メタバース空間での「コミュニケーション」
実際にメタバース空間をご紹介する前に、すでにVRプラットフォームで実施されているコミュニケーション活動の事例をいくつかご紹介したいと思います。
私立VRC学園
私立VRC学園は、VRプラットフォームの「VRChat」ではじまった、学園空間型コミュニティです。
“新しく「VRChat」に入ってきた初心者を初めとする生徒が、1クラス15人の教室と2週間の学生生活の中で学び・交流し・深め合うもの”で、コミュニティを通してVRChatに慣れるだけではなくVRの世界を体系的に学ぶこともでき、さらに色々な人との交流を楽しめるようになっています。
参考:私立VRC学園 概要
N高等学校・S高等学校 バーチャル修学旅行
ネット上の高校「N高等学校」・「S高等学校」(以下N高・S高)では、コロナ禍で旅行が難しいなか、VRアプリケーションの「Wander」を使って修学旅行を実施しました。参加した方からは“最初は「VRで(修学旅行)?」と想像できませんでしたが、みんなと共有し反応することでより楽しめました”などの声が上がっており、各地の世界遺産などを仲間と楽しんだ様子が伺えます。
なお、N高・S高ではバーチャル空間での授業や英会話、面接などのトレーニングも展開されるなど、さまざまな行事でVRを活用しており、VR内の活動・コミュニケーションに積極的に取り組んでいるようです。
参考:
N高等学校・S高等学校 プレスリリース|N/S高等学校、「バーチャル修学旅行」を実施
N高等学校・S高等学校 ネットの高校ブログ|友達と世界をめぐったバーチャル修学旅行を終えて
メタバースクリニック
精神科の医師によるお悩み相談、自助グループ、座談会等に参加できるヘルスケアコミュニティサービスで、「VRChat」やXRプラットフォーム「DOOR」で展開されています。
私はまだ行ってみたことはないんですが、アバターの姿だからこそ悩みを伝えやすいというのもありそうです。メタバースと非常に親和性の高いコミュニティだと思います。
参考:メタバースクリニックwebサイト
メタバース婚
メタバース内で出会って結婚した、というカップルも存在しています。オンラインゲーム内やVRプラットフォーム内で出会って、一緒に遊んだり会話したりしていくうちに自然と惹かれ合って結婚、素敵ですよね。
最近では「メタバース婚活」なるものも出てきているようで、実際に会うよりも気軽に始められそうですし、今後新しい婚活の形になるかもしれません。ちょっと興味があります。
参考:BOZNEWS|【メタバース婚】VRで出会ってリアルで結婚した方に経緯や心境を聞いてみた
実際にコミュニケーションしてみた
ここまでご紹介したように、メタバースの世界でも普段生活しているリアルと同じようにコミュニティが存在していて、コミュニケーションが活発に行われています。
私自身はさまざまなVRプラットフォーム(cluster、VRChatなど)に潜り込んでいて、メタバースで生活することが当たり前になっていますが、「まだメタバース体験したことがないよ…」という方も少なくないと思いますので、ここからは編集部のNさんにメタバース空間を初体験してもらい、どう感じたかを聞いてみます。
Nさん:
ゲームが好きで、マルチプレイでよく遊ぶ。そういう意味ではメタバースを体験しているかもしれないが、VRプラットフォームを使うのは初めて。
体験するVRプラットフォームは「cluster」を選択しました。
国産のプラットフォームであるclusterはスマホアプリからでも気軽に始めることができるためです。アバターも用意されているので選んですぐに始められるのですが、今回はより没入感を味わってほしいのでNさんがなりたいアバターを用意することにしました。
Nさんが選んだアバターはこちらです。
どうやら犬が好きなようです。ヒト型アバターの方が没入感出そうですが、そのあたりは実際に体験してもらって感想を聞いてみたいと思います。
この「柴犬」と、藤野のアバター「ふーにゃん」で世界*を巡っていきます。
(*clusterでは通常「ワールド」と呼びます。以下ワールド)
*
まず訪れたのは「Dream At Summer Night」というワールドです。
ワールドに入りしばらく待っていると、柴犬がやってきました。
ふーにゃん:迷わず来れた?
柴犬:ゲームで慣れてるから操作は大丈夫(笑)。近づくと声聞こえるようになるの面白いね!気が付かずに一人でずっとしゃべってた。
柴犬:これって何かリアクションしたりはできないの?これだけだとゲームでボイスチャットできるだけみたいな感じだ…
ふーにゃん:リアクションや表情を変えられるよ、VRデバイス使ってなかったら画面上で操作できるはず。
柴犬:(笑う表情を選択)ほんとだ!これはいいね。
ふーにゃん:デバイスを使っていれば合わせてしゃべったり表情を変えたりできるからすごく自然でいいよ。デバイスないとまだまだ「操作」って印象あるね。
柴犬:たしかに。でもこれだけでもリアルな感情伝えられやすくていいな。
ちょっと距離遠いけどアバターで触れ合うみたいなこともできるの?操作だとうまくできない。
ふーにゃん:こうやって近づけば、…撫でているように見える?
柴犬:見える!やっぱりデバイスだとすごくスムーズでいいね。
ふーにゃん:ちょっと別の世界も行ってみましょうか。
*
続いて訪れたのは「空想世界~SKY LABO~」。幻想的な世界観で、永遠と続く階段が特徴的なワールドだ。
なのだが、「うどんの自販機」などちょっとした不思議なオブジェクトも存在する。
ふーにゃん:なんだか不思議なワールドだな~
柴犬:たしかに。色々ワールド巡るだけでも面白いね。
ふーにゃん:うどんも落ちてる。
柴犬:うどん…。メタバースの世界は「食べる」という概念はあるの?
