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急ピッチで進む外食業界での「ロボット」の導入…「フードテック」最前線

2024.01.17(最終更新日:2024.01.17)

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近年、飲食業界では人手不足の問題が深刻化しており、その解消が急務となっています。そこで注目されるのが、調理、配膳から来店受付、順番待ちシステム等に至るまで、あらゆるプロセスでの自動化技術の導入です。業務を効率化し、人手不足の問題の解消につながる最先端のフードテックにどのようなものがあるのでしょうか。そして、日本企業のビジネスチャンスはどこにあるのでしょうか。国際的なテック事情に詳しいジャーナリスト・高口康太氏が、最新事情をリポートします。

外食業界で人手不足を契機として「配膳ロボット」が急速に普及

人手不足が深刻化しています。帝国データバンクによると、2023年1月~10月の人手不足倒産は206件と、2014年以降で過去最多を記録しています。特に、外食業界はコロナ禍の冷え込みから来客数が回復した現在でも、スタッフを確保できずに苦しんでいる企業が多い状況です。その影響もあってか、省人化のためのソリューションが次第に普及してきました。QRコードを使ったスマートフォンからの注文やセルフレジも増えています。

そして、「配膳ロボット」も普及してきています。ほんの1、2年前までは物珍しさからロボットを見かけるとついつい注目してしまいましたが、今や当たり前の存在。中華系のレストランに行くと、中高年のサラリーマンがまったく戸惑う様子もなく、油でちょっと汚くなった配膳ロボットから料理を受け取っている姿を見かけます。

ガストやバーミヤンなどを展開するすかいらーくグループが配膳ロボットの大規模導入を発表したのが2022年12月のこと。当時はかなりの話題になったと記憶していますが、たった1年の間にあっという間に日常の光景の一部となったことに改めて驚くばかりです。

[画像1]東京都内のレストランの配膳ロボット(2023年12月、筆者撮影)

日本で利用されている配膳ロボットは、「KEENON」、「PUDU Technology」、「パンゴリン・ロボット」、「Yunji Technology」など中国勢が目立ちます。ロボットといえば日本のお家芸。産業用ロボットの分野では世界トップの座を堅持していますが、配膳ロボットや掃除ロボットなどのサービスロボット分野では様相が変わり、中国勢がリードしています。

しかし、サービスロボットのビジネスはロボットの製造だけではありません。ロボットという道具をいかに使いこなすかという「二次開発」の分野では日本にはまだまだチャンスがあります。

「無人ブーム」の失敗を糧に…サービスロボットの発展の歴史

では、中国のサービスロボットは、どのような発展を遂げ、今の地位を築いたのでしょうか。決して順風満帆で成長してきたわけではありません。2010年代には「無人ブーム」の失敗という手痛い挫折もありました。

米ネットショッピング大手アマゾンが2016年に無人店舗「Amazon Go」をオープンしたことを受け、中国で「無人ブーム」が始まりました。無人コンビニと並んで流行したのが「無人レストラン」や「ロボットレストラン」です。筆者は2019年に中国各地の無人レストラン、ロボットレストランを取材しました。

天津市郊外にある「X未来レストラン」は、EC(電子商取引)大手JDドットコムが開発したソリューション。調理ロボットと配膳ロボットを大々的に導入した店舗です。ロボットを使うことによって、味やサービスの「ぶれ」をなくし、チェーン展開をしやすくするのが狙いだと取材でうかがいましたが、結局この1店舗から拡大することはありませんでした。調理場や客席の配置、通路などをロボットありきで設計する必要があるため、チェーン展開することが難しかったようです。

[画像2]天津市のX無人レストラン(2019年2月、筆者撮影)

日本にも進出している火鍋チェーン・海底捞も北京市にロボットレストランをオープンしています。日本の「パナソニック・コネクテッドソリューションズ」(現・パナソニック コネクト)のソリューションを導入し、注文を受けるとロボットアームが冷蔵庫から鍋の具材を取り出し、中国企業製の配膳ロボットが運ぶという仕組みです。ロボットに加えて、壁にはプロジェクションマッピングで幻想的な映像が流されるなどの仕掛けもあり、中国でも大きな話題となりました。ロボットはたんなる話題作りではなく、店舗とは別のセントラルキッチンで具材を包装し店舗に運ぶ、なるべく人間が触れないようにすることで清潔さを保つという狙いがあると説明されましたが、結局、ロボットアームが導入されたのはこの1店舗だけでした。ロボットアームの動きはほれぼれするほどの速度と精度でしたが、莫大なコストが必要な点がネックでした。

[画像3]北京市の海底捞ロボットレストランのロボットアーム(2019年2月、筆者撮影)

EC大手アリババグループ傘下の生鮮スーパー「フーマーフレッシュ」も上海市でロボットレストランを試験していました。フーマーフレッシュはもともと新鮮な水産物が売りで、購入した食材を調理してくれるフードコートが大人気でした。しかし、すさまじい混雑っぷりで、席を確保し、調理コーナーまで食材を持って行き、その後引き取りに行くのに、人をかき分けての移動は一苦労。そこで、倉庫で使うAGV(無人搬送車)のような配膳ロボットを使うことで、大混雑するお店を歩き回らなくとも料理が受け取れるようになりました。

非常に便利だったのですが、配膳ロボット専用の通路を設置する方式で、大がかりな改装コストが必要だったために普及しませんでした。

[画像4]上海市のフーマーフレッシュの配膳ロボット(1)(2019年2月、筆者撮影)
[画像5]上海市のフーマーフレッシュの配膳ロボット(2)(2019年2月、筆者撮影)

