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東日本大震災の教訓から学ぶ!仙台市の挑戦と「防災テック」の進化

2024.03.04(最終更新日:2024.03.04)

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ICT関連企業と幅広い分野の民間企業等と協業し、「防災×IT」(BOSAI-TECH)の視点から、防災関連産業の創出を通じて、地域産業の活性化を目指す仙台市。東日本大震災を経験した仙台市では、「BOSAI-TECHイノベーション創出促進事業」を展開するなど、防災テックに対する関心が高まっています。今回は、過去の大震災時の教訓を生かした防災・減災を実現するテクノロジーについて紹介します。

3.11を経験して…仙台市が取り組む防災テクノロジー

2011年に東日本大震災の被害を受けた仙台市は、その経験を生かし、最新のテクノロジーを駆使した防災対策を提案しています。そのひとつが「BOSAI-TECHイノベーション創出促進事業」です。

「BOSAI-TECHイノベーション創出促進事業」とは、産業界・学校・官庁・金融機関の四者による連携(産学官金連携)を通じて、仙台や東北地域から新しい事業の創出や共同研究、実証実験、企業や研究機関の新規立地などを持続的に起こし、その結果を社会に実装する「BOSAI-TECHイノベーション・エコシステム」を形成することを目指しています。

オープンイノベーションを通じて、仙台防災枠組の理念に基づく製品やサービスの創出を支援。また、大手企業、地域企業、外国企業、研究機関など、「BOSAI-TECHイノベーション・エコシステム」に関心のある関係者が協力するプラットフォームを一体的に運営する事業です。

平成31年3月に策定した「仙台市経済成長戦略2023」は、ICT関連企業と広範な分野の民間企業との協業を創出。イノベーションを促進する一環として、「防災×IT」(BOSAI-TECH)やドローンの実証実験などを通じて防災関連産業を創出し、地域産業の活性化を目指しています。

この戦略の一環として位置付けられているのが、「仙台BOSAI-TECHイノベーションプラットフォーム」です。防災、テクノロジー、ビジネスの3つの領域で活動する企業、団体、人材などが加わり産学官金連携することで、多様な防災課題に対する新たな解決策や新事業を生み出す場を提供。このプラットフォームによって、参画企業の新たな防災事業の創出と成長を支援するだけでなく、これまで実現が難しかった防災課題に挑戦しています。

たとえば、あるプラットフォーム会員企業は、被災後の停電によりインターネットが利⽤できなくなった場合でも、衛星回線を使⽤して自治体情報共有が可能なシステムをソリューションとして発信しています。

[図表]災害に備えて繫げよう、街の重要拠点「NerveNetによる自治体情報通信基盤」【ナシュア・ソリューションズ株式会社】 出所:仙台BOSAI-TECHレポート(画像クリックでリンクします)

プラットフォーム会員の技術やプラットフォームから生まれた事業を、仙台をはじめとする地域から日本全国、そして世界に向けて展開を図ることで「仙台防災枠組」の理念実現を目指しています。

震災時の厳しい状況を体験し、防災の重要性を痛感したからこそ、同事業に貢献したい多くの市民や行政、企業が集まっています。

※仙台BOSAI-TECHのHPサイト(https://sendai-bosai-tech.jp/)

津波避難広報ドローンによる自動発進と警告

東日本大震災の発生時、仙台市では津波避難の広報中に市の職員と消防団員が犠牲になりました。その教訓から、津波避難広報における新たな手段として津波避難広報ドローンの整備をおこない、令和4年10月17日から本格運用を開始しています。

犠牲者をゼロにすることを目指し、従来の防災無線を活用しつつ、異なる手段を組み合わせて避難を誘導。住民だけでなく、サーファーや釣り人など、沿岸部を訪れている人にも速やかに避難してもらうことを想定しています。

津波避難広報ドローンは、津波警報発令時に全自動で離陸。そして、スピーカーとカメラを搭載した2機のドローンが全自動で飛行し、往復約7キロの北行きと、往復約8キロの南行きの2つのルートをそれぞれ飛行し、スピーカーから避難の呼びかけをするとともにサイレンを流します。

