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人手不足解消、インバウンド対策まで…地方自治体で導入が進む「AI搭載アバター職員」の可能性

2024.01.16(最終更新日:2024.01.16)

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人手不足問題を解消する有効な手段として期待される「アバター接客ツール」。近年ではコンビニや観光ガイド、アパレルショップなどの小売店や施設などで徐々に導入されはじめています。さらに、AI職員を活用した地方創生の新しい取り組みにも注目が集まっていました。ブロックチェーン技術を用いた次世代のネットワーク環境「Web3(ウェブスリー)」など新たなテクノロジーが浸透しつつあるいま、AI搭載アバターと地方創生にはどれほどの親和性があるのでしょうか?

日本初となるAIアバター県職員「YAKAMIHIME」

鳥取県は2023年2月に、仮想空間に架空の組織として「メタバース課」を設立しました。「メタバース課」の主な目的は、メタバース空間内での情報発信を通じて「メタバース関係人口」を創出すること。同課では日本初となる自治体オリジナルAIアバター「YAKAMIHIME(八上姫)」が職員として採用され、話題となりました。

「YAKAMIHIME」は、「NOBORDER.z FZE」が開発したAIアバター生成アプリケーションである「XANA:GENESIS」を活用して作られました。鳥取県が舞台となっている神話「因幡の白兎」のなかで、大国主命(オオクニヌシノミコト)とのラブストーリーを演じたとされる八上姫が名前の由来になっています。24時間いつでも大勢の相手と同時平行的に音声でコミュニケーションがとれることに加え、日本語だけでなく英語でも対応可能です。

AIアバターが地方自治体との新たな窓口となり得るか

令和5年12月時点での推計人口が53万7,318人となり、平成8年以降28年連続で人口が減少している鳥取県。少子高齢化も進む同県の自治体では、メタバース空間内で県の魅力をアピールすることがこうした社会的課題の解決に繋がると考えられています。

そもそも鳥取県庁内にメタバース課が設置されるきっかけとなったのは、2022年5月におこなわれたNFTトレーディングカードゲームと鳥取県とのコラボレーションです。

NFTトレーディングカードとは、デジタル空間でカードをトークン化※し、データ改ざんや複製を防ぐカードデッキのこと。コレクション的要素も持ち合わせているトレーディングカードとNFTを組み合わせることで、資産価値を生むことにも成功しています。

※消費者が決済システムに対して直接カード情報(カード番号と有効期限)を送信して、まったく別の文字列に変換する技術

鳥取県がコラボしたのは、手塚治虫による人気キャラクター「鉄腕アトム」のトレーディングカード。カード1枚1枚に鳥取県内の観光名所の写真とアトムのイラストが描かれ、市区町村ごとの魅力をアピールすることができる商品です。

こうしたメタバース空間を通じて県の強みを打ち出す取り組みを機に、地方自治体と県外に住む人々とが繋がるための新たな窓口として生まれたのが「YAKAMIHIME」です。

鳥取県では、「YAKAMIHIME」の活躍によって日本国内のみならず海外へのPRもおこなえると予想。インバウンドの獲得や県内への移住の推進など、県が抱える社会問題対策および地域活性化に効果的と考えています。

なお「YAKAMIHIME」は、AI技術で生成された情報をもとに音声と文章の両方を用いて返答するのが特徴です。県の公式HPによると「鳥取のことを必死に勉強していますが、間違った情報を話すこともありますので、ご注意ください」とユーモアたっぷりに説明しています。

実際に「鳥取県の名産品にはなにがありますか?」とチャットで質問してみると、

北には日本海、南には大山をはじめとする中国山地の山々が広がり、春には咲き乱れる花々、夏には良質な水質の海水浴場を満喫でき、秋は山々が紅葉に染まり、冬は一面の銀世界が広がる、そんな自然溢れる鳥取県では四季の美しさを間近で感じることができます。都道府県のなかで人口は一番少ないですが、自然が豊かで食べ物もおいしく、私は大好きです!

との回答がありました。内容の精度にはまだ改善の余地がありつつも、鳥取県の魅力をアピールしたいという熱意が強く感じられます。

また「YAKAMIHIME」は音声入力にも対応しているため、文字入力が苦手な人や身体に障がいのある人でも比較的コミュニケーションがとりやすいシステムといえるでしょう。

地方で広がるAIアバター職員の導入

AIを搭載したアバター職員として注目されているのは、「YAKAMIHIME」だけではありません。昨今注目が集まっている「AIさくらさん」も、さまざまな施設やサービスで利用されているAIアバターのひとりです。

「AIさくらさん」は株式会社「ティファナ・ドットコム」が取り組んでいるAI事業の一環。接客業務や受付、電話対応など多様なシリーズ展開で、あらゆるニーズに応えることができます。

たとえば栃木県の那須塩原市では、市役所を利用する人への施設案内や各種手続きに関する案内役として「AIさくらさん」を導入。市役所の職員の人的リソースをさらに有効活用できるようにすることが目的です。日本語に加え英語や韓国語、中国語の4ヵ国語に対応しているため、市内在住の外国人も市役所を利用しやすい環境作りに役立っています。

また新潟県糸魚川市でも、糸魚川駅の観光案内所で「AIさくらさん」が活用されています。糸魚川駅及び駅周辺のエリアに関する観光案内を365日おこなっています。簡単な対応であれば「AIさくらさん」のみが応答し、利用者から複雑な要望があった場合は案内所のスタッフとビデオ通話でつなぐという柔軟な対応も可能です。

以前の糸魚川駅の観光案内所では案内スタッフ不足が深刻で、平日または遅い時間の場合はほかの案内所を利用する必要がありました。しかし「AIさくらさん」の導入により、人手不足の問題を解消。さらに「AIさくらさん」は4ヵ国語に対応しているため、外国人観光客への案内も比較的容易になっています。

なお糸魚川市では、「AIさくらさん」が市の観光大使「ヒスイレディ」見習いにも就任しました。「ヒスイレディ」は糸魚川市に在住する女性から毎年3人が選出され、計6人で活動をおこなっています。地方自治体を盛り上げる重要な存在として、「AIさくらさん」に期待が寄せられている証といえるでしょう。

迫り来る2025年問題にどう立ち向かうか?

近年たびたび警鐘が鳴らされている「2025年問題」。日本人のなかでも人口ボリュームの大きな「団塊の世代」(1947年~1949年生まれ)全員が後期高齢者となり、国民のおよそ5人にひとりが75歳以上の超高齢化社会へと突入することを指した用語です。社会の高齢化が進むことで社会保険料の増加が見込まれるほか、医療現場や介護職をはじめさまざまな分野の仕事で人手不足の影響が大きくなると考えられています。

AI搭載アバターを私たちの実生活に即した形で導入することは、まさに「2025年問題」へと立ち向かうために重要な戦略のひとつと言えるでしょう。特に人口減少が甚だしい地方自治体においては、AIをはじめとする最新テクノロジーの活用が都市部以上に大きな役割を果たします。「YAKAMIHIME」や「AIさくらさん」といったAI搭載アバターとの積極的な連携が、これからの私たちの暮らしを守ることにつながるかもしれません。


吉田康介(フリーライター)