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劇的に被害を減らす…テクノロジーの進化による災害の「見える化」

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2023.04.13(最終更新日:2023.04.13)

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台風・集中豪雨・地震・津波などの自然災害により、世界中で毎年のように多くの人命や財産が奪われています。近年では地球温暖化の影響を受け、災害の多発化・激甚化が目立つようになってきました。こうした災害と共生していく私たちが、身を守る手段として今後欠かせないものとなってくるのが、SNS情報、人工衛星の画像、ドローン映像、人流データといった「オルタナティブ・データ」です。「オルタナティブ・データ」を活用することによって、災害の「見える化」が進められ、劇的に被害を減らすことが期待されています。本記事では、防災・災害に関する最新テクノロジーについて、活用事例とともにわかりやすく解説します。

「オルタナティブ・データ」による災害の「見える化」

「オルタナティブ・データ」とは?

言葉の意味合いとしては「代替のデータ」となり、これまで活用されてこなかったデータのことを指します。たとえば金融の領域では、政府が発表するGDPなどの経済統計や、企業の財務情報といったデータが伝統的に使われてきました(これを対義語的に「トラディショナル・データ」といいます)。

しかし昨今は、店舗で取得できるPOSデータ(※)や、スマートフォンの位置情報から集められる人流データ(いつどこに何人いるのか、を把握できるデータ)、人工衛星から撮影した画像など、これまで得ることが難しかった新しいデータが取得可能になってきています。

※POSデータ:コンビニやスーパーで広く使われている商品のバーコードを読み取り、「なにを・いつ・いくらで・何個販売したのか」といった販売情報を集積するシステムを搭載した“POSレジ”を活用し、取得した顧客の消費行動をデータ化したもののこと

そこで、機関投資家は投資判断を行うのに、「オルタナティブ・データ」を活用し始めています。たとえば人工衛星で撮影したスーパーマーケットの駐車場の混み具合を前年と比較して売上を予測するなどの活用が本格的に始まっています。企業の財務情報などのトラディショナル・データとオルタナティブ・データの併用が、より正確性の高い未来予測を可能にします。

「防災」にも活用されるオルタナティブ・データ

防災の世界においても、気象庁が発表する気象に関する情報や、地方自治体が発信する測定値などのトラディショナル・データは引き続き重要ですが、そこに加えてオルタナティブ・データを活用していく流れが今後強くなっていくと考えられます。

皆さんも体感されているように、地球温暖化によって自然災害は多発化・激甚化しており、防災を進化させてより多くの人命や資産を守っていくことが喫緊の課題だからです。

トラディショナル・データ、オルタナティブ・データそれぞれの例(著者作成)

「防災」の世界でオルタナティブ・データはどのように活用される?

防災の世界では、どのような情報が「オルタナティブ・データ」として活用されるのでしょうか?

たとえば冒頭の、いつどこに何人が滞在しているのかを把握できる「人流データ」です。人流データは、スマートフォンの通信事業者が、何人のユーザーが各基地局のエリア内にいるかという情報を収集し、匿名化することで作成されるデータです。スマートフォンのナビゲーションアプリや行動履歴を記録できるライフログアプリなどから収集することでも取得できます。

このデータを活用することで、災害が発生した際には人々の動きを把握し、避難ルートを選定、安全な誘導を実現させることができます。

首都直下型地震が発生すると、多くの帰宅困難者が発生してしまうことが危惧されています。どのエリアに何人が取り残されており、どこに援助物資を届ければいいのか、どの方面であれば被害が少なく、徒歩帰宅を促してよいのか……こうした判断の正確性は、行政や企業にとって大きな課題です。人流データの活用で人の流れを可視化することにより、適切な意思決定を行うことができるようになるのです。

また、冒頭で紹介した「売上予測に活用される人工衛星」から得られるデータも、防災に活用し得る重要なオルタナティブ・データです。通常のカメラと同じく可視光を計測する「光学センサー」、対象物の温度を測る「熱赤外センサー」、電波の反射を捉えるため夜や悪天候時でも観測が可能な「SARセンサー」など多様なセンサーによって宇宙から地球を24時間俯瞰し、被災状況を可視化します。

打ち上げコストが劇的に下がったことによって、2030年には年間4,000基以上が打ち上げられると予想されており、より広い範囲をカバーすることができるはずです。

そのほかにもTwitterやFacebookといったSNSに投稿される情報や、ドローンから得られる画像なども防災目的での活用が今後進んでいくでしょう。

災害の可視化の実例

これまで紹介したようなオルタナティブ・データの活用によって「災害の可視化」が劇的に進んでいます。近年において発生した災害を取り上げ、その実例をご紹介します。

事例【1】熱海土石流

2021年7月3日に発生し、多くの命を奪った熱海市伊豆山での大規模土石流。静岡市消防局は発生当日にドローンを現場投入し、二次災害のリスクから人が近づけない現場の状況を素早く確認しました。その後、静岡市が公開したドローン映像をもとに、有志の方がフォトグラメトリ(※)という技術を使って3Dマップを作成し、SNS上に公開しました。

