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テスラ、ディズニーなど企業が次々に参入…実用化重視に舵取り、ヒューマノイドの最前線

2024.06.13(最終更新日:2024.06.13)

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今、ヒューマノイド(人型ロボット)がとても注目されています。自動車などの生産工場では従来から、ロボットの導入は盛んに行われてきました。生産ラインを組み換えたり、作業内容の変更を行う際に工場の設備に大幅な変更を行ったりする必要がありましたが、ヒューマノイドロボットは、従来の設備や道具をそのまま流用できるという点で人の代替としての役割や災害現場や宇宙開発で人間の代わりに危険な任務を担うロボットとしての役割も期待されています。テスラ、NVIDIA、ディズニー、フィギュアAI、Agility、Apptronikなど、多くの企業が関連技術への参入を発表していますが、その狙いと今後の未来についてIT&RTジャーナリストの神崎洋治さんが解説します。

最適なロボットのデザインとは

ロボットと聞いて、どのようなスタイルのロボットを思い浮かべるでしょうか。SF映画やコミックスに登場するロボットの多くは、人間の形状をした人型ロボット「ヒューマノイド」です。

キャプション 人の姿を模したヒューマノイドの例(Agility Robotics「Digit」) (著者撮影)

現実社会ではロボットの多くは工場や倉庫などで使用されてきました。腕の形状をしていて、人間が手作業で行っていた仕事を代替する「ロボットアーム」や「マニュピレーター」が主です。工場では部品を組み立てたり、塗装や溶接したり、繰り返し長時間、正確に作業し続けることができます。機種によってはコンピュータの半導体や基板の作成など、細かい作業の正確性や高速性が高いものもあります。

ある作業に限って能力を発揮するようにデザインされたロボットを「特化型」といいます。工場において、人間の手作業を代替するために最適なデザインのひとつがロボットアームなのです。

家庭ではルンバなどの掃除ロボットがお馴染みですが、車輪を使って移動し、床掃除をするために最適なデザインをしています。逆に言えば、テーブルの上や手すり、窓を拭くといった「床掃除以外」の清掃はできません。特化型では、窓拭きや洗濯、食器洗いなど、それぞれ清掃作業に合わせて最適なデザインとスタイルをしたロボットを使おう、ということになります。

一方で、人間はいろいろなことができます。掃除をしたり、窓を拭いたり、ホウキやチリトリ、窓拭きタオルなど、それぞれの道具は人間が使いやすいように工夫され、デザインも進化させてきました。いろいろな作業に対応できることを「汎用型」といいます。もしもロボットに対して、高い汎用性を望むならば人型のデザインが最適です。人間用にデザインされた住居をどこでも行き来し、人間用にデザインされた箱や棚、道具を使うのにはヒューマノイドの形状が最も適しているからです。

これからの社会においては、特化型と汎用型のどちらが優れているかではなく、両方のロボットがケースバイケースで望まれていきます。しかし、これまでは汎用性が高い人間の代替になって動けるような身体能力をロボットに期待するのは無理があると考えるのが実状でした。

バク宙やパルクールができる驚異のヒューマノイド「アトラス」

これまで身体的能力が最も高いヒューマノイドと言えば、米国ボストン・ダイナミクス社の「アトラス」が知られていました。アトラスは2016年頃から注目を集め始め、雪の上を、足を滑らせながらもバランスを上手にとって歩き続ける動画がYouTubeで公開されました。その後も不整地を走って丸太を飛び越えるなど、優れた身体能力を披露する動画を公開し人々を驚かせてきました。これらはAIと機械学習の進化によって実現できたものです。また、重たい体重を支え、更には宙返りし、大きな段差もジャンプして登る軽快さは「油圧式」モーターの強力なパワーによって生み出されました。

ボストン・ダイナミクス YouTube動画より(https://youtu.be/fRj34o4hN4I)

