いろいろシェアして、ただ過ごす。SNS感覚のメタバース
2018年にリリースされたNeos VRとは、チェコのSolirax社によって運営・開発されているソーシャルVRのこと。VR専用のガジェットがなくともWindows PCで利用できますが、今回は3者それぞれが手持ちのヘッドマウントディスプレイとVR用コントローラーを使って参加します。早速、オレンジさんの案内に従って、ワールドへ!
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藤野:こんにちは〜!
オレンジ:こんにちは!ここはいつも僕が配信などに使う部屋で、きれいに整っているので招待させてもらいました。
アサノ:ここには机や本棚、時計などいろいろなものが置いてありますね。これまでの連載でもclusterやVRChatなどのメタバースの世界を紹介してきたのですが、今回案内いただくNeos VRにはどのような特徴があるのでしょうか?
オレンジ:Neos VRはユーザー自身が作ったアイテムや3Dモデル、画像なんかも簡単に共有できる、SNS色の強い場所なんです。たとえば、こんな感じで……
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藤野:これは……おせちですか!?
オレンジ:そうそう。これは、僕が今年の正月に食べたおせちです。スマホで3Dスキャンしたものを見せているんですが、TwitterやInstagramで自分の食べたものや行った場所をシェアする感覚に近いですよね。ほかにも一般公開されている本や漫画を一緒に読んだり、動画再生プレーヤーで映像を見たりもできますよ。
アサノ:一緒に何かを見ながら喋るのは、とてもSNSっぽいですね!
オレンジ:画像をワールド上で見せるために専用ソフトを使わなくても、PC内の3Dデータや各種メディアを直接読み込めるのは、Neos VRならではの手軽さですね。
藤野:専用ソフトを使わずに、Neos VRの中だけでアバターも作れますよね。
オレンジ:そうですね! アバター以外に、こんなものも作れるんですよ。
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アサノ:おぉ!ゲームセンターにありそうな麻雀ですね。ちゃんと操作できるし楽しい…!
オレンジ:ゲームの中でゲームをやっているという(笑)。「LogiX」というプログラミング言語を使うと、Neos VR上でゲームや仕組みを開発できるんです。制作したデータプログラムは他の人に渡せるから、誰かが作ったものをどんどん改変していける。いくらでも新しい遊びが見つかるので、飽きないんです。
アサノ:まだ始まって10分も経っていませんが、Neos VRの中でできることの幅広さを感じています。
藤野:(パシャッ!)
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藤野:こんな感じで、写真(スクリーンショット)も簡単に撮れますよ。
アサノ:いつの間に(笑)。でも、本当に実世界で一緒に話したり、遊んだりしているような感覚になりました。コミュニケーションの手段が幅広い気がします。
オレンジ:色々なメタバースの中でも、Neso VRは特に「交流」をメインにしたものだと感じています。元は教育用として開発がスタートしているので、さまざまなアイディアが生まれる“大学の実験室のような空間”をVRで再現したいという意図があったそうです。その結果、ワールド内で作る人も使う人も一緒に過ごせるし、生まれたアイディアがどんどん実現できる場所になっているのだと思います。
藤野:本当にそうですよね。VR内で僕はどちらかというと人と積極的に喋るより、ライブ会場のようなワールドに行って、「無言勢」(ボイスチャットを使わずジェスチャーだけで過ごすユーザー層)としてその場の雰囲気を楽しんでいるのですが、そういう人でも一緒に楽しめるのが、Neos VRのいいところですよね。
アサノ:なるほど。人によって求めるコミュニケーションに違いがあるのは、現実世界と同じですね。ライブ会場のような、イベントがある世界も見てみたくなりました。
オレンジ:了解です。では別のワールドに行ってみましょう!
作り手が集まり、コミュニティで育む世界
次にオレンジさんに連れられてやってきたのは、一面に雪山が広がるワールド。山頂にはスノーボードが設置されています。
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オレンジ:ここは僕が作ったワールドで、スノーボードでタイムアタックができるので、一緒にやってみましょう! ヘッドセットを装着していれば、その場で体を傾けるだけで操作できますよ。
アサノ:ボードに乗って、坂に向かって…。うおぉ、すごく軽快に進みますね! 一緒に滑りながら、近くにいる人とクリアな音声で会話できるのは、VRならではの楽しみ方だなぁ。って、あれ。藤野さんがいないような…?
