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国産メーカーの技術力が結集! 猛暑をしのぐための繊維テック最新事情

2024.05.22(最終更新日:2024.05.22)

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気象庁の発表*1によると、今年の夏は全国的に平均気温が例年より高くなる見通しだとか。今年もまた蒸し暑いあの日々がやってくるのかと思うと、気分が滅入ってしまいそうです。そんな猛暑や汗による不快感を衣類で軽減しようと果敢に取り組んでいるのがアパレルメーカー。そこには、日本企業が得意とする繊維のテクノロジーがフル活用されているのはご存じでしょうか? 暑いからこそ着て涼しくなる、そんな猛暑対策に役立つ繊維テックの例を紹介します。

髪の毛より細い繊維で速乾性を実現

ユニクロの「エアリズム」タンクトップ(ユニクロ提供)

ヒートテックと共に肌着の代名詞的存在なのが、ご存じ、ユニクロの「エアリズム」。生地に触れるとひんやり感じる、汗を吸っても乾くのが速い、といった機能を実感されている方はきっと多いと思います。

その「サラッと快適」な着心地を叶える秘密は、エアリズムを構成する髪の毛より細い繊維。極細繊維の毛細管現象によって、汗をすばやく吸収・拡散して速乾性を実現。また、極細繊維を均一に紡ぐことで生地表面の凸凹を少なくしてなめらかな肌触りになり、接触冷感を可能に。

エアリズムの仕組み(ユニクロ提供)

実は、同じエアリズムでも男性用と女性用では使用されている主素材が異なります。

「多くの汗をかく男性用インナーは吸汗性と速乾性を備えた心地よさを」との思いでユニクロと東レが共同開発したのが、ポリエステルの極細繊維を用いた生地。その繊維の細さは、なんとヒトの髪の毛の約12分の1 。極限まで細く、柔らかい繊維にすることで、なめらかで軽い着心地のインナーが実現しました。インナーを着用しない男性も多かった中、「暑い日ほど、エアリズムを一枚重ねると快適という新常識」が男性たちにも広まったのです。

一方、女性はブラジャーと肌着などインナーを重ねて着る事ことが多いため、衣類内温度がやや高く、ムレや汗冷えを起こしやすい傾向にあると分析。吸汗速乾性に加え、ムレを解消するために一番快適な素材を突き詰めた結果、たどり着いたのがキュプラという素材です。

キュプラはコットンリンター(コットンの種の周りについている産毛のような繊維)を原料とする再生繊維で、優れた吸湿性と高い水分率を保つため、しっとりと心地よく感じられるのが特徴です。女性用エアリズムは、このキュプラが持つ本来の特徴を生かしながら、インナーに求められる強度や機能をおぎなうため、ナイロンを複合仮撚したユニクロ独自のキュプラが使用されています。

今やインナーに限らず服やキャップやアームカバーなど小物にまでアイテム拡大しているエアリズム。最近は、服の肌の間の衣服内温度を調整する機能が「屋内と屋外で気温差が大きくなる冬にも快適」と、一年を通して着用する人も増えているそうです。

不快な汗悩みに…珪藻土の多孔質構造を繊維で再現

グンゼの「アセドロン」(グンゼ提供)

梅雨時や夏場の汗によって引き起こされるベタつきや不快感の根本的解消のために開発し、今年の春夏から販売されたのがグンゼの「アセドロン」。グンゼは蚕糸業の振興を目的として1896年(明治29年)に創業された老舗インナーメーカー。その老舗が長年培った技術開発力を存分に発揮しています。

先立ってグンゼが行った調査によると、「実は生活者が十分に満足できるインナーは少ない」(41.9%)という結果に*2。グンゼは、夏の不快感を解決できていない大きな要因として“汗の悩み”に着目。そこで、汗によるさまざまな悩みをソリューションする新ブランドとして「アセドロン」を展開するに至りました。

これまでにない高い吸湿速乾性を求めるにあたり、着想したのが、最近バスマットなどにも使用されて注目を集めている、吸水力に優れた珪藻土(けいそうど)の多孔質構造。目に見えない無数の隙間が衣服内の湿気を素早く吸い込んで吐き出す構造を、長年の技術力によって繊維で再現し、より快適に進化させました。

生地の構造(グンゼ提供)

