今注目の「フェムテック」とは?
まずは、フェムテックの言葉の意味やフェムテックが生まれた背景、必要性について解説します。
女性が抱える課題をフェムテックで解決!
フェムテックとは、「Female(女性)」と「Technology(技術)」を合わせた造語です。
社会的にこれまでタブー視されてきた女性特有の健康課題や、ライフステージごとの悩みをテクノロジーの力で解決する商品やサービスを指します。
フェムテックという言葉は、2012年にデンマーク人のイダ・ティン氏により作られました。
その後、フェムテックという概念と言葉が表出したことで市場が生まれ、働く女性の増加や、性暴力・セクハラの被害体験を社会に告白する「#MeToo」運動、フェミニズムの盛り上がりが後押しとなり、ムーブメントへと拡大し市場が活発化していきました。
フェムテックがサポートする分野は多岐にわたります。
月経関連や妊娠・出産、不妊、更年期といったライフステージに関わる分野から、女性特有の疾患やセクシャルウェルネス※まで、ライフステージに関わらず課題となる分野も含まれます。
出典:矢野経済研究所「フェムテック(女性関連ヘルスケア・医療)市場に関する調査を実施(2021年) 」
※セクシュアリティに関連する身体的、感情的、精神的、社会的幸福の状態
女性の健康に配慮した環境づくりは避けられない課題
なぜ今、世界でフェムテックが求められ、注目されているのでしょうか。
その大きな理由の一つとして挙げられるのが、女性が社会で活躍することの推進です。
女性は、初潮を迎える思春期から閉経を迎える老年期まで、ライフステージによってかかりやすい病気が変化します。年齢やライフステージごとに、女性ホルモンの影響による特有の健康課題が多く存在し、適切なケアが必要です。
日本では2016年に女性活躍推進法が施行され、女性の社会進出を望む気運が高まる一方で、女性特有の悩みに関する配慮や正しい理解の啓発は、長年の課題となっていました。
経済産業省が2019年に発表した調査(出典1)によると、女性特有の健康課題などにより職場で困った経験がある女性は52%という結果が出ています。
また、仕事と妊娠・不妊治療との両立困難や、更年期症状などを理由に、退職や雇用形態の変更といったキャリアプランの断念につながることも問題視されてきました。しかしながら近年は、初婚・初産の年齢上昇、女性の勤続年数の長期化といった女性を取り巻く状況の変化もあり、労働力人口に占める女性の割合は4割を超えています。
そのため、女性の健康課題に対応した環境づくりは、生産性や業績の向上を目指す企業にとって、避けては通れない施策となってきたのです。現在では、従業員の健康管理を戦略的に行う「健康経営」を掲げる企業が増加しつつあります。
2021年に内閣府が策定した方針がきっかけで注目の的に
欧米を中心に市場の活況が見られたフェムテックですが、日本において本格的に広がりを見せ始めたのは最近のことです。
契機となったのは、2021年に内閣府によって策定された「女性活躍・男女共同参画の重点方針2021」です。
この方針のなかで、「生理の貧困」を抱える女性への支援の必要性が明らかにされたことを背景に、女性が尊厳を持って生きられる社会づくりを目指し、フェムテックの推進が明言されました。フェムテックという言葉そのものが日本国内で使われ始めたことで、日本の市場も活性化が見られました。
ピーチ・ジョンやユニクロといった大手企業の事業参入を契機に、日本におけるフェムテック・ビジネスが加速し始めています。SDGsの一環として、女性の社会進出やジェンダー平等についての関心度が高まっていることも後ろ盾となり、市場は成長軌道を描いています。
女性が抱える6つの悩みと、それぞれを解決するためのフェムテックサービス
フェムテックの活用により、女性の生活の質が向上するだけではなく、女性の社会進出における経済効果といった社会への波及効果が期待されています。
では実際に、フェムテックの商品やサービスは、どんな課題解決につながるのでしょうか。女性特有の6分野の悩みに沿って、フェムテックの事例を紹介します。
月経
女性は、月経困難症や月経前症候群(PMS)により、月経前から月経期間中にかけて心身に不調をきたし、特有の症状に悩まされる場合があります。
症状に個人差はありますが、経済産業省の委託による調査結果(出典2)から、15歳から49歳までの女性のうち、約97%が辛い症状を経験していることが明らかになりました。
