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「あたらない牡蠣」を始めとした美味しく安全に食べる幸せ…これまでの食事情が激変!?フードテック・最新トレンド

2024.06.17(最終更新日:2024.06.17)

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私たちの生活をより豊かなものに変える技術は、食の分野にも大きな変化をもたらしています。たとえば最新の科学技術を駆使して開発した「あたらない牡蠣」は、従来の牡蠣とは異なり、食べても食あたりになる心配がありません。最新技術を食の領域に取り入れたフードテックは、食にまつわるさまざまな課題を解決する可能性を秘めています。そこで、今回はフードテックの最新トレンドについて紹介するとともに、フードテックの発展によって今後私たちの食事情がどのように変わっていくのかを考察します。

これまでの常識を覆す「あたらない牡蠣」とは

(※写真はイメージです/PIXTA)

株式会社ゼネラル・オイスターは、世界初の牡蠣の完全陸上養殖に成功。食べてもあたる心配のない「エイスシーオイスター2.0」を開発しました。牡蠣はエサとなる植物性プランクトンを取り込むため、1時間におよそ20Lもの海水を吸って吐き出しています。その際に産業排水や生活排水に含まれるノロウイルスなど、人に有害なウイルスも一緒に取り込んでしまうことがあります。そのような牡蠣を生で食べることで、腹痛や吐き気などの食中毒を起こすことがあるのです。

そこで着目したのが、海洋深層水です。海洋深層水とは水深200mより深い場所の海水のことで、人間に害がある菌やウイルスがほとんど存在しません。エイスシーオイスター2.0は、海洋深層水をくみ上げ、海には一度も入れずに稚貝から成貝になるまで海洋深層水のなかで牡蠣を養殖することに成功しました。ウイルスのない環境で育ったため、食べてもあたる心配がないのです。

ただし、海洋深層水には牡蠣のエサとなる植物性プランクトンもいないため、完全陸上養殖にはエサ代のコストがかかることが課題でもありました。株式会社ゼネラル・オイスターは東京大学との共同研究でプランクトンの大量培養に成功したことで、コストの大幅カットにも成功しています。

このように完全に陸上で養殖したエイスシーオイスター2.0は、見た目は普通の牡蠣と変わらないものの、味はより甘さが濃縮されて栄養価が高いのが特徴。ぷりぷりとした牡蠣ならではの食感も楽しめ、噛んだ瞬間口のなかに旨みが広がります。また、通常牡蠣の味は採れた海の状況や山の養分といったその土地固有の条件によって決まりますが、エイスシーオイスター2.0の場合は、与えるエサによって風味を自在に変えられるというメリットもあります。

多様な食のあり方を許容する「プラントベースメニュー」や「培養肉」

(※写真はイメージです/PIXTA)

植物由来の原材料でできた肉などの代替食品の開発も進んでいます。

博多名物の博多豚骨ラーメンがウリの大手ラーメンチェーンの一風堂では、2021年から植物由来の原材料を使用したプラントベースのメニューの提供を開始。コク深い豆乳スープやトリュフオイルなどの植物由来の原材料で、一風堂の看板メニューである「赤丸」「白丸」の濃厚な豚骨風味を再現しています。

また、麺やトッピングにもこだわりがあります。通常一風堂の麺には卵を使用していますが、プラントベースのラーメンには一切卵を使用していません。さらに小麦ではなく、より栄養価の高い全粒粉を使用することで健康にも配慮。トッピングのチャーシューも試作を重ね、触感や味を極力本物に近づけています。

一風堂がここまでプラントベースラーメンの開発にこだわった理由は、宗教上や健康上の理由、ヴィーガンなどのさまざまな理由から動物由来の食べ物が食べられない人たちにも一風堂の味を楽しんでもらいたいという想いからでした。このような企業の熱意から生まれたプラントベースラーメンは多くの反響を呼び、提供開始当初は限られた店舗でしか販売されていなかったものの、現在はオフィシャルオンラインストアから自宅で気軽に楽しめる乾麺タイプの商品も販売されています。

また、植物由来の原材料などから作る代替肉のほかにも、動物から抽出した細胞を組織培養して作る培養肉の研究も進められています。大手食品メーカーの日清食品グループは、東京大学と共同で世界初のサイコロステーキ状の培養肉の実用化を目指した研究に取り組んでいますが、その過程で「食べられる培養肉」の作製に日本で初めて成功しました。