一方で油圧式モーターは使用環境によって粘度を調整するなど取扱いが難しく、油漏れやそれによる火災などのリスクがあります。アトラスのポテンシャルが優れているとは言っても、工場や倉庫など実用性が重視される現場で、安定して持続的に長時間、動作するには適していませんでした。

ボストン・ダイナミクス社は2013年に米グーグルに、2017年にソフトバンクグループに、2020年に韓国の現代(ヒョンデ)自動車グループへと、次々に買収されましたが、どこもアトラスを商用化することはできませんでした。
そしてついに、2024年ボストン・ダイナミクス社は油圧式のアトラスとお別れする動画を公開。ところが、その直後に電動モーターを採用した「新しいアトラス」を動画で発表したのです。新型アトラスは動画の中で人間にはできない動き(関節の可動域)で一種異様な雰囲気でしたが、今後、電動式アトラスは実用性と社会運用を目指して開発を進めることを公言。これは、身体能力の高いヒューマノイドが他社からも次々と登場し始めたことを受けて、急速に社会に進出していく予感を同社が察知したからでしょう。

電動式アトラス ボストン・ダイナミクス YouTube動画より(https://youtu.be/29ECwExc-_M)

ヒューマノイドブームの火付け役はテスラ

ヒューマノイドが急激に注目されるようになったのは、2021年8月、テスラの発表会において、CEOのイーロン・マスク氏が、「今後、実用的なヒューマノイドを開発し、市場に投入する」と表明したことがきっかけです。話題性のあるマスク氏ならSF映画のように、ヒューマノイドが浸透する社会を実現できるかもしれない、と多くの人が感じたのです。

ヒューマノイド「Tesla Bot」 YouTube動画より(https://youtu.be/XiQkeWOFwmk)

その1年後、テスラは実際に自社開発のヒューマノイドであるTesla Bot「オプティマス」のプロトタイプをステージで公開。それから順次、YouTubeを通して開発状況を発信しています。

2024年4月にロイター通信は、イーロン・マスク氏が投資家向け電話会議で「オプティマスの販売を来年末にも開始できるかもしれない」「ヒト型ロボットを開発する企業の中でテスラが一番大量生産できる状態にある」と述べたと報道しています。

アマゾンがAgility Robotics「Digit」をロボット研究開発施設でテスト

米国Agility RoboticsのDigitは実用化が近いヒューマノイドとして注目されています。宅配の自動化への参入を模索している自動車メーカーのフォードがテスト運用したのに続き、米シアトルの南にあるAmazonのロボット研究開発施設でDigitがテストされている動画が公開されて話題に。
Amazonはスマート物流倉庫と自動化を急速に進めていて、デジタルツインやロボットの導入に積極的です。動画では、人間のスタッフの代わりにプラスチックコンテナを棚から別の棚やテーブルに運ぶ様子が公開されています。

Amazonのロボット研究開発施設で作業するヒューマノイド「Digit」 YouTube動画より(https://www.youtube.com/watch?v=q8IdbodRG14)

メルセデスがApptronik「Apollo」を試験導入

米国Apptronik社が開発したヒューマノイド「Apollo」 同社Xの投稿より

米Apptronik社が開発したApolloは、メルセデスの工場で試験導入されたことで話題に。Apolloは二足歩行タイプだけでなく、上半身だけのバージョンや車両機構で移動するバージョンも用意されています。これは現場に合わせて高い実用性を確保するためです。

Apptronik社はメルセデスベンツが製造工場のスタッフとしてApolloを試験的に導入し、「身体的負担が多く、人々がやりたがらない反復作業が中心の、単調な作業を自動化する最先端のテクノロジーを提供できる」としています。

「GTC 2024」で展示されたApptronik社のApollo(著者撮影)

ディズニーのヒューマノイド開発にNVIDIAのシステムを採用

2024年3月に米シリコンバレーで開催されたAIとGPUの世界最大級のイベント「GTC 2024」の貴重講演で、米NVIDIA(エヌビディア)のCEO、ジェンスン フアン氏は、同社の超小型コンピュータ「Jetson」(ジェットソン)を搭載したディズニーが開発した可愛いロボットたちを紹介して会場を沸かせました。

