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時代は「身につける」から「体に埋め込む」へ 「インプランタブルデバイス」にみる最先端医療

2024.07.11(最終更新日:2024.07.11)

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Apple Watchに代表される「ウェアラブルデバイス」。身につけるだけで日常生活を便利でアクティブにしてくれるだけでなく、心拍数が測定できたり、心電図をチェックできたりと、健康管理をより簡単で身近なものにしてくれます。さらに昨今、その先をいくものとして注目されているのが、体内に埋め込む「インプランタブルデバイス」です。「身につける」から「体に埋め込む」へ。そこには、どのような未来が待っているのでしょうか。

ウェアラブルデバイスの現在地

手首や腕、頭などに装着して使用する小型・軽量のコンピューター、「ウェアラブルデバイス」。最も一般的なのはApple Watchをはじめとするスマートウオッチでしょう。スマートウッチは、スマートフォンなどと連携することで通話やメール・SNSの送受信、ゲーム、電子マネー決済などに加え、フィットネストラッキングや心拍数のモニタリングなどもできます。「ウェアラブルデバイス」には、ほかにもスマートグラスやリストバンド型、指輪型、眼鏡型、洋服型など、さまざまな種類があり、用途によって使い分けられていますが、その最大の特徴は身につけられることにあります。

スマートフォンなどの小型デバイスは手に持って操作する必要がありますが、ウェアラブルデバイスは手が塞がっていても使えることから、スポーツや仕事中でも使用することが可能です。身につけることのもう一つの大きなメリットが、生体情報を継続的に取得できることです。普段の生活中はもちろん、運動中から入浴中、睡眠中などのあらゆる場面で心拍数や歩行数、睡眠時間などの活動データを取得。それらの情報を健康管理アプリやフィットネスアプリと連携してデータを管理することで、利用者は生活習慣の問題点や改善点を把握しやすくなります。

さらに、Apple Watchには心電図の機能が搭載されており、不整脈の一種である心房細動の兆候を見つけることが可能です。また、医療の現場では光学センサーを用いたバイタルデータの計測や、生体電位センサーによる心電図の取得、脳波の計測などにも活用されています。

時代は体内に入れる「デジタルメディスン」へ

体に身につけて使用するのではなく、人体に埋め込んで使用するのが「インプランタブルデバイス」です。心臓病患者の心拍数を適切に保つ心臓ペースメーカーや、不整脈が起こった時に自動的に微弱な電流を流して心拍を整える埋め込み型除細動器など、医療の分野では以前より実用化されています。

しかし、近年の進化は私たちの想像の範疇を超えています。その一つが、デジタルデバイスが組み込まれた医薬品である「デジタルメディスン」です。薬を服用した時の体の活動量や時刻などの情報が、体内に入った薬に内蔵されたセンサーからスマートフォンなどに転送されることから、服薬状況の管理や医薬品の効果の把握に役立つとされています。

2017年には、世界初のデジタルメディスン「エビリファイマイサイト」が、米国FDA(米国食品医薬品局)に承認されています。エビリファイマイサイトでは、大塚製薬の抗精神病薬である「エビリファイ」の錠剤に、米国ロテウス・デジタル・ヘルス社が開発した極小センサーが組み込まれています。組み込まれたセンサーは胃液に触れると信号を出し、患者の身体に貼り付けた「マイサイトパッチ」と呼ばれる検出器がその信号を受け取り、服用した日時や錠数を記録。センサーは体内で消化や吸収されることなく、体外に排出されます。薬の飲み忘れの防止ができるほか、記録された服薬状況はスマートフォンなどを通じて主治医などとの共有が可能です。

念じるだけで機械を操作できる「BMI」

さらに、インプランタブルデバイスではBMI(ブレーン・マシン・インターフェイス)の研究が盛んです。

BMIとは、センサーで読み取った脳波などからコンピューターを操作したり、逆にコンピューターから神経に信号を送ったりすることで、人間に視覚や味覚などを与える技術です。すでに、人の機能を補うものとして実用化されているものもあります。マイクが拾った音を電気信号に変換して脳に届けることで音が聞こえるようにする人工内耳や、カメラによってとらえた光を電気信号に変換し脳に送ることで目の役目を果たす人工網膜などです。これらは、機械から脳へ信号を送る入力型と呼ばれるBMIですが、より興味深いのが、脳から機械に情報を送るタイプのBMIで、脳の信号を読み取ることで考えた通りにデバイスが操作できるというものです。

難病で体を動かすことができなくなってしまうALS(筋萎縮性側索硬化症)などの神経疾患や脳卒中などの後遺症、頚髄や脊椎損傷などで麻痺がある患者は、脳は働いているものの脳からの信号が伝わらなくなり、思いどおりに体が動かせなくなることがわかっています。つまり、何かをしようとしているときの脳波を測定して解析できれば、デバイスを動かせるようになるのです。

実際に、米国ピッツバーグ大学が行なっている臨床研究では、交通事故によって胸から下が麻痺している患者が、脳に埋め込まれた4つの電極を通じてテレビゲームを行なっているほか、ロボットアームを操作する実験も行われています。また、2016年に実業家のイーロン・マスク氏らによって設立されたNeuralink(ニューラリンク)社でも、ダイビング中の事故により肩から下が麻痺している男性が、脳に埋め込まれたデバイスを介しオンラインチェスをしている動画を公開していています。中国の浙江大学では、数年前に水を飲む、食べる、握手をするといった動作を実現しているほか、最新の研究では漢字を書くことにも成功していると伝えられています。国内では大阪大学大学院を中心としたチームが、頭蓋内脳波から運動内容を解読し、ロボットアームの制御やコミュニケーションを行う技術の開発が進んでいます。

BMIは、まだ発展途上の技術ですが、その潜在的な能力は非常に高いと言えるでしょう。

「ナノボット」で人間の知能が向上し、寿命が伸びる!?

「インプランタブルデバイス」が進化を続けるなか、その先の技術の研究もされています。その一つが、「ナノボット」です。

ナノボットとは、大きさが1メートルの10億分の1という分子レベルのロボットのことです。ナノボットを利用して、薬剤を特定の細胞や臓器に直接送達することで、副作用を最小限に抑え治療効果を高める。がん細胞へ薬剤を直接投与したり、レーザー照射したりして治療する。血管内を移動し血栓を物理的、あるいは化学的に除去する。体内を巡回して異常な細胞や病原体を検出し、リアルタイムで健康状態をモニタリングする……実にさまざまな研究されています。

さらに、これまでも研究者や起業家、発明家としてテクノロジーの世界に多大な影響を与え、現在はGoogleのエンジニアリングディレクターとして、機械学習や言語処理の分野で挑戦を続けているレイ・カーツワイル氏は、2045年に訪れると予想される「シンギュラリティ」(現時点で予測されているスピードでAIが進化を続けた場合、人工知能の性能が人類の知能を上回ると見込まれる瞬間点のこと)を超えた世界では、ナノボットを人体に送り込むことで人間の知能を高めたり、加齢を逆行させたりできるようになると予想しています。将来的にナノボットの実用化が進めば、人類の生活を激変させることになるでしょう。

インプランタブルデバイスは、将来的に病気、けがなどの治療や生活の質を劇的に改善することが期待できます。それにはさらなる研究や開発が必要ですが、これらの技術が実用化される日もそう遠くないかもしれません。


[プロフィール]
関根 昭彦
医療ライター 大手医薬品メーカーでの医療機器エンジニアや医薬品MRなどを経て、フリーランスに。得意分野は医療関係全般。