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ICチップ搭載エコバッグ「Loopach」。使い続けたくなる仕組み設計に迫る【やさしいテック学】

2023.09.27(最終更新日:2023.09.27)

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フィンテックやフェムテック、アグリテック、エドテック……日々進化し続けるテクノロジーと特定の領域をかけ合わせた「◯◯テック」。最近よく耳にするけれど、実際、どのような技術が使われていて、なぜ注目されているの?
【やさしいテック学】では、気になるテック業界の有識者へ現役大学生の世良マリカさんが、インタビュー! 目まぐるしく変化するテックについて、学んでいきます。
第5回は、最新型エコバッグ「Loopach(ルーパック)」が登場。「EGO BAGにならないようなECO BAG」をコンセプトに、アプリでアクションが可視化される仕組みのサービスです。長く使い続ける“真の”エコバックを実現する取り組みとして注⽬される Loopach。その⽣みの親・喜多泰之(きたやすゆき)さんに、誕⽣までの経緯や、詳しい仕組み、今後の展望についてお聞きしました。

テクノロジーの力で、 エコバッグの矛盾を変える

今回、世良さんが訪れたのは「Loopach」の取り扱い店舗である「NEUTRALWORKS. EBISU」。その⽣みの親・喜多泰之さんに、お話を聞いていきます。

世良マリカ(以下、世良):まずは簡単に、Loopachの仕組みを教えてください。

喜多泰之(以下、喜多):Loopachはアプリと連携したエコプロダクトで、2021年にローンチしました。使うほどにポイントが貯まり、そのポイントを社会に寄付できる新しい仕組みです。※特許出願済
エコバッグとアプリを繋げているのが、ネームタグに搭載された洗えるICチップ。まずはこれをスマホアプリに登録。そして、Loopach加盟店で商品を購入した際に「Loopachで」と言ってスマホで店頭のQRコードをスキャンすると、アプリ内にポイントが貯まる仕組みです。※バッグのICチップをタッチするだけのスキャン端末設置店舗もあり。

世良:まさにこれまでにないエコバッグですね! 開発のきっかけについても教えてください。

喜多:レジ袋有料化前の2018年頃からぼんやりと構想はしていました。というのも僕は両親がファッション業界で働いていて、僕自身も前職は大手のファッション企業勤務。服はずっと身近な存在でした。前職では、ファッション業界として社会課題に取り組むというプロジェクトのディレクターも経験しており、福祉、環境関連の方とご一緒することも多く、業界が抱える環境負荷について、ずっと課題を感じていたからです。

世良:具体的に、どのような課題を感じていたんですか?

喜多:ファッション業界の市場規模はどんどん縮小しているのに、供給量はとても多い。つまり、生産された服の約半数が廃棄されているという惨状です。そういった業界構造に対し、イノベーションを起こさないといけないという気持ちがLoopach開発のきっかけですね。

世良:なぜ、エコバッグというプロダクトに落とし込んだのでしょうか?

喜多:エコバッグは環境配慮の矛盾の象徴だからです。実は、オーガニックコットンのエコバッグ1個あたりを生産する総合的環境負荷は、レジ袋2400枚分という海外のデータもあるほど。エコバッグを利用したり、服をリサイクルすることは良いことですが、ただモノを大量に生産して「環境に配慮しました」では根本的な問題解決には繋がっていないんですよね。

例えば、Loopachローンチ前にはある企業様から「中国でエコバッグを何万個か制作している。数百円で売る予定なのだけど、SDGsの文脈で売れるストーリープロモ―ション企画を考えてほしい」というお話をいただくこともありました。SDGsを謳いながらも、現状の価値基準のままでモノを大量に売りたいというのは、矛盾が生じてくる訳ですよね。
エコバッグが抱える矛盾を仕組みごと変えていこう、というのがLoopachに込めた想いです。

世良:喜多さんの中にあった構想をテクノロジーの力で実現したのですね。

喜多:まさにその通りです。ファッション業界は、他の業界に比べてテクノロジー化に遅れをとっています。環境に対するアプローチもテックで解決できることはたくさんある。もっと皆でアイディアを出して、テックを使ってイノベーションを起こしていかなければいけないのです。

「真のエコ」の実現のためには、消費者の価値観を変えなければなりません。安さが価値となり、ファッションがもはや消費財となっている現状から、良いモノを長く使うという価値観を再度根付かせたいと思っています。Loopachは、一つのエコバッグに愛着を持って長く使う楽しみをテクノロジーの力で実現しています。

エコバッグ以外にも汎用性が利くLoopachのICチップ

世良:Loopachのオリジナルエコバッグの機能性やデザイン、素材にはどんなこだわりがありますか?