※フォトグラメトリ:写真測量法のこと。被写体を様々なアングルから撮影し、その画像を解析・統合して立体的な3Dコンピュータグラフィクスを生成する手法

こうした自然災害の場合、従来は測量会社や地質調査会社などがヘリコプターを飛ばして現地を調査し、時間がたってからようやく現場の状況がわかる、ということが普通でした。

こうして瞬時に被災状況の可視化ができることは、人命救助活動に役立つのはもちろん、専門機関による災害の原因分析や対策立案などに大いに活用され得ます。この災害では、SNSで状況が伝わり、多くの人の耳目を集めたことで、国内外からの寄付などの支援の動きにもつながりました。


事例【2】パキスタン水害

2022年の6月から8月にかけて、パキスタンで降雨量が年平均の約2倍にのぼったことから、想像を超える規模の水害が発生しました。実に国土の1/3が冠水し、全人口の15%にあたる3,300万人が被災するという未曽有の災害です。

これほどの被害規模の場合、これまでであれば被災状況の全容把握にはかなりの時間がかかったはずです。しかしこのケースでは、NASA(アメリカ航空宇宙局)が発災前後の衛星画像をすぐに公開したことによって、被災地域の特定が容易になりました。

NASAによって公開された発災前後の衛星画像(出典:Earth Observatory, NASA)

一方、草の根ではドローンも活躍。水に沈んだ町の様子をとらえ、またその映像がSNSで拡散されることで世界に惨状が伝わることとなりました。



このように、オルタナティブ・データによって災害の可視化が劇的に進んできているのです。

IoTの時代を迎えて…「データ」が自然災害から人々を救う

今後、より多くのオルタナティブ・データが活用できるようになると考えられています。その背景にあるのはIoTの普及です。

IoTとはInternet of Things、つまり「モノのインターネット」を意味します。インターネットは、元来サーバやデスクトップコンピュータをネットワークで接続するためのものでした。

しかし、現在ではノートPC、スマートフォンやタブレット端末に留まらず、テレビや白物家電、デジタル情報家電、監視カメラ、各種センサー類もインターネットにつながるようになってきています。ネット接続のためのIoTデバイスが小さく、コストも安くなることで、今後もどんどん多様な機器がつながっていくでしょう。また、5Gの通信技術によりデータをリアルタイムに取得し、活用できるようになります。

沢山のモノがインターネットにつながることによって、なにができるようになるのでしょうか。それは「現実世界からより多くのデータを取得すること」です。たとえば、防災の世界においては、インターネットにつながる「IoT水位計」が登場しています。リアルタイムに河川の水位の情報を得ることができれば、川の氾濫リスクの高まりをタイムラグ無しに知ることができるようになるでしょう。

ひとつ活用例を挙げると、スマート信号を設置したセンサーで自動車や人間の動きを感知。そのデータをサーバに送り、信号の変わるタイミングを最適化する計算をしたあとで信号機に指示を戻す……というような使い方で、渋滞の解消につなげる活用方法が考えられます。

また、今後自動運転やスマートシティが実装段階に入っていくにつれ、街には「スマートポールやスマート信号」と呼ばれる設備が設置されていくと考えられています。これらは、街灯や信号機にAI搭載カメラ・5G基地局・公衆Wi-Fi・各種センサーを組み込んだもので、自動運転車と通信して運転支援をしたり、防犯を目的にカメラ画像を解析したりと、都市生活を効率化するために必要な設備です。


こうした世界中に設置されたデバイスからデータを取得することができるようになれば、災害時にもこれまで以上に被災状況の把握をリアルタイムに、そして網羅的に行うことができるようになるはずです。また、そうしたデータを解析し、今後の災害の発生を予測することができるようになれば、人命や財産の損失を劇的に減らすことができる可能性があります

ChatGPTを始めとするAIチャットボットが話題となり、「仕事を奪われるのでは」という懸念も上がっています。しかし、真に創造的な仕事は人間にしかできないことです。情報処理はAIに任せ、これまで活用されていなかったオルタナティブ・データをどうすれば社会のために活用できるか、考えを巡らせてみるのも楽しいかもしれません。

[プロフィール]

根来 諭
株式会社Spectee 取締役COO

1998年ソニー株式会社入社。法務・知的財産部門、エンタテインメント・ロボットビジネスでの経営管理を経て、福島県、パリ、シンガポール、ドバイでセールス&マーケティングを担当。中近東アフリカ75カ国におけるレコーディングメディア&エナジービジネスの事業責任者を最後に2019年、AI防災ベンチャー企業Specteeに参画。
郡山在住時の東日本大震災の被災経験、パリ在住時の同時多発テロ事件へのニアミス、政情不安定な国々でのビジネス経験をもとに、企業の危機管理をテクノロジーでアップデートすることに全力を注いでいる。防災士・企業危機管理士。 リスク対策.comにて「テクノロジーが変える防災・危機管理」連載中。