声で判定する、文章から読み取る「感情認識AI」も
声色や話し方で感情を判定
人の感情は、話しているときの「声」に表れることが多いです。怒っていれば語気が荒くなり、穏やかな気持ちであれば自然と優しい声色になります。感情認識AIへの発展が期待される技術のひとつに、株式会社Empathが提供する「Empath」があります。これは、音声等の物理的な特徴から、話者の感情を独自のアルゴリズムで判定するプログラムです。
数万人単位の膨大な音声データベースを使用して、話者の精神状態を分析することができ、メンタルヘルスケアなどの分野で一定の成果を上げています。Empathが人々の声色や話し方に触れ、蓄積された経験をもとに状況判断を行うメカニズムと、AIがビッグデータを利用して最適な回答を導き出す仕組みは非常に似通っています。
まだ「感情を作り出す」までには到達していないものの、対象の人物から発せられる外的情報によって感情を判断するという点では、人の脳のメカニズムにより近いプログラムと言えるでしょう。
文章から感情を分析
もうひとつ、感情認識AIへの発展が期待されているのが、株式会社ユーザーローカルが提供する、文章から人の感情をAIによって分析する「User Local AIテキストマイニング」というサービスです。たとえば、カスタマーサービスに届いた利用者からのメールを解析し、その文章にどのような感情が含まれているのかを可視化することができます。
以下に、弁当の製造販売を手掛ける企業が受け取ったクレームのメールを例として挙げましょう。
クレーム文:
「先日、都内の販売店で御社の弁当を購入しました。食べてみるとご飯から酸っぱい臭いがして、腐っているように感じられとても食べられるようなものではありませんでした。販売までの保存方法に、何か不備があったのではありませんか? せっかくのランチタイムが台無しになりました。御社からの謝罪と今回の明確な理由、今後の対応を強く求めます。」
この文章に対し、まず「ワードクラウド」や「単語出現頻度」、「共起キーワード」といった6つのタブに分けて解析し、文章の構成や要点、キーワードを可視化します。
そして、感情分析AIによって、その文章にどのような感情が含まれているのかを3つのタブに分けて解析します。
一つ目のタブ「サマリー」では、「ポジネガ推移」という項目で文章に含まれるポジティブな感情の文とネガティブな感情の文の存在比をグラフ化します。「感情」の項目では、「喜び」「好き」「悲しみ」「恐れ」「怒り」の5つの感情に分類して各感情の度合いを数値化します。
「ポジネガ推移」のタブでは、ポジティブな感情とネガティブな感情の比率の推移が「時系列的に」表示されます。
「感情推移」のタブでは、文章を分割し、「感情」の5つの起伏の推移を時系列的に可視化します。
AIの解析によって人の感情を正確に把握することができれば、クレームを伝えてきたお客様に対して、より適切な対応を行うことができるでしょう。誤った対応をする可能性が大幅に減るかもしれません。
AIが感情を持った未来とシンギュラリティ
AIがより進化し、さまざまな業界でIT技術が普及することは人類の未来において喜ばしいことです。たとえば、後継者問題を抱える第一次産業などでは、AIによる生産管理や業務の自動化によって問題解決の筋道が開けるかもしれません。
一方、AI研究者の間ではシンギュラリティ(2045年問題)と呼ばれる問題が提起されています。シンギュラリティは「技術的特異点」とも呼ばれ、2045年頃にAI技術の発展により、何か想像ができない未来が起きうる可能性があるとされています。その結果、これまでの世界とはまったく異なる、従来の予測や想像が困難な未知の世界が訪れると予測されています。
2000年問題という類似の問題があったことは記憶に新しいかもしれません。西暦の表記によるコンピュータシステムの誤作動が懸念されていましたが、実際には大規模な混乱や障害はほとんど発生しませんでした。しかし、2045年問題は、SF映画のような現実では考えられない変化が起こる可能性を持っていると言われています。
インテル社の創業者であるゴードン・ムーア氏は1965年、大規模集積回路(LSI IC)の製造・生産における長期傾向について書いた自身の論文の中で、ひとつの指標を論じました。それは「他の重要な発明と結びついたひとつの重要な発明は、次の重要な発明が登場するまでのスパンを短くする。そして、イノベーションの速度を加速することで、科学技術は直線的ではなく指数関数的に進歩する」というものでした。
人類の歴史を考えてみると、進化のスパンが短くなっていることが分かります。最初の霊長類は1億年前に現れ、後ろ足立ちのできるグルームが現れたのは4000万年前です。人の祖先が現れるまでのスパンも徐々に短くなり、猿人は400万年前、原人は200万年前に現れました。旧人類は50〜30万年前に登場し、進化のスピードが加速しています。
こうした人類の進化の過程における観点からも、AI研究家たちは、このまま新しいイベントの発生が加速し続ければ、2045年に技術的な特異点に到達すると予測しているのです。
シンギュラリティを迎え、AIが人間の脳を超越する可能性は?
現在普及している一般的なコンピュータは、ノイマン型と呼ばれるもので、メモリ領域内のプログラムを遂行します。プロの棋士にコンピュータが勝利したというニュースを聞いたことがある人は多いと思いますが、これはプログラムに定跡が組み込まれていて、将来の着手を予測しているだけであり、コンピュータ自体が思考を行っているわけではありません。
一方、人の脳を模倣したニューロコンピュータというものもあります。ニューロコンピュータは人の脳の情報処理能力を再現することを目標としており、約140億もの神経細胞を持つ人間の脳のように、膨大な数の神経細胞(ニューロン)を持つことを目指しています。今後進歩が進めば、知性を持つコンピュータが生まれるかもしれません。そして、そのようなコンピュータが実現すれば、さらに多くの神経細胞(ニューロン)を持つものが出現する可能性があります。
こうした展望を考えると、一部の人々はポジティブな見方をし、一部の人々はネガティブな見方をしますが、この技術に大きな可能性が秘められていることは間違いないでしょう。感情認識AIの更なる発展を見守っていきたいところです。
山河宗太
OFFICE-SANGA代表