添加物は一切入れない、100%食品廃棄物だけで作る新素材
今回、世良さんが訪れたのは、東京大学発のベンチャー企業のfabula株式会社。対談いただくのは、創業メンバーの一人で取締役CCO(Chief Communication Officer:最高コミュニケーション責任者)の⼤⽯琢⾺さんです。
世良マリカ(以下、世良):環境問題は普段からとても興味があるテーマなので、100%食品廃棄物から作る新素材にはとても興味がありました! 本日はよろしくお願いいたします!
⼤⽯琢⾺(以下、大石):こちらこそ、どうぞよろしくお願いいたします!
世良:さっそくですが、fabulaさんが開発された新素材について、解説いただけますか?
大石:弊社では食品廃棄物だけを使い、原料によっては、コンクリートの約4倍の強度にもなる素材を開発しました。現在、新素材はプレートや器として、主にECサイトで販売しています。
世良:近年、環境問題への関心の高まりから廃棄物のアップサイクルや脱プラスチック素材がトレンドですが、それらの素材と比べ、どういった点が“新しい”のでしょうか?
大石:大きな特徴は、“100%天然素材”という点です。例えば廃棄物を再利用した他の素材は、どうしてもプラスチックを混ぜることが前提となっています。廃棄物をより多く活用するためには、プラスチック配合量をいかにさげるかが課題であり、そういった研究開発も進んでいますが、他の素材を一切混ぜないのは僕たちならではの強みです。添加物を何も入れていないため、元の食材が持つ色や香りまで残り、楽しむことができます。
世良:そんなことが実現できるんですね! まさに夢の素材ですが、どうやって作るのでしょうか。
大石:大きく分けて3工程で完成します。乾燥・粉砕・熱圧縮形成です。食品廃棄物の中でも野菜などの形が残っているものは、乾燥と粉砕をして、形を崩します。一方、コーヒーかすなど、すでに粉状のものは、熱圧縮形成だけで作ることができるんです。
世良:意外にもかなりシンプルな工程! それでここまで硬い素材ができるんですね。原材料に向いている食材、逆に向いていない食材はあるのでしょうか?
大石:基本的に食材であれば、何からでも作ることができます。これまで約70~80種類ほどの原材料から新素材を作った実績があります。ただ、原材料によって多少強度が変わりますし、色味も変わってきます。どう使いたいのかによって原材料を変えていますね。
世良:どんなものからでも作ることができるのは、可能性が広がりますね。
大石:そうなんですよ。あと、原材料を選ぶ時には、ストーリー性も重視しています。例えば、コーヒーショップさんで使うのであれば、そのお店で出たコーヒーかすから作る、といったように。そのお店のゴミをそのお店で再利用する循環ができたら、素敵だなと思っています。
小学校からの幼馴染3人で、新素材を事業化
世良:fabulaさんには大石さんをはじめとして創業メンバーが3人いますが、どのようにして事業が立ち上がったのでしょうか?
大石:東京大学に在籍していた代表の町田が、コンクリートが抱える問題に取り組む研究室に所属して、新素材を発明したというのがきっかけです。例えばコンクリートは作る際には多くのCO2を排出しますし、使い終わったら瓦礫として処理が大変という問題があります。fabulaの新素材は、その諸問題解決の糸口だったんです。元々、代表の町⽥、取締役の松⽥、僕は小学校からの幼馴染で、新素材を発明した際に、見せてもらったことが創業のきっかけになりました。
世良:幼馴染の3人が集まって起業、というのはなんだかドラマチックですね!
大石:「子どもの頃からこの計画を練っていたのか?」と聞かれることが多いのですが、そんなことは全くなく(笑)。僕たちは高校も大学もバラバラ。定期的に開いていた飲み会で、町田から誘いの声がかかり、今に至るといった経緯です。
世良:大石さんと松田さんは、新素材のどんなところに興味を持たれたんですか?