ディズニーは以前からアトラクション等でのロボットの活用に積極的で、同社は「オーディオアニマトロニクス」と呼んでいます。このロボットはディズニー・リサーチとウォルト・ディズニー・イマジニアリング・リサーチ&ディベロップメントが開発したロボットで、表現力豊かなモーションで愛らしく動き、ディズニーランド・パークの「スター・ウォーズ:ギャラクシーズ・エッジ」(スターウォーズのアトラクションやショップ等のエリア)で披露した動画が公開されています。また、ロボットが動きや振る舞いを学習するため、最近はシミュレータソフトウェアが活用されていますが、そこにはNVIDIAの「Isaac SIM」が採用されていることも明らかにされています。

ちなみに、NVIDIAのJetsonは一般に販売され、Isaac SIMは無料で公開されているプラットフォームです。NVIDIAは更に、ヒューマノイド開発用のプラットフォーム「GR00T」(GRゼロゼロT)を2025年に発表することも公言しているため、これをきっかけにして今後は同様のシステムを使って、他にも多くの開発企業から様々なヒューマノイドが登場してくる可能性があります。

GTC 2024でヒューマノイド開発プラットフォーム「GR00T」を発表、解説するNVIDIAの創業者/CEOのジェンスン・フアン氏(著者撮影)

身体能力に優れた「Unitree G1」

最近注目を集めているヒューマノイドのひとつが「Unitree G1」です。ボストン・ダイナミクスのアトラスと同様、人間ではできない動きや、外部からの衝撃にも簡単には倒れない動画が公開され、その身体能力の高さに驚きの声が上がっています。身長127cm、重さ35kgと子どもくらいのサイズをしていて、今後は社会実装に向けた連携パートナーやユースケースが紹介されることが期待されています。

生成AIをヒューマノイドに活用した「Figure AI」

生成AIの大規模言語モデル「ChatGPT」を開発したOpen AIが出資し、マイクロソフトやNVIDIA、元アマゾンのジェフ・ベゾス氏等が投資しているFigure AI社は、ChatGPTと連携したヒューマノイド「Figure 01」の動画を公開して話題に。

動作はすべて会話でやりとりされていて、会話は一問一答だけではなく、一連の関係性を維持したままを継続させている点は、生成AIを導入したメリットのひとつと言えるでしょう。Figure 01は、人と音声で会話しながら、人の指示を理解し、意図を解釈して行動を起こす様子と、そのレベルが高いことに多くの研究者や開発者も衝撃を覚えました。多くのSF映画で見たヒューマノイドやスターウォーズのC-3POのように、作業の指示が発話してできるようになり、意図をくみ取ってまるで人間のように応対してくれる時が近づいていることを実感したのです。

生成AIの登場がブレークスルーに

生成AIの登場でロボットの頭脳や知性のレベルが飛躍し、ブレークスルーが起こりました。これにより、ヒューマノイドの実用化や社会実装が加速すると見られています。多くの企業がヒューマノイド開発に参入すれば、その進化を更に後押しすると期待されています。



<著者>
神崎洋治
TRISEC International代表取締役

ロボット、AI、IoT、自動運転、モバイル通信、ドローン、ビッグデータ等に詳しいITジャーナリスト。WEBニュース「ロボスタ」編集部責任者。イベント講師(講演)、WEBニュースやコラム、雑誌、書籍、テレビ、オンライン講座、テレビのコメンテイターなどで活動中。1996年から3年間、アスキー特派員として米国シリコンバレーに住み、インターネット黎明期の米ベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材した頃からライター業に浸る。「ロボカップ2018 名古屋世界大会」公式ページのライターや、経産省主催の「World Robot Summit」(WRS)プレ大会決勝の審査員等もつとめる。著書多数。