ふーにゃん:clusterには多分無いと思うけれど、プラットフォームやワールドによってはあるよ。そのほかにも持ったり、座ったりとかできるオブジェクトもあるよ。このうどんは持てないけど。
目を離した隙に柴犬は階段をずんずんと進んでいた。
ふーにゃん:ようやく追いついた。
柴犬:ごめんごめん、ふーにゃんが後ろにいると思ってずっと一人でしゃべりながら登ってた。まだ慣れてないから気付けなかったけど、声が聞こえなくなったら立ち止まったり振り返ったり、そういう自然なコミュニケーションが取りやすくなってるんだね。
*
そして最後に訪れたのは「【Cafe】ケモミミカフェ「MIMI MODE」Cluster1号店」。
ここは獣の耳(ケモミミ)を持ったメイドさんが働くカフェで、近づくとしゃべっている声も聞こえます。
ふーにゃん:ここにいる猫、持てるんですよ。
柴犬:持てる…?本当だ。
柴犬:持ったりするのもデバイスがないとだめなんだよね?
ふーにゃん:基本はそうだね。やっぱり気軽に楽しめるようになってきたとはいえ、より楽しむにはデバイスが重要に感じる。あとは自由にできる分、気をつけないといけないな~とも思う。
柴犬:というのは?
ふーにゃん:例えばテーブルの上にも乗れたりするから、人によっては気になる人もいるかもしれない。物も投げたりできるので、例えばこの猫をそんなことしたら…良くないよね。現実ではないからといって雑な動き方をしてしまうこともあるので、あくまでもう一つの世界として、リアルと同じように色々な人がいることを意識して生活するべきだな、と思うよ。
柴犬:確かにそうだね。リアルだろうがメタバースだろうが、相手がいる世界だもんね。
メタバースを体験してみた感想
藤野:体験してみてどうだった?
N:今回「柴犬」のアバターを使ったんだけど、それでも「自分の分身」みたいな気持ちで動けた気がする。
ゲームでマルチプレイをして他のユーザとコミュニケーションを取って楽しむことはあるんだけど、あくまでゲームのキャラを動かしながらチャットしている、という認識なんだよね。そういう意味ではお気に入りのアバターを使って、アバター自身の表情を変えたりして自分を表現できたり会話できたのが「分身」を感じた理由かもしれない。
今回VRデバイスを使用してないけど、使用したら自分と連動して動くのでより没入感、生活している!という感じは増しそう。
藤野:確かにデバイスは重要だと思う。私は「HTC VIVE PRO2+VIVE tracker」というデバイスを使用していたので自分の動きと連動してアバターが動くから没入感がすごくある。
N:あとは実際に近づかないと声が届かない、みたいなところもリアルで良かった。これこそがコミュニケーションを促す秘訣かもしれない。
ちょっと困ったことも
N:メタバースの体験はとても面白かったんだけど、困ったことがあって。
スマホで体験しようと思ったんだけど、容量が大きくてインストールできなくて。結局タブレット端末にインストールしたんだけど、スクリーンショットを撮ろうとするとメモリの問題かアプリが落ちてしまったり、動作が不安定なので他のアプリを終了させて、というメッセージが出たりしたのね。他のアプリを使っていなかったのもあり、こんなに容量取るんだ…とちょっとびっくりした。
アプリもあって気軽に体験できるようにはなっているけど、やっぱりPCやVRデバイスの準備が必要なんだな、と思った。
藤野:確かにデバイスまで揃えようとすると値段的なハードルも高いね。
N:デバイスが安く手に入ったり、あとはアプリの容量が小さいといいな。スマホやタブレットが進化したら気にならなくなるかもしれないけど(笑)、そうなるともっと浸透しそう。今はまだデバイスがある人を選ぶ状態だよね。
藤野:デバイスもまだ大きなサイズのものが多いけど、より小さく・薄く・軽いものができたら本当に没入感が生まれてくると思う。夢があるよね。
N:そうだね!いますぐデバイスを買ってみよう!とまでは至ってないけど(笑)、今回の体験をきっかけにもっと試してみたいなとは思ったよ。こうやってガイド的についてくれる人がいたらハードルが下がってやってみたいという人も増えるかもしれないね。
* * *
今回はメタバースでのコミュニケーションの事例紹介と、実際の体験レポートをお届けしました。
初めて体験したというNさんでしたが、すぐに慣れた様子で散歩をしたり会話をしたり楽しめたようです。リアルとは少し勝手が違いますが、メタバースでもコミュニティに参加したり友達と遊んだりも想像できるし、いつかやってる気がすると話していました。嬉しいです。
次回は、メタバースでの買い物について、メタバース上でどんなものを売っているのか?どのように買うのか?など、実際に体験してご紹介したいと思います。
[プロフィール]
藤野稔●ふじの・みのる
iX+編集部。
化学工学を専攻しプラントエンジニアとして入社したが、未来に少しでも近づきたくて新規事業部門に異動となる。
ガジェットとインターフェースが大好き。気になったものはいち早く試すために、海外のモノでも個人輸入してでも手に入れるタイプ。
演算処理分野に興味があり、グリッドコンピューティングボランティアBOINCにて日本二位という隠れた実績がある。