センサーに手を押しあてるだけで、推定野菜摂取量がわかる?
今回世良さんが訪れたのは、日本橋浜町にあるカゴメ株式会社の東京本社。「ベジチェック」の技術・開発担当の林宏紀さん、「ベジチェック」レンタルの営業担当の前田泰宏さん、企画担当の菊地静さんの3名に、開発のいきさつや想いをたっぷりと伺います。
(取材当日、林さんはリモートで参加してくださいました。)
世良マリカ(以下、世良):本日はよろしくお願いします! 実は私、大学の授業を受けながら毎日カゴメさんの野菜ジュースを飲んでいるんです。
前田泰宏(以下、前田):それは嬉しいですね! 毎日野菜ジュースを飲んでいただいているとのことですが、世良さんは普段から意識して野菜を摂っていますか?
世良:なるべく意識はしています。暇があればずっとプチトマトを食べていますね(笑)。
菊地静(以下、菊地):いいですね! 私たちが提供している「ベジチェック」では、手のひらを30秒ほどセンサーにあてるだけで、野菜摂取量を推定できるんです。ぜひ世良さんも体験してみませんか?
世良:何だかドキドキしますね......! やりたいです!
前田:では、さっそく測定を始めましょう。このデバイスの線に沿うように親指の付け根を置いて、「少し重いかな?」と思うくらいギュッと体重をかけてください。センサーが手を検知すると測定がスタートし、野菜摂取レベルと推定野菜摂取量が出てきます。
世良:「野菜摂取レベル 6.6」と出ました! これってどうなんでしょうか?
前田:野菜摂取レベル7以上が目標で、日本の平均は5.5程度なのでかなりいい感じです! 厚生労働省による健康づくりの指標「健康日本21」では、一日あたり350gの野菜を摂取することを推奨していて、世良さんのこの結果だとほぼ達成していますね。普段から意識して野菜を摂っていないとなかなか出せない数値なので、すばらしいです!
世良:よかった……! ちょっと安心しました。
菊地:この結果は、2〜4週間前の野菜摂取量に基づいて判定しています。生活習慣も影響すると言われていて、煙草やお酒、ストレスなどがあると抗酸化物質であるカロテノイドが使われてしまい、せっかく野菜をたくさん食べても値が低く出てしまうんです。
前田:ただ、もし現状のレベルが低くても、私たちは「伸びしろがあります!これから改善していきましょう」とお伝えしています。
世良:そう言ってもらえると、前向きな気持ちになれますね! ちなみに、おすすめの効率的な野菜の摂り方はありますか?
菊地:私はサラダだとカサが多くて食べにくいので、炒めて食べるようにしています。健康事業部に異動してきた当初は、野菜摂取レベルが5.4でしたが、今では7.5になりました。
前田:実は、特に緑黄色野菜は油と一緒に摂ったり、ミキサーなどで調理加工したりすることで、吸収率が高くなるんですよ。摂り方を工夫することで、より楽しく野菜を食べていただけると思います。私も、この事業部に入ったときはレベル5.5でしたが、7.8に上がりました。
世良:炒めてもいいんですね! 生野菜が良いと思っていたのでびっくりしましたが、皆さんの結果を聞くと説得力がありますね。
林宏紀(以下、林):ほうれん草とベーコンを炒めたソテーなどは簡単ですし、おすすめですよ。合わせる油は基本的に何でも構いませんが、オリーブオイルなどが良いと思います。
秘密は、LEDの光と皮膚のカロテノイド量にあり
世良:たった30秒で、しかもただ手を置くだけで推定野菜摂取量がわかってしまうのがすごく不思議です。どんな仕組みになっているんですか?
林:先ほど手を置いていただいた部分にはLEDが搭載されていて、光が皮膚の表面に当たると、光の色や角度に応じて反射します。その反射する色や光から、皮膚にカロテノイドがどれくらいあるかを検出して、推定野菜摂取量を出しているんです。
世良:カロテノイド、というのは…?
