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スマホで手軽に楽しむ「バーチャルミュージアム」──いつでも・どこでも美術館巡りが可能に?

2023.08.01(最終更新日:2023.08.01)

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2020年、新型コロナウイルス感染症の流行により、世界中の美術館が休館を余儀なくされました。この緊急事態の中で開発が進んだのが「バーチャルミュージアム」です。これはインターネットを経由し、スマートフォンやPC、タブレット端末を使って、いつでも・どこからでもアート作品を楽しめるシステムです。外出が制限される中、世界中の数々の美術館が自宅で美術を鑑賞できる方法を提供し、ステイホーム中の人々を元気付けました。

広く普及したバーチャルミュージアムの中で、今回はスマートフォンから簡単に閲覧できるものを中心に、その魅力を紹介します。

「バーチャルミュージアム」の魅力とは?

バーチャルミュージアムは、ユーザーがいつ・どこからでもアートを鑑賞できることが最大の魅力ですが、他にもバーチャルならではの利点がたくさんあります。

360度、細部まで作品を鑑賞できる

1つ目は、あらゆる倍率で、あらゆる角度で作品を鑑賞できる点です。美術館では作品保護のため、作品の前にガラスやアクリル板が設置されていたり、テープが張られていたりすることが多々あります。そのため作品に近づけず、「細部まできちんと見られなかった」ということも多いのではないでしょうか。

バーチャルミュージアムなら障害物なくクリアに見られるのはもちろん、拡大・縮小も自由自在なので、肉眼では見られないところまでクローズアップすることが可能です。

また、バーチャルミュージアムには360度どこからでも作品を鑑賞できる機能が備わっているものもあります。人物像の背中や、陶磁器の底面など、普段鑑賞できない角度から見られるのも魅力です。

自分好みの環境で、誰にも邪魔されず鑑賞できる

2つ目の利点は、自分好みの鑑賞環境をつくれる点です。美術館の多くは作品保護のため照明を暗めに設定していますが、バーチャルミュージアムなら、スマホの液晶画面の輝度を調整するだけで、鑑賞に適した明るさにすることができます。

また、大規模な美術展では混雑で人の頭しか見えなかった……なんてこともありますが、当然バーチャルミュージアムなら誰にも邪魔されることなく、好きな作品を心置きなく鑑賞できます。

日本では見られない作品も、じっくり鑑賞できる

3つ目は、海外に行かなければなかなか見られないような作品を鑑賞できる点です。これは、オンラインであれば美術館側が低コストで展覧会を開けることが理由です。

美術館の展覧会は、大きく分けて「常設展」と「特別展」があります。常設展はその美術館の所蔵品を並べた展示のことであり、特別展はあるテーマに沿ってさまざまな美術館の作品を展示した期間限定の展覧会のことです。特別展では海外の美術館から作品を借りることもあり、美術ファンから常に注目されています。

しかし、他館から作品を借りるには美術作品専門の運送業者を手配する必要があり、輸送コストがかかります。そこで各美術館が提携し、「バーチャルミュージアム」でオンライン特別展を開催したことがありました。コストの問題で借りることができなかった作品の展示も可能となり、またテーマがニッチで集客が見込めないような特別展も、オンラインで気軽に開催できるようになりました。

さらに、コロナ禍には海外からの作品レンタルが不可能になったため、フランスのルーヴル美術館など大手美術館が「バーチャルミュージアム」を開設しました。作品の高精細画像が公開され、日本にいながら海外の美術作品をじっくり鑑賞できるようになりました。

個性あふれる「バーチャルミュージアム」

美術館の来館者数がコロナ禍以前の状態に戻りつつある現在も、バーチャルミュージアムはサービスが中止されることなく、むしろより多くの美術館が採用しはじめています。ここからは、各美術館の個性あふれるバーチャルミュージアムの一例を紹介しましょう。

来館者数世界No.1のルーヴル美術館が公開した「バーチャルツアー」

来館者数が毎年世界ナンバーワンを誇り、所蔵作品は約38万点、展示作品は3万点と「1週間かけても見きれない」といわれているのが、ルーヴル美術館です。レオナルド・ダ・ヴィンチの「モナ=リザ」が所蔵されていることでも有名ですね。

ルーヴル美術館は公式ウェブサイトで「バーチャルツアー」というページを公開しています。展示室のパノラマ写真を繋ぎ合わせて作ったブラウザ上の空間で、ユーザーはGoogleストリートビューのように視点や方向をタップやフリックで操作しながら、自由自在に歩き回ることができます。

