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ネコ用品メーカー〈nekozuki〉が大切にする、ネコの暮らしと健康のための商品づくり

2024.04.12(最終更新日:2024.04.12)

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現在、統計によるとネコの平均寿命は15.45歳と言われている(注1)。屋外飼いから室内飼いが推奨される時代に変わり、健康面の管理が行き届くようになったことが要因の一つと言われている。

その一方で、高齢化によって生じる健康障害・病気も増加の傾向に。特に歯周病や腎機能の低下による腎不全は高確率で罹患すると言われている(注2)。習性上、痛みなどを隠す傾向にあるネコは、日々の動きや表情からは早期発見が難しい。そのためには定期的な健康診断以外に方法はないが、移動が大きなストレスにもなりうるネコにとって、病院への健診は毎回大騒ぎ。ネコと飼い主ともども疲弊する…というのは、共通の悩みではないだろうか。

そんな中、ネコ用品メーカーから簡易検査キット「うちのねこといっしょ」が2023年に発売された。これは3種類の検査が自宅で行え、かつその場で結果が分かるというもの。企画から製造まで、岩手県内にある検査メーカーとネコ用品のデザイン会社が開発し、国内で生産しているという。株式会社nekozuki代表・太野 由佳子さんに開発の経緯や、ネコ目線で行っているという商品開発について伺った。


(注1)参考:令和3年 全国犬猫飼育実態調査|一般社団法人ペットフード協会https://petfood.or.jp/topics/img/211223.pdf
(注2)https://www.anicom-page.com/hakusho/journal/pdf/120827.pdf

自宅で行える検査で、ネコの健康管理を定期的かつ簡単に

ーー初めに簡易検査キット「うちのねこといっしょ」について教えてください。

「うちのねこといっしょ」はネコの健康状態について自宅で検査・把握できる検査キットです。複数の検査キットで複合的にネコの現状を見える化し、普段の状態との比較から違和感に早く気づくことで動物病院へ行くきっかけになります。気になる症状がなくても、定期的・簡易的な健康チェックが自宅で手軽にできたら、と思い開発しました。

ーーどんな検査ができるんですか?

現状は口腔内検査、尿検査、水道水の水質検査ができます。まず「口腔内検査キット おくちあーん」では唾液中のヘモグロビンをチェックすることで、歯周病やお口の中の出血の有無が分かるようになっています。綿棒で口の中の唾液を取るだけで、検査が行えます。「尿検査キット おしっことるよ」はネコのおしっこのpH、糖分、タンパク、ヘモグロビン(潜血リスク)の4項目を測定できます。

ネコ型が「おくちあーん」で、長方形型が「おしっことるよ」

多くのネコは症状をギリギリまで隠すことが多いので、目に見えづらい口腔内・腎機能は定期的にチェックしてあげる必要があるんですよね。また腎臓病を予防するためにも、腎機能に負荷をかけるミネラル分が水道水にどれくらい含まれているか、チェックしてあげることも大切です。そのため「水質検査キット おみずちょうだい」も販売しています。

「おみずちょうだい」は色でph値をチェックできる

ーー開発にはどういった経緯があったのでしょうか?

2022年の年末に、盛岡市にある検査メーカー「セルスペクト」の社長が動物園のアライグマやレッサーパンダの口腔内検査をしているという話を聞きました。もともと簡易的に検査できないものか?と考えていたので、それを聞いて「うちのネコさんも検査したい」と相談したのがきっかけです。ほかの動物ですでに検査方法自体は確立されていたので、キットの仕様をネコに合わせて検討しながら開発を進めていき、2023年に発売開始。同時期にグッドデザイン賞にも応募し、賞をいただきました。

ーー製品化するにあたって、どのような点に気をつけましたか?

