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放置すると野菜や果物、穀物の生産不足も引き起こす…姿を消しつつあるミツバチを救え!世界中の企業が参戦する「養蜂テック」とは

2024.03.28(最終更新日:2024.03.28)

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ミツバチは蜂蜜を作るだけでなく、「世界の食料の9割を占める100種類の作物種のうち、7割はハチが受粉を媒介している」といわれるほど農作物の生産に大きな役割を果たしています。しかし、近年ミツバチの個体数は減少の一途を辿っているのが現状。そこで、現在ミツバチを育てる養蜂の現場ではAIなどの技術を活用しています。ミツバチの減少を食い止めるため、さまざまな対策が取られていました。

ミツバチ減少の背景

ミツバチの数が減少している要因には、さまざまなものがあります。

蜜源の減少

まず、養蜂家の老齢化による廃業に伴うもの。土地の開発や離農による農業地の減少などが原因と思われる、蜜源の減少も問題になっています。

蜜源にはアカシアやレンゲ、クローバー、菩提樹※などさまざまな植物がありますが、農林水産省の調べによると、蜜源植物面積は1985年に比べて2018年には約3分の1に減少。ミツバチが生息する場所はどんどん失われています。

※ 菩提樹(ボダイジュ):和名は「シナノキ」、海外では「リンデン」と呼ばれ、リラックス効果のあるハーブとしてアロマテラピーやハーブティーによく使われる。

女王蜂がいるのに働き蜂がいなくなる!?

巣に女王蜂や蛹などがいるにもかかわらず、働き蜂がいなくなってしまう「蜂群崩壊症候群」も世界中で問題視されています。蜂群崩壊症候群の原因は農薬の影響が少なくないとされていて、なかでも神経伝達を攪乱する作用(神経毒性)をもつ「ネオニコチノイド系」の農薬がミツバチの神経系を狂わせ巣に戻れなくなっているという指摘も。ほかにも、ミツバチの体に寄生するダニによる被害も見逃せません。

ミツバチ減少を食い止める…「Bee Sensing」の取り組み

これらの問題を解決するため、日本では養蜂現場でミツバチの管理をおこなう支援アプリケーションBee Sensingが登場。元グローバルIT企業勤務で、現養蜂家の松原秀樹氏が代表となり開発しました。

Bee Sensingは巣箱のなかにセンサーを取り付け、温度と湿度を計測して巣箱内の状態を記録することでミツバチの健康状態を把握できるシステム。観測したデータを巣箱から遠く離れた場所で確認できるのも特徴の1つで、これまで養蜂家にとって負担の重い作業だったミツバチの健康管理が効率化されます。さらに測定したデータと作業内容は蓄積され、AIが養蜂のノウハウを学習。従来なら熟練の技や経験が必要だったミツバチの管理をシステム化し、養蜂への参入ハードルを低くします。

また、巣の点検のために巣箱を開けるのはミツバチにとって大きなストレスです。Bee Sensingを活用すれば巣箱の開閉を最小限に抑えられ、ストレスフリーな環境でミツバチを健康に育てることができるでしょう。ミツバチの健康異常の早期発見とともに、AIによる学習で収量アップも期待できるBee Sensing。作業の効率化だけでなく、養蜂業の裾野を広げる一助になるのではないかと期待されています。

世界でも続々と開発が進む、ミツバチ管理システム

イスラエルのBeewise社も、AIを搭載した巣箱管理システムを開発。同社の「BeeHome」は太陽光発電を利用した自律的な運用が可能で、24時間365日巣箱をモニタリングします。ミツバチを監視するのは、巣箱内に設置されたロボット。巣箱は従来のものよりずっと大きく、巣箱内中央の通路にいるロボットがコンピュータービジョンを通して取得した画像をAIがデータに変換します。ミツバチに異変が確認されると、即座にロボットが適切な処置を施します。

