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運動が好きになるきっかけを。AI分析でスポーツの適性を教えてくれる「DigSports」

2024.01.04(最終更新日:2024.01.05)

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スポーツの分野に最新のAIやデータ分析、ロボット工学などの技術を取り入れ、スポーツの在り方を発展させる「スポーツテック」。トレーニングの最適化や競技の正確な判定、観戦環境の向上など、さまざまな領域で役立てられている。

そんなスポーツテックに着目し、ライフスタイルの変化による子どもの運動能力や働く世代の基礎体力の低下といった社会課題にアプローチしているのが、「DigSports(ディグスポーツ)」だ。株式会社電通総研が開発したシステムで、センサーやAIを活用して運動能力を測定し、一人ひとりの長所に応じて、どのスポーツが自分に向いているのかを提案してくれる。

運動に苦手意識を持つ子どもや、運動が疎遠になった働く世代にも、もっとスポーツに親しんでもらいたいという思いで生まれた「DigSports」は、現在さまざまな場面で活用され始めている。

そこで今回は、「DigSports」のプロダクトマネージャーを務める飯田倫崇さんに、開発の裏側や目指す未来について伺った。

姿勢推定技術を応用した、自分の得意に出会える体力測定

▲「DigSports」プロダクトマネージャー、飯田倫崇さん

──まずは「DigSports」について教えてください。このサービスでは具体的にどのようなことができるのでしょうか?

「DigSports」は、文部科学省の新体力テストに採用されている「反復横跳び」「垂直跳び」「50メートル走」「ボール投げ」「持久走」の5つを自動測定し、その結果をもとに適性の考察や、74種目のスポーツからどれが自分に向いているのかを提案してくれるシステムです。

5m×5mのスペースで大型モニターの前に立つと自動で測定が始まり、キャラクターの案内に沿ってそれぞれの項目を進めていきます。測定といっても緊張感のある雰囲気ではなく、ゲーム感覚で楽しみながら取り組めるので、子どもから大人まで幅広い方々に使っていただけます。測定結果はクラウドに蓄積されるので、過去の結果と比較することも可能なんですよ。

──学生時代の体力テスト、懐かしいです。モニターの前に立ってその場で跳んだり走ったりするだけで測定できるというのが驚きですが、どういった技術が使われているんでしょうか?

姿勢推定技術という、文字通り人の身体のポーズや動きを推定するAIを使っています。モニターの前に立つと、Webカメラに映った手首や膝、肩などの骨格が認識され、それぞれの点が繋がって棒人間のようなものが、自分と重なった状態で映し出されます。

▲DigSportsを試す様子。すぐに骨格が認識され、ジェスチャーで操作できる

たとえば「垂直跳び」をした場合、事前に登録した身長をもとに、そのセンシングした関節がジャンプした前後で上下左右にどのくらい動いたかで、測定するイメージですね。

──なるほど。人の動きをセンシングするというと、専用のスーツを着用するイメージがありましたが、今ではもう必要ないんですね。

たしかに以前はハリウッド映画などのメイキング映像でも、モーションキャプチャーのスーツを着用して、人間の動きをセンシングする様子が映ったりしていましたよね。ですが2018年頃に、カーネギーメロン大学が単一のカメラで映像中の人物の動きをリアルタイムで推定する「OpenPose(オープンポーズ)」を発表して以来、どんどん技術が進歩し、特殊センサーを使わずにWebカメラの画像のみで解析することが可能になってきたんです。

そうした技術がある程度コモディティ化されてきたタイミングで、Webカメラで人の動きを推定する技術を用いて「DigSports」をリニューアルしました。

▲特別な装置は不要で、市販のWEBカメラさえあればブラウザで「DigSports」が楽しめる

──体力テストの結果をもとに、向いているスポーツを提案してくれるというのは、どんな仕組みなんでしょうか?

適性の部分に関しては、「DigSports」の監修をしていただいている元全日本フリースタイルスキーチームフィジカルコーチで、アスリート指導の専門家の遠山健太先生が考案された、「スポーツ適性診断」のノウハウをベースに構築しています。

適性の考察と計測したデータから、AIが独自のアルゴリズムを用いて、74種類の競技の中から最も適した種目を3つ抽出し、提案するような仕組みですね。種目のなかには、サッカーや野球のような身近なスポーツだけでなく、オリンピック種目も含まれています。

▲「モーグル」「スカッシュ」など向いているスポースをサジェストしてくれる

──今まで知らなかった新しいスポーツに興味を持つきっかけにもなりそうですよね。実際には、どのような場所で活用されているんですか?

主には、自治体さまの運動習慣を推進する取り組みやイベントなどに取り入れていただいています。たとえば、県の取り組みとして「DigSports」を採択いただいたある自治体では、定期的に住民の皆様向けの体験会を開催していただいております。スポーツ庁による調査結果にもありますが、スポーツ実施率などへの課題感があり、運動習慣を推進していきたいという自治体さまは多いので、そこに対する一つのソリューションとして「DigSports」を役立てていただいているような状況ですね。

運動を好きになってほしい。新バージョンではより楽しく、より手軽に

▲垂直跳びの様子。久しぶりに行う身体測定では明らかに体の衰えを感じた

──そもそも、株式会社電通総研が、こうした「DigSports」のようなヘルステックの取り組みを始めた経緯は何だったのでしょうか?

