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スピーカーを身に纏う!? 「音が鳴る布」のまさかの使い道とは?まるでSF、進化を遂げる音響テクノロジー

2024.06.03(最終更新日:2024.06.03)

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聴覚は私たちに備わっている重要な感覚のひとつ。人間が受け取る感覚情報のうち、視覚に次ぐ2番目に多い情報量を届けてくれます。視野外の危険を知らせてくれるだけでなく、映像に臨場感を与えてくれたり、音楽で心を癒やしてくれたりと、人生をより豊かにしてくれます。そんな音を発する音響機器が、近年目覚ましい発展を遂げていることをご存じでしょうか。今回は、まるでSFの世界を思わせるような最先端の音響テクノロジーを紹介していきます。

身に纏える“布型スピーカー”誕生

(※写真はイメージです/PIXTA)

最初に紹介する技術は、産業技術総合研究所が開発した布型のスピーカー「ファブリックスピーカー」です。まるで近未来SFに出てきそうな代物ですが、布と布のあいだに、薄く柔軟なフィルムと銀メッキ短繊維の伸びる電極を挟むというシンプルな構造でできています。

服や寝具の一部として使用することができ、伸び縮みしても音が変わらないのが特徴です。形状が特殊なのはもちろんのこと、その丈夫さも規格外。ハンマーで叩いても壊れず、音が途切れることもありません。

将来的にさまざまな活用方法が考えられますが、面白い活用としてはスマートウォッチの体調管理機能との連携。心電図機能や血圧測定機能を持ち、なかには、医療機器としての承認を得ているモデルもあります。

実際にどのように活用するかというと、なにか体調に異常が起きたときはスマートウォッチ自体での通知のほか、スマホなどのデバイスに通知が送られるのが一般的です。しかしファブリックスピーカーを搭載した服をスマートウォッチに連携した状態で着用していれば、「普段着用している服から音が出て周囲に異常を伝える」ということも可能になります。現在、ファブリックスピーカーは自動車の警笛レベルの音量も出すことができるため、かなり広い範囲に異常を知らせることもできそうです。

聞きたい音を聞きたい人だけに届ける“オープンイヤー型イヤホン”

(※写真はイメージです/PIXTA)

続いて紹介するのが、NTTメディアインテリジェンス研究所が開発した「パーソナライズドサウンドゾーン」。同技術では再生される音に逆相の音を当てることで、範囲外に漏れ出る音を打ち消し、特定の範囲内でのみ音が聞こえるようになります。

また将来的に目指しているのが、周囲から聞こえてくる不要な音にも同様に逆相の音を当てることで雑音を打ち消し、必要な音だけを透過させる仕組みです。実現すれば、たとえばリモートワーク中に自宅で会議をしているときに、生活音は相手に伝わらず、確認したい音だけは透過させて聞くことができます。

NTTソノリティ株式会社はこの技術を使って、2022年に初のコンシューマー音響ブランド「nwm(ヌーム)」を設立しました。nwmはオープンイヤー型のイヤホンのため、通常のイヤホンとは異なり、耳を塞ぐ装着の煩わしさや長時間使用による疲れ、周囲の状況を察知しづらくなるなどのデメリットが少なく、音漏れは最小限に。自分のしたいことをしながら周囲ともシームレスに繋がることができます。

オープンイヤー型イヤホンの大きな特徴として、周囲のリアルな音とイヤホンから聴こえるバーチャルの音を同時に聞くことができる点が挙げられます。このような音におけるリアルとバーチャルの融合は「音響XR」と呼ばれており、サービス実現に向けたトライアルが進められています。

2023年に開催された「第180回NTT東日本N響コンサート」のサテライト配信公演では、この技術を用いてコンサート会場に解説音声を流す取り組みが実施されました。通常であればコンサートの音と混ざって聞き取れない解説音声ですが、正面からはコンサート音声が流れ、解説音声はオープンイヤー型イヤホンによって頭の上から聞こえるため、解説音声が聞き取りやすくなるという試みです。

音声・映像・照明情報をすべて統合!? 空間臨場感をそのままに再現する異次元な音響テック

(※写真はイメージです/PIXTA)

2020年にコロナ禍によりライブエンターテインメント市場は大きな打撃を受けましたが、人流も徐々に増え、大規模有客イベントの増加や大型音楽フェスの復活など、回復の兆しが見えています。

ヤマハ株式会社の「General Purpose Audio Protocol(GPAP)」は、音声だけでなく映像や照明の制御信号など、ファイル形式の異なるさまざまなデータをオーディオデータ(wavデータ)の形式に統一し、記録・再生することができる技術です。

通常、音声や映像のデータ、照明や舞台装置などの制御信号は、それぞれ独自のフォーマットで記録され、異なる記録ハードウェアに保存されます。これらをシンクロさせて同時に再生する場合には、独立して記録されている各データを同期させるための煩雑な処理が必要となります。

GPAPではすべてのデータをひとつのタイムライン上で記録しているため、簡単にシンクロ再生することができます。これを利用すれば、高臨場感のあるライブビューイングのリアルタイム配信が可能になるほか、自宅でも音楽や映像とスマート照明を同期させた没入感の高いコンテンツを楽しめます。

SONYの「360 Reality Audio」も高い没入感を追及している音響テックの1つ。ボーカルやコーラス、楽器などの音源1つひとつに位置情報をつけ、球状の空間に配置。従来のステレオやサラウンドと異なり、アーティストのライブ会場で音に包まれているような臨場感溢れる立体的な音場を体感できます。

さらに360 Reality Audio認定ヘッドホンを使用すれば、専用のアプリでヘッドホンの音響特性を個人に最適化することができます。実は人間の音の聞こえ方は耳や頭の形によって個性があり、聴感特性と呼ばれています。アプリで撮影した耳の形を解析し、利用者の聴感特性に応じてアプリを最適化することで、リアルの世界で音を聴いている時と同じような正確な音場を再現してくれます。

進化する音響テクノロジーが今後の生活に与える影響

(※写真はイメージです/PIXTA)

音響テクノロジーと一言で言っても、消費者のニーズの多様化に伴い求められる役割は大きく変わります。パーソナライズドサウンドゾーンのように他者との繋がりを大切にしながらも音を楽しむことができる技術が進む一方、360 Reality Audioのような没入感を求める技術も発展を続けています。同じコンテンツを楽しむとしても、その楽しみ方も多様化していくことが考えられます。音響テクノロジーがエンターテインメント業界に与える影響は大きいですね。

VRライドなど既存のアミューズメントと新しい技術の複合は以前から見られていますが、音響テクノロジーも既存の技術に新しい価値を与えることを想定して開発されています。たとえば前述のファブリックスピーカーを部屋の壁に貼り付けることによって、イヤホン装着の違和感を感じることなくVRの世界に没入するなどの使用方法が想定されます。今後、バーチャルの世界はリアルにますます近づいていくのではないでしょうか。

日々進歩を続けている音響テクノロジーの世界。近未来SFのような暮らしも、意外と近くまで来ているかもしれません。


吉田康介(フリーライター)