2019年までに登場したロボットレストランはいずれも「人間の代わりにロボットが働く」ことを狙ったもので、そのために店舗をロボット用に改造するなど大規模な取り組みを行っていました。野心的な目標ですが、コストがかさみますし、すべてをロボットに任せようとするとアクシデントが絶えません。通路に障害物があって立ち往生することや、状況によっては人間よりも仕事が遅いこともあります。結局、物珍しさと未来感で話題作りには成功しましたが、普及には至りませんでした。

しかし、この失敗は中国メーカーの糧になりました。ロボットレストランブームを受けて、ロボットメーカーに膨大な融資が流入したのです。

中国調査企業「ITオレンジ」の調べによると、2017年から2020年にかけてサービスロボット・メーカー各社は合計390億元(約7,800億円)以上もの資金調達に成功しています。この資金によって中国製配膳ロボットの性能アップや、量産に伴うコストダウンが進みます。無人ブームの失敗を苗床として、中国ロボットメーカーは実力を育成したわけです。

また、安全性の確保や劣悪製品の排除を目的とした国家標準「配膳ロボット通用技術条件」などの法律法規整備も進みました。国家標準制定を主導した「パンゴリン・ロボット」の創業者、宋育剛(ソン・ユーガン)董事長は当時を振り返っていいます。

「たとえば、標準制定前は48ボルトのバッテリーを使う企業がほとんどでした。電動自転車に使われるなど一般的なバッテリーで低コストだったからですが、レストランではより高い安全性が求められるということで、24ボルトのバッテリーを使うよう義務づけられました。我が社も設計変更という追加費用が生じましたが、国の取り組みによって安全性を担保されたことも消費者から信頼される理由となり、その後の配膳ロボットの普及につながったのです」

[画像6]パンゴリン・ロボット社の宋育剛董事長(2023年12月、筆者撮影)

2020年からは新型コロナウイルスの流行によって農村から大都市への労働者の移動が減り、新たな従業員が確保できないことも追い風となり、配膳ロボットの急速な普及が始まりました。中国調査会社・観研天下によると、販売台数は2020年の1万台から2022年には5万台弱という高成長を見せています。

配膳ロボットの使われ方も変わりました。無人ブームのロボットレストランとは異なり、従来のお店を改造しないでロボットを投入するようになりました。また、導入してもロボット配膳にはあまりこだわらず、人間が運んだほうが早い時はロボットを使わないといった現実的な割り切りもするようになりました。人間の代わりにロボットが働いてくれるという理想から、ロボットは「ちょっと手間を減らしてくれる道具」という現実路線に立ったわけです。

日本のビジネスチャンスはどこにあるのか?

(画像はイメージです/PIXTA)

このように、中国では「無人ブーム」の失敗を糧として、安くて高性能な配膳ロボットが開発され、かつ現実的な使い方が見つかるようになっています。膨大なベンチャーマネーが流れ込んだことで、現在では安くて高性能な配膳ロボットを製造できる基盤が完成し、日本をはじめ、世界中を席巻しています。

もっとも、こうしたロボットメーカーがその地位を盤石としたとまでは言い切れません。2022年には日本でも多くのロボットを販売している「KEENON」、「Pudu Technology」が大規模なリストラを実施したことが話題となりました。他の企業も、売上を伸ばしながらも赤字がふくらむという状況にあります。

パンゴリン・ロボットの宋董事長によると、ほとんどのメーカーは売れば売るほど赤字になる状況です。熾烈な競争が続くなかで単価を上げられないのが要因です。今後はいかに利益を確保するかがカギです。パンゴリン・ロボット自身も厳しい競争に苦しんでいますが、ファブレス(工場を持たない)な他社とは異なり自社工場での製造によるコストダウンに取り組んでいるほか、複数機種の土台部分を共有化することでの開発費用削減、さらには来年にも日本で工場を立ち上げることで「メイドインジャパン」ブランドでの海外市場開拓で打開して行く計画です。

このように整理すると、日本は、配膳ロボットという道具が実用化され普及するタイミングをうまくとらえて導入しているといえるのではないでしょうか。そして、日本企業は、この道具をいかに使いこなすかという点で競争をし、ノウハウを蓄積しています。

すなわち、日本では、配膳ロボット導入支援の代理店がいくつも誕生しているほか、ロボットという道具をどう使いこなすかという二次開発の分野も盛り上がりつつあります。

筆者は2023年12月に東京で開催された「スマートレストランEXPO」を取材しましたが、興味深かったのは、「NECプラットフォームズ」による「POSレジシステム」と配膳ロボットの連携ソリューションです。

[画像7]スマートレストランEXPOの模様(2023年12月、筆者撮影)

店員の個人端末やテーブルのタブレットとロボットが連携し、食器を下げたい時に気軽にロボットを呼び出すことができます。また、客が会計を済ませると、食器を下げるサポートのため、ロボットが自動的にテーブルに向かいます。システムと連動できるロボットは複数のメーカーに対応しています。ロボットを製造することよりも、「どううまく使いこなすか」にフォーカスしているわけです。

まだ普及が始まったばかりのサービスロボットのビジネスですが、日本企業がどのようにノウハウを蓄積し、道具としてのロボットをより使いやすくするためのソリューションを生み出すかにも注目です。



[プロフィール]
高口 康太
ジャーナリスト、千葉大学客員准教授。2008年北京五輪直前の「沸騰中国経済」にあてられ、中国経済にのめりこみ、企業、社会、在日中国人社会を中心に取材、執筆を仕事に。クローズアップ現代」「日曜討論」などテレビ出演多数。主な著書に『幸福な監視国家・中国』(NHK出版、梶谷懐氏との共著)、『プロトタイプシティ 深圳と世界的イノベーション』(KADOKAWA、高須正和氏との共編)で大平正芳記念賞特別賞を受賞。