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防災テックの進化がすごい…AIによる”可視化と予測”が救うニッポンの未来

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2023.03.16(最終更新日:2023.03.28)

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日本は自然災害とは切っても切り離せない国です。未曽有の大災害「東日本大震災」から12年が経ちました。この12年のあいだに、「防災」における技術の発展には目覚ましいものがあります。今後も災害への恐怖はなくならないなか、人々の生命や財産を守る、最新の防災技術についてみていきましょう。

「東日本大震災」から12年…大きく変化した人々の生活

未曾有の被害をもたらした東日本大震災から12年が経ちました。この12年のあいだで、私たちの身の回りは大きく変化しました。その変化をもたらした代表的な存在がスマートフォンです。東日本大震災が発生する直前に行われた総務省の調査によると、日本におけるスマートフォン保有率は9.7%(※)と、当時はまだ10人に1人しかスマートフォンを持っていませんでした。現在では、その保有率は9割を超え、老若男女関わらず、ほとんどの人がスマートフォンを所有しています。

Suicaをはじめとした交通系ICの相互乗り入れ「交通系ICカード全国相互利用サービス」が始まったのが2013年、結果として交通系ICカードは全国に一気に広がりました。そしてこの交通系ICカードは、スマートフォンと連動することにより公共交通機関の利用のみならず日々のお財布代わりとして、街の至るところで使えるようになりました。日々の調べ物からスケジュール管理、友人とのコミュニケーションなど、現在の私たちはスマートフォンなしでは暮らしていけないほどにまでなったのです。

「AI」 の台頭と災害時に活用される「SNS」

この12年間で大きく進化した技術のひとつがAI(人工知能)です。2006年にジェフリー・ヒントン(英)らの研究チームにより、ニューラルネットワークの深層化手法(ディープラーニングの基本となる技術)が提唱され、そのディープラーニングを活用したDeepMind社(グーグルの子会社)の囲碁ソフト「AlphaGo」が 、2017年に当時世界ランキング1位だったプロ棋士、柯潔との三番勝負で3局全勝し話題となりました。もはやAIは人間の知性をも超えるのではないかといわれ始めるようになったのです。

防災の領域で、もうひとつ重要な発展がツイッターやフェイスブック、LINEといった「SNS」の発展です。Twitter Japanによると東日本大震災当時の日本でのツイッター利用者数は670万人ほどでしたが、現在では約6,000万人と10倍近くに増えています。LINEは震災後に誕生したサービスで、3.11当時はまだ世の中に存在すらしていませんでした。

これらSNSの利用者数が、前述のスマートフォンの普及と合わせて大きく増加したことで、災害時においては、一般市民からの被災現場のリアルな情報が発信されるようになり、災害・防災情報として欠かせないものとなっています。ツイッターに1日に投稿される数は日本語のものだけで数十億件に達するといわれています。これほどの膨大な数から災害対応に必要な情報を選別・抽出するには、AIの存在が不可欠です。

SNSはとにかく雑多な情報で溢れています。そのなかで災害対応として本当に必要とされる情報はごく僅かです。単にキーワードによる選別だけでなく、書かれている文章の文脈、添付されている画像や動画、そういった情報からつぶさに判断して、災害対応に資する情報を的確かつ正確に抽出しなければなりません。数十億件の投稿のなかから、そういった作業を瞬時に行うにはやはりAIでなければできません。

そのような災害現場でのAIの活用は、ここ数年で国や自治体のあいだでもかなり進んできています。たとえば、大分県では各地で河川の氾濫や土砂崩れなど大きな被害をもたらした「令和2年7月豪雨」で、孤立した民家に取り残された妊婦の方からのツイッター投稿を、大分県が導入したAIを活用したSNSの情報解析サービスを通じて発見し、直ちに救護活動につなげるなど、その活用事例も多くなっています。

「ジェネレーティブAI」の誕生…「フェイク」に注意が必要となる

一方で、AIの進化は負の側面も存在します。2022年の台風15号は記録的な豪雨をもたらし、台風の進路となった静岡県では各地で大規模な水害が発生しました。そのようななか、ドローンで撮影された静岡の洪水の様子として3枚の画像がツイッターに投稿され、その投稿は瞬く間に拡散されました。その後、投稿者はこの3枚の画像は”フェイク”だったと認め、謝罪のコメントを投稿しています。投稿者は、これらの画像は画像生成AI「Stable Diffusion」を使って作成したものだと明かしました。

