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VAR(ビデオアシスタントレフェリー)とは?テクノロジーでスポーツの見方が変わる!

この記事は1年以上前に書かれたものです。現在は状況が異なる可能性がありますのでご注意ください。

2023.04.05(最終更新日:2023.04.05)

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映像判定によって主審や副審のジャッジをサポートするVARは、2016年に初めてサッカー界で正式採用されてから、国際大会や多くの国内リーグで導入が広がっています。本記事では、VARが注目される背景や具体的な仕組みについて詳しく解説していきます。

VARとはどんな技術か

VARとは、Video Assistant Referee(ビデオアシスタントレフェリー)の略称であり、サッカーにおいてプレー映像を見ながら主審や副審をサポートする審判員のことを指します。また、それに伴う技術やシステムのことをVARと呼びます。

「最小限の干渉で最大の利益を得る」ことを基本として、ピッチ上の審判の判定に疑惑がある場合に、「その判定が本当に間違いかどうか」を確認する目的で使用されます。

VARはあくまでも「サッカーにおける映像判定の審判員」または「映像判定のための技術・システム」を指すため、サッカー以外の映像判定においては「VAR」という表現は使用しません。

サッカー界のVAR導入の歴史

サッカー界へ初めてVARによる映像判定が導入されたのは2016年ですが、プロスポーツ業界においては比較的後発の導入となります。サッカーにおけるVARのほかに映像判定が導入されているプロスポーツとしては、テニス(2006年~)、プロ野球(2010年~)などがあります。

サッカー界では、2016年に初めてアメリカの下部リーグでVARが試験導入されました。その後、国際大会においては、同年9月のイタリア代表VSフランス代表の一戦で初採用されています。

2018年のロシア大会以降は、ホークアイ・イノベーションズが提供する「光学カメラ/映像解析技術」が導入され、VARの制度はさらに向上し続けています。2022年11~12月にかけて開催されたカタールW杯でもVARが数々の正確な判定を手助けしており、世間的にも注目度が高まっています。

3D化で活用の幅が広がる

サッカー界へのVAR導入は判定の正確性を強化することが目的でしたが、近年では映像の3D化によって、ますます応用的な活用が進んでいます。ここでは、VARの3D化が判定とリプレイにもたらす影響について解説します。

判定

VARは単に選手やボールの現在地を追跡するだけでなく、取得した位置情報を3Dで可視化する
ことによって、より正確な判定を実現できるように進化しています。

新しいVAR 従来のVAR
ライン判定 ・選手やボールを3Dモデルで立体的に描画する
・選手の頭や肩を地面に投影してインプレーとアウトオブプレーを判定する
・ピッチとボールが設置する面に2Dのラインを描画する
・2Dラインが選手やボールがラインを超えているかどうかによってインプレーとアウトオブプレーを判定する
判定制度 高い 低い

従来のVARによる映像判定は、2Dラインによる判定が中心でした。しかし、2Dラインによる判定では、ピッチの設置面のみにラインを描画してインプレーとアウトオブプレーの判定を行うため、3Dに比べると判定精度が高くありません。

選手の上半身を含めて3Dで可視化できる「3Dラインテクノロジー」なら、このような判定精度の低さを解消できます。国際大会においては既に3Dラインテクノロジーによる判定が主流ですが、Jリーグにおいても、2023年シーズンからJ1で同技術が採用される予定です。

リプレイ

VARに使われている3D再現技術は、判定だけでなく、試合のリプレイにも活用されています。VARは選手やボールの位置情報をもとに3Dで可視化できるため、直前の選手やボールの挙動を再現し、試合中継の際にリプレイ映像として放送されるなどの使われ方も広がってきています。

試合の中継映像を振り返るだけでは、カメラが記録している方向からの定点映像しか確認できません。しかし、3Dで再現することにより、360度さまざまな方向から選手やボールの挙動を振り返り、解説することが可能になります。

正確な判定を可能にした2つの技術

VARの正確な判定を可能にしているのは、キネクソンが開発した「トラッキングシステム」とホークアイ・イノベーションズが開発した「ホークアイ」の2つの技術です。ここでは、それぞれの技術がどのようにVARに貢献しているのかを解説します。

トラッキングシステム(ボールにチップを埋め込み正確な位置を測定)

キネクソン(KINEXON)のトラッキングシステムは、ボールに専用のチップを埋め込み、正確な位置を測定する技術です。同技術はサッカー界だけでなく、バスケ・バレー・ハンドボールなど、さまざまなスポーツに使用されています。

