当社サイトでは、サイト機能の有効化やパフォーマンス測定、ソーシャルメディア機能のご提供、関連性の高いコンテンツ表示といった目的でCookieを使用しています。クリックして先に進むと、当社のCookieの使用を許可したことになります。Cookieを無効にする方法を含め、当社のCookieの使用については、こちらをお読みください。

ついに“公道での無人運行”が始まった「自動運転バス」…運転士不足による影響が懸念される「2024年問題」解決のカギとなるか?

2023.11.08(最終更新日:2023.11.08)

読了時間目安 7

シェアする

23年5月、福井県永平寺町で運転士や乗務員が乗っていない無人の自動運転の小型バスの運行が国内で初めて開始されました。実は、乗務員が添乗している自動運転バスはもう少し前から運行を始めており、20年9月には東京都大田区が大規模複合施設の敷地内で、また20年11月には茨城県境町が「公道」で、時刻表通りの定常運行を開始しています。

このように自動運転バスは技術的にはすでに実用化のレベルに達しています。とはいえ、これが広く日常に定着していくまでには制約や課題がいくつも残されています。この記事では、自動運転バスの現状と最新動向をレポートします。

福井県永平寺町、国内初の「無人運転士」運行サービス開始

23年5月22日、ヤマハ発動機と産業技術総合研究所、三菱電機、ソリトンシステムズが共同で、決められたコースや敷地など、限定された条件下でのシステムによる自動運転を指す「レベル4」の無人運行サービスを国内で初めて開始しました。運賃は片道大人100円。

福井県永平寺町の山間部で、ほかの自動車や通行人が少ないという条件下ではあるものの、国内で自動運転バスの運行が始まった記念すべき日になりました。

ヤマハ発動機の小型バスを使用し、約2kmを無人で走行する (出典:4社のプレスリリースより)

「運転士や車掌がいない」と聞くと「トラブルが発生したらどうするのか」と不安に感じる人もいるのではないでしょうか。

「レベル4」では無人運転の条件として、遠隔監視センターのスタッフが常に車両やその周辺、乗客等の状態を自動運転バスに逃走されたカメラやセンサーで監視することが義務づけられています。そのため、車両故障はもちろん、万一の事故や車内での乗客の転倒や病気など、異常が起こると遠隔監視センターのスタッフが無線で声がけを行なったり、すぐにかけつけたりできる仕組みになっています。

20年9月、東京でハンドルのない自動運転バスが運行開始

上でみた永平寺町の事例は「無人運行」ですが、乗務員が添乗した自動運転バスの運行は実はもう少し前に始まっています。国内で初めて定時運行(時刻表通りに運行) を開始したのは東京都大田区。20年9月22日、大規模複合施設「HANEDA INNOVATION CITY」(HICity)の広大な駐車場内で、乗客を乗せて巡回する自動運転バスの運行を始めました。 非常時には乗務員がコントローラで操作し、対応にあたるとともに、遠隔監視も行われています。

広大な駐車場を巡回して乗客を運ぶ自動運転バス『NAVYA ARMA』(ナビヤ アルマ) 筆者撮影

21年12月には、それまで事故なく安全に運行してきたことが評価され、次の段階として「HICity」から公道に出て、羽田空港第3ターミナルを結ぶ往復ルートを時刻表に沿って運行することになりました。

実績を積み上げながら、東京のような都会でも着実に「レベル4」の自動運転バスの実用化が進められているのです。

今後、運転士のいない「レベル4」で運行するために、現在は国土交通省 関東運輸局や東京都公安委員会、警視庁東京空港警察署からそれぞれ許認可を得るための手続きを進めているところです。

羽田みらい開発、鹿島建設、ソフトバンクの子会社のBOLDLY、マクニカ、日本交通の協力で実現 筆者撮影

初めて「公道」での定常運行を実現した茨城県境町

同じく乗務員が添乗する自動運転バスの事例としては、20年11月25日、茨城県境町が5年間で5.2億円もの予算を確保して、ソフトバンクの子会社BOLDY(ボードリー)やマクニカと連携し、ハンドルのない自動運転バスの定時運行を開始しています。

電車の駅がなく、高齢の住民が多い境町では、公共交通機関が強く求められていたものの、現行のバス会社は人手不足やドライバーの高齢化、経営難などの課題を抱えており、新規でバス路線を増やすのは困難でした。

そこで自治体が、少ない人手でローコストに運用できる自動運転バスの実用化に積極的に取り組むことに決めたのです。

境町は3台の自動運転バスを導入 筆者撮影

このバスは当初、多目的ホールと道の駅を繋ぐ往復約5kmのコースで定時運行を開始しました。

順調に運用できることを確認すると、翌21年2月には病院や子育て支援センター、郵便局、小学校、役場、銀行など、住民がよく利用する施設前にバス停を設置し、利便性が大きく向上しました。

そして、21年7月には2路線に増やして全長約20kmにまで延伸します。しかも、新設した路線の終点は境町と東京駅を繋ぐ高速バスの発着ターミナル。境町の自動運転バスは、“町内の足”から東京駅への移動を容易にする交通機関へと進化しました。

自動運転バスの内部。運転席はない。座席は11。 筆者撮影
BOLDLYは遠隔監視システム「ディスパッチャー」で自動運転バスの内外の様子を常時監視 筆者撮影

バスやトラックの運転士不足が顕著になる「2024年問題」を前に、超高齢社会で顕在化する課題をICT技術で解決しようと、多くの企業が自動運転バスの開発に取り組んでいます。そして、道路交通法や条令、さまざまな許認可の壁を乗り越え、安全性を向上しながら、自動運転バスは着実に実用化が進められているのです。



<著者>
神崎洋治
TRISEC International代表取締役

ロボット、AI、IoT、自動運転、モバイル通信、ドローン、ビッグデータ等に詳しいITジャーナリスト。WEBニュース「ロボスタ」編集部責任者。イベント講師(講演)、WEBニュースやコラム、雑誌、書籍、テレビ、オンライン講座、テレビのコメンテイターなどで活動中。1996年から3年間、アスキー特派員として米国シリコンバレーに住み、インターネット黎明期の米ベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材した頃からライター業に浸る。「ロボカップ2018 名古屋世界大会」公式ページのライターや、経産省主催の「World Robot Summit」(WRS)プレ大会決勝の審査員等もつとめる。著書多数。