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AIが肺がん診断を変革する?胸部レントゲン写真の「AI読影」による早期発見への希望

2023.08.08(最終更新日:2023.08.08)

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近年、目覚ましい進化を遂げているAIですが、医療分野においてもそのさらなる活躍が期待されています。

厚生労働省が2017年から定期的に開催している「保健医療分野におけるAI活用推進懇談会」では、①ゲノム医療、②画像診断支援、③診断・治療支援、④医薬品開発、⑤介護・認知症、⑥手術支援、を6つの重点領域として選定しています。現在、その中でも実際の医療現場で最も活用されているのが「画像診断支援」です。

これまでの「画像診断」における診断精度

「画像診断」とは、体内の様子や病気を画像化して診断する検査方法のことで、X線(レントゲン)検査やCT検査、MRI検査などがこれに当たります。画像診断では通常、医師が画像を直接見て病気を診断しますが、医師の経験による診断精度の差が問題視されてきました。例えば、胸部X線検査で肺がんの診断を行う場合、画像診断を専門とする「放射線科医」や、肺がん診療を専門とする「呼吸器内科医・呼吸器外科医」と、それ以外の医師では肺がんの検出精度にどうしても差が生じてしまいます。

「胸部X線検査」の精度が上がることの重要性

悪性新生物(がん)は日本人の死因の1位であり、その中でも肺がんによる死亡者数が最も多くなっています。主ながんの罹患数(2019年)は、男性では前立腺がんが1位、胃がんが2位、大腸がんが3位、肺がんが4位となっています。女性では乳がんが1位、大腸がんが2位、肺がんが3位、胃がんが4位です。

また、がんによる死亡数(2021年)では、男性では肺がんが1位、大腸がんが2位、胃がんが3位となっています。女性では大腸がんが1位、肺がんが2位、膵臓がんが3位です。男女合算では、肺がんが死亡数の1位となっています(厚生労働省と国立がん研究センター「がん統計」より)。

つまり、肺がんは男女ともに罹患数に対しての死亡数が多く、予後不良ながんであることがわかります。肺がんは早期発見すれば手術によって治療することが可能ですが、進行してしまうと抗がん剤などで延命することはできても、治癒することは難しくなります。そのため、早期発見が非常に重要となり、初期の段階で行う胸部X線検査の精度が上がれば、肺がんの早期発見率は格段に上がることが期待されています。

胸部X線検査の読影は難しい

肺がん診断には胸部X線検査やCT検査が必須です。一般的な流れとしては、まず胸部X線検査を行い、異常が疑われる場合にはCT検査が行われます。特に40歳以上のすべての人に対しては、胸部X線検査を行うのが基本です。

しかし、肺がん診断において基本となる胸部X線画像を正確に読影することは、一見簡単に思えるかもしれませんが、実際には非常に難しいものです。CT検査では、肺を細かくスライスした断面の画像が得られるため細部まで確認することができますが、X線検査の画像は肺を正面から見ただけの画像になります。そして肺の中は、血管や気管、肋骨などの様々な影が重なり合っているため、肺がんを見つけることは容易ではありません。

そのため、胸部X線写真の読影は非常に難しく、読影医による診断精度に差が生じてしまうのです。この診断精度の差を埋めるため、通常、肺がん検診では第一読影医と第二読影医によるダブルチェック方式を採用し、さらに肺がん検診の読影医には特定の条件を設けることで、診断の精度管理が行われています。

一般診療における胸部X線検査

一般診療ではまず、「咳が続く」「息切れがある」などの症状がある患者さんに対して胸部X線検査を行います。診療の合間に、必要に応じてX線画像を撮影し、その場で読影して患者さんに説明します。

