私は勧誘するつもりないですから」と。
純粋に友達作りをしたい人なら、その同意書の内容は痛くもかゆくもなくて、逆に下心がある人だからこそ「そこまでされるならこのアプリやらなくていいや」となるんですよね。それが分かったので、同意書の仕組みを取り入れたんです。その結果、狙い通り他のアプリに比べてクリアな場所にすることができています。
――Touchのユーザー層の特徴を教えてください。
林田:ユーザーは北海道から沖縄まで全国にいらっしゃいます。年齢としては、全体のユーザーのうち70%が20代ですね。その中でも15%ほどは学生の方も利用していただいていて、ヘビーユーザーには40~50代の方もいますし、70代の方が登録されたこともありました。
――幅広いですね! Touchという名前はどこからきているのでしょうか?
渡部:女性同士がみんなで“ふれる”場を提供しようという意味でつけました。直接ふれることだけではなく、心にふれることも含んでいて、会えたら一番良いけれど、直接会わなくても心で繋がれる。そんな場所にしたいという思いが込められています。
アプリはユーザーの声で作られてきた
――女性同士が繋がるというのがこのアプリの強みですよね。どのような経緯で開発されたのでしょうか?
林田:もともとは男女のマッチングアプリを作ろうとしていたんです。それで、事業の仮説検証として、男性と女性のマッチングを人力でしたことがありました。
新宿で「調査中」という札をぶら下げ、「こういうアプリを作りたくて、ぜひ協力していただけませんか?」とひたすら声をかけていくんです。そこで、どんな人と出会いたいかを聞いて、その場で見つけてくるんですね。約200名の方の方にご協力いただき、リアルな声を集めていきました。
その時、男性は「このサービスいいね!」と言ってくれました。一方で女性は「もう男の人はお腹いっぱい。私は女性と繋がりたい」という声が多くて。当時、同性と繋がりたいという仮説はずっと前に捨てていたんですよ。でも、やればやるほど女性同士で繋がりたいという声があまりにも多く聞かれたので、そっちに振り切って開発することにしました。そうしてできたのがTouchです。
――これまでにない視点ですね!マッチングアプリを作ろうと思ったきっかけはあったのでしょうか?
林田:原体験は、僕の母のことです。母は長野県松本市出身で、結婚を機に父の実家がある東京へ引っ越してきました。身近に同性の友達は一人もいなくて寂しいし、旦那は仕事で出てしまうし、子育ても初めてで分からないことだらけ……。そんな環境で、母が毎日泣いていたのを小さいながら知っていたんです。これが心に強く残っていて、Touchの開発にも繋がる原体験となっています。
また、起業したいという思いをもともと持っていたんですね。それで、20歳の頃に今の会社を設立して、父が飲食店を営んでいる関係で生ハム販売の事業を始めたんです。でも、これが大失敗しまして。
このままではいけないと、ビジネスを学ぶために株式会社ショーケースというIT企業に起業前提で入社しました。そして、運よく人材事業の立ち上げに携わることができまして。その後、月200万の売上を1人で作れるようになって、改めて独立しようともう一度起業しました。最初は受託開発で売り上げを作っていきながら、並行して自社でサービスの開発を始めたんです。
その頃、受託開発で企業と人とをマッチングするプラットフォームを作ったことがあって。マッチング市場の規模が拡大していて成長率があることが分かり、僕らにとって身近なマッチングアプリに挑戦することに決めました。
――林田さん の前向きなエネルギーを感じますね。開発する中で苦労したことはありましたか?
林田:それがないんですよね。というのも、僕は男性なので、このサービスには僕の主観が入る余地がないんですよ。答えを持っているのはいつもユーザーさんであって、絶対にユーザー様の声ファーストなんですね。だから、分からないことがあったら、まずはユーザーさんに聞きます。ミーティングが1日5件も入るくらい、たくさん話しているんですよ。そこに客観的な定量データを合わせて運営をしています。
――ユーザーの声を取り入れてどんどん改善を重ねてきたのですね。具体的にどのような変化があったのでしょうか?