私たち電通総研は、企業向けにコンサルティングサービスの提供やシステムの導入をするのがメインのビジネスですが、先端テクノロジーで社会課題解決に取り組む研究開発組織も持っています。スポーツはその組織の中で取り組んでいたテーマの一つでした。スポーツ庁や各自治体によるスポーツ基本計画が進められている一方、小中学生の体力は全国的に低下傾向で、スポーツに苦手意識を持つ子も増えていますし、成人のスポーツ実施率も目標値には到底届いていません。そんな現状を受け、もっと運動を好きになるきっかけを作りたいという思いで開発されたのが「DigSports」です。

──飯田さんご自身も、もともとスポーツへの事業に関心があったんですか?

そうですね。私自身も水泳をやっていますし、スポーツテックやヘルステックは個人的に追いかけていた分野でした。ただ実は、私が「DigSports」のプロジェクトに参加したのは、新バージョンへのリニューアルの時からなんです。

「DigSports」ではもともと、深度センサー付きカメラなどの専用機材を使用していて、イベントで運用するには技術者が必要でした。しかし、その専用機材の終売が決定。プロジェクトを続けていくならこれまでの運用課題を含めて解決し、より手軽に使えるようにリニューアルする必要があったんです。

そこで、スポーツや健康領域にもともと関心があり、先ほどお話した姿勢推定技術のビジネス応用をずっと検討していた私に声が掛かって、新バージョンのリリースに至りました。今では専門の技術者がいなくても、PCなど一般的な機材さえあれば簡単に「DigSports」を利用できます。

──専用機材が使えなくなるという物理的な壁を乗り越えるだけでなく、よりパワーアップしたんですね。新バージョンへのリニューアルにあたって、特に困難だったことを教えてください。

旧バージョンの時点で、「DigSports」を体験いただいた方々にはすでに好評をいただいていたので、今自分がやろうとしているのは改善ではなく改悪になっていないかと、迷う瞬間はありました。そのたびにリニューアルの目的に立ち返って、Webカメラのみでブラウザで動かせるという手軽さは重視しながら進めていきました。その結果、イベントの運営の方々や、取引先の方々から「新バージョンはすごく簡単になりましたね」というお声をいただいて、ホッとしています。

またオペレーターが不要になり、自分の身体を使って操作するようになったことで、むしろゲーム感が増し、測定をする前に自分の身体がカメラに認識されていることを身をもって理解できるので、良い改善だったなと思います。

──たしかに、自然と自分の身体に意識が向きますよね。実際に「DigSports」を体験された方々の反応はいかがですか?

やはり子どもたちは、モニターに映るだけで楽しそうにしていますね。骨格のセンシングを見て、「なんかあの子、骨ついてる!」って(笑)。新バージョンのリリース時にもイベントを開催しましたが、子どもたちの様子を見ていて、身体を動かすのって楽しいんだということを実感してもらえたのかなと思います。

測定結果や向いているスポーツが書かれたレポートは印刷して持って帰ることができるので、親御さんと「こういうの得意なんだね」とか「今度一緒にやってみようか」といった会話のきっかけにもなったらいいなと。

以前、働き盛りの世代を対象に体験会を開催した際は、仕事を終えた約100名の方々が立ち寄ってくださいました。運動不足で身体の衰えを感じたという方や、未知のスポーツを提案されて興味が湧いた方など、運動から疎遠になっている大人の方々にとっても、自分の身体や運動と向き合うきっかけになれたのは嬉しいですね。

▲子供たちがイベントで「DigSports」を楽しむ様子

きっかけのその先へ。より良い人生を見据えた、運動習慣づくりのサポートを

──飯田さんとしては、幅広い世代に運動習慣が根付くことによる社会的影響という面でいうと、どんなことを期待されますか?

わかりやすい社会的影響で言うと医療費削減でしょうか。20~30代の働く世代のうちに、適度な運動習慣と基礎体力があれば、高齢になってからも健康でいられる時間が長くなりますし、逆に何もしなければ衰えは加速していきます。そう考えると、できるだけ早いうちから土台をつくっておくことはすごく大事だと思います。

ただ、子どもの頃に体育が嫌いだったから、大人になってからも運動とは疎遠になってしまうというケースも多いと思うので、すでに大人の方も含めて運動を好きになれるきっかけがどこかのタイミングで必要なのかなと。

──たしかに「運動=つらい」という認識が根付いてしまっていると、ひたすら運動を避け続けて、身体の衰えも認識できていないという方もいるかもしれません。

そういう方にこそ、「DigSports」を体験してみてほしいですね。私自身も反復横跳びをやってみたら後半がかなりつらくて、「若い時はもっとできたのにな……」と、そこでしっかりと衰えを感じました(笑)。自分の身体の大切さに気づいて、より良い人生のために行動する方が増えていってほしいなと思います。

──それでは最後に、「DigSports」の今後の展望を教えてください。

もう少し大きな“面”でスポーツや健康増進に関わる支援をしていきたいですね。「DigSports」は、体験を通してスポーツの面白さを感じたり、定期的に運動をしていきたいと思ったりするきっかけづくりはできているので、今後はその先を検討しています。たとえば、向いているスポーツの提案を見て実際にやってみたいと思ってくれた方がいても、今の私たちにはそれに応えられるものがありません。だから今後はきっかけで終わらせず、実際に皆さんの運動習慣に繋げられるような動きをいろいろな企業さんと組んで広げていけたら、もっといいなと思っています。

[プロフィール]
飯田倫崇(いいだ みちたか)
株式会社電通総研
修士:心理学
AI・IoT・xR等の先端技術を活用した新規事業開発に取り組んでいる。
最近の注力領域の1つとしてスポーツテックやデジタルヘルスを担当。


(取材・文:むらやまあき 写真:飯山福子 編集:高山諒)