林:カロテノイドは人参やトマトなどの緑黄色野菜に含まれている色素で、食べることで体内に吸収され、最終的に皮膚に蓄積します。たとえば、みかんを食べすぎると手足が黄色くなりますよね。
世良:なりますね! あれもカロテノイドですか?
林:そうなんです。「β-クリプトキサンチン」というカロテノイドが皮膚に蓄積したことで、黄色に見えているんです。「ベジチェック」では、そうした色の濃さなどから皮膚のカロテノイド量を測定して、野菜摂取量を推定できるという仕組みになっています。
世良:へ~! 面白いですね。みかんを食べ過ぎた時みたいに見た目ではわからなくても、皮膚には変化が起きているんだ。
林:この皮膚カロテノイドを測定するセンサー自体は、ドイツのベンチャー企業であるBiozoom Services社が作ったものなんです。このシステムを土台にしつつ、日本人の野菜摂取量を推定するアルゴリズムを共同開発しました。
行動変容に必要なのは、現状の野菜摂取量の見える化
世良:カゴメと言えば、ケチャップや野菜ジュースのイメージが強かったので、「ベジチェック」のようなテクノロジーを用いたサービス開発をされていたことに驚きました。そのきっかけは何だったのでしょうか?
林:カゴメでは「ニッポンの野菜不足をゼロにする」という目標を立て、健康寿命の延伸に貢献するために、さまざまな取り組みをしてきました。実際にどうしたら人々の健康に対する行動変容に繋がるかを考えてきた中で、目標とする量や現状の野菜摂取量や効果的な摂り方がわからないから、行動に移せないのではないかという仮説が上がったんです。
世良:たしかに、野菜を食べた方がいいことはわかっているけれど、漠然としていてイマイチ行動しづらいのはあるかもしれません。意識しているつもりでも、平均と比べて自分は食べている方なのかもわからないですし……。
林:そうですよね。しかも野菜摂取量の正確な値を出すのは、私たちの研究でもなかなか難しいことでした。当時、私はカロテノイドにまつわる研究をする部署にいながら、もっと簡単に日本人の野菜摂取量を見える化できないかと方法を探していたんです。すると、ドイツで手軽に皮膚のカロテノイド量を測定する方法として、LEDを用いたものが実用化されたと聞いて、開発をしたBiozoom Services社に連絡をし、共同開発に至りました。
世良:なるほど。共同開発では具体的にどのようなことをしたんですか?
林:カゴメ側では、日本人1,000人以上に調査して、日常の野菜摂取量のデータと、センサーから得た光の情報をBiozoom services社に提出し、彼らに日本人の推定野菜摂取量を6段階で表示するためのアルゴリズムを作ってもらいました。そこから、実際にお客様に使っていただくにはどんなインターフェイスにしたらいいか、どんなデザインだったら使ってもらえるかなどを前田たちと話をしつつ、Biozoom Service社と交渉して、2019年にこの「ベジチェック」が誕生したんです。
企業やイベント、スーパーなど幅広い場所で大活躍!
世良:「ベジチェック」は有料でレンタルできるんですよね。具体的にどういう場所で使われているのでしょうか?
前田:大きく3つありますね。一つは、企業の健康経営。社員の皆さんの健康促進への取り組みの一つとして使っていただいています。もう一つは、保険会社等が開催する健康イベント。血管年齢や骨密度を測定できる機器は以前からありましたが、食に関するものは目新しいようで、手軽にできる測定として人気です。あとは、スーパーマーケット。野菜売り場に置いてもらうと、横にあるミニトマトがすごく売れるみたいです(笑)。
世良:たしかに! 私ももしスーパーで「ベジチェック」の測定をした後に、トマトが目に入ったら買っちゃうと思います。実際に体験した方から、何か反響はありましたか?
前田:職場の同僚や家族との間でコミュニケーションが増えたというお声を、たくさんいただいています。有料レンタルなのでお金をいただいているにも関わらず、機器返却の際に感謝のお手紙が同封されていたことが何度もありました。「すごく盛り上がりました」とか「いいきっかけになりました」と書いて下さっていて、嬉しかったですね。
世良:それは嬉しいですね。私は大学に通っていますが、学校にも「ベジチェック」を置いてほしいなと思いました。特に一人暮らしの大学生だと野菜を摂らない人も多いですし、学食とか校内のコンビニとかにあったらよさそう!