大石:僕は大学で、⼈間の感性を活かした住環境の空間演出の研究を⾏っていたので、新素材の、色や香りまで活かせる点に興味を持ちました。この技術を使って五感で楽しめる空間づくりをしたいなと。
一方松田は、専門商社に就職し、コスタリカに駐在していました。現地で見たコーヒー豆を取り出したあとに廃棄される大量のコーヒーチェリー(コーヒーの実)をなんとかできないかという問題意識があったんです。なので、お互い新素材に可能性を感じたんですよね。
新素材は、色、香り、味まで楽しめる!
世良:こちらに持ってきていただいたのは、どんな原材料から作られたものなのでしょうか?
大石:色が特徴的なものを集めました。それぞれ白菜、パスタ、紅芋、ジャガイモ、お茶から作られています。
世良:思った以上に硬いですし、特に白菜は柄が特徴的ですね。
大石:粗めに粉砕することで、白菜っぽさをあえて残しているんです。また、こちらのパスタから作った素材はよく見ると麺が少し残っているんですよ。光を透過してくれるので、独特な色味になっています。
世良:食材が持つ特徴をデザインとして残せるのは、面白いです!
大石:もちろん、着色料なども使っていないので、優しい天然色が楽しめます。ちなみにジャガイモから作られたプレートもあるんですよ。
世良:本当だ! お芋の香りが残っています!
大石:手に取っていただいくと、やはり皆さん香りに驚かれます。今回のプレートは3~4ヶ月前に制作したものですが、しっかりと香りが残っていますよね? この香りが減ることもないんです。ちなみに、100%天然素材なので衛生管理などをすれば食べることも可能です。ジャガイモはマッシュドポテトのような味になっています。
世良:すごい! ものすごく硬いですが、口に含むと少しずつ溶けてきて、ジャガイモの味がします!
大石:複数の食材を混ぜて作ることもできるので、コンソメや塩を入れて味付けすることもできます。ちなみに僕たちが実際に食べておいしかったのは、あんパンでしたね(笑)。
世良:料理感覚で原材料を組み合わせたモノづくりは、なんだか新しいですね。
大石:あとは、バジルとトマトとパスタを混ぜてジェノベーゼ風のプレートを作ったこともありますし、コンビニのお弁当からだって作れますよ。
世良:食べても安心、という点では子ども向けのおもちゃなどとも相性が良さそうですね。
大石:子ども向け製品はまさに展開したいと思っている分野です。よく話題に上がるのは、日本地図パズル。青森なら林檎など、その土地の名産品を使ってパズルのピースを作れば、香りを楽しみながら勉強にもなりますよね。
世良:香りをフックに色んな展開ができそうですよね。でも、腐ったりはしないのでしょうか?
大石:有機物ではあるので、正直、長い年月が経てば腐ってしまうと思います。また、今のままでは水に入れると溶けてしまいます。だから食器としてというよりも小物を置くトレーとして使用いただくことを推奨していて、木材も腐らないようコーティングをするように、新素材のコーティングを検討しています。もちろん、コーティング剤も天然由来の成分でできるよう、現在研究中です。
地域の特産品を原材料に使えば、地域活性化にも
世良:新素材は、どんな形にも加工できるんですか?
大石:相当複雑な形でなければ、可能です。現在は金型作家さんに金属の型を作っていただき形成しているので、型さえ作ることができれば、または大きく作って削りだすこともできるので、好みの形に整えることもできますよ。
福井の漆器メーカー・漆琳堂さんが持っている金型を使わせていただいた例もあります。漆は天然素材で耐水という特性を知り、製品に漆を塗ることで天然素材の耐水処理をすることも検討しています。
世良:漆ならば食器としても使用できますよね。器やプレート以外に、これまで新素材でどんな製品を作られてきましたか?
大石:そうですね。特徴的なもので言うと、過去に組み立て式の椅子を作りました。座面にコーヒーかす、足に白菜を使用しました。
世良:組み立て式なら、好きな原材料でカスタムできる面白さがありますね。
大石:そうなんです! 例えば、ご当地の特産品を原材料に使えば、地域性のある製品作りができるので、お土産品などにも最適なんです。
世良:地域活性化にもつながりますね!