加えて、18歳から49歳までの働く女性のうち、約94%が月経に関連した症状によって仕事のパフォーマンスに影響があると回答し、さらに約45%は、通常の半分以下のパフォーマンスになると答えています。
月経を理由とした欠勤やパフォーマンスの低下は、本人のみならず、社会にも多大なる影響を与えます。その労働損失は年間約4,900億円にも上るという試算もあります。
こうした月経による悩みを解決するアプローチとして、次のようなフェムテックが登場しています。
低用量ピルのオンライン処方サービス
月経による症状を緩和する手段として、日本産科婦人科学会より推奨されている治療法のひとつが、低用量ピルの服用です。
日本での服用率は2002年から2016年の間で約1~3%と低く推移しているものの、低用量ピルが気軽に利用できるようにと、オンライン処方サービスも登場しています。
月経周期管理アプリ
従来、スケジュール帳などで管理していた毎月の月経日を、スマートフォンで記録し管理できるアプリです。日本では20年以上前から、こうしたサービスが登場しています。月経周期や身体の変化、月経に関連する症状を女性本人が的確に把握でき、体調管理に役立てられます。
月経カップ/吸水ショーツ
生理用ナプキンの費用は、女性にとって大きな負担となっています。
そこで、繰り返し使える月経カップや吸水ショーツといった選択肢も注目され、これらもフェムテックに含まれます。使用によって経済的負担や不快感、ストレスが軽減される場合があります。
不妊・妊娠
国立社会保障・人口問題研究所による2015年の調査では、日本で不妊治療を受けている夫婦は5.5組に1組と言われています。
不妊治療は、金銭・時間・精神・身体の面において負担が大きく、なかでも通院に伴う女性への負荷は計り知れません。仕事との両立が難しい場合も少なからずあることから、離職や雇用形態の変更を強いられる、あるいは不妊治療自体を諦めるという女性もいます。
その解決策として、次のようなフェムテックを活用することで、治療中のストレスや通院負担の軽減、不妊治療を中断せざるを得ない状況の改善につながります。
チャットでの専門家相談/サポート
チャットを通じて専門家に相談できるサービスを活用することで、不妊治療中の精神的な負担を軽減できる場合があります。
外出して通院する必要がなく、オンライン上で気軽に相談できる点がメリットです。
健康管理/簡易検査キット
基礎体温記録や排卵日予測サービス、卵巣年齢や精子運動率のチェックを行う簡易検査キットといった不妊診断の活用で成功率が高まれば、金銭面や時間面での負担軽減が見込まれます。自身の意思に反して不妊治療を諦めたり、中断したりするのを減らすことにもつながります。
スマホアプリを活用した医療支援
胎児の心拍計測や妊婦の状態などを、自宅で遠隔診療するための機器が開発されています。
お腹にセンサーを当てて計測することで、アプリを通して結果を見ることができます。医師も結果を見て診断に役立てることができ、通院の負担は軽減しつつも、母子の健康状態を逐一モニタリングすることができます。
産後ケア
女性は、妊娠中および産後1年未満に「産後うつ」を発症するリスクがあります。妊娠中では全妊婦の10%程度、産後1年未満では10~15%程度に「産後うつ」が認められ、適切なケアが求められます。
主な原因は、ホルモンバランスの乱れや、慢性的な睡眠不足、疲労、育児によるストレスです。そのような原因の解決策となり得るフェムテックとしては、下記のような事例が挙げられます。
遠隔健康医療相談サービス
オンラインで行う遠隔健康医療相談サービスは、自宅で気軽に相談できるうえ、乳幼児を連れて外出しなくても良い、感染症のリスクが軽減できるといったメリットがあります。
ウェアラブル搾乳機
海外では、家事や仕事と両立しながら育児をするために、ワイヤレス・小型化した搾乳機が開発されています。搾乳にかかる手間と時間を効率化させ、産婦の負担を軽減させることにつながっています。
ウェルネス(女性特有疾患)
婦人科系疾患に関しても、フェムテックの活用が期待されています。
例えば、乳がんは年間約33万人が発症し、死亡率は年々上昇傾向にあります。また、子宮頸がんは年間約1万人が発症しています。いずれも検診による早期発見が命を守る有効な手段であるにも関わらず、乳がんにおいては50~69歳の受診率が約40%、子宮頸がんも20~69歳の受診率が約40%にとどまっています。この受診率の低さは、検診や診察で使用する医療機器に、痛みを伴うものが多かったことが起因しており、改善のために次のようなフェムテックが開発されています。
痛みが少ない医療機器