キネクソンのトラッキングシステムでは、位置測位システムの「LPS」によってボールの正確な現在地を測定し、慣性センサーの「IMU」が3つの軸から回転運動や加速度を計測して、ボールの細かい動きを追跡します。

また、ボールの現在地と動きは、高速通信技術を用いたデータ通信技術の「UWB」によって、リアルタイムで可視化されます。

ホークアイ(リアルタイムで映像を分析するシステム)

ホークアイは、会場に設置されたカメラの映像情報からボールの現在位置を認識し、CGによってリアルタイムで可視化できる技術です。ボールの軌道やラインとの位置関係をわずか数秒で可視化できるので、インプレーとアウトオブプレーを正確に判定できます。

前述のように、サッカーだけでなく、テニスの映像判定にも長年使われているシステムです。

W杯で導入されたオフサイドを判定する新技術

2022年のカタールW杯では、オフサイドを判定するVARの新技術が導入されました。ここでは、半自動オフサイド判定の仕組みと、最新のトラッキング技術について解説します。

半自動オフサイド判定の仕組み

半自動オフサイド判定には、「スケルトラック」という最新のトラッキング技術と、映像化技術の「ホークビジョン」が用いられています。

スケルトラックは、会場に設置された12台のトラッキング専用カメラから得られた映像をAIが分析し、骨格や関節の位置から選手の現在地を詳細に算出するトラッキング技術です。このスケルトラックに、位置情報データをもとにした選手の位置関係を3Dで可視化できるホークビジョンを組み合わせることで、半自動オフサイド判定が可能になります。

最新のトラッキング技術

前述のスケルトラック技術では、29カ所もの関節ポイントから選手の肩・足首・膝などの位置を計測しています。ボールや選手の動きを正確に追跡するトラッキング技術が発展しただけでなく、AIによるリアルタイム性の高い画像処理が可能になったことも、半自動オフサイド判定の実現に貢献しています。

半自動オフサイド判定を活用することで、目視では判定が難しいライン際のプレーでも正確に映像化できます。実際に、2022年のサッカーW杯では、日本代表VSスペイン代表の一戦において、VARによるライン際のオフサイド判定が世界的に話題になりました(出典1)。

VARのメリット

VARの導入には、誤審や選手同士の争いを削減するだけでなく、死角になる部分や審判の目が行き届かない部分も正確にチェックできるというメリットがあります。ここでは、VARがもたらす3つのメリットについて解説します。

誤審を減らすことができる

たとえ試合後に誤審が発覚しても判定が覆ることはないため、試合中の正確な判断は重要です。これまでのVARがない試合においては、反則かどうかの判定は審判の目視によるものが全てでした。そのため、周囲が誤審であると主張しても映像による判定は行われず、誤審が後から問題になるケースも発生していました。

しかしVARを導入すれば、審判の判定に疑問が生じた際に、映像による客観的なチェックが可能になります。これによって誤審を減らし、選手が納得の上で試合を続けることができます。

死角や審判の目が行き届かない部分を正確にチェックできる

VARを導入することで、死角や審判の目が行き届かない部分も正確なチェックが可能になるため、ファールが見過ごされにくくなります。

広いピッチにおいては、主審と副審の全員が確認できる範囲を合わせても、わずかな死角が生まれる可能性があります。死角で行われたプレーは正確な判定が行われず、選手がファールをしてもカードを出すことができません。VARは、このような死角による試合進行の不備を解消できます。

選手同士の争いや警告・退場の減少

誤審かどうかを判断する上で、客観的な事実を判定するための材料がないと、お互いの主張が平行線になるために選手同士の争いが起こりやすくなります。VARの導入により、映像を用いて実際に行われたプレーを検証できるため、争いを減らすことが期待できます。

また選手同士の争いが減少すれば、「試合の進行を妨害した」「審判の判定に強く抗議した」などの理由による警告・退場の減少にもつながります。

VARのデメリット

前述のように、VARは正確な判定をもたらしてくれる点がメリットです。一方、映像を確認するために中断時間が長くなったり、アディショナルタイムが増えたりといったデメリットもあります。また導入コストがかかることも、懸念点の一つと考えられます。

プレーの中断時間が長い

VARを用いて試合中の映像を確認する作業は、プレーを一度中断した状態で行われます。そのため、選手にとっては「試合の流れが止まってしまう」と感じられることもあるでしょう。

