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がんの早期発見・早期予防にも!進化し続ける「顔認証技術」最前線

2024.01.29(最終更新日:2024.01.29)

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映像や画像から顔の特徴を解析して、個人を特定する技術である「顔認証」。デジタル機器の普及でセキュリティ対策を講じる必要性が高まり、オフィスビルや空港における本人確認などで広く使われています。また、昨今は認証システムの進化が目まぐるしく、その技術を応用する分野は広がりを見せています。今回は顔や画像の認証技術を応用して、がんの早期発見につなげたり、顔画像から脳の健康状態を示すBHQを測定したりする、新しい技術やサービスについてみていきます。

「顔認証技術」とその「仕組み」

生まれながらにして人間が持っている指紋や眼球の虹彩、声などの身体的な特徴。それらをもとに個人を特定するシステムが、「生体認証システム(バイオメトリクス認証)」です。生体認証は、たとえ双子であっても一人ひとりで固有である身体的特徴を利用することから偽造が困難で、より確実なセキュリティを必要とする場面での本人確認に適しています。

そのなかのひとつが「顔認証技術」。カメラで撮影した画像や動画から、目や鼻、口の位置や顔の大きさなどの情報を自動的に取得し、事前に登録した顔データと照合して本人確認をする技術です。なりすましが困難なため安全性が高く、物理的な鍵を持ったり、パスワードを設定したりする必要がないのが特徴です。現在では、多くのスマートフォンにも搭載されており、日常的に使用している人も少なくないでしょう。

顔認証技術の応用で「がん」を見極める

顔認証のシステムが応用されている分野のひとつが医療。代表的なのが、画像認識AIが搭載された内視鏡システムです。主に、胃や大腸のがんの早期発見を目的に行われる内視鏡検査では、内視鏡のカメラによって撮影した画像を、医師が自分の目で見ながら、胃や大腸の表面にがんなどの病変がないかを観察しています。そのため、特に初期の小さな病変などを医師が見逃す可能性があることは否定できません。

しかし、画像認識AIが搭載された内視鏡システムであれば、がん病変の特徴を学習したAIが内視鏡で撮影した画像を解析することで、がんの疑いがある病変や領域を高い精度で検出し、たとえ小さな病変であっても見逃しを防ぐことが期待できるのです。

このシステムは、2019年に大腸の内視鏡検査で実用化されており、内視鏡検査中の画像をAIがリアルタイムに確認。がんなどが疑われる場所があれば、モニター上に写し出された検査画像の該当箇所にマークを付けると同時に警告音を鳴らして医師に注意を促し、見逃しを防ぎます。その結果、医師はより迅速で正確な診断を行うことが可能です。

内視鏡AIは、医師による検査レベルのばらつきを解消することが期待されていて、あるメーカーの開発担当者は、現時点で、内視鏡専門医と同程度のレベルでがんが疑われる領域を発見できる」と話しています。2022年には、大腸に比べて病変の検出が難しいとされる胃や食道を対象にしたシステムも実用化されており、臨床の現場でも使われ始めています。

同様に、AI画像認識技術が実用化されているのが、胸部エックス線画像診断(胸部レントゲン検査)です。人の胸の部分は、肺などの臓器や肋骨などの骨、筋肉などが重なって存在していて、エックス線撮影では影が重なり合ってしまうため、特に初期の小さな病変を見逃さないようにするのは、画像診断を専門とする医師であっても簡単なことではありません。

AIを用いて胸部エックス線画像から異常や病変を検出する胸部エックス線画像病変検出ソフトウェアは、医師や放射線技師がエックス線画像を解釈する際に、肺炎や結核、肺がん、気胸などが疑わしい部分を、AIが色やマーカーなどで指摘してくれます。肺がんは発見や診断された時点でかなり進行しているケースが少なくありませんが、胸部エックス線画像病変検出ソフトウェアは、早期の異常や疾患の発見を支援することが期待されています。

また、乳がんのマンモグラフィ検査に対しても、AIの画像認識を活用した画像診断が欧米では実用化されており、アジア人に対する研究も日本国内で進められています。ほかにも、網膜に対するAI画像診断の研究も進められており、世界中で失明の大きな原因となっている糖尿病網膜症の早期発見、さらには網膜を撮影した眼底写真からは、年齢や性別、喫煙状況、血糖の状態などをAIで推定可能なことが明らかになっています。いずれは眼疾患だけでなく高血圧症や糖尿病などの生活習慣病、アルツハイマー病、血液疾患など、さまざまな全身疾患の発見ができるようになる可能性があるそうです。

医療分野における顔認証技術のさらなる進化

AIによる顔認証や生体認証の技術の医療分野への応用の研究は、ほかの視点からも行われています。そのひとつが、顔画像から健康情報を取得する研究です。NECでは、スマートフォンやタブレット端末などのカメラで撮影された顔写真を分析して、浮腫(むくみ)の程度を推定する技術の開発に取り組んでいます。浮腫は、腎臓や心臓、肝臓などの不調や病気によって起こり、顔に出やすいとされています。つまり、AIによって顔の微細な変化を観察することで、浮腫の有無や程度がわかるというのです。

同社では、顔の画像から心拍数や酸素飽和度を測定する技術の開発も進めているといいます。近年では、オンライン診療が徐々に広まってきていますが、対面の診察から得られる身体的な情報が限定的だという問題が指摘されています。顔の画像から健康の情報を得られるようになれば、オンライン診療の可能性を広げていくことにつながるかもしれません。

もうひとつ、ユニークなのが、顔の映像から脳の健康状態示すBHQを推定する技術です。BHQとは、「Brain Healthcare Quotient」の頭文字をとったもので、日本語では「脳健康指数」と訳すことができます。このBHQは、内閣府が旗を振る『Impactプログラム』の中で開発された脳の健康管理指数で、脳のMRI画像をAI解析して、同性同年齢と比較した脳年齢を出すことができます。

そして、パナソニックホールディングスでは、一般的に「認知症患者の表情は乏しくなる傾向がある」といわれていることから、「認知症」と「表情を作る能力」との間に何らかの相関関係があるのではとの仮説を立てデータを検証。実際に、MRI計測による数値と独自アルゴリズムの解析結果に一定の相関があることを確認しました。この結果を受けて開発した「推定BHQ計測器」では、モニターに表示される喜怒哀楽の表情を被験者がまねることで、約1分という短時間で実年齢から推定されるBHQ値を明らかにするほか、計測した推定BHQ値の差や、推定した脳の健康状態を高・平均・低の3段階で表示します。BHQは、知能指数IQのように脳の健康状態を数値化することができるため、それに応じた食事や運動の指導など、脳の健康を守るために最適な方法を検討する際に役立つと考えられます。

医療分野で活用が進められるAIですが、訓練データに基づいて学習するため未知のパターンや変異に対応するのが難しく、誤診や誤検出が発生する可能性があります。また、多くのAIはその判断プロセスがブラックボックスであり、示された結果の根拠がわからないなどの問題点も指摘されています。

しかしながら、顔認証システムを応用したAI画像診断は、診断精度の向上や、診断から治療開始までの期間の短縮、医師の負担軽減などメリットは多く、医療の質を高めていくことは間違いありません。これからも、さらなる発展に期待しましょう。



[プロフィール]
関根 昭彦
医療ライター 大手医薬品メーカーでの医療機器エンジニアや医薬品MRなどを経て、フリーランスに。得意分野は医療関係全般。