尿検査自体はこれまでも可能だったのですが、排尿したてのものを採取するのはとても難しかったんです。人間のように自分でカップを持って…みたいなことは、ネコはできませんから。でもトイレ前のネコを待ち構えるようなことをして、ストレスを与えたら本末転倒です。なるべく普段どおりに使用できる検査方法にしたい、とリクエストしましたね。その結果、尿検査はだいぶ便利な形式になりました。排尿後のおしっこシートに押し当てるだけで検査できる、という形状です。また、飼い主さんにとっても見やすいよう、キットにカラーチャートを配置しています。

閉じた状態で底面をトイレシートに押し付け、開くと内側の窓から色が確認できる

底面部分を押し当てると、表面に検査の値が出てくるんです。当初は押し当ててひっくり返さないと見えなかったんですが、おしっこが垂れてきたら嫌だなと。それも相談したところ、血液検査の感染予防対策の技術が転用できるという話になって。シートに押し当ててから開くと、 内側の窓から色が確認できるようにデザインしました。些細な手順の差ですが、少しでもめんどくさいと、やらない理由になってしまいます。なるべく簡単で、手間にならないものを目指しました。

ーーどれくらいの頻度で検査するのがいいんでしょうか?

お口が3か月に一回、尿検査が4ヶ月に一回くらいでしょうか。定期的に行い、変化がないかチェックするのが大切ですね。ネコの寿命は人間よりも遥かに速く進んでいきますから。数値が普段と大きく違うときには、病院で見てもらうサインになる。ネコ的には嫌な思いをせず、健康診断が知らないところで終わります。

ーーなるほど。ネコファーストな考えから、検査キットのデザインが生まれたんですね。

「ネコを幸せにするには?」という問いから生まれる商品たち

取材を見守ってくれたネコ社員たち

ーーnekozukiはこの検査キットの他にも、ネコ用トイレや首に巻くエリザベスカラーなども企画・販売されていますよね。どういう経緯で会社が設立されたんですか?

もともと昔からネコと暮らしていて、会社員時代から動物愛護団体でボランティアをしていました。ただ当時はシステム会社にいまして、今の仕事とは無縁な職種でした。

ボランティアをする中で多頭飼育崩壊でレスキューされるネコや、捨てネコたちをお世話しながら「なぜ捨てられてしまうんだろう」「飼育放棄する人がいるんだろう」とずっと悩んでいて。この子たちは特に何も悪いことしてないのに、外を歩いてるだけで嫌がる人もいるし、危険に晒される。「そんな世の中なら、せめて自分はネコのためになることをしよう」という思いが大きくなった結果、ネコ用品店を開業することにしたんです。ネコ用品を仕入れて、盛岡市内の実店舗で販売していました。ただ、全然売れなくて(笑)。スーパーのレジ打ちと掛け持ちしながら、お店を開けていましたね。

そんな折、たまたまネットで物を売る方法があるというのを知りました。2005〜2006年当時はまだネットショッピングが一般的ではない時代でしたから、プラットフォーム側が出店者を募るためにセミナーや説明会を地方で行っていたんです。説明会へ行ってみたら、画面上にかごがあって、写真があって、商品説明を入力する。それならできるかなと思い、オンラインショップを開設してみました。

ーーなるほど。オンライン販売をいち早く始めたことが、商品開発をする転機になった?

そうですね。当初はお客様に電話をして困ってることを直接教えてもらい、それに合う商品を探して仕入れていました。でも、必ずしも商品が見つかるわけじゃないんです。こちらからわざわざ電話しておいて「そういう商品はありませんでした」と答えるのはどうなんだろうと申し訳ない気持ちになることも。

一方で自分の脳内では「その悩みには、こういうものがあればいいんじゃないか」とすごくクリアにイメージができていました。それなら作ればいいんだ、と思って生まれたのが代表商品の「エリザベスカラー」でした。現在まで販売が続いている、当社のロングセラー商品です。

ーーなかなか他にない経歴と情熱ですね。商品アイデアのヒントはどこにあるのでしょうか?