また、2022年、米コロラド州で開催された美術コンテストで1位に選ばれた作品が物議を醸しました。なぜならその作品は、いくつかのキーワードを入力して指示どおりに絵を描くAI「Midjourney」により作成されたものだったからです。

静岡の水害のフェイク画像も、米国の美術コンテストの絵画も、一見しただけではもはや人が撮影もしくは制作したものと区別がつかないレベルになっています。画像だけではなく、すでに1本の映画をつくるAIや、過去のクラシック音楽を学習してクラシックの巨匠たちと肩を並べるほどのまったく新しいクラシック音楽を生成するAI、さらには純文学でもミステリーでもあらゆるジャンルの小説を書くAIなど、さまざまなタイプのコンテンツ生成型AI(ジェネレーティブAI)が誕生しています。

こうしたジェネレーティブAIはよい側面もある一方で、「フェイク」も簡単に作成できてしまうため、悪意のあるコンテンツがSNSを通じてインターネット上に氾濫してしまう恐れもあります。防災の観点では、それを見分ける手間が増え、いざというときに本当に救助を求めている市民の声が届かなくなってしまう懸念も見過ごせません。

AIによる予測と未来の防災

防災領域でのAIの活用は徐々に進んできています。東北大学発のベンチャーRTi-castは、地震が発生した際に、瞬時に津波の被害を予測しシミュレーションする技術を開発しています。スーパーコンピュータを使い、地震発生から20分足らずで津波による被害範囲を推定できるため、住民への避難の呼びかけや、自治体における災害対応の効率化にとって大変有効な取り組みです。

気象情報を手掛けるウェザーニューズは台風が通過する地域の停電リスクを予測するサービスを提供しています。2019年に関東を襲った台風15号では、千葉県の広範囲で停電の被害が発生しました。同社は過去の停電や予想される風速などのデータをもとにAIで停電範囲を予測し、一般市民の事前対策や企業のBCP(事業継続計画)対応への活用を呼びかけています。

さらには大雨による街中の浸水範囲をAIでリアルタイムに推定する技術や、大雪により大規模に車が立ち往生してしまう「スタック」被害の予兆検知技術を開発し、サービスを提供している企業もあります。ゲリラ豪雨や線状降水帯など近年大雨による被害が全国で頻発していますが、「どの地域が、どの程度浸水するか」をいち早く予測することで、市民の避難や交通網などへの被害を未然に防ぐことができるほか、浸水範囲を特定することで保険金の支払いにも活用できます。

冬場の大雪による交通被害も毎年のように発生しており、物流やサプライチェーンに大きな影響をもたらしているのが現状です。AIによる予測技術はこうした分野で力を発揮します。

東日本大震災から12年、そのあいだのAIを始めとした技術の発展は目覚ましいものがあります。今後、政府が進める都市OS(さまざまな都市のデータ基盤)の取り組みなどが進むと、これらのデータを活用するためにAIはますます欠かせない技術となるでしょう。どんな技術にも光と影の部分が存在します。しかし、防災の領域においては、AIを活用した「データ駆動型」の社会の実現により、多くの生命や財産を助けることができると信じています。

[プロフィール]

村上 建治郎(むらかみ けんじろう)
株式会社 Spectee 代表取締役
2001年米国・ネバダ大学を卒業後、インターネットコンテンツ配信会社や米情報通信機器会社を経験。2011年の東日本大震災時に、毎月、東北に通いボランティアを経験。現地の情報伝達の困難さを目のあたりにし、起業のきっかけとなる。
現在は、SNSの投稿や気象データ、河川カメラや自動車の走行データ等など、さまざまなリアルタイム情報をAIで解析し、「今」そして「未来」の状況を瞬時にシミュレーションする次世代の防災・危機管理ソリューションを開発。
阪神・淡路大震災でのボランティア経験も有している。