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実用化が目前に迫る「6G」…超低遅延・超高信頼の“次世代移動通信システム”で実現する未来とは?

この記事は1年以上前に書かれたものです。現在は状況が異なる可能性がありますのでご注意ください。

2023.10.31(最終更新日:2023.10.31)

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すでに生活に欠かせない存在となったスマートフォン。現在は主にLTEなどで知られる4G(第4世代通信)と、最新の5Gで通信が行われています。総務省の発表によれば令和4年度末において5Gが利用できる全国の人口カバー率は96.6%に達しています。

そんななか、通信・ビジネス業界ではすでに次の「6G」に関する研究・開発が進んでいます。本稿では「6G」の普及が私たちの生活にもたらす変化について、いくつかの実例を挙げて解説します。

2030年頃の実用化を予定する次世代移動通信システム「6G」

「6G」は「5G」の次に来る次世代の移動通信システムで「Beyond 5G」や「5G evolution」とも呼ばれています。

2030年頃を目処に研究開発や規格の策定が行われることになっており、現時点では「6Gは確実にこうなる」ということは断言できません。ただ6Gに向けての研究・開発は、現在の5Gをさらに高速・大容量・低遅延(素早い反応)化しつつ、海や空を含めた地球上のどこでも通信でき、それどころか宇宙までカバーしようといった、新たなフェーズへの挑戦だといえそうです。

空・海・山・砂漠…「どこでも使える」を実現するHAPS技術

2020年、ソフトバンクの無人航空機が成層圏の飛行に成功し、いまも研究開発のために飛んでいます。太陽光エネルギーで飛び続けるグライダーのようなもので、スマホやモバイル端末と通信する基地局の機能を持っています。

この「高高度基盤ステーション」(High Altitude Platform Station:HAPS)は、商用化に向けた取り組みが行われています。

ソフトバンクの空飛ぶ通信基地局『Sunglider』(提供:ソフトバンク)

空飛ぶ基地局が実現すると、空・海・山・砂漠など、あらゆる場所でモバイル通信が使えるようになる可能性があります。地震・水害などで既存の基地局や通信機器が破損してモバイル通信が寸断された場合でも空からの通信が可能となるため、災害時に活躍すると期待されています。

「HAPS」については、NTTとドコモ、エアバス、スカパーJSATの4社も共同で早期実用化に向けた研究開発を進めています。人工衛星を使った通信も視野に入れており、次世代6Gでは地上と宇宙の間でのモバイル通信が実現するかもしれません。

タイムラグは5Gの10分の1…6Gが目指す技術の進化

6Gについての詳細はNTTドコモやKDDIなどがコンセプトイメージとしてホワイトペーパーとして公開しています。

たとえば、NTTドコモが公開している「6Gで目指す要求条件」によると、5Gと比較して高速通信では10倍(100GBps超)、低遅延(すぐに反応する速度:タイムラグ)は10分の1になります。平方kmあたりに接続できるデバイス数は1,000万台(5Gは約100万台)と大幅に増える予定です。

速度性能以外にも、高い信頼性や低消費電力などが掲げられています。

出典: NTTドコモ「6Gで目指す要求条件」

具体例にみる「6Gが活躍する未来」

では、超高性能の6Gはどのような分野で必要とされ、活用され得るのでしょうか。

たとえば、交通・自動運転の分野です。近い未来、自動運転バスや自律飛行ドローン、空飛ぶクルマなどの実用化が見込まれていますが、自動運転バスでは運転士がいない代わりに、遠隔による監視と危機回避、トラブル対応が不可欠になります。

その際、バスから送られてくる社内外を映した複数の映像のやり取りを行う上で、6Gによるモバイル通信が活躍します。

また、バスやクルマ同士、クルマと信号機・街路灯などが通信して情報をやり取りし、安全走行に役立つ情報を収集・分析します。そこに通信の遅延があっては反対に事故を誘発する可能性が高まるため、超低遅延の通信が必要とされているのです。

出典:筆者作成

交通以外の分野では、医療分野が分かりやすいでしょう。

将来、患者を遠隔地から専門医が通信を使って診察するオンライン診療分野におけるさらなる活用が見込まれています。

将来のオンライン診療においては、通信を使ったリアルタイムの触診も行えるようになりそうです。23年2月には、神戸大学とNTTドコモ、NTTコミュニケーションズ、メディカロイドが、東京にいる若手医師のロボット手術を約500km離れた神戸にいる熟練医師が支援する実証実験に成功したことを発表*しており、視覚(映像)や聴覚(音)に加えて触覚(感覚)の伝達も可能になると、期待が高まっています。

そこでは鮮明な高解像度映像(8K)と触覚、すぐに反応できる低遅延性能が求められています。

*参考:「東京-神戸間(約500km)で商用の5G SAを活用し遠隔地からロボット手術を支援する実証実験に成功」

NTTドコモは6Gで「人間拡張」を提案

2022年2月、NTTドコモが女優の綾瀬はるかさんを起用して、6Gで人間拡張する未来をイメージしたCMを放送して話題になりました。ピアニストの角野隼斗さんが、筋肉の動きなどに関する情報を取得するセンシングデバイスを腕に装着し、デジタルデータに変換された角野さんの手の動きを6G通信を通じて受け取った綾瀬はるかさんが流暢にピアノを弾く、という内容です。

「もしもピアノを弾きこなせたら」という思いを、6Gとデジタル技術を使って実現し、他者のスキルをダウンロードして共有する未来をイメージしたものでした。

6Gの仕様の策定はまだ少し先の話ですが、新たな可能性を実現すべく、企業や研究者たちは日夜研究・開発に励んでいるのです。


<著者>
神崎洋治
TRISEC International代表取締役

ロボット、AI、IoT、自動運転、モバイル通信、ドローン、ビッグデータ等に詳しいITジャーナリスト。WEBニュース「ロボスタ」編集部責任者。イベント講師(講演)、WEBニュースやコラム、雑誌、書籍、テレビ、オンライン講座、テレビのコメンテイターなどで活動中。1996年から3年間、アスキー特派員として米国シリコンバレーに住み、インターネット黎明期の米ベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材した頃からライター業に浸る。「ロボカップ2018 名古屋世界大会」公式ページのライターや、経産省主催の「World Robot Summit」(WRS)プレ大会決勝の審査員等もつとめる。著書多数。