(姿が見えない藤野):すみません!完全にコースアウトしちゃったので山頂に戻っています!
オレンジ:ははは。楽しんでいただけたようで何よりです。人によっては3D酔いが起きてしまうのですが、この辺りはVR普及の課題にもなっていますね。
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アサノ:新鮮で楽しかったです! このワールドはオレンジさんが作ったと聞きましたが、ここに群馬県の看板が置いてあるのは何故ですか?
オレンジ:これは誰かが置いていったものですね(笑)。たまたま僕も群馬県出身なのですが、ネット・ミーム的な楽しさもあるし、そのままにしています。
アサノ:誰かが作ったアイテムを使いながら、みんなで一つのワールドを盛り上げるのは面白そうですね。
オレンジ:そうなんですよ。ここで開発されるアイテムも面白くて、たとえば「自動翻訳機」は喋った音声をリアルタイムで文字に起こして、別の言語に翻訳する装置として、海外ユーザーとの交流に役立っています。Neos VRはGoogle翻訳やDeepLのような外部サービスやAPIとも連携できるので、インターネット上の膨大な資産をメタバース上で使えるんですよ。
アサノ:元々インターネット上にあるサービスでも、Neos VRで視覚的に表現されると印象が変わりますね。
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藤野:Neos VRは自由度が高いので、他のVRプラットフォームで開発している時に「Neos VRだったらできるのに...」と感じることもあります。自由度の高さや、やれることの多さに触発されてか、日本の開発者さんやコミュニティの熱量もすごいですよね。
オレンジ:みなさん活発に活動していて、有志によってWikiやイベントカレンダーが運営されています。僕自身も、もっとユーザーが増えてほしいと思って、毎週「Neos VR初心者案内デー」を開催しています。
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アサノ:オレンジさんはまさに、Neos VRの水先案内人ですね。現実世界のお仕事でもVR関連のことに取り組んでいるのでしょうか?
オレンジ:本業ではフリーで映像関係の仕事をしているのですが、2018年ごろにVRが流行りだして、VTuber関連の映像制作が増えてきたんです。でも、当時はVRでの撮影案件は探り探りで、現実よりも難しいくらいで。エンジニアさんに頼んでシステムを改良してもらう余裕もないから、自分で色々できるようになった方がいい!と思って、開発技術を勉強し始めました。そこからNeos VRでの撮影しやすさが気に入り、今では「撮影技術者」と名乗っている、という経緯ですね。
アサノ:現実と同じように、メタバースでの撮影やレクチャーもお仕事になっていくんですね。
オレンジ:書道家の青柳美扇さんにご依頼いただいて、Neos VR で作品を作るためのサポートをしたことがあります。家庭教師のような感覚で、現実世界の作品をデータとして読み込んだり、Neos VR上でのモデリングを教えたり。最後は、仲間たちと展示用の空間を作って、そこに作品を展示しました。
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バーチャルもリアルも変わらない。“そこに人がいる世界”のルール
次に「コミュニティで運営されている、素晴らしい場所」として連れてきてもらったのは、ゲームセンターのようなワールド。Neos VRのなかで使える通貨を使って、遊んだり、景品と交換したりできるそう。
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オレンジ:見てください、このクオリティ!UFOキャッチャーや体験型のゲームで遊べますし、ガチャガチャではNeos VRで使える3Dモデルやアバターも手に入るんですよ。
藤野:凝り方がすごいですね。店員さんみたいなアバターもいますし……
店長さん:こんにちは〜!
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藤野:あっ、中に人がいたんですね!
アサノ:本当のゲームセンターみたいですね。この場所はどのように運営されているんですか?
店長さん:ここは私がゲームセンターをやりたいと思って、作り始めたワールドです。まずは空間を用意して、そこにガチャガチャやゲームの筐体を色々な方から提供してもらって。製作者の方にはゲーム内通貨でライセンス料をお支払いして、ゲームセンターの中に置かせてもらっているんです。
アサノ:店長さんがオーナーとして、いろいろな人や作品を集めているのですね。導入するものを決める時に、何か気をつけていることはありますか?
