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レシピ開発からAIペルソナまで…AI×商品開発の最前線

2024.06.14(最終更新日:2024.06.14)

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AIはさまざまな分野で活用されていますが、私たちが普段買い物する食べ物や生活用品の商品開発にもAIは活用されています。食品の商品開発にAIを導入することでユーザーの好みや嗜好にきめ細やかに対応することができたり、商品開発の時間を短縮したりすることができます。今回は「AI×商品開発」をテーマに身近な活用事例の最前線をライターの有馬美穂さんが解説します。

味のデジタル化へ オタフクソースの取り組み

AI(Artificial Intelligence)=人工知能。コンピューターが学ぶ機械学習が、人間の知的活動に大きく貢献しつつあります。自動運転や画像生成などをAIの用途として思い浮かべる場合が多いかもしれませんが、実は身近な食品開発などにもAI技術の活用が進んでいます。

例えば、ご存知オタフクソース。お好み焼きやたこ焼きを作るときに欠かせないあのソースですが、おいしさを追求するためにAI活用がすでに進んでいます。オタフクソースではこれまでも「焼きそばソース大人の辛口」などのパッケージデザインにAIを活用した実績があり、新しいデザイン案をAIに評価させ、実際に売り出しています。「辛口」のフォントがより印象的です。

AIを活用した「焼きそばソース大人の辛口」パッケージ(株式会社プラグ提供)

それにとどまらず、商品開発の分野でもAIを活用できないかと、2019年から味のデジタル化に取り組んできました。これまで商品開発は、官能評価を用いて行われてきましたが、開発者の熟練や時間が必要とされ、味覚がベースとなり個人差が出てしまうという部分がネックでした。こうして属人化されてきた「味の創造」ですが、株式会社オタフクソースは株式会社IHIと共同で、ソースの新規開発において、製品や試作品の理化学分析値、味や風味などの特徴を表すキーワード、そして分光スペクトル(光の波長ごとに吸収度を表したもの)のデータにより味をデジタル化し、AIに学習させることで、目標の味に近いものを抽出する「レシピ検索システム」を2023年に完成させました。
オタフクソースでは、過去10年間で15,000件以上のレシピを蓄積しており、新レシピを作る際はまず目指す味に近いレシピの検索からスタートします。これまでは、レシピの抽出に手間がかかり、時間も30〜60分はかかっていたのだそう。しかし、「レシピ検索システム」を導入後はレシピの抽出が約5分に短縮。これなら、熟練者でなくても簡単に目的の味にたどり着くことができます。単に時間節約に貢献するだけでなく、新たな発想を生み出す余地を与えうるかもしれません。

新商品のコンセプトを入力すると瞬時にレシピを出力! サッポロビールの商品開発

サッポロビールは、日本アイ・ビー・エム株式会社と共同開発したAIシステム「N-Wing★(ニュー・ウィング・スター)」を活用して商品を発売しています。このシステムは約170商品で検討した配合(約1,200種)や原料情報(約700種)を含むレシピを学習しており、新商品のコンセプトや必要な情報を入力すると、瞬時に原料の組み合わせ、配合量まで予測。推奨配合と推奨香料からなるレシピを出力します。

商品開発AIシステム「N-Wing★」(サッポロホールディングス提供)

オタフクソースと同じように、これまで属人化されていた知見がデータに集約されることで、開発作業時間を大幅に短縮できるといいます。短時間にあらゆるレシピが試せそうですね。人間の働き方を改革し、捻出した時間によって一歩先の市場創造型の商品開発へとつなげたい考えです。

ユーザーのAIペルソナを構築! キリンビールの商品開発

一方、キリンビールの「キリン 氷結®」では、ユーザーのAIペルソナの構築を開始しています。これまで新商品の開発工程では、ユーザーインタビュー調査を行なっていたという同社ですが、インタビュー調査には平均50時間と多くの時間を費やし、商品開発が長期化してしまう課題があったと言います。そんな課題を解決するために、過去のユーザーの声をAIに学習させ、AIペルソナを構築しました。
「30代のスポーツ好き」「20代の酒好き」などそれぞれのAIペルソナと新コンセプトやフレーバーなどについて対話を重ねることでユーザー理解の質の向上、そのあとで行う実際のユーザー調査の精度向上につなげています。

ほかにも、AIによって配送ルートの最適化、発注サポートなども行なってきたコンビニ大手のセブン-イレブン・ジャパンは、2024年春から、商品企画にも生成AIを導入し、企画にかかる期間を最大で10分の1に短縮すると2023年11月に日経新聞が報じました。全店舗の販売データのほか、SNS(交流サイト)のコメントなども分析に加えて、商品の文章や画像をAIに作成させて、トレンドやニーズに合った商品を作り出そうと試みています。

木村屋とNECが「恋AIパン」を共同開発

あんパンで有名な「木村屋總本店」も、NECとの共同開発で「恋AIパン」を開発。ABEMA TVの恋愛番組『今日、好きになりました。』の参加者の会話と、フルーツやスイーツが登場する曲の歌詞をNECのAIで分析し、恋愛感情と食品を紐づけて味を表現した「恋AIパン」5種を発表しました。

「恋AIパン」(木村屋總本店提供)

具体的には、

(1)NECの高性能音声解析を用いて番組の出演者の会話データ15時間分をテキストとして抽出。
(2)さらに、出会いや告白、初めてのデートといった、恋愛シーンごとの会話文に32個の感情ワードとの相関を表した感情スコアを付与し、恋愛シーンごとの感情の傾向を可視化。
(3)約100万曲の日本語の歌詞データベースから、183種類のフルーツやスイーツなどの食品を含む約3.5万曲を抽出し、NECのデータ意味理解技術を活用した「NEC Data Enrichment」を用いて、食品を含む歌詞に感情スコアを付与し、食品のイメージが持つ感情の傾向を可視化。

最後に、(2)と(3)の感情の傾向が似ている恋愛シーンと食品を紐づけ、恋の感情を表現する食品上位50種をリストアップ。過去に多くの蒸しパンを開発してきた木村屋の職人により相性の良い食品の組み合わせを選定して、恋を味として再現する「恋AIパン」を開発しました。

AIの進化によって試されるものは?

AIがめまぐるしく進化するなかで、想像を超えた新しい商品や私たちのニーズによりマッチした商品が登場してくるのは間違いないでしょう。一方で、人の手による作業を減らし、働き方の改革や効率化に貢献したことで、かえって人間による創造力・発想力が試されているともいえそうです。


【プロフィール】
有馬美穂
ライター。2004年早稲田大学卒業。『VERY』をはじめ、さまざまな雑誌媒体等で主にライフスタイル、女性の健康、教育、ジェンダー、ファッションについての取材執筆を行う。