思わず笑顔に!まずは「toio」で遊んでみよう


「toio」の中心となるのは「toio コア キューブ」と呼ばれる小さなロボット。これにディスプレイ付きの「toio コンソール」とコンテンツが詰まったゲームソフトのようなカートリッジ、リング状のコントローラー「toio リング」などを組み合わせて遊びます。


まずは『トイオ・コレクション』という専用タイトル内に入っている「クラフトファイター」というゲームタイトルをチョイス。このゲームは、コアキューブに工作したファイターをつけてバトルし、相手を転ばせたり、押し出したほうが勝ちというルール。試合開始のカウントダウンや、対戦の勝敗は「toioコンソール」が判定してくれます。
今回はブロックで組み立てたキャラクターを「toio コア キューブ」に載せ、「toio リング」で操作します。マット上での前後左右の移動はもちろん、ボタンを押せば相手の方を向いたり、回転やダッシュなどの必殺技を繰り出したり。テレビゲームのフィールドがそのまま卓上に飛び出したような感覚で、白熱の押し相撲を楽しめました。


続いて選んだタイトルは『工作生物 ゲズンロイド』。『ピタゴラスイッチ』の制作で知られるクリエイティブグループ「ユーフラテス」が手がけた、「toio」と紙を組み合わせて未知の生命体を作り出す工作キットです。「toioコンソール」の表示に従いながら、プレイブック(解説のための冊子)を頼りに工作を進めます。
▲実際のプレイの様子。好物を見つめて追いかける「めだま生物」やキャタピラのように動く「カミコロガシ」など、生き物が登場する)
二つの「toio コア キューブ」を跨ぐように紙を貼り、プログラムを読ませて生まれた生物は「シャクトリー」。専用マットの上をシャクトリムシのように体を伸び縮みさせながら移動したり、トントンと叩くと慌てて逃げたりする姿には、ロボットらしからぬ不思議な生命感が感じられました。

基本となる19種類の生物をプログラムや装飾で改造すれば、そのバリエーションはどこまでも広がります。奇妙で可愛い工作生物たちの姿を見ているうちに、取材チームも自然と笑顔になっていました。


こちらの『GoGo ロボットプログラミング ~ロジーボのひみつ~』は楽しみながらプログラミングを学べるタイトル。物語に合わせて主人公のロボットをゴールに導くために「前進」「回転」「繰り返し」などの動きをプログラムしていきます。プログラムといってもディスプレイやタブレットなどは不要で、専用のカードをキューブで順番に読み込むだけ。遊ぶような感覚で物語を進めながら、プログラミングの考え方が自然と身に付いていきます。
ここで紹介したのは「toio」の遊びのほんの一部に過ぎません。音楽やドライブをテーマにしたもの、より高度なプログラミングを学べるもの、ボードゲームとして遊べるものなど、タイトルのバリエーションはどんどん広がっています。こうした「toio」の遊びに通底するものとは何なのか、開発者の田中章愛(たなかあきちか)さんに伺いました。
動く遊びを作りたい。「toio」が生まれた経緯と工夫

――どのタイトルも本当に楽しく、思わず夢中になってしまいました!かわいらしさと機能を併せ持つ「toio」は、どのような経緯で開発されたのでしょうか?
「toio」が生まれたきっかけは、ソニー社内で行われていた自主的な勉強会でのことでした。私はロボットの技術を研究していたのですが、その場で次世代エンタテインメントの研究者と出会い意気投合。お互いに子どものころ好きだったブロック遊びを、今風にアレンジするならどうなるか?という話題から「toio」の構想が生まれます。
もし自分がブロックで作ったキャラクターが動き出し、そのままゲームができたら面白いよね、と話が盛り上がりました。一からプログラミングしてゲームを作るのは大変でも、実世界で動かせるならハードルも下がります。ゲームが画面から外に飛び出したような、もし自分たちが子どもだったら絶対欲しくなるおもちゃを作ろうと、「toio」の企画がスタートしました。

指でつまめるほど小さなサイズや、レゴ®ブロックをとりつけられるのも「toio コア キューブ」の特徴です。試作品ではサイズが今の4倍ほどあり、どこかロボットの台車を動かしているような感じがありました。自分のキャラクターが動いている感覚を出すために、白くて四角く、目立たないサイズに落とし込みました。ロボットはあくまで手段であって、自分でつくるストーリーや遊びを優先したかったのです。

研究の初期段階では、複数のロボットを制御するために、天井から吊り下げたカメラやモーションキャプチャーの仕組みが使われていました。しかし、本格的に商品化するためには、そういった大掛かりな仕組みを改善する必要がありました。複数のキューブがそれぞれの位置と向きを認識できるように、キューブの下部にセンサーを取り付け、カードやマットに印刷された目に見えない特殊パターンを読み込むことで、位置や情報を認識する方法に変更しました。

ソニー・インタラクティブエンタテインメントの製品として「toio」が発売されたのは2019年3月のこと。初期段階の研究発表は2013年にまでさかのぼり、形と動きの両方を用いた遊びを作るため、社内外のクリエイターも巻き込んでいきました。それぞれの遊びを魅力的にするためのイラストやデザイン、つい読み進めたくなるプレイブックなど、「toio」らしい世界観が築かれていった結果、遊ぶ側の選択肢も増えていきました。