菊地:それ、すごくいいですね! あとは、企業の保健師さんや産業医さんからも好評です。今まで社員の皆さんに「食生活を見直して下さい」と言葉で伝えてもなかなか動いてくれなかったけれど、「ベジチェック」で見える化されることでそっと後押しができて、ストレスが減ったと(笑)。
世良:そんな声もあるんですね! 本当に幅広い需要がありそう。
林:コロナ禍が少し落ち着いてきて、今まさに急激に需要が伸びているところです。だからこそ、どんどん規模を拡大する中でも、お客様のご要望に寄り添ってお届けする、またはサポートするという部分を丁寧に対応していくことが、これからの課題かなと思っています。
心と身体、そして社会の健康を実現させたい
世良:今、ヘルステック業界でもさまざまな新しい取り組みが生まれているなかで、皆さんは「ベジチェック」を通じて社会がどう変化したらいいなと思いますか?
前田:「ベジチェック」をきっかけに、推定野菜摂取量に加えて家族や社会の間でのコミュニケーションが増えることで、心と身体両方の健康に貢献しつつ、さらには社会の健康にも繋げられるのではないかと思います。そのためにも、体重を計るのと同じような感覚で、みんながいつどこにいても測れるように展開を広げていきたいですよね。今はスーパーでもまだまだ台数が少ないので、もっと普及させていく予定です。
林:理想としては、まず日本国民の皆さん全員が「ベジチェック」で測ったことがあって、自分の野菜摂取状況を把握できている状態になったらいいなと。その後、行動するかどうかの最終判断は皆さん次第ではありますが、私たちとしても楽しく野菜を食べてもらうための行動変容のきっかけを模索していきたいですね。
菊地:その先に、一人ひとりがより健康な状態で長生きできる未来になっていったらいいですよね。
世良:今後「ベジチェック」に新しい機能を追加したり、拡張したりする可能性もありますか?
林:はい。技術としては、よりパーソナライズへの対応を目指したいと思っています。たとえば、一人ひとりの結果に応じて必要な野菜の量や種類を提示したり、今は紙でご提供している野菜の摂り方の情報などをよりスムーズにご覧いただけるものを開発したりしていきたいと考えています。
菊地:別の部署が開発したものですが、「野菜をとろう」というスマホアプリをリリースしています。「ベジチェック」で測って終わりにしないために、結果をアプリで記録できるのはもちろんのこと、食事管理や健康管理ができる機能を搭載しています。将来的には、アプリに記録されたデータから、おすすめの商品などをご提案できるようにアップデートしていきたいですね。
世良:たしかにアプリで記録しつつ管理できると、継続しやすそうですね。今日、初めて自分の推定野菜摂取量を把握できたので、これからの食生活をどうしていくか具体的に考えられそうです。おすすめしていただいたほうれん草のソテー、さっそく作ってみますね! 本日はお話を聞かせていただきありがとうございました。
聞き手:
世良 マリカ(せらまりか)
神奈川県出身。世界三大ミスコン「ミス・ワールド2019ジャパン」にて、史上最年少16歳、現役高校生で「ミス・ワールド2019日本代表」に選出。慶應義塾大学2年生。また環境問題や教育格差、貧困問題などSDGsに関心を持ち、現在BSテレ東『日経ニュース プラス9』 木曜日SDGsコーナーのレポーターを務める。
【Twitter】
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[プロフィール]
前田:健康サービス営業グループの課長。ベジチェックレンタル、健康セミナーを含む健康サービスを企業法人、自治体などに提案する業務を行う。
林:「ベジチェック」の技術・開発・需給担当。ベジチェックで用いているアルゴリズムやアプリの研究開発、および受発注や管理業務を行う。
菊地:健康サービスの企画、新規リード獲得業務を担当。ホームページやウェビナーの運用も行い、カゴメの健康サービスを広く知ってもらう活動も。
(文:むらやまあき、写真:飯山福子、編集:高山諒)