また、観客にとっても待ち時間が長くなったり、一度はゴールと判定された得点が覆って盛り下がったりといった点がマイナス要素になるかもしれません。

VARで映像を確認している時間は、前半と後半が終わった後、それぞれアディショナルタイムに加算されます。そのため、国内外問わず、多くの試合でVARの導入前よりもアディショナルタイムが増えるというデメリットもあります。

実際に2022年に開催されたカタールW杯でも、アディショナルタイムの長さが指摘されています。試合によっては10分以上ものアディショナルタイムが宣告された例もあり、中には前半と後半合わせて24分になった試合もあります(出典2)。

コストがかかる

VARは正確な判定をサポートしてくれる頼もしい技術ですが、導入コストがかかる点はデメリットの一つです。海外の例を挙げれば、イタリアのプロサッカーリーグ「セリエA」は、2018年シーズンからVARを導入していますが、その導入コストはリーグ全体で2億5,000万円にもなると試算されています(出典3)。
一つの会場に8台のカメラを設置する必要があり、予算が限られている小さなリーグでは導入が難しいのが実情です。日本においては、2022年シーズン時点ではJ1リーグと一部のカップ戦のみにVARが導入されています(出典4)

VARの介入のルールや流れ

VARが判定に介入する際のルールと流れは、次の通りです。

1.VARによる判定が適用されるプレーが発生する
2.VARが主審とコミュニケーションを取り、映像判定中であることを伝える
3.主審の判定と食い違いがない場合、チェックが完了したことを伝えて試合を続行する
4.詳細なレビューが必要な場合や、明らかな誤審がある場合は、VARが主審にレビューを提案する
5.オンフィールドレビューまたはVARオンリーレビューを実施する
6.主審が最終的な判定を宣告する

基本的に、ピッチ上のプレーに対する最初の判定は主審が行います。その後、映像チェックが必要と判断されたプレーがあれば、VAR側が該当部分の映像を確認していることを主審に伝え、いったん試合をストップさせます。

映像の確認が終了すると、VARは主審に対して結果を報告します。チェックの結果が主審の判定と同じであれば、そのまま試合が再開されますが、映像を確認した結果、より詳細なレビューが必要だと判断されれば、オンフィールドレビューとVARオンリーレビューのどちらかが実施されます。

オンフィールドレビューは、VARが主審に対して判定の再確認を通知した後、主審自身が該当部分の映像を確認し、自分の判定が正しいかどうかを判断する方法です。一方のVARオンリーレビューは、VARによる映像判定のみで最終的な判定を下します。

企業のVARの取り組み

VARの正確な判定は、企業が持つ高度なVAR技術によって成り立っています。海外だけでなく、日本企業でもVARの取り組みが行われています。ここでは、日本と海外それぞれの企業の取り組み事例をご紹介します。

日本の企業の取り組み事例

本記事でもご紹介してきた映像可視化技術のホークアイは、日本のソニーグループ傘下にあたる「ホークアイ・イノベーションズ」が持つ技術です。元々、同社はイギリスのIT企業でしたが、2011年にソニーが買収したことで、ソニー傘下に入ることとなりました。

ホークアイは2001年に開発された技術で、2006年にテニス界へ導入されたことで注目されるようになり、2016年にはVARの一部としてサッカー界へ導入されることとなりました。近年では、ホークアイを活用した判定以外の新たなサービス提供にも取り組んでいます。

例えば、一部のテニスの国際大会において、主審だけでなく、線審の判定にも同社の技術が採用されています。リアルタイムラインジャッジサービスである「Hawk-Eye Live(ホークアイライブ)」は、さらなる試合時間の短縮や審判の負担軽減に寄与しています
(出典5)

海外での企業の取り組み事例

海外におけるVARの最新ニュースからは、スペインの放映会社である「メディアプロ」が南米のサッカー大会でVARを提供する契約を締結した話題についてご紹介します。

同社は既にスペイン以外の複数の国内リーグでVARを提供していますが、今回の契約により、2026年までコパ・リベルタドーレスとコパ・スダメリカーナの新たな2つのリーグへVARを提供することとなります。

VARの歴史はまだ浅く、導入されているのは主要な国際大会や各国の上位リーグにとどまっているものの、企業が多くのリーグへサービス提供することにより、少しずつ普及が進んでいます(出典6)

今後ますますVARは注目されていく

テクノロジーの進化によって、VARの精度は今後さらに向上していくでしょう。プレーの判定以外にもさまざまな場面で活用が広がっているVARは、スポーツの分野にとどまらず、新たな用途が見いだされる可能性もあります。将来的にますます注目を集めると考えられるVARの新たな展開が期待されます。