ただ、このような診療の合間での読影には課題があります。時間的に余裕がある場合はじっくりと読影できますが、忙しいタイミングでは読影に充てられる時間が限られてしまいます。また、肺炎などによる明らかな異常があると、その他の小さな異常を見逃しやすくなることもあります。さらに、初めてX線検査を行う場合には、過去の画像との比較ができないため、小さな異常を見つけることが難しくなってしまうのです。

画像診断とAI

しかし、AIを活用した診断支援システムの開発により、これらの課題を解決する可能性が出てきました。コンピュータ支援診断(Computer-aided Diagnosis:CAD)は、胸部X線検査やCT検査などの画像診断において、病変をコンピュータにより定量的に解析した結果をセカンド・オピニオンとして医師(放射線科医)に提示するものです。1998年にはアメリカにて乳がん検出CADがFDA(米国食品医薬品局)の認可を得たものの、様々な理由から臨床現場への普及までには至りませんでした。しかし、その後、深層学習により問題点が大幅に解消され、AIによる画像診断支援システムの開発が急速に進展しました。

スタンフォード大学の研究では、100,000症例の胸部X線画像とその診断名を教師データとして利用し、病変検出用AIを構築しました。その結果、肺がんなどの異常陰影の検出精度は放射線科医と同等以上であることが示されています。また、日本でもAIを活用した胸部X線画像の診断支援システムが、一般診療所でも利用可能となってきました。このシステムを使用することにより、放射線科医や呼吸内科医など、画像診断や肺がん診療を専門にしていない医師でも、専門医と同等の診断精度をリアルタイムで得ることが可能となります。

胸部X線画像の「AI診断支援システム」を体験してみて

総合内科専門医である筆者も最近、胸部X線画像のAI診断支援システムを体験しました。私が診療所で実際に肺がんと診断した患者の胸部X線画像を、AIで解析してもらいました。

私自身の胸部X線画像の読影レベルは、放射線科医には及びませんが、それなりに小さな肺がんも見つけてきた自負があります。AIに求めるレベルとしては、「時間的に余裕のある状況では見つけることができるが、状況によっては見逃してしまう可能性があるような、比較的小さな異常をAIが検出してくれればありがたい」ぐらいのイメージでした。

では実際に体験してみてどうだったかというと、筆者の予想をはるかに上回る精度でした。
私が比較的小さな異常を見つけて、結果的に手術で治癒した肺がん患者の胸部X線画像を解析してもらったところ、その異常は正確に検出されました。さらに驚いたことに、その患者の1年6か月前のX線画像でも、同じ部位の異常を検出したのです。

私は肺がんを疑う異常を見つけた際には、必ずその患者の過去の画像を見直します。肺がんがあると分かった状態で改めて過去の画像を見ると、ごくわずかな異常を見出せる場合があります。ですがこの患者の場合は、肺がんがあるとわかっている状態でも、過去の画像では異常を見出せませんでした。それにも関わらず、AIは異常を検出してくれたのです。

AIの活用により肺がん診断は変わるか?

実際に体験してみて、AIを活用することにより小さな異常を見逃すリスクを減らせるだけでなく、これまで認識できなかった異常すら検出してくれる可能性があることを実感しました。私自身、何度も経験してきましたが、肺がんは早期に発見することが難しく、通常、診断された時点で病状がかなり進行してしまっているというケースが多いです。しかし、AIをうまく活用すれば、今までは困難と思われていた胸部X線検査での肺がんの早期発見が実現できる可能性があります。私はそのことに大いに期待しています。

[プロフィール]
岡田 有史

総合内科専門医、日本スポーツ協会公認スポーツドクター。

弘前大学医学部および同大学院卒。2012年に父より岡田医院(京都府木津川市)を継承し、地域医療のために従事。大学から始めたテニスが趣味の領域を超え、2018年よりプロテニス選手のスポンサーを開始。2020年に日本スポーツ協会公認スポーツドクターを取得し、資格を活かすため株式会社next geneを設立。地域医療発展のために診療を行いつつ、アスリートのパフォーマンス向上のため活動している。