やはり、ネコと暮らす人間側の困りごとが大きいです。例えば、エリザベスカラーは一時的な利用だけじゃなく、アレルギーや治療で一生着けながら生活するネコもいます。そうなると体の一部みたいな製品になるので、体に合わないとストレスがかかります。なので現在はセミオーダーやフルオーダーを受けて、より体に合うように作ったりしています。またサイズ展開も9種類と、豊富に取り揃えています。ネコごとに体格・体型って全然違いますから。

内側のふわふわが顔に当たることで、ネコは大人しくなるという

この爪切り用マスクも現在は8種類ほど。以前、お客様から「うまく付けられない」というご意見をいただいて写真を見たら、鼻ぺちゃの種類だったことがあって(笑)。顔の形もネコそれぞれだよなと気づき、なるべく多様なサイズを展開しています。

人間が実際に試すことでわかる、ネコの気持ち

ーーネコにとって良い商品をつくるために、大切にしていることはありますか?

人間の事情はあまり考えず、ネコにとって一番いい方法を考えることでしょうか。頭の中でいろいろ設計しても、ネコに使ってもらうと「こりゃ全然ダメだな」ということがいっぱいあって。ネコに使ってもらうことでブラッシュアップされるので、多分真のデザイナーは社内で飼っている“ネコ社員”たちなんだと思います。 グッドデザイン賞を受賞した際も、デザイナーのクレジットに開発に携わってくれたネコ社員「ちゃっくん・ぽんちゃん」の名前を入れさせていただきましたし。

ーーなるほど。製造しやすい・管理しやすいという人間の都合だと、ネコの心地よさには繋がらないのですね。

そうなんです。なので、人間で試すこともあります。カラーやトイレ、爪研ぎを人間サイズに拡大して製造してもらい、ネコの気持ちになってみる。ちょっと着けてみます?

エリザベスカラーを試してみる取材スタッフ

ーー結構、視界が限定されるんですね…。

そうなんです。付けてみて初めて、どれくらい視界が遮られるのか、首が固定されるのか想像できますよね。爪研ぎも同じように大きくして試したことがあるんですけど、土台が細いと体が乗せられなくて、思う存分爪が研げないんです。スタッフと製品について会議するときは、実はこの方法が一番わかりやすいですね。

ーーなるほど。お客様からの意見も集めているんですか?

最近は直接お電話を差し上げることはなくなりましたけど、毎週水曜日の朝10時から、電話やメールでいただいたご意見の内容を要約せず、そのままの情報を共有するネコ会議の時間を社内で設けています。個人の解釈で話の内容を取捨選択してしまうのはもったいないですし、要約すると裏に込められた思いが読み取れなくなってしまうこともあるんです。
また「うちでは当たり前」「こんなもんでしょ」と個々で思ってることが、ヒントになることもあります。要望ももちろんですが、雑談のようにネコとの困りごとを教えてもらうことで、商品を作る種を探したりしていますね。

ーーネガティブな意見が寄せられる不安はないのでしょうか。

もちろんあります。爪切りマスクを発売した直後は「なんて可哀想なことをするんだ、虐待なんじゃないか」というコメントもありました。でも、実際に使用している飼い主さんの「初めて爪を切れた」「ネコが落ち着いてくれるので、ストレスをかけずに済んでいる」という声が増えていくと、動物病院でも採用されていって。最初に紹介した検査キットだって、異常があったらすぐ病院へ行くように注意書きをしています。予防するためじゃなく、早く気づいて適切な治療を受けるためのものなんです。

私たちはあくまで、ネコたちの健康を見守るために商品を開発しています。飼い主さん、病院、他のメーカーさんとみんなで協力しながら、最終的にネコたちの健康につながっていけばと思っています。

長寿命になるネコの健康を支えるため、医療機器メーカーに

ーー今後、さらに展開を増やしていく予定の製品はありますか?

昨今はネコが高齢化していくにつれて、病気も増えていて。以前は病気になる前に亡くなっていたのが、人間側の健康管理意識が向上したのと、室内飼いネコが増えたからでしょうね。今後さらに増えるであろう闘病中の猫たちのためになるものをもっと作るために、昨年12月に医療機器メーカーになりました。

医療行為に該当する時に使う器具は、農林水産省の許可をもらわなくてはいけなくて。この許可があると、病気に特化したものが作れるようになるんです。実際に開発を進めている製品は県内の愛護団体にいるネコたちに使ってもらい、開発に協力してもらっています。