また搭載されたカメラにより、リアルタイム映像を市の災害本部に配信。任務完了後には自動で基地局に戻り、給電などの必要な作業をおこなうことができます。市によると、自動運航のドローンによる津波避難の呼びかけは世界初。津波避難広報ドローンがあることで、防災ヘリコプターによる避難広報や監視の負担軽減に繋がり、救助活動へ注力することができます。

過去の経験を活かして…進化する防災テック

仙台市だけでなく、過去の大規模災害の経験を活かし、さまざまな取り組みがおこなわれています。そのひとつが、高齢者の健康管理ができる防災テックです。

身体が不自由な高齢者は、災害時により多くの支援が必要となります。被災して仮設住宅に暮らす高齢者のなかには、歩行の補助が必要だったり、生活するうえでの補助が必要だったりと、さまざまな支援が必要です。それぞれの高齢者ごとに、医師が支援する範囲を判断し、指導をおこなう必要があっても、時間も人的リソースも限られています。

そこで、株式会社シーイー・フォックスの提供する「FoxSalus」では、通信技術を駆使し、高齢者の生活行動や健康状態、生活環境を可視化。可視化した情報をシーイー・フォックスのシステムで分析し、その結果を病院にいる医師や理学療法士、さらに栄養士や高齢者のライフサポーターなどに配信します。配信された人たちは、分析結果への見解や助言をおこない、分析結果と指導内容を地域の生活支援相談員などに配信することにより、問診を実施することが可能になります。

被災時だけでなく、被災後の健康支援も欠かすことはできません。同事業がさらに発展することで、被災地域における高齢者の健康支援が円滑におこなえるようになることが期待されます。

AIを活用した津波浸水予測と地震予測

東日本大震災以降、リアルタイムな津波浸水予測技術の開発が進展しています。津波の発生から沿岸部へ到着するわずかな時間のなかで、詳細な津波浸水の予測を実現することは、迅速で適切な避難判断をするために重要です。

東日本大震災などの経験を通じて、沿岸および沖合での津波観測が強化され、観測データを活用した高解像度でリアルタイムな津波浸水予測が実現しました。

リアルタイム津波浸水予測では、スパコンなどの大規模な計算資源が必要という課題があります。しかし新しく開発された津波浸水予測手法では、スパコンを活用して多くの津波シナリオを事前に想定し、それに基づく津波シミュレーションを実施しました。

模擬観測データと予測地点での津波浸水波形の関係をAIに学習させたことにより、大地震が発生すると、AIはリアルタイムで得られる実観測データを基に予測点の津波高や到着時刻を含む津波浸水波形を即座に予測することが可能に。学習済みのAIは通常のパソコンでも数秒で実行可能なので、大規模な計算資源が必要という課題をクリアしました。

一万通りの津波シナリオをもとに学習したAIは、東日本大震災の時に得た観測データを入力して予測を検証。仙台平野での評価点において、大きな津波が襲来する34分前に避難判断の助けとなる津波の浸水予測情報を提供できることがわかりました。津波シミュレーションによって生成されたさまざまな津波データを事前にAIに学習させることで、これまでに経験がない未知の津波にも対応し、適切な浸水予測が可能になったのです。

さらに、地震の予測もAIを活用した技術が進んでいます。地震予測は人工衛星を活用して地球の動きを絶え間なく観測し、地表の異常変動を検知することにより可能になりました。地球の地表は毎日、上下左右に1~2センチの変動がありますが、大地震の前には4センチ以上の異常な変動があることに注目。また低周波の電波や電離圏の乱れも大地震の前に確認されています。地震発生の切迫度が高い時に限り、具体的な時期と場所、規模を明記して警告をおこなう「ピンポイント予測」では、的中率が70%を超えています。

地震予測は、電子基準点のGPSデータを収集しデータを分析してきましたが、2020年からは電子基準点のデータにAIを導入。より膨大なデータ分析ができるようになりました。地震の予測研究は、減災のためにもさらなる進化が求められます。

仙台市の「BOSAI-TECH」をはじめ、さまざまなプラットフォームや防災テックが開発されています。地震大国日本で、防災・減災に取り組むのは宿命ともいえます。災害に備えつつ、新たな防災テックの登場に期待したいです。


吉田康介(フリーライター)