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いつでも、どこでも、新しいがキーワード。お菓子作りの現場で活躍する最新テクノロジーとは?

2024.05.15(最終更新日:2024.05.15)

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みなさんは“お菓子のフードテック”と聞いて、どんなことを思い浮かべますか? デジタル化や機械化によって、有名パティシエの味が家庭でも再現できること?従来では作ることができなかった栄養バランスや宝石のような美しいお菓子が誕生することでしょうか?視点を未来に向けると、想像はどこまでも膨らみますが、実はすでに様々なテクノロジーを活用した菓子製造や販売が行われ、それらのニュースが世界中で発信され続けています。

そこで今回は、日本でも食べたり体験することができる“お菓子業界のフードテック事例”を3つご紹介していきたいと思います。

ロンドン発!3Dプリント技術を活用したパーソナライズなサプリメントグミ

イギリスのスタートアップ企業Rem3dy Health Ltd.が開発した「NOURISH3D(ナリッシュ3D)」(Rem3dy Health Ltd.提供)

はじめにお菓子の製造に3Dプリント技術を活用した事例をご紹介しましょう。3Dプリント技術を活用した栄養食品を提供するイギリスのスタートアップ企業「Rem3dy Health Ltd.」が作る「NOURISH3D(ナリッシュ3D)」という、見た目もコンセプトも斬新なサプリメントグミが2023年日本に上陸しました。

同社は3Dプリント技術や栄養成分のカプセル化技術において21の特許を取得。ユーザーはオンライン上で複数の設問に回答するだけで、600億通りの中から自分に合った最適なサプリメントグミが作れる仕組みになっています。また、ヴィーガン対応やアレルゲン不使用の原材料を30種類以上取り揃え、プラスチックフリーなパッケージを採用するなど、時代に合ったモノ作りも実践しています。

サプリメントグミが製造されている様子。ユーザーの特性、生活習慣、要望などをふまえてカスタマイズされる。(Rem3dy Health Ltd.提供)

Rem3dy Health Ltd.は、2023年に国際貿易、イノベーション、持続可能な開発、または機会の促進に優れた英国の企業およびその他の組織を表彰するプログラム 「The King’s Awards for Enterprise」(英国女王賞)のイノベーション部門を受賞しています。

洋菓子メーカー「ユーハイム」が開発したAI搭載のバウムクーヘン専用オーブン

ユーハイムが開発したAI搭載の専用オーブンで焼き上げたバウムクーヘン。しっとりふんわり感が際立ち、工場で大量生産するような製品とは別格の味(著者撮影)

つづいては、お菓子作りにAIを活用し、本格的なバウムクーヘンをいつでもどこでも製造できる画期的な専用オーブンを開発したユーハイムの事例です。

1919年に日本で初めてバウムクーヘンを焼いたカール・ユーハイムから受け継がれるドイツ菓子を提供する洋菓子メーカー「ユーハイム」が、2020年にAIを搭載したバウムクーヘン専用オーブン「THEO(テオ))」を発表しました。このオーブンを使えば、職人が焼く生地の焼き具合を各層ごとに画像センサーで解析することで、その技術をAIに機械学習させデータ化し、無人で職人と同等レベルのバウムクーヘンを焼きあげることができるようになっています。

同社では、「AIは職人の一番弟子」というコンセプトのもと、熟練の菓子職人のほか、ロボット工学の研究者、AIの専門家、デザイナーなど、多様分野の専門家のノウハウが集結し、5年がかりでテオを開発。AI搭載のねらいは、目先の業務効率化や無人化が第一優先ではありません。ユーハイムは職人をベースとした企業であり、「良い職人が良い世の中をつくる」という考え方が基盤に。同社にとってのフードテックの意義は、テクノロジーによってフードをもっとおいしくしていくことだけでなく、クラウド上に職人の焼成データを集め「レシピバンク」としてプラットフォーム化することで菓子職人同士のネットワークを築き、さらには職人にレシピ使用料が還元される仕組みを構築するまでを想定しているそう。レシピの著作権化を実現させることは、職人の地位向上にも貢献できると言います。

現在THEOは菓子店やカフェ、ホテルなど16カ所で稼働中。今後もますますフードテック推進を目指し、導入拡大を推進していくそうです。

外観はスタイリッシュでかわいいデザイン。導入店舗では名物的な存在に。(ユーハイム提供)

シャトレーゼに24時間営業の無人決済店舗が登場。その仕組みとは?

シャトレーゼ西麻布店。2023年3月より無人決済システムを導入、24時間営業の店舗に。(シャトレーゼ提供)

日本有数の菓子専門店として広く愛されているシャトレーゼにも、最新のテクノロジーを活用した事例を発見することができます。それは、無人決済システムを導入した24時間営業店舗の運営です。

2021年12月、東京・港区にオープンしたシャトレーゼ西麻布店は当初、夜間の飲食後のデザート需要などに応えるために出店したところ、周辺住民を中心に週末や日中の需要があることが判明。2023年3月に店舗をリニューアルし、24時間営業の無人決済システムが導入されました。

導入されたシステムは、天井に設置された複数のカメラやセンサーなどの情報から、顧客が手に取った商品をリアルタイムで認識。購入する商品を持って出口付近の決済端末のディスプレイ前に立つと、購入商品の内容と合計金額が自動的に表示される仕組みです。顧客はそれを確認し、決済すれば買い物完了となります。店舗にとっては人件費削減つながると同時に、顧客にとっては買物時間の短縮につながるだけではなく、時間帯に拘束されることなく早朝や深夜にも買い物ができることが大きな魅力に。昼間のコアタイムにはスタッフが店内にいて、アップルパイなどの焼きたての焼菓子やケーキ類を通常店舗と同様に販売しています。

無人決済システムは、子どもからお年寄りまで使いやすい仕組みになっている。(シャトレーゼ提供)

またこの仕組みはシンガポールLe Quest Mall店でも導入されています。シンガポールはシャトレーゼが進出している海外諸国の中でも日本と並んで治安が良いことなどから、住居に囲まれた地域にあるモールにおいて無人店舗を出店。日本とは異なり、この店舗で買い物をするための専用アプリへの登録が必要で、アプリ上のコードをゲートでスキャンしなければ入店できない仕組みになっています。またアプリにはあらかじめクレジットカードの登録も必要。このように人口密度の高い地域においては、近隣に住む顧客の都合に合わせていつでも並ばずに商品を購入できることは大きなメリットに。今後はさらに各家庭にとっての“お菓子専用冷凍冷蔵庫”という存在としても存在感を高めていく可能性があります。

さあ、いかがでしたでしょうか? お菓子は、多くの人々にとって癒しや幸せを与えてくれる存在。そしてデジタルやテクノロジーのさらなる進化がお菓子に新たな可能性をもたらし、私たちの人生にかけがえのない喜びを与えてくれることでしょう。ますます関心を寄せていきたい世界であることは間違いありません。


<著者>
スギアカツキ
食文化研究家。長寿美容食研究家。東京大学農学部卒業後、同大学院医学系研究科に進学。基礎医学、栄養学、発酵学、微生物学などを幅広く学ぶ。在院中に方針転換、研究の世界から飛び出し、独自で長寿食・健康食の研究を始める。食に関する企業へのコンサルティングの他、TV、ラジオ、雑誌、ウェブなどで活躍中。