遊び感覚で学ぶプログラミングから、プロフェッショナルな用途まで

――「toio」はプログラミング教育の教材としても利用されていますよね。単なる遊びを超えた学びも詰まっているように感じられます。
僕自身も、小学生の頃からロボットを作っていましたが、リモコンで動かすのが精一杯でした。難しい機械言語を使おうとして、うまく動かず挫折してしまった体験もあります。いまの子たちには粘土や文房具のように、より身近な手段としてプログラミングを身につけ、ロボットを動かしてみてほしいんです。
プログラミングをただの記号ではなく、遊びを通じた実体験として理解できるのが「toio」の良いところ。『さっき見たロボットの動きは、プログラミングだとこう表現するんだな』と体験を後から概念化していくことが学びの近道になるのだと、教育を専門とする方々からも教えていただきました。
――発売当時からアップデートした技術やコンテンツはありますか?
2024年5月に発売された『トイオ・プレイグラウンド』は、「toio コンソール」を必要とせず、「toio コア キューブ」とカードの組み合わせだけで様々な動きを作れる新製品です。前後左右や回転などの動き、その場で音を奏でたり、動きを記録・再生したりと、一通りのプログラミングをキューブとカードだけで体験できます。ボードゲームのように持ち運べるサイズ感を意識していて、これまで以上に敷居が低いことも大きな特徴です。
それによって、これまで対象年齢は6歳以上でしたが、『トイオ・プレイグラウンド』の対象年齢は3才以上に引き下げることができました。こうした「toio」のプログラミングの体験会を開くと、子どもたちはどんどんのめり込んでくれました。


そうやって子ども向けに間口を広げる一方で、プログラミング経験者やプロフェッショナル向けの情報も公開しています。直感的なインターフェースのビジュアルプログラミング環境「toio Do」や、専門的なプログラミング言語などを組み合わせれば、オリジナルのゲームから最先端のインターフェース研究まで、「toio」が活躍する幅は広がっていきます。
――製品の細かな仕様をここまで公開しているのは珍しいように思います。
学校やプログラミング教室での反応を受けて開発したタイトルもありますが、ビジュアルプログラミング環境や技術仕様の公開は、かなり早い段階から行う想定でした。開発者である僕ら自身も色々な製品に手を加えてきたし、技術仕様をシェアして集合知で改善していくオープンソース・ソフトウェアの文化に触れてきましたから。技術者としてコミュニティに貢献するのは当たり前、といった感覚があるんです。
「toio」はプレーンな商品ですから、自分色に染めてもらいたいという思いもあります。大喜利のような形で作品を募集することもありますし、小学生から大学の研究者まで、たくさんの制作事例を見てきました。こんな使い方があるんだ、すごいな〜なんて言いながら、ユーザーさんに教えてもらうことも多いんです。
遊びと学びと研究と。未来につながる「toio」の体験
――子どもから研究者まで、「toio」は幅広く楽しんでもらえているのですね。ここまで様々な人に使われるために意識した点はありますか?
できるだけシンプルかつ、本質的な設計にしたことです。「toio」の形は一見シンプルではありますが、私や開発チームがこれまで培ってきた経験が凝縮されています。

最新のものや話題のものだけに価値があるとは限りません。アイディアは誰にも開かれたものですから、「toio」のようなツールを使って色々な表現をしてほしい。それこそ「大人顔負け」が当たり前のような時代ですよね。子どもと大人、遊びと仕事を区切る必要もないと思いますし、分野を横断したエンタテインメントを提供していきたいです。
また、小さな頃に「toio」に触れた方が、将来何かを作りたくなった時に、その経験が生かされたら嬉しいです。レストランで配膳ロボットが使われているように、ロボットやAIなどの技術を使う職業は、きっと今以上に広がっているはずですから。新しいアイディアや物事を進めるときの自信に繋がったり、遊ぶことを通じて、作る人も増えていったら嬉しいですね。僕もまだまだ、未来の遊びも楽しくなりそうだと思いながら開発に取り組んでいます。

田中章愛 (たなかあきちか)
ソニー・インタラクティブエンタテインメント
toio事業推進室 シニアマネージャ / toio開発者
2002年佐世保高専卒業。2006年筑波大学大学院修了・同年ソニー株式会社入社。研究所でのロボットの研究開発を経て、2013年スタンフォード大学訪問研究員。2014年よりソニーのスタートアップの創出と事業運営を支援するプログラム(SAP、現SSAP)やCreative Loungeの企画運営に携わる。2016年SAPの新規事業・社内スタートアップとして有志で「toioプロジェクト」を提案、以降商品化・事業化に従事。2018年よりソニー・インタラクティブエンタテインメントにて現職。2022年NHK「魔改造の夜」にてチーム「Sニー」の総合リーダーを務め世界新記録を達成した。「toio」は第10回ロボット大賞文部科学大臣賞受賞。
toio公式サイト https://toio.io/
編集者コメント
初めて「toio」で遊んだ感想は、ゲームの中身が飛び出してきたかのようでした。筆者自身、テレビゲームや教育テレビのコンテンツに触れてきたため、それが小さなロボットとして目の前で動き回っていることに興奮しました。自分の想像したキャラクターや物語が、物理的に動き回ることの嬉しさはひとしおです。また、長年エンターテイメントに関わってきた企業だからこそ、広がりを持った展開になっていることも印象的でした。遊びも仕事も研究も、何かを実現したいという思いでは共通している。そんなことを思い出させてくれた取材でした。
取材の最後に田中さんは「チャレンジすること自体の価値を大事にしたい」と語ってくれました。遊びをきっかけに想像力を加速させる「toio」が誰かを後押しし、新しい挑戦や発明を生み出す日も、きっと遠くないはずです。
執筆:淺野義弘 編集:ヤマグチナナコ 撮影:飯本貴子