林田:リリース初期にはなかったのが「タイムライン」ですね。もともとは「お誘い募集」という掲示板のような機能があったんですが、自分の感情をそこで共有している人の方が多かったんです。
これって何がしたいんだろうとヒアリングをしながら紐解いていって、もっと自分の感情をアウトプットして共感してもらうようなコミュニケーションを取りたいのではないかと考えました。そうして、みんなが好きなように作り上げるタイムラインができたんです。
それと、メッセージ体験の充実です。チャット機能が活発に利用されているならば、メッセージ体験をいかに改善してアップデートするかは非常に重要です。そこで、スタンプ機能を追加したり、メッセージ自体にリアクションをできるようにしたり、友達のステータスによってルームの背景が変わったりするような機能を追加しています。
もともとはマッチングアプリとして打ち出していて、それは今も変わっていないのですが、こうしたアップデートによって、マッチングアプリの要素とSNSの要素のかけ合わせのようなアプリにシフトしてきましたね。
――確かに、コミュニケーションが円滑に進みそうなデザインですね! 実際に使ったユーザーの感想で特に印象に残っているものを教えてください。
林田:40代後半の方で、「Touchのおかげで第二の人生が楽しく毎日幸せになりました」と言ってくださった方がいました。その方は、2、3年前に旦那さんと離婚して、子育ても手離れしてきた頃で、ふと周りを見ると友達がいなかったそうなんです。
子どもが生まれてから学生時代の友達とはライフステージが変わって疎遠になってしまい、ママ友はできても進学のタイミングで疎遠になってしまった。子育てでずっと忙しくしていて、やっと手離れしたタイミングで、誰も周りにいないと。
第二の人生をどうやって過ごそう、と悩んでいた時にTouchに出会ったそうです。その方はTouchを通じて10人以上も新しい友達を作って、定期的に会う約束をして楽しんでいらっしゃいます。友達とは旅行に行く予定を立てているそうで、それが今楽しいとおっしゃっていました。
さらに、その方がTouchを始めてどれだけ楽しいかが特に伝わってきたのが、3ヶ月で20キロ痩せたそうなんですよ。友達とショッピングに行ったりご飯に行ったりする時に、おしゃれをするじゃないですか。その時にスタイルが良い方が気分が上がると、ダイエットを頑張ったんだそうです。
渡部:私は、とあるうつ状態だった方のお話が印象的でした。その方はTouchで友達ができて、友達のおかげで家から出られるようになり、前向きにもなったそうで。また、Touchを日記のようにも使ってくださっていて、その日にしたことや作った料理を載せているんですね。そこに返ってくる反応が楽しみで、毎日頑張れるようになったとお話ししてくれました。
まずは笑顔にしたい相手を想うこと。アプリの成長はその先に
――アプリを運営するうえで大切にされてることって、なんでしょうか?
林田:誰を笑顔にしたいのかを本当に心の底から想って作ること。この一つですね。これを全ての起点として、定量的なデータや、定性的なユーザーの声をかけ合わせてアプリが作られていきます。
これまでいろいろな機能をローンチしてきましたが、刺さらなかった機能を振り返ると、ユーザーの笑顔のことをちゃんと考えられていなかったり、自分たちのエゴの方が強かったりしたものなんですよね。ユーザーの笑顔の解像度が高ければ高いほど、ちゃんとユーザーに喜んでもらえるサービスを提供できるんだと実感しました。
そして、ユーザーだけではなく会社単位でも、株主や社員、自分の家族や社員の家族まで本当に心から笑顔にしたいという想いを持って運営することが、結果的にTochの成功に繋がると信じています。
その会社や人の周りが笑顔になっているってかっこいいじゃないですか。僕はそれが素敵だと思っているので、そういう人でありたいですし、そういう会社でありたいと思っています。ユーザーや関わる人たちの笑顔を想って「どうしたら喜んでもらえるのか」という問いからスタートすれば必ずうまくいくはずなので、今後もそうやって運営していきたいと考えています。
――その考えが具体的な行動として、ユーザーへのヒアリングといった形で表れているわけですね。
林田:そうですね。ユーザーを笑顔にしたいなら、まずユーザーの声を聞くのが大前提です。
これは自分の大切な人にプレゼントをあげるのと同じだと思っていて。何も聞かずにプレゼントをあげるよりも、あの子は今何が欲しいんだろうって観察したり、さりげなく聞いてみたり、こっそり靴のサイズを測ったり、必死にいろいろ調べると思うんですよ。そうしてようやく、相手のとびきりの笑顔を作ることができるわけです。それと同じで、相手の声をしっかり聞いてサービスを提供すれば、必ず喜んでくれると思っています。
――この業界にはさまざまなマッチングサービスがありますが、Touchの今後の展望を教えてください。
林田:まずは、女性だけの空間が担保された安心で安全な場所を提供し、国内で最大級のプラットフォームとなることです。「女性の空間と言えばTouchだよね」と誰もが知っているような存在になりたいですね。
その先で、美容やフェムテックなど女性特有の関心事によって繋がれることがあると思っていまして。そこでTouchの空間を生かした各ライフステージに合わせたサービスも展開していきたいと考えています。そして、「助けを求める先と言えばTouchだよね」と、各ライフステージの方のよりどころになるような存在になっていきたいです。
(編集後記)
「マッチングアプリ」と聞くと、異性で出会う目的で使うことを連想する人がほとんどだろう。しかし、これからは同性で純粋な友達作りを目的としてマッチングアプリを利用することも、当たり前になっていくのではないだろうか。また、これからライフステージが変わっていく中でも「いつでも誰かと繋がれる」ことは、多くの人の支えになるに違いない。そんな大きな可能性を感じる取材だった。今後の「Touch」の成長と未来には期待が高まるばかりだ。
[プロフィール]
林田色
クルージュ株式会社 代表取締役
1997年生まれ、2018年株式会社ショーケース(スタンダート市場)入社。人材紹介事業の立ち上げに従事。その後、独立し受託開発を行いながら自社プロダクトTouchを2022年に公開して、現在は累計マッチ数が80万回に至る。
渡部和花
クルージュ株式会社 新規企画事業部
代表林田の情熱とビジョンに触れる中で、事業の一員として働くことを決意。2022年にTouch(女性限定アプリ)の新規企画事業へ参画。企画段階から携わり、ヒヤリング調査を実施。現在はイベント企画、運営をメインに従事している。
(文:安藤ショウカ、写真:Ban Yutaka、編集:高山諒)