女性の身体への負担を考慮した、痛みが少ない医療機器が登場しています。
東京大学医学系研究科・工学系研究科では、リング型超音波振動子を用いた革新的な乳房用画像診断装置を開発しました。痛みを軽減するだけではなく、精度も落とさず検査することが可能となっています。
乳がんの簡易的な検査キット・商品
医療機関に行かなくても自宅で乳がんの検査を気軽に行えるキットや商品として、フェムテック製品の開発が進められています。
自宅で使える小型の超音波検査機(出典3)や、涙を自宅で採取し医療機関に提出することで乳がんの有無を判別することができるキット(出典4)などがあります。
更年期
更年期とは、閉経前の5年間と閉経後の5年間を合わせた10年間のことです。
更年期の症状として、多くの女性がほてりや発汗、イライラ、気分の落ち込みなどのストレス症状に悩まされます。しかし、症状があっても治療や対処をしていない女性が多く、更年期症状による仕事のパフォーマンス低下や、キャリアプランの断念につながってしまうこともあります。こうした現状は、国内経済にも多大なる影響をおよぼしています。
フェムテックを活用することで、更年期症状による女性の負担を軽減させることに成功した場合、仕事との両立を諦める女性が半減し、その経済効果は約1.3兆円に上ると推算されているほどです。そこで、更年期をサポートする以下のようなフェムテックのサービスがリリースされています。
チャットでの専門家相談
なかなか人に相談しにくい更年期や性についての悩みが気軽に相談できるよう、オンラインによる遠隔健康医療相談やチャット相談が実施されています。
また、更年期に悩む夫婦やカップルのコミュニケーションサポートを行うサービスも登場しており、ストレス軽減や適切な治療へ誘導が行える場合もあります。
オンラインクリニック
海外では、更年期に特化したオンラインクリニックの事例もあります。
更年期症状によるホットフラッシュ(突然顔が熱くなったり、汗が止まらなくなる症状のこと)を緩和する、ウェアラブルデバイスも海外で登場しています。
セクシャルウェルネス
セクシャルウェルネスとは、世界保健機構(WHO)の定義によると「セクシュアリティに関連する身体的、感情的、精神的、社会的幸福の状態」を指します。
他分野に比べて学術論文や研究調査が少ないものの、近年は女性エンジニアらによって、女性視点でのセクシャルウェルネス製品・サービスの開発が進められています。
>>フェムテック商品についての詳細は、下記関連記事をご覧ください。
月経管理アプリや女性向けオンライン相談サービスなど、注目集めるフェムテック商品
フェムテックの認知度は5.7%、まだまだ課題が残る…
今後、女性一人ひとりが心身の健康と向き合い、自分らしく生きることができる社会づくりのために、フェムテックの拡大は急務です。その実現へ向けて最大の壁となっているのが、認知度の低さです。
2022年3月に行われた生命保険会社の調査(出典5)によると、フェムテックに対する日本国内の認知率は5.7%でした。2021年の1.9%から3.8%アップしましたが、まだまだ認知は低いと言えます。
一方で、フェムテックについては約6割が「期待できる」と回答しています。フェムテックの浸透のためには、当事者である女性だけではなく、男性が目を向けることも重要な鍵となります。職場の管理者をはじめ、性別にかかわらず周囲が理解を深めることによって、より女性に配慮した環境整備が見込まれます。
特に昨今は、月経や妊娠・不妊について、各メディアで取り上げられる機会が増えています。女性がこれまでオープンにしにくかった悩みや、自分自身の健康課題を共有しやすい環境づくりと、周囲の人が理解・協力をする社会づくりに向けて、フェムテックの果たす役割はより一層高まるでしょう。
フェムテック市場の活性化で女性が活躍しやすい世界を!
ここまで、フェムテックによって解決が期待される女性の悩みと事例、日本の現状や課題について紹介しました。経済産業省では、2025年時点で日本国内におけるフェムテックの経済効果が約2兆円に達する
と試算しています。
2021年からは「フェムテック等サポートサービス実証事業」として20企業の事業を「フェムテック事業」に採択し、補助事業を開始しました。フェムテックは、決して女性だけを守るための施策ではありません。社会や職場全体のウィメンズヘルスリテラシーを上げ、状況を共有して支え合うことで、企業のパフォーマンス向上や経済の上昇につながります。
今後、幅広い分野においてフェムテック市場が活発化していくことは、女性の活躍や経済にとってもプラスになることでしょう。