喜多:自然に還る「生分解性ポリエステル」を原料にしています。さらに、無染色にすることで化学染料も使っていません。結果的に白色にすることで誰もが使いやすいデザインになっているかと思います。ユーザー様の中には、汚れが目立ってしまったから藍染をしたという方もいました。

また、Loopachのウェブサイトに飛べるQRコードはプリントではなく、“織り”で表現されています。繊細な技術が必要なのですが、Loopachに賛同してくれた日本のネーム企業様に協力いただきました。

ただ、Loopachとはあくまでサービス全体のことを指しています。仕組みをわかりやすく伝えるためにエコバッグを作成しましたが、私たちはバッグを売りたいわけではありません。なので、ICチップを他のエコバッグに付けてもいいですし、マイボトルや量り売りの容器に貼れるようなシール型の防水ICチップも開発しました。最低限Loopachのロゴさえ入っていれば、今後、様々なブランド様にデザインを自由に変えていただいてもいいと考えています。とにかく皆を巻き込んで共に広められる仕組みにしています。

ポイント制度、キャラクター育成。使いたくなる価値をアプリで設計

世良:Loopachを長く使いたくなる仕組みについて、詳しく教えてください。

喜多:ポイント制度とキャラクター育成制度があります。まずはポイント制度から。ポイントは基本的には1回1円分として換算され、長く使うと還元率が高まるシステムになっています。

貯めたポイントは、社会皆でシェアしていくという考えの下、50%はユーザー様が選んだ環境NPO法人や子ども食堂などの寄付に、50%は弊社の運営に分配しています。

世良:消費を促すためにポイントを使うのではなく、社会の未来のためにポイントを使うというのは素敵ですね。ちなみに、ポイントの財源はどこから来ているのでしょうか?

喜多:加盟店様からいただいています。加盟店様にとっても、1人1円のサービス料ならば負担は大きくないはずです。要は、店舗が負担していたレジ袋などの備品代を社会のお財布に入れる感覚です。ファッション業界が起点となりつつもセクターを超えた社会全体で、ポジティブに次の世代を支援したいと思い、この仕組みを設計しました。

世良:自分が続けた行動が誰かのためになるというのは、ポイントを貯めるモチベーションにもなりそうです。

喜多:キャラクター育成制度も、使うことへのモチベーションにつながると思います。長く使うことで、アプリ内のキャラクターが育っていくシステムになっています。

世良:確かにアプリ内のキャラクターに愛着が湧いて、汚れたくらいで買い替えようとは思わないかもしれないです。

▲Loopachのアプリ内で育てられるキャラクター。喜多さんのキャラクターは『ペンソロ』

喜多:ちなみに、いま僕が育てているLoopachのキャラクターは「愛をもらえずに育って、社会の中での孤独や壁を感じている子」。他にも「廃棄衣料やゴミを燃やし続ける釜を背負って生まれてきた子」など、福祉や環境の文脈でのキャラクター設定がされています。Loopachを使い続けるとそういったキャラクターが進化し、壁を壊す姿も見れるんですよ。

世良:幸せにしてあげたい! って思う設定ですね。自分の行動でキャラクターの成長がみられるのは面白いです。

喜多:ありがとうございます。環境のことを考えるのは「意識高い」とまだ感じている方もいるかと思います。無関心になるのではなく、楽しみながら行動を続けてほしいという思いで開発しました。

世良:「長く使うこと」が価値に繋がるというのは、まるでヴィンテージ品の価値が上がる仕組みに似ているようにも感じます。

喜多:そうですね。デニムもヴィンテージ品ということに価値がついて、何百万もの値段がするものもありますよね。僕はここにヒントがあると思っています。ファッション業界の環境課題を解決するためには、リサイクルするだけではなく、長く使ったものを評価する方向にシフトする必要があると思います。

そのために、Loopachでは使用履歴をデータで残しています。行動データが価値になり、アプリ内のキャラクターが成長する。そういった新たな価値をファッションに付与することで、長く使うことが当たり前になってほしいですね。

Loopachを持つことが、個人のアイデンティティに

世良:現在の主なLoopachの加盟店も教えてください。

喜多:URBAN RESEARCH DOORSをはじめとしたアパレルショップや、大阪・北摂エリアの12店舗のローソンでの導入もスタートいただいています。アプリはGoogleマップと連携しているので、地図上で加盟店を調べることもできます。

加盟店様の導入費用も年間2500円とポケットマネーで出せる程度の費用です。例えば、個人の方でも近所の商店街とか、お住まいの地域プロジェクトとして導入いただけたら嬉しいですね。

世良:Loopachはどこで買えるのでしょうか?