BeeHomeはミツバチに病気が見つかった際には巣箱に数滴の薬を投下したり、ミツバチに有害な害虫が見つかると必要量の駆除剤を散布したりと幅広い運用が可能。もちろん薬や駆除剤の量も細かく調節できます。水やエサの補充もロボットが自動でおこなうなど、これまで養蜂家がおこなってきた作業をロボットがリアルタイムで代替できるのです。

ほかにも、アイルランドの「ApisProtect」は巣箱に設置するセンサーを開発。小さなセンサーを巣箱に取り付けることで、巣箱内のデータを収集してApisProtectサーバーに送信しミツバチの健康を管理します。高度なセンサーとAI機械学習の力でミツバチのコロニーを守る同システムでは、コロニーを強化するためにはどこに注力するべきかなどのアドバイスをAIがおこなう機能もあります。

また、何千もの健全なコロニーと弱っているコロニーの例などから学習し、ミツバチの健康状態を改善する提案をしてくれるのも魅力です。ちなみにこのセンサーは、現在アメリカの商業養蜂家向けに巣箱あたり月額3ドルから提供されています。Bee Sensingと同じく、これまで人が担ってきた養蜂作業をロボットやAIに任せられる技術は、養蜂とミツバチの未来を守る可能性があるとして世界中で開発が進んでいます。

国内ではミツバチの目撃情報マップが登場

ニホンミツバチの巣に新しい女王蜂が生まれると、片方の女王蜂は働き蜂の約半数を引き連れて新たな巣を作る「分蜂(巣分かれ)」をおこないます。ニホンミツバチを栽培するにはこの巣分かれした群れを捕獲するのが一般的ですが、どこに群れがいるのか特定するのが難しいという問題も。

そこで開発されたのが、分蜂マップです。分蜂マップは日本中の愛好家がニホンミツバチの巣分かれ情報を投稿し、分蜂時期を把握できるプラットフォーム。2023年には全国で5,000件を超える情報が投稿されました。投稿された目撃情報は年ごとに確認が可能で、テキストでの一覧表示のほかマップ上にもマーカー表示されるため、知りたい地域の分蜂情報が一目瞭然です。メールマガジンに登録すれば、最新の投稿を毎日配信してもらえるので分蜂情報を見逃す心配もありません。

分蜂マップには2017年からのデータが蓄積されていて、過去に遡って「どの地域に」「何年何月」「どれだけの目撃報告があったか」を閲覧可能です。過去のデータを参照することで、分蜂時期の予測を立てるのにも役立つのではないでしょうか。分蜂マップの活用で巣分かれしたミツバチの捕獲をスムーズにし、最新技術で適切に飼育できればミツバチの個体数の減少防止に繋がるかもしれません。

さらに、ミツバチそのものを守るのではなく、ポリネーター※の役割をテクノロジーで担う研究も進められています。

※ 植物の花粉を運んで受粉させ、花粉の雄性配偶子と花の胚珠を受精させる生物のこと

北陸先端科学技術大学院大学の研究チームでは、ドローンから花粉を含んだシャボン玉を飛ばし、植物へ人工受粉させる研究をおこっています。実際におこなわれた実証実験ではシャボン玉による人工受粉は成功していて、ミツバチの個体数減少に伴う人工受粉の増加に活用できるのではと期待が高まります。

ミツバチの減少は養蜂技術、養蜂文化の危機を招くだけでなく、私たちが普段口にしている野菜や果物、穀物などの深刻な生産不足を引き起こす要因となります。さらに、ミツバチを食物とする鳥や小動物にも影響を与え、食物連鎖の一部が崩れる恐れもあるでしょう。そのため蜜源の再生や農薬使用の抑制など、ミツバチを存命させる環境を作っていくのは人類にとって急務といえるのではないでしょうか。

その一方で、少しでもミツバチの個体数を増やすため、現在さまざまなテクノロジーが開発されています。今回ご紹介したように、すでに実用化されているものも多い養蜂テック。食料生産と生態系の未来を救うテクノロジーの、さらなる進化に期待が寄せられます。


吉田康介(フリーライター)