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スーパー・レストランの総菜作りはロボット活躍の時代へ フードテック躍進の舞台裏

2024.06.10(最終更新日:2024.06.10)

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スーパーマーケットやレストランで購入できるお惣菜。お手頃な価格で、冷めてもおいしい商品が増えていると思いませんか? 実はそれらを支えるのが、テクノロジーとAI。総菜作りの舞台裏では目まぐるしい進化が起こっています。しかもそれはおいしさを叶えるだけではなく、人手不足やフードロスを解決するような画期的な取り組みがすでに導入されているのです。そこで今回は、「お惣菜×テクノロジー」をテーマに、画期的な事例を3つご紹介していきたいと思います。

グルメバーガー店の揚げ物がヘルシーで美味。秘密は調理機器にあり

SHOGUN BURGER渋谷店の人気メニュー「クラフトバーガー(フライドポテトセット)」では、冷めてもおいしい揚げ物が人気になっている。(筆者撮影)

まずは、人気総菜の「揚げ物」をおいしく進化させる調理機器のご紹介から。富山の老舗焼肉店が全国展開している「SHOGUN BURGER(ショーグンバーガー)」では、ポテトや揚げ物にこだわりがあります。それは、衣が吸収する油を最大50%カットする分子調理機器「Dr.Fry(ドクターフライ)」を使用した“素材を活かした特殊な揚げ方”にこだわっている点にあります。これによってテイクアウトやデリバリーにも十分耐えられる、冷めても超サクサク食感がキープできると言います。確かに食べてみると、サクサク感や食後の軽やかさは誰でも実感できるようなわかりやすさがあり、従来の揚げ物との違いが分かるほど大きな感動があります。

このドクターフライは、フライヤー内の食材や油内の水分子をコントロールする分子調理機器。フライヤーに後付けで設置する電極パネルから1秒間に5万回という電波振動を発生させ、食材中の水分子を安定化。この食材本来が゙持つ水分量をキープ゚する仕組みによって、しっとりジューシーに、ふんわりサクッと軽やかな揚げ゙物に仕上がります。また、食材から水分が溶け出るのを防ぐことは突沸を減少させ、食材の匂い移りを抑制します。これにより油槽内への水分放出が緩やかになり、油の劣化を軽減しコスト削減に。さらには、揚げ物の調理時間も短縮することができ、総菜売り場の生産性向上にも寄与。現在は利便性や安全性の高い画期的な機器として、全国の飲食店、スーパーマーケット、食品工場など幅広く採用されています。

総菜盛りつけに、人の隣でロボットが活躍。

株式会社アールティ(東京都千代田区)が開発、販売する人型協働ロボット「Foodly(フードリー)」

続いては、総菜作りの現場でロボットが活躍する一般社団法人「日本惣菜協会」の大規模な取り組みについて。

食品製造分野においては、年々人手不足が深刻化しています。ところが、惣菜・お弁当などの中食の盛り付け工程は自動化の難易度が高いという問題点があり、工程の大半を人手で行っていました。その状況が変わるきっかけとなったのが、2020年。労働生産性向上のみならずコロナ禍によって工場における三密(密閉・密集・密接)回避の重要度が高まったことで、経済産業省が2020年度から「革新的ロボット研究開発等基盤構築事業」の推進をスタートしました。

この取り組みは国の予算を受けた本格的な事業。採択された日本惣菜協会主導で、小売り・惣菜製造会社や課題解決のためのトップ技術を有する企業とともに、ロボットフレンドリーな環境構築を目指して惣菜工場でのロボット試験導入がはじまりました。

開始後の注目事例としては、株式会社「アールティ」(東京都千代田区)が開発、販売する人型協働ロボット「Foodly(フードリー)」。食品工場の弁当・惣菜製造ラインにおいて、独自のAIビジョンシステム※によりばら積みの食材をひとつひとつ認識してピッキングし、ベルトコンベア上の容器に盛り付ける人型協働ロボットです。人ひとり分のスペースで稼働し、人と柵なしで隣り合って作業ができる特長があります。

そしてもう一つは、「コネクテッドロボティクス株式会社」(東京都小金井市)の事例。2024年の今年3月、惣菜盛付の全工程(容器供給~盛り付け~検査~包装)においてロボット化に成功しました。すでに「バリュ東海株式会社」の長泉工場の惣菜製造現場において、容器供給機に加えて、同社の開発した盛付ロボットシステム「Delibot(デリボット)」、「AI検査ソフトウェア」を搭載した、AI品位検査装置が導入されています。ひじき、ほうれん草の胡麻和え、ほうれん草の白和え、卯の花、などの和惣菜を扱う製造ラインをロボット化することに成功しています。

※コンピューターが自動的に大量の視覚データの中から特定のモノを発見する技術を活用したシステムのことで、事前に食材や容器の学習をさせることが必要。

イオンリテールがAIを活用した値引きシステムを導入

AIカカク利用シーンのイメージ。AIがその日その時に適切な値引き率を提示。総菜部門での成功により2024年5月には鮮魚部門や畜産部門にも拡大している。

最後は、総菜の「価格」をAI活用により最適化する「イオンリテール株式会社」(千葉県千葉市)の事例です。同社は総合スーパーマーケット界において売上高1位に君臨する大企業で、2023度の業績改善の要因として積極的なAI活用が指摘されるほど。2021年から総菜部門において値引き支援システム「AIカカク」の導入をはじめました。

AIカカクとは、販売実績や天候・客数などの環境条件を学習したAIが“その日その時”の需要を予測し、バーコードで読み取った商品情報と陳列数をもとに適切な割引率を提示するシステムのこと。商品のバーコードを読み取って陳列数を入力するだけで、適切な割引率のシールが自動印刷され、従業員はシールを添付すれば作業が完了します。データに裏付けされた価格で販売することで、導入前に比べロス率が1割以上低減され、さらには値引きや売り切り業務に関する社員の教育時間の低減にも成功。これにより適用部門が他にも広がり、2022年に日配品一部、2024年5月から畜産、水産部門へ拡大されることになりました。

忙しい時の救世主にもなる外食・スーパーでのお惣菜が、ますます美味しく、製造・販売現場でも最適化される流れは、食品業界における様々な課題を解決してくれるでしょう。さらなる浸透に注目したいところです。


<著者>
スギアカツキ
食文化研究家。長寿美容食研究家。東京大学農学部卒業後、同大学院医学系研究科に進学。基礎医学、栄養学、発酵学、微生物学などを幅広く学ぶ。在院中に方針転換、研究の世界から飛び出し、独自で長寿食・健康食の研究を始める。食に関する企業へのコンサルティングの他、TV、ラジオ、雑誌、ウェブなどで活躍中。