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“スマートシティ”を支える「都市OS」とは?… ICTで〈未来の街〉はどう変わるのか

2024.03.06(最終更新日:2024.03.06)

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日本の社会は、ICTを活用して少子高齢化やインフラ老朽化などによって生じる諸問題を解決しながら、街が新たな価値を生み出し続けるための「スマートシティ構想」を進めています。この構想の実現に不可欠とされるのが、交通や医療機関など、分野を超えて集積・分析した情報を活用するためのプラットフォームである「都市OS」です。21年度末までに累計46の地域が都市OSを導入しており、政府は25年度までに100の地域にこれを導入することを目標にしています。スマートシティとはどのようなものなのか、どこまで実現しているのか、本稿でその一端をみながら、ICTによって未来の街がどう変わるのか考えます。

エレベーターの利用状況やレストランの混雑状況を解析…「ビルOS」の最新動向

東京ポートシティ竹芝の外観(出典:ソフトバンク株式会社)

2020年9月14日、竹芝エリアに『東京ポートシティ竹芝』が開業しました。

東急不動産と鹿島建設が国家戦略特別区域計画の特定事業として共同開発したもので、東急不動産はこのエリアを渋谷に続く大規模重点開発エリアとして位置付けています。開業にあたっての式典では小池東京都知事からもスマートシティに期待するビデオメッセージが寄せられました。

東京ポートシティ竹芝の事例からは、IoTセンサーやカメラ、AI、ロボットを使ったスマートビルディングの未来像がはっきりとみえてきます。

レストランやショッピングが楽しめる商用施設とスマートオフィスが同居する複合施設である東京ポートシティ竹芝では、ビル内に約1,000のセンシングデバイスやカメラが設置されており、あらゆる情報をAI解析によってデータ化し、「ビルOS*」プラットフォームに収集しています。

解析された情報はショッピング施設の買い物客や、ビルで働く社員に配信され、有効に活用されています。

*ビルOS……ビル内の温度や湿度、エレベーターの利用状況、人流など、ビル内のあらゆるデータを収集・解析・共有するためのシステムを指す。OSはOperating Systemの略。

ビルや施設を横断した情報共有に欠かせない「都市OS」

ビル内の共有情報として、各階やテラスの温度・湿度、エレベーターやテラスの混雑具合、レストランの混雑状況、トイレの空き状況などが大型ビジョンやディスプレイで館内に表示されます。買い物客はその画面を観るだけで、テラスは暑いのか寒いのか、空いているのか、どの階のトイレが空いているか、どのレストランが混雑しているのかなどを把握できます。

テラスやデッキの気温や混雑状況(筆者撮影)
店舗やトイレの混雑状況、空き状況(筆者撮影)
約1,000個のセンサー・カメラで情報を収集、マーケティングやセキュリティに活用している(出典:ソフトバンク株式会社)

また、ビル外の情報でも、天気予報などの有用なものは大型ディスプレイで共有されます。とくに最近急増しているゲリラ豪雨や雷雨などの予報提供は買い物客にとって大いに役立つでしょう。また、電車の事故やトラブルなどによる交通機関の乱れ、渋滞などが発生した場合もディスプレイに表示します。

ビルOSの第一の役割は館内データの収集・解析・共有を行うことですが、たとえば天気予報や交通情報などを共有するにはビル外の情報との連携が必要になります。近隣のレストランの情報と連携し「館内と近隣、駅前のパスタ屋の混雑情報」などが一覧表示されると、さらに便利かもしれません。

このようにビルや施設を横断して情報を共有するとなると、ビルOSの枠を超えて地域との連携、さらに進んだ「都市OS」プラットフォームとの連携が不可欠になります。

顔認証カメラがビルのセキュリティ・混雑緩和に貢献

一度、ビルOSに話を戻しましょう。館内に設置されたカメラはプライバシーに配慮しながら館内の人たちの顔認識や属性認識を行って性別や年代層を把握した上で、人がどのような流れで移動しているのかを表す「人流データ」を集計し、そうした情報は各商業施設のマーケティング等に活用されています。

また、顔認識機能を用いて過去にこのビル内で犯罪や迷惑行為をした人物をデータベース化しておき、その人物の来館を認識すると、監視員に通知が届き注意喚起されるという仕組みもあり、ビルのセキュリティにも貢献しています。

カメラ設置の例(筆者撮影)
不審者を検知した場合の監視員への通知例 監視員は不審者が見える範囲に急行して監視を行う(筆者撮影)

顔認証システムはオフィスワーカーの入場ゲートにも導入されています。最近はよく中層階と高層階でエレベーターが分かれている光景を目にしますが、東京ポートシティ竹芝では顔認証システムによって社員が何階のフロアで働いているかを判別できるため、たとえば、低層・奇数階で降りる社員は「A」のエレベーターに、高層・偶数階で降りる社員は「B」のエレベーターにというように、AIが最適なエレベーターへと誘導してくれます。