もう少しでリリースする商品は、疾患を抱えたネコと飼い主さんのための、自宅点滴用サポートグッズです。猫は高齢になると腎不全になる可能性が高まります。自宅で皮下点滴しなきゃいけないネコもいる。彼らにとっては、病院に行くだけでもストレスになるし、嫌がってる状態で連れていくのは飼い主さんも大変です。とはいえ、自宅治療するにも点滴を避けようとするネコに自力で針を刺すのは難しく、誤って自分の手を刺してしまう飼い主さんもいます。その悩みを少しでも軽減できればと。

あとは、昨年からネコ用ごはんの製造も始めました。腎機能の低下を防ぐために、どう水分を摂取してもらうか考えたんです。ドライフードだと大体10%くらいしか水分率がないし、ネコに水を飲ませるのって結構大変なんですよ。それが早めに改善できれば、助かるチャンスを増やせるかもしれません。そこで三陸の魚を水煮にした缶詰を発売しました。飼い主自身の健康志向も上がっているであろう今、ネコたちの食にも選択肢があってもいいですよね。

ーーここ数年のコロナ禍を経て、ネコと暮らす人が増えました。ますます、これらの商品のニーズが上がっていくでしょうね。

そうですね。ただ正直に言えば、ネコと暮らす人が急には増えてほしくないと思っています。反動で悲しい結果になることは、多いですから。統計調査を見ていても、自粛期間中にネコを飼う人が増えて、逆に手放す人も増えていたりする。意外に飼うの大変じゃんとか、意外にお金かかっちゃうからとか、そんな理由だったりします。

それを見ていると、少しでもその苦労が軽減されれば、真面目に飼育してくれる人が増えるんじゃないかなと思っていて。だからこそ、こういったグッズが役に立ったら嬉しいなと思っていますけどね。

ーーネコと人間が対等に暮らすための手助けをするのが、nekozukiの商品なんですね。

そうですね。ネコ社員はもちろん対等の関係なので、商品モニターをしてほしくても「嫌だ」という素振りを見せたらやめます。ネコが怒ったら少し時間を置いて、もう一度お願いしたりして。そうしてるうちに、開発期間なんて一年超えちゃいますけど。弊社の商品は依頼されて開発してるわけじゃないですからいいんです。

困ってる人のために私たちが作ってるので、特に締め切りはありません。もちろん早くできた方がいいんですけれど、無理して開発を進めようとすると私たちとネコの関係が悪くなる。それは悲しいので避けたいなと思うんです。

ーー動物愛護の側面で考えても、そのほうがきっと正しいように思えます。

そうですよね。なので「一年でできます」とは言えないし、「いつできるか、あんまりわかりません」という感じで。これからもネコの暮らしを幸せにするために商品を制作していくと思います。それこそネコ次第で。

<編集後記>
筆者自身もネコと暮らしている身として、ネコを尊重しながら生活できているかな?とドキドキしながらの取材となりました。検査キットから日用品、はたまた医療機器まで横断するnekozukiの商品たち。そこには彼女の一貫する「ネコのためのものづくり」へのこだわりがありました。ネコのためならジャンルレスに動き、ネコのペースでさまざまな製品を生んでいく。その姿勢は、人間中心のプロダクトやサービスへ柔らかく対抗しているようにも映ります。生涯を共にするネコのウェルビーイングは、今度どのように発達していくのか。それは共に暮らす人間の手にかかっています。

<プロフィール>
太野 由佳子
株式会社クロス・クローバー・ジャパン 代表取締役 兼 プロダクトデザイナー
大好きな猫の役に立てる仕事をするため、2005年に起業。飼い猫・なるとさんの病気をきっかけに、本当にネコにとって使いやすいエリザベスカラーを作ろうと商品開発をはじめる。ほかにも化学物質や香料を添加しない「木だけの無添加猫砂」による健康猫砂市場の創出や、ネコの高齢化に伴った自宅介護をサポートするグッズの開発にも携わる。将来の夢は「ネコと人間が共生できる家をゼロからプロデュースすること」。


(取材・執筆:ヤマグチナナコ、写真:イトウタカムネ、編集:金澤李花子)