大石:まさに、そうなれば嬉しいなと感じます。なるべくその地域で出たものは、その地域で使おうと僕たちも考えていて。以前、徳島県のイベントで、徳島名産の“柚香(ゆこう)”という柑橘を使用してコースターを作り、提供したことがあります。なかなか県外に出回らない果物ですが、香りの良さを活かしつつ、多くの人に知ってもらうきっかけになったかと思います。
世良:なるほど。他にはどういった企業様からの依頼が多いのでしょうか?
大石:食品廃棄に困っている企業様はもちろん、サステナブル事業を立ち上げた企業様からお声がけいただくこと多いですね。
例えば、食品メーカーの株式会社 明治様からは、カカオハスクと呼ばれるチョコを作る際に不要となるカカオ豆の表皮を再利用できないかというお声がけいただきました。漆琳堂様を含めた3社でクラウドファンディングを行い、約1ヶ月で目標達成率151%と多くの方にご支援いただきました。
世良:本当にどんな食材からも作ることができるんですね。
大石:原理としてはできるのですが、対応できる機械が不足しているという問題もあります。というのも、原材料によって乾燥・粉末をするための条件が異なるので、ある原材料では使えた乾燥機が、他の原材料では使えないなどの事態があり得るんです。今後、あらゆる原材料にどのように対応していくかは事業展開の面で課題ではありますね。
目指すは新素材で家づくり。コンクリートやプラスチックに並ぶ素材へ
世良:新素材は、どれくらいのサイズまで作ることができるのですか?
大石:それなりの設備が必要なのですが、今のところ30cm×60cmが最大です。今後はもっと大きなものも作っていきたいと思っています。
世良:なるほど。椅子が作れるのなら、設備さえ整えば家もきっと現実的ですよね。
大石:可能性としてはあり得ますし、まさに家づくりは僕たちの目標でもあるんです。家づくりは法律的にもさまざまな基準をクリアする必要があるので、まだまだハードルが高い現状があるのですが、ゆくゆくはコンクリートやプラスチックに並ぶ素材の一つにしたいと思っていますね。
世良:新素材が一般的になれば、環境問題の解決に大きく貢献できますよね。
大石:しかも、新素材はもし壊れたとしてももう一度粉末にすれば、またさまざまな形に再利用できます。つまり、何度壊れても半永久的に使えるんです。そして、本当にいらなくなったとしても100%天然由来なので、土に還せます。
世良:一つの無駄もなくて、素晴らしいと思います。
大石:今後は、生産の設備を増やし、量産体制を整えたいですね。そのためには現在3人だけの会社も人数を増やして大きくしていかなければと思っています。
世良:端材を使ったモノづくりは数あれど、100%天然素材は、今回初めて出会いました。しかも原材料の色や香りまで残るのは、ただゴミを減らすだけでなく、楽しみ方が広がりそう。ビジネス的にも多角的に展開できそうで、今後がとても楽しみです!
〈Profile〉
[聞き手]
世良マリカ(せらまりか)
神奈川県出身。世界三大ミスコン「ミス・ワールド2019ジャパン」にて、史上最年少16歳、現役高校生で「ミス・ワールド2019日本代表」に選出。慶應義塾大学3年生。また環境問題や教育格差、貧困問題などSDGsに関心を持ち、現在BSテレ東『日経ニュース プラス9』 木曜日SDGsコーナーのレポーターを務める。
【Twitter】
https://twitter.com/seramali_jsmn
【Instagram】
https://www.instagram.com/seramali_jsmn/
〈Profile〉
⼤⽯琢⾺(おおいしたくま) fabula株式会社 取締役CCO
⼤学院時代に、⼈間の感性を活かした住環境の空間演出の研究を⾏う。 この技術を認知してもらい、⾊や⾹りを活かした空間づくりを夢⾒ている。2021年10⽉1⽇、代表取締役CEO町⽥紘太と取締役CFO松⽥⼤希とfabula株式会社を設立。3人は小・中学校の同級生でもある。
(文:高山諒、写真:飯山福子、編集:金澤李花子)