実は、これまでの培養肉は食用ではない研究用素材を用いることが多く、ほとんどが食べられませんでした。そこで日清食品グループは食べられる培養肉を作成するにあたり、「食用可能な素材のみを使用する」「研究過程において食べられる制度を整える」という2つの課題に挑戦。見事課題を克服し、2022年3月に研究関係者による初めての試食を実現しました。

初めて試食した培養肉は肉そのものの味からはまだ遠いものの、食品としての確かな噛み応えがあり、あっさりとした旨みを感じることができたと報告されています。試食ができるようになったことで、味や香り、食感など、美味しさの再現が今後大きく進展することが期待できるでしょう。

徹底された衛生管理のもとで作られた培養肉は世界的な食糧不足の解決に役立つだけでなく、食中毒のリスクを大幅に低減するというメリットもあります。日清食品グループでは、2024年度中に幅7cm×奥行7cm×厚さ2cmで、約100gの「培養ステーキ肉」の基礎技術確立を目指して研究を進めています。

フードテックは環境問題や社会的な問題も解決する

(※写真はイメージです/PIXTA)

そのほかにも、地球環境や社会的な問題に配慮したサステナブル食品が多くの企業で続々と開発されています。

株式会社ニチレイフレッシュは、人工的に製造されたイクラである「みらいくら」の試験販売を2023年9月から開始。昆布のぬめり成分として知られるアルギン酸や醤油、米発酵調味料などを使って、見た目はもちろん味も本物のイクラに近づけています。食感や旨みの再現など課題は残るものの、海藻由来の原料でコレステロールを含まないため、健康に配慮した食材としても注目されています。

日清食品株式会社は、必要な栄養素をバランスよく摂取できる「完全メシ」シリーズを展開。日本人の食事摂取基準で設定された33種類の栄養素と、三大栄養素であるたんぱく質・炭水化物・脂質のバランスが整って、なおかつ美味しさにこだわった商品をさまざまなメニューで販売しています。

ここでは、日清食品が独自開発した塩、米、麺、肉の最新フードテックをみていきましょう。

まずは塩。塩分の取り過ぎを防ぎつつ、なおかつ美味しく食べるための独自の減塩技術があります。世界中から約170種類もの塩を集めて研究を重ね、ミネラルやアミノ酸などを配合することによって、塩が少なくても美味しく感じられるようにしているのです。

続いて米。炊く際には、お湯をかけて5分で戻すことができます。さらに、米と栄養素を一緒に炊き込むことで、米本来の美味しさはそのままに、身体に必要な栄養摂取も可能に。生産工程で食物繊維やたんぱく質も一緒に炊き込んでいるのです。また、米粉状にしたうえで、栄養素と一緒に米の形に再合成する技術も使われています。

麺類においては、麺の中心層の一部に食物繊維やたんぱく質を使用することで、美味しさを損なわずに栄養素を配合する「三層麺製法」を開発。さらに、小麦粉を食物繊維へ置き換えることで、カロリーを抑える効果も。

最後に肉です。肉本来の美味しさを残したまま、大豆たん白や野菜などをまぜてミンチ状にしてフリーズドライ加工した技術が使用されています。

理想的な栄養バランスを追及しながらも普段の食事と変わらない美味しさにこだわっていることがわかるかと思います。「完全メシ」シリーズはほとんど調理を必要としない気軽さも魅力です。忙しい現代人にも取り入れやすく、偏った食生活から起こる栄養過多や栄養不足の改善に重宝されるでしょう。

フードテックがもたらしてくれる美味しくて安全な食事

(※写真はイメージです/PIXTA)

最新の科学技術を駆使することで、「あたらない牡蠣」のように従来の問題点や課題を克服した食材が今後も増えていくことが期待されます。

また、植物由来の原材料を使った代替食品や動物細胞の一部から作成する培養肉は、今後ますます深刻になる世界的な食糧不足への解決の糸口になるだけでなく、宗教上や健康上、思想上の問題から特定の食材が食べられなかった人たちにより多彩な食の楽しみをもたらしてくれるでしょう。

フードテックの発展によって、これまでの食の常識が覆り、より美味しく安全に食事を楽しめる未来が待っています。


吉田康介(フリーライター)