バーチャルツアーには5つのコースがあり、「芸術家の降臨」「動く体」などテーマに沿った展示室を鑑賞できます。レンブラントやドラクロワなど、著名な芸術家の作品もじっくり見ることができます。

・ルーヴル美術館「バーチャルツアー」
https://www.louvre.fr/en/online-tours

建築業界向けビジネスを行う企業が構築した「バーチャルミュージアム」

コロナ禍で急速に普及した「バーチャルミュージアム」ですが、国内での浸透に貢献した企業が「Matterport」です。

Matterportは空間を3Dスキャニングし、デジタルデータ化するサービスを提供している企業です。主に建築・不動産業界向けに、完成後の建物のイメージ図や、オンライン上での内見などを手掛けています。このMatterportが、展示室をスキャンし、バーチャルミュージアムを構築するサービスを多くの美術館に提供しました。

実際にMatterportが作成したバーチャルミュージアムの一つが、森美術館(東京都)の特別展「未来の芸術展」です。この特別展では、美術館全体の3D模型が画面上に現れ、好きな展示室を選択できます。展示品をタップすると解説テキストのほか、作品によってはYouTubeにアップされた動画が埋め込まれており、学芸員のギャラリートークを視聴できます。

Matterportが制作したバーチャルミュージアムにはVR機器との連携機能も備わっており、VRゴーグルを使えば、実際に美術館に入り込んだような臨場感あふれる体験が可能です。

・森美術館「未来と芸術展」3Dウォークスルー特別公開
https://www.mori.art.museum/jp/digital/03/

バーチャルミュージアムのプラットフォーム「MU」

バーチャルミュージアム「MU」は、日本の複数の美術館が提携し、それぞれの収蔵品をオンラインで鑑賞できるプラットフォームです。一つのサイトで複数の美術館の作品を見られるのが特長です。

「MU」では、美術館の特別展のように、特定のテーマに沿った企画展が常時開催されています。その中には「MU合同企画展」と題して、世界各地の美術館の作品を一堂に集めた展覧会も行われています。2023年4月28日から6月25日までの期間では、「お酒とアートに、ほろりと酔う」というテーマの企画展が開催され、アメリカ・ヨーロッパ・日本など、各地の美術館に所蔵されている「お酒」を描いた作品が展示されました。

・MU
https://museum-u.com/

江戸庶民になって、江戸の街を駆け巡る!

2025年度まで大規模工事のため休館中の江戸東京博物館(東京都)が公開したアプリ「ハイパー江戸博Hyper Edohaku」は、ゲーム制作会社ライノスタジオとの共同開発で生まれたバーチャルミュージアムです。現在、「江戸両国編」と「明治銀座編」の2種類が公開されており、それぞれ江戸東京博物館に展示されている江戸時代の両国・明治時代の銀座の町並みの模型が3Dで再現されています。

プレイヤーは町の中に隠された江戸東京博物館の所蔵作品を探していき、すべての作品を回収すればゲームクリアとなります。見つけた作品をタップするとキャプション(説明文)が表示され、江戸庶民の暮らしやカルチャーも学ぶことができます。作品だけでなく、ゲームプレイと直接関係のないモブキャラクターも実際の浮世絵に描かれている人物を再現しているなど、細かな作り込みがなされています。

ただ作品の写真を見るだけではなく、ゲームをプレイしながらのアート体験ができる点も、バーチャルミュージアムならではの楽しみ方ですね。

・江戸東京博物館「ハイパー江戸博 Hyper Edohaku:江戸両国編」
https://hyper.edohaku.jp/ryogoku/
・江戸東京博物館「ハイパー江戸博 Hyper Edohaku:明治銀座編」
https://hyper.edohaku.jp/ginza/

目覚ましい発展を続ける「バーチャルミュージアム」

今回はスマホで見られるバーチャルミュージアムをいくつか紹介しましたが、バーチャルミュージアムは現在も進化を続けています。メタバース(インターネット上につくられた仮想空間)にギャラリーをつくるもの、AR(拡張現実)機能を使って自宅の壁などに芸術作品を再現させる試みなど、新たな取り組みが行われています。また、現代アーティストが個展を開くなど、アーティスト側の新たな作品発表の場としても活用が期待されています。

普段美術館に行かない方も、ぜひバーチャルミュージアムで気軽にアート体験をしてみてはいかがでしょうか。

[プロフィール]
中村蒐
企画から執筆・編集まで多彩なメディアのコンテンツ制作に携わる編集プロダクション・かみゆに所属。得意ジャンルは日本史、世界史、美術・アート、エンタテインメント、トレンド情報など。