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「物流2024年問題」で期待が高まるドローン物流。その可能性と課題を実証実験から探る

この記事は1年以上前に書かれたものです。現在は状況が異なる可能性がありますのでご注意ください。

2023.05.15(最終更新日:2023.05.15)

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ドローン物流の社会実装に向けて、日本では国土交通省が2018年度に全国5地域で検証実験を実施。2020年からはドローンに関する航空法改正により、機体認証制度や運行管理のルール、ドローンの国家資格(操縦ライセンス制度)といった法整備が行われてきました。

2023年現在では官民一体となった実証実験が全国各地で行われ、レベル4飛行(有人地帯における目視外飛行)も解禁されるなど、実装に向けてより本格的に動き出しています。

この記事では、過疎地・離島/都市部における実証実験例を紹介しつつ、ドローン物流の有効性や課題についてまとめます。

ドローン物流が持つ可能性

ドローン物流について、その可能性に期待が寄せられ始めたのは意外と早く、2016年9月には経済産業省 第9回 産業構造審議会 新産業構造部会において、楽天グループが「ドローン物流サービスの実例と今後の展望」というタイトルでプレゼンテーションを行なっています。

この資料では、2005年以降、宅配便の取り扱い個数が増加傾向にあること、一方で都内の約35%は「不在配達(再配達)」となっており労働生産性が低下していること、ドライバーの人手不足が深刻化していることが指摘されています。

この問題は2023年現在でも課題となっており、直近ではトラックドライバーの「2024年問題」(※)も浮上しています。

※働き方改革関連法により、トラックドライバーの時間外労働時間が年間960時間に制限されることで生じる諸問題。

さらに、地方では過疎化による交通インフラの弱体化などで、高齢者などが思うように日用品を手に入れられない「買い物難民」問題も存在します。離島や僻地でも物資を届けられ、1人のドライバーが複数台のドローンを操れる(人手不足を解消できる)ドローン物流は、まさに日本の物流問題における起死回生の一手になることが期待されています。

事例①過疎地・離島でのドローン物流(長崎・五島市)

画像はイメージです

ここからは実際に行われた実証実験を紹介します。

まず、2022年12月5日に開始された豊田通商株式会社の100%子会社である、そらいいな株式会社が長崎県五島市で行った実証実験について見ていきます。

五島市は福江島と周辺の小規模な離島で構成される地域で、人口約3.4万人、高齢化率は40.70%(全国平均は28.00%)とかなりの高水準(令和2年国勢調査)。となりの新上五島町ではさらに高齢化が進んでおり(42.70%)、五島市との陸路接続もないことから、地域医療体制やインフラ維持に課題を抱えていました。

そこで同社が行ったのが、ドローンを活用した医薬品や弁当などの食物を配送する実験です。

この実験ではアメリカ・ジップライン社製の固定翼ドローンを導入し、ドローンの下にパラシュート付きの箱をぶら下げて運用しています。事前に定められた場所まで運航し、荷物を投下したあと拠点に帰還するオペレーションを自動化することで、パイロットの負担を軽減しました。

実験の結果、エアクッション入りの箱・緩衝紙で包まれた医薬品は、コンクリートの地面に投下されても品質に問題が生じず、お弁当といった食物はパッケージを工夫することで、中身をばらばらにせずに、問題なく配送できたといいます。

ただ、劇薬については、ドローンによる医薬品配送に関するガイドラインに「実証実験の段階で(中略)配送は避けること」とあり、この実証実験でも実現することができませんでした。しかし、五島内流通品目の約4割は劇薬が占め、医療機関からも「劇薬こそドローンで配送してほしい」との声が多数上がるなどニーズは高くありました。

その後2023年3月16日、厚生労働省と国土交通省は、これまで対象外だった劇薬の配送を認めた「ガイドラインの改正版」を公表。これにともない、4月20日、そらいいな株式会社は、ドローンによる医薬品配送において、劇薬に分類される医薬品の取り扱いを開始すると発表しました。

事例②都市部でのドローン物流(新潟県・新潟市)

画像はイメージです

次にご紹介するのは、2021年6月、新潟市中央区に本社を置くTOMPLA株式会社と新潟市が連携して行なった実証実験です。

新潟駅南口エリアで行われたこの実験は、日本初の試みとなる「人工集中地区(DID)でのドローン物流の可能性を探る」目的で行われました。駅前商業施設「プラーカ新潟」内に入居する店舗で調理されたパスタをドローンに搭載し、飲食店の利用客役を務める中原八一市長のもとへ届ける一連の流れが検証されました。

実験ではまず、中原市長が専用のアプリでパスタを注文。注文を受けて調理されたパスタはドローンに搭載され、「プラーカ1」の屋上を離陸したのち、「プラーカ2」上空で地上の安全を確認。その後、約200m離れた「プラーカ3」の屋上に着陸しました。市長のもとに届いたパスタはソース等のこぼれもなく、温かい状態のままだったと言います。

新潟市では、航空機産業の集積地となることを目指し、官民一体となって「NIIGATA SKY PROJECT」を推進しています。本実験もその一環に位置づけられ、実現が望まれる人工集中地域でのドローン活用に向けて道筋をつけるものとなりました。

ドローン物流最大の課題は「収益性」

主に離島・過疎地を中心に実証実験が進められるドローン物流ですが、国土交通省「過疎地域等におけるドローン物流ビジネスモデル検討会」での資料をみると、実用化に向けてはいくつかの課題があることが指摘されています。

収益性の課題

1フライト当たりにかかるコストがかなり高額であり、別途機体の損料や保険料を加えると、さらなるコストがかかります。そのため、ドローン物流単体で収益を上げていくことは現状困難です。

技術面の課題

中山間地では電波障害が起きやすいというドローン自体の問題と、悪天候時にスケジュールの柔軟な対応が必要という管理面の問題があります。他にもサイバー攻撃により、ドローンの撮影データや通信データを窃取されるといったリスクも考えられます。

制度面の課題

25キロ以上の機体は、パワーがある分、国交省の審査が通常より厳しくなります。また、実用化試験局制度の手続き簡素化は進んでいますが、それでも依然コストと時間を要します。

利用客・受け入れ地域の課題

対象地域の理解が得られるかどうかは重要な問題です。また、過疎地域においてドローン配送が必要な方は高齢者が多く、注文の方法、インターフェース等に課題が生まれやすくなっています。

このうち、とくに収益性については事業の持続性に直接関わってくるところです。国土交通省の資料の中でも「トラックとのハイブリッド配送」などが可能性として挙げられているように、ドローン物流単体としてではなく、配送ビジネス全体の一助としてドローン活用を考え、収益を上げるようなビジネスモデルの構築が、ドローン物流実現のカギを握るといえそうです。

(文=長谷川寧々)