トラック業界、厳しい労働環境下で人材確保が困難に
まず、2024年問題とは何か、具体的に見ていきましょう。
国土交通省によりますと、国内の貨物は、輸送量を示す「トンベース※1」でトラックなど自動車が全体の9割を超え、残りが内航海運、鉄道、航空で分担しています。また、輸送量と輸送の距離を加味した「トンキロベース※2」では、トラックなどの自動車が約5割で、内航海運が約4割というのが、日本の物流の実態です。
※1 輸送トン数は、単に輸送した貨物の重量(トン)の合計。
※2 輸送トンキロは、輸送した貨物の重量(トン)にそれぞれの貨物の輸送距離(キロ)を乗じたもので、経済活動としての輸送をより適確に表わす指標となる。
つまり、トラックを主体とする自動車による輸送が、日本の物流の要なのです。
ところが、トラック輸送を担うドライバーの年間労働時間は全産業と比較して約2割長く、年間所得額が約1割低いという課題があります。
さらに、トラックドライバーは長時間の運転だけではなく、荷物の積み下ろし作業をおこなったり、また荷待ちの時間を調整しなければならなかったりなど、肉体的かつ精神的にストレスが多い職業だといえます。
こうした厳しい労働環境のため、有効求人倍率は約2倍と、なり手が少なく、また高齢化も進んでおり、このままでは日本の物流が円滑に行えなくなる可能性が出てきました。
現状打破のために行われた「労働基準法の見直し」「改善基準告示の変更」
そこで、このような現状を打破するため、2つの法改正が2024年4月から施行されることになったのです。
ひとつは、「労働基準法」の見直しです。時間外労働の上限が「制限なし」から「年960時間」に制限されました。
もうひとつが、厚生労働省がトラックドライバーの拘束時間を定めた「改善基準告示」の変更です。拘束時間とは、休憩時間を含む労働時間を指します。
具体的には、1日あたり「原則13時間以内、最大16時間以内(15時間超は1週間2回以内)だったものが、「原則13時間以内、最大15時間以内」に短縮されました。あわせて、宿泊を伴う長距離運行は週2回まで16時間(14時間超は1週間2回以内)と細かい規定が増えています。
また1ヵ月あたりでも変更があります。これまで「原則293時間。ただし、労使協定により年3,516時間を超えない範囲内で320時間まで延長可」と規定されていました。
それが「原則284時間、年3,300時間以内。ただし、労使協定により、年3,400時間を超えない範囲で310時間まで延長可」へ変更されたのです。
このような規制によって、トラックドライバーが働くことができる時間は減りますが、労働環境は改善し、それに伴う新しい技術の導入などによって、トラック物流の輸送能力は改善すると、国では見ています。
仮に、今回のような規制を行わない場合、2024年度には輸送能力が約14%(4億トン相当)が不足し、その後も規制をおこなわないと2030年度には約34%(9億トン)が不足する可能性があると、国は試算しています。
つまり、「2024年問題」とは、未来に向けて物流を改革するための分岐点だと言えるのではないでしょうか。
2024年問題に関連して注目される、DXの2つの方向性
「2024年問題」に関連して、注目されているのが、デジタル・トランスフォーメーション(DX)の活用ですが、大きく2つの方向性があると考えられます。
①法令遵守のためのDX
第1に、「法令遵守のためのDX」です。
物流事業者というと、大手数社の名前を思い浮かべる人が少なくないと思いますが、実際のトラック物流事業の多くは、中小事業者で構成されています。中小事業者は、大手事業者の下請け、孫請けという多段階の階層によって仕事を振り分けているのです。
そうした中小事業者の多くは、通常業務で電話、メール、WordやExcelといった基礎的なソフトウェア、そしてFAXなどを使っている場合が少なくありませんでした。そんな旧態依然とした事業体制では、2024年4月以降に細かく規定された労働基準に準拠することは難しいため、中小事業者が社内DX化を強化する動きが進んでいるところです。
ただ、トラック業界関係者らの声を聞いてみますと「中小事業者の場合、DXというレベルではなく、OA機器を買い替える感覚に近い」と言います。
例えば、トラックの運行記録をデータ化するデジタル・ドライブレコーダー(通称ドラレコ)を、これまでSDカードを使っていた形式から、通信を利用した車両の位置などを総括的に把握するシステムを導入するといったものなどがあります。
こうしたシステムは、日野自動車、三菱ふそうトラック、いすゞ自動車など日系トラックメーカーが総括的なビジネスプランとして製品化しており、事業者の事業規模や要望に合わせてカスタマイズして提供しています。
例えば、日野コンピューターシステム社は、通信型ドラレコや外付GPSによるリアルタイム位置情報や、CO2排出量や燃料消費、そのほかには遠隔で点呼を自動でおこなうe点呼サービス、点検管理サービス、そしてドライバーの健康管理システムなどを、ハードウェアのレンタルによって月額での料金設定としています。
各メーカー関係者らによりますと「特に中小事業者から、ここ1〜2年で問い合わせが一気に増えた」と市場の変化を肌で感じているとのことです。
いずれにしても、中小事業者が仕事の効率化を真剣に取り組み始めていることが、
「2024年問題」解決に向けたトラック物流事業変革のベースになっていることは間違いないようです。
②トラックの運行に直接係る法改正を伴う大規模なDX
第2の大きな括りでのDXとは、道路交通法や道路運送車両法など、トラックの運行に直接係る法改正を伴う大規模なDXです。
国は2023年3月31日、岸田首相を議長とする「我が国の物流の革新に関する関係閣僚会議」を設置し、商慣行の見直し、物流の効率化、そして荷主・消費者の行動変容などについての検討を始めています。
その中で、自動運転トラック用の専用レーンの設定や、高速道路上の車道以外の用地や地下を活用した物流専用の自動輸送の調査をおこなうとしています。
また、民間レベルでは、大型トラック、中小型トラック、そして軽自動車に至るまで、自動車メーカー各社(トヨタ、日野、いすゞ、スズキ。ダイハツは一時的に脱退)でつくる連携企業コマーシャル・ジャパン・パートナーシップ・テクノロジーズ(CJPT)が車両に関するデータを共有化する電子プラットフォームの構築を目指して協議しているところです。
こうしたDXを活用したさまざまなテックの社会実装が進み、「2024年問題」の課題が解決されることを期待したいと思います。
桃田 健史
自動車ジャーナリスト、元レーシングドライバー。専門は世界自動車産業。エネルギー、IT、高齢化問題等もカバー。日米を拠点に各国で取材活動を続ける。日本自動車ジャーナリスト協会会員。