店長さん:基本的には自由にやってもらっていますが、明らかな二次創作や、他の人や企業の権利に抵触しているものがないかは、最低限こちらでチェックしています。
アサノ:自主的に作ったものが公式のものに見えたり、誰かの権利を侵害したりしないようなフィルターをかけているんですね。
オレンジ:先進的なプラットフォームだからといって、権利を雑に扱ってはいけないですよね。著作権などの考え方は、現実世界とまったく一緒です。素材データを公開している人が望まない使い方をしないように、みなさん注意しています。Neos VRでワールドを作るコンテストを開催する際にも、3Dデータや音楽などすべての素材のライセンスを確認するよう、ルールにも明記しているんですよ。
アサノ:コミュニティベースで運営するからこそ、そこに関わる人たち全員が気持ちよく使えるように気を遣っているのですね。
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アサノ:ゲームや創作物のルールと同じように、メタバース利用者同士のコミュニケーションでも、お互いへの配慮が大事だと感じました。
オレンジ:みなさん、いいコミュニケーションができるように気をつけていると思います。結局VRも現実と同じで、相手は生身の人間ですから。現実世界でやっていけないことはダメだし、当たり前の常識をしっかり守って接している方がほとんどだと思います。
アサノ:リアルだから、バーチャルだからといった差はなくて、そこにいる人へのリスペクトを持ちながら過ごすことは、最低限必要なことですよね。
露天風呂で考える、これからのVR
Neos VRツアーも、いよいよ最後のワールドへ。露天風呂に浸かりながら、VRの未来について語り合います。
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オレンジ:ここは仲間とよくVR飲み会をする温泉のワールドです。ビデオ会議ツールでのオンライン飲み会だと話題が一つで一人ずつの会話になりがちですが、VRだと距離や向きで音の届き方が変わるので、現実と同じように複数人での会話が並行して起きるんですよ。
アサノ:実際には湯船に浸かってないはずなのに、VR上で温泉に入ると、なんだか喋るトーンも変わりますね〜。
今日は案内していただき、とても楽しかったです。オレンジさんは今後、VRの世界はどう変わっていくと思いますか?
オレンジ:まず、こんなに本気で遊べるVR空間は他にないと思っています。ただ、今一番の普及課題は、ゲーミングPC(ゲーム用のハイスペックPC)が必要ということ。何十万円もかけて性能の良いPCとヘッドセットを準備するのは、ハードルが高いですよね。よりさまざまなデバイスで、気軽にVR空間へ入れるようになれば良いなと感じています。
藤野:価格の問題のほかに、体への負担も大きいですよね。何時間も装着していると、頭痛など不快感を感じることはありますし、ヘッドセットで大勢の人がVRで過ごす未来はなかなか来ないんじゃないかな、と。
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藤野:一方で僕はゴーグルを使わないメタバースに可能性を感じていて。新宿駅前に3Dに見える看板があるんですが、先日そこでVTuberがリアルタイムのライブをやっていたんです。現実世界と3Dを同時に体験したという意味では、あれもメタバースだなと感じたんですよね。街中のディスプレイのように色んな所がバーチャルの空間とつながることで、大勢の人にメタバースを楽しんでもらえるんじゃないかなと思っています。
オレンジ:面白いですね。僕も「VRで何をしているんですか?」とよく聞かれるのですが、なにか特別なことをしているわけじゃなくて。日常のコミュニケーションの延長という気持ちでメタバースを使っているので、難しそうなイメージを持たずに来てみてほしいです。
アサノ:メタバース観は人それぞれですね。Neos VRは色々作れてシェアできる環境で、入ってみるとその楽しさを存分に体験できました。そこに至るまでのハードウェア的な課題は、技術の進化で変わっていくでしょうし、その先での楽しみ方は、オレンジさんのような方やコミュニティによって担われていくのだと感じました。今後も広がるメタバースの世界が楽しみです!
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まだまだ過ごし足りないところですが、今回はこの辺りで一旦お別れ。またどこかでお会いしましょう!
(文:淺野義弘、編集:金澤李花子)