ソリューションを叶える要となるその生地は、吸湿性が高くなめらかなレーヨンとドライ感の強いポリエステルの混紡によるもの。糸の芯部のレーヨンに吸放湿性を高める物質を結合させるという方法で、従来のグンゼ商品より湿気を持続的に吸放湿するのが特徴です。

さらに、糸の鞘部(さやぶ)には空隙をつくって水の通り道を確保し、汗を素早く効果的に拡散。「汗のベタつきを“サッ、シュッ、パッ”と瞬時に消し去る」と同時に、ベタつきを残さない、肌離れのよい着心地を実現しました。

「アセドロン」ブランドのアイテムは、汗悩み解決に直結するインナーのほか、足のムレ対策に最適なソックス、寝苦しい夏のおやすみ時間を快適に過ごすためのパジャマなど多岐に渡ります。

日傘効果を応用! 肌にフィットするUV・暑さ対策

ナイガイ「日傘美人」シリーズ・アームカバー(ナイガイ提供)

暑い夏、外出時に日傘をさすと直射日光が遮られ、ささずに歩くより暑さが和らぐ感覚は、多くの人が経験したことがあるはず。その論理を応用したのが、ナイガイが今春発売した「日傘美人」シリーズです。

その日傘効果を実現させたのは、NEO COLD®という素材。主原料である水晶とレアメタル鉱石をブレンドした放熱パウダーをプリントした素材で、体から発生する熱を外へ逃すと同時に、太陽からの遠赤外線をブロックする機能があります。

同素材は、人体から発生する熱を素早く吸収し、遠赤外線にして放熱。その変換された遠赤外線は太陽光に含まれる遠赤外線遮断し、衣服内を常に快適な状態に保つという仕組みです。放熱パウダーがプリント加工されており、放熱と遮熱の機能は、洗濯してもほとんど低下せずに持続します。

今春夏はアームカバーやネックカバーの展開ですが、肌にフィットさせて着用することで、UVケアや接触冷感・遮熱の効果を発揮するため、さらなるアイテム拡大も期待されるところです。

持続冷感プリントの衣類、「素脚よりクール」なストッキングも

今回は3つのメーカーによる繊維テクノロジーにフォーカスしましたが、毎年記録を更新するかのような暑さを少しでも快適に過ごせるようにと、下着メーカーや靴下メーカーはその開発によりいっそう力を入れています。

ピーチ・ジョン「クーリッシュ」シリーズのインナー(ピーチ・ジョン提供)

例えば、ピーチ・ジョンが今春発売した「クーリッシュ」シリーズのインナーやパジャマには、共通して接触冷感プリントが採用されています*3。持続冷感プリントとは、特殊なマイクロカプセルを練り込んだ、冷たさを持続する特殊なプリント。それを背中部分に施すことで、背中から涼しく快適に過ごすことができるものです。

クーリッシュシリーズはもともと同社が夏向けインナーとして毎年アップデートを重ねながら販売していましたが、今年、創立30周年記念を迎えた記念として、ロッテのアイス「COOLISH」とのコラボが決定。「高温多湿な日本の夏を少しでも快適に過ごせるように」との思いが込められているということです。

また、アツギのストッキングブランド「アスティーグ」の「アスティーグ【冷】」は、レッグ部分に、放熱性を高める特殊な編み設計と、加工技術の組み合わせにより、涼しさを追求した素材(クールエナジー(R))を採用。「素脚よりもクール」をキャッチコピーに、夏仕様のストッキングとして販売しています。


日本のメーカーが得意とする繊維テックをご紹介しましたが、 「着ること、身につけることで涼しくなる”」衣類やアイテムを活用しながら、夏に備えたいですね。


参考:
*1 https://www.data.jma.go.jp/cpd/longfcst/kaisetsu/?region=010000&term=P6M
*2 「夏用商品利用と利用者満足」調査。調查人数:3000人 調査期間:2023年4月
調査方法:自社によるインターネット調査
*3 ピーチ・ジョンの持続冷感とは、特殊なプリント部がからだに触れたり、離れたりすることによって、プリント部が吸熱・放熱を繰り返すこと。

<プロフィール>
川原好恵

文化服装学院ファッションマーチャンダイジング科出身。ビブレで販売促進、広報、店舗開発などを経て現在フリーランスのエディター・ライター。ランジェリー分野では、海外のランジェリー市場について15年以上定期的に取材を行っており、最新情報をファッション誌や専門誌などに寄稿。