リアルタイムの情報を⼿元で「⾒える化」するIoT
「スマート農業」に早期から導⼊されたもっとも基本的な技術は「IoT」(Internet of Things)です。さまざまなモノにセンサーを取り付け、インターネットを通じてそのデータを⼿元で管理する技術です。
たとえば、⽔⽥や畑に温度/湿度センサーを、⽤⽔路などには⽔温/⽔位センサーを設置して、その数値をリアルタイムでスマホアプリに⼀括表⽰することで、広い耕作地を移動してみて回る⼿間と労⼒を減らすことができます。
ただし、これを実現するためには料⾦が安く広範囲をカバーできる通信技術が必要であり、従来の携帯電話やスマホ⽤の4G(LTE)通信では利⽤料⾦が⾼額過ぎました。
そこで「LPWA」(Low Power Wide Area)と呼ばれる、低速ながら耕作地全体をカバーできて、⽉額100円〜数百円程度、10年間で⼀括2,000円など、廉価で利⽤できる通信サービスが開始されました。
ソニーグループの LPWA「ELTRES」通信サービスを例にすると、⾒通しの良い場所なら 通信範囲は100km以上、コイン電池1個で⻑期間動作します。
AI を活⽤した農業⽤ドローンとは
また、農業ではドローンの活⽤も期待されています。オプティム社のAIを活⽤した農業⽤ドローンと、そのビジネスモデルはとてもユニークで⾰新的なものの1つです。
AI 技術のもっとも有効な活⽤⽅法の1つはカメラ映像の解析と判断(推測)ですが、その技術をドローンに搭載し、耕作地の上空を⾶⾏し、⼤⾖の⽣育状態をカメラとAIで確認、病害⾍を検知したり、枯れかかっている箇所を判別したりすると、ドローンがピンポイントで農薬を散布するシステムを導⼊しました。
従来の耕作地全体に農薬を散布する⽅法と⽐べ、使⽤する農薬の量は1/10以下に抑えられ、農家の⽣産コストを⼤きく抑えることに成功しました。
さらに、このピンポイント農薬散布で栽培した⼤⾖の残留農薬を第三者調査機関によって検査したところ、残留している農薬は「不検出相当(農薬不使⽤とほぼ同じ)」との結果に。
それを受け、収穫した⼤⾖を農薬不使⽤相当の「スマートえだまめ」と命名して、福岡三越で通常のえだまめの約3倍の価格で販売すると、健康志向の消費者の⽀持を集め、好評のうちに完売となりました。これは2017〜2018年のことです。
また同社のビジネスモデルもユニークです。⼤規模な資⾦を持っている農家は多くないため、AI ドローンの導⼊に効果があるとわかっていても、誰もが⾼額な投資に踏み切れる訳ではありません。
そこで同社は AI ドローンシステムをレンタルし、「スマートえだまめ」のように付加価値を付けて販売した収穫物の利益を折半する形式で、農家に初期投資の負担がかからない仕組みを導⼊しました。
また、農作業の負担軽減や、農作物の収量、品質の向上などをめざす「スマート農業」推進のため、同社が旗振り役となって「スマート農業アライアンス」を立ち上げ、現在ではパートナー申込み実績数は約1,700団体に達しています。
NTT 東⽇本も農業⽤ドローンに参⼊
農業⽤ドローン市場の拡⼤に注視していた東⽇本電信電話株式会社(NTT 東⽇本)は、オプティムの実績を踏まえ、WorldLink & Company と3社でドローン分野における新会社、株式会社 NTT e-Drone Technology(e-Drone)を2021年に設⽴しました(資本⾦ 4.9 億円)。
誰でも簡単にドローンの活⽤ができるように、農業⽤ドローン『AC101』の機体は軽トラや軽バンに積込可能で、⼥性⼀⼈でも運搬可能なペイロード4kg〜8kgの中型機から提供していくこととし、徹底した軽量化と電⼒消費効率重視の制御技術による⻑時間フライトを実現しました。
e-Droneの最新型ドローン『AC101 connect』は散布幅5m、バッテリー1本で最⼤2.5ha散布できる性能にアップデートされています。GNSS(⾼度なGPS)やネットワークRTKと 呼ばれる⾼精度な位置情報システムを搭載して、ルートをより正確に⾶⾏できるようになっています。
同社は「政府が推進する環境負荷の低減を図りながら、持続可能な農⼭漁村の創造やサプ ライチェーン全体を貫く基盤技術確⽴と連携(⼈材育成、未来技術投資)等をめざす『みどりの⾷料システム戦略』への貢献をめざす」としています。
⽥んぼに雑草抑制と遠隔監視ロボット活⽤
低速スマートモビリティや⼩児患者型ロボットを開発するテムザック社は、農業にロボットを活⽤することで、重労働を減らし、効率を⾼めるスマート稲作改⾰『WORKROID農業』を進めています。
⾒た⽬の可愛らしさでも話題になった『雷⿃ 1 号』(プロトタイプ)は⽔⽥で雑草抑制と遠隔監視を行うロボットです。
『雷⿃1号』α版は⾃律航⾏型で、⽔を攪拌して泥を巻き上げることで光合成を妨ぎ、雑 草の⽣育を抑える機能を備えています。
前進→右旋回→前進→左旋回等をランダムに⾏うようプログラミングが可能で、複数台を同時に稼働することで効率的に隅々まで撹拌できます。β版では、離れた場所からカメラ映像をみて遠隔操作し、⽔⽥の様⼦を確認できます。
テムザックは農業経験のない⼈でも取り組める省⼒化農業をめざし、農業ワークロイド (雷⿃シリーズ)、ドローン、⽔管理システムなどを最⼤限活⽤し、⽶粉⽤の⽔稲直播栽培等を実施していく考えです。
遠隔支援も始まり、安定的な生産と収入、ノウハウの継承へ
IoT、ドローンとAI、ロボットを農業に活用する取り組みを紹介しましたが、ほかにも遠隔操作による農業も始まっています。
農研機構とNTTグループは共同で「遠隔営農支援プロジェクト」を展開し、最初の実証地として、みらい共創ファーム秋田でタマネギの生産が始まっています。耕作地のデータや知見を共有することで、遠隔から生産者同士が協力し合ったり、病虫害や追肥等のアドバイスを遠隔の専門家やベテランの農作業従事者から受けられたりする仕組みです。
IoTの導入や従事者がつながる取り組みによって、農作物の生産の安定化や重労働からの解放、効率化、収益の増加を実現し、その結果、農作業者の継続支援だけでなく、高齢者のノウハウがデータで継承され、若者の新規参入が増えることが期待されています。
<著者>
神崎洋治
TRISEC International代表取締役
ロボット、AI、IoT、自動運転、モバイル通信、ドローン、ビッグデータ等に詳しいITジャーナリスト。WEBニュース「ロボスタ」編集部責任者。イベント講師(講演)、WEBニュースやコラム、雑誌、書籍、テレビ、オンライン講座、テレビのコメンテイターなどで活動中。
1996年から3年間、アスキー特派員として米国シリコンバレーに住み、インターネット黎明期の米ベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材した頃からライター業に浸る。
「ロボカップ2018 名古屋世界大会」公式ページのライターや、経産省主催の「World Robot Summit」(WRS)プレ大会決勝の審査員等もつとめる。著書多数。