実際はAIによってもっと複雑な判別が可能で、できる限り停まる階を減らすなど、エレベーターの混雑緩和につなげています。

オフィスフロアへの入場ゲートに設置された顔認証システム(筆者撮影)

市民参加型のスマートシティに生まれ変わった会津若松

スマートシティに話を進めましょう。内閣府はスマートシティについて「ICT 等の新技術を活用しつつ、マネジメント(計画、整備、管理・運営等)の高度化により、都市や地域の抱える諸課題の解決を行い、また新たな価値を創出し続ける、持続可能な都市や地域であり、Society 5.0の先行的な実現の場」と定義しています**。
**出典:https://www8.cao.go.jp/cstp/society5_0/smartcity/

そして、これを支える都市OSの特徴として次の要点を掲げています。(カッコ内は筆者が追記)
・相互運用 (複数サービスが共有して連携できること)
・データ流通 (ほかの都市とも広く連携できること
・拡張容易 (分野や事業を超えて、官民学で連携できること)

スマートシティの効果が認められた最初の事例としては、福島県会津若松市が挙げられます。歴史と観光のまち「会津若松」では、東日本大震災が発生した2011年からアクセンチュアらが「震災復興支援」を行い、その際に先端ICTを駆使し「市民参加型のスマートシティ」として生まれ変わることとなりました。

2020年当時のスマートシティ構想の成果 (出典:アクセンチュア)

日本の都心部への一極集中の現状を変えるべく、会津若松の地方創生を意識し、自立分散社会型のスマートシティをめざしたアクセンチュアは、「ここで重要となるのが『市民主導』であり、『市民参加型』のイノベーションである。当事者である市民を置き去りにするのではなく、市民の同意/許諾を得ながら進める『オプトイン』方式をとった」と語っています。

地域の資源も再確認し、会津地域の再生可能エネルギー、ICT専門の会津大学の変革、日本でもっとも重要な課題の1つである充実した医療環境、さらには歴史・文化・観光・自然・農業のICTによる支援を構築しました。

同社は「電気やガスメーターのデータ、バイタルや電子カルテの診療データなど、日々のビッグデータの発生源と所有者は多くのケースで市民そのものであり、リアルタイムで発生する自分たちのデータを地域のために提供することに市民が同意する市民参加型のオプトインでなければスマートシティは成立しない」と続けています。

スマートシティの事例として世界的に注目されるようになった会津若松の都市OSプラットフォームやAPIを、今後同社は全国へと展開していく考えです。これは、地域ごとに個々にプラットフォームを開発していたのでは情報が分散し、データの共有にも支障が出て多額のコストがかかるためであり、プラットフォームやシステムの標準化は必要不可欠、という考えに基づくものです。

もちろん、スマートシティ構想や都市OSは各地域や自治体、官民学が足並みを揃えて開発・参加して創造する必要があります。セキュリティについても十分な議論が必要であり、多くの課題が横たわっていますが、今後豊かな社会をめざすには必要不可欠な存在といえるかもしれません。

スマートシティのさらに先、「スーパーシティ」へ

内閣府は、スマートシティのさらに先「スーパーシティ」構想への発展を見込んでいます。

スーパーシティ構想とは、AIやビッグデータを活用し、社会の在り方を根本から変えるような都市設計の動きを内閣府がとりまとめたもの。アクセンチュアもスーパーシティ構想の実現を推し進めるために、政府や地方自治体にさまざまな規制緩和を働きかけていく考えを示しています。

【スーパーシティの基本的なコンセプト】(内閣府のホームページより)
1.これまでの自動走行や再生可能エネルギーなど、個別分野限定の実証実験的な取組みではなく、例えば決済の完全キャッシュレス化、行政手続のワンスオンリー化、遠隔教育や遠隔医療、自動走行の域内フル活用など、幅広く生活全般をカバーする取組みであること
2.一時的な実証実験ではなくて、2030年頃に実現され得る「ありたき未来」の生活の先行実現に向けて、暮らしと社会に実装する取組みであること
3.さらに、供給者や技術者目線ではなくて、住民の目線でより良い暮らしの実現を図るものであること

スーパーシティはこの3要素を併せ持ったものであると定義しており、これを「まるごと未来都市」と呼びます。スーパーシティ構想とは、地域と事業者と国が一体となって「まるごと未来都市」の実現をめざす取り組みといえます。


〈著者〉
神崎洋治

TRISEC International代表取締役
ロボット、AI、IoT、自動運転、モバイル通信、ドローン、ビッグデータ等に詳しいITジャーナリスト。WEBニュース「ロボスタ」編集部責任者。イベント講師(講演)、WEBニュースやコラム、雑誌、書籍、テレビ、オンライン講座、テレビのコメンテイターなどで活動中。
1996年から3年間、アスキー特派員として米国シリコンバレーに住み、インターネット黎明期の米ベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材した頃からライター業に浸る。
「ロボカップ2018 名古屋世界大会」公式ページのライターや、経産省主催の「World Robot Summit」(WRS)プレ大会決勝の審査員等もつとめる。著書多数。