喜多:例えばNEUTRALWORKS.や全国のURBAN RESEARCH DOORS などの店舗や、弊社のECサイトからも購入いただけます。現在の流通量は3000枚を超えています。加盟店自体はまだ少ないですが、Loopachを持っていることをアイデンティティの一つとして感じていただいています。

世良:ユーザーの方からはどんな反響が届いていますか?

喜多:ありがたいことに「やっと買えました」という嬉しい報告や、「ここで使えるようにしてほしい」という前向きな提案を多くいただき、勇気をもらっています。正直、まだまだ加盟店は少ない状況なので、ECで購入いただいた方には「Loopachがたくさん使えるまではまだ少しお時間がかかる可能性があります。皆さまも持ち歩くことで広めていただいたら光栄です」という旨をメールでお送りしています。「応援しているよ」と言っていただけることも多くて、ユーザー様のためにももっと広げていくのがこれからの課題だと思っています。

テクノロジーの力でファッション業界に革命を!

世良:Loopachは、環境意識が高い海外でも広まりやすいのではないかとも感じます。

喜多:その通りで、実は海外進出のお声掛けをいただくことはあります。でも、日本発でファッション業界を変えていきたいという思いが僕の中にはあるので、しばらくは日本を中心に広める予定です。また、LoopachはLoopach Foundationという非営利機能の財団と連携している為、より地域に寄り添った精度を大切にしています。

カッコつけることがファッションなはずなのに、今の日本のように中身が伴っていないのはダサいと思っています。本来、アイデンティティもファッションの一部なはずです。保守的な日本からLoopachを広め、消費者の意識を変えることで「日本もまだ捨てたもんじゃない」と発信したいですね。

世良:ファッション業界だからこその視点ですね!

喜多:企業のSDGsへの取り組みも、もっとオシャレにやればいいのにとは思います(笑)。プロダクト、サービス、街づくりのカッコいいアウトプットが、実は課題解決につながっていた、という風になればいいなと願っています。

世良:では最後に、ファッションとテクノロジーの組み合わせで、喜多さんが実現したいことも教えてください。

喜多:ファッションの歴史は革命の連続で、社会課題や時代背景から新しいモノが生まれています。例えばゴールドラッシュ時代にワークウェアとして誕生したジーンズが労働者階級から広まっていったというように。しかし、近年その革命が停滞してしまっているような気も。

今は環境負荷を改善していかなければいけない時代だからこそ、テクノロジーの力で課題解決することで、新しいファッション革命を起こしたいです。ですので、まずは国内でLoopachを広めることが、その革命の第一歩だと思っています。

〈Profile〉

[聞き手]
世良マリカ(せらまりか)

神奈川県出身。世界三大ミスコン「ミス・ワールド2019ジャパン」にて、史上最年少16歳、現役高校生で「ミス・ワールド2019日本代表」に選出。慶應義塾大学3年生。また環境問題や教育格差、貧困問題などSDGsに関心を持ち、現在BSテレ東『日経ニュース プラス9』 木曜日SDGsコーナーのレポーターを務める。

【Twitter】
https://twitter.com/seramali_jsmn

【Instagram】
https://www.instagram.com/seramali_jsmn/

[話し手]
喜多泰之(きたやすゆき)

株式会社MILKBOTTLE SHAKERS代表。大阪府出身。大学在学中に「アーバンリサーチ ドアーズ」のショップスタッフとしてアルバイト入社。2010年、同社に新卒で入社。店長職を経て、ブランドPRやバイヤー、イベント企画、家具の企画、CSRなどを兼任。2018年、フリーランスのブランディング・ディレクターとしての活動を開始。一般社団法人Green Down Projectのソーシャルデザインディレクターも務め、2019年にMILKBOTTLE SHAKERSを設立。現在は大手アパレル企業のアップサイクルプロジェクトや障がい者雇用の設計、コンサルティングやブランディング、商業施設のイベント企画やデザインのほか、 近年は他業種でも新しい仕組みづくりのクリエイティブを手がけている。

(取材・文:菱山恵巳子、写真:飯山福子、編集:高山諒)