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子どもと将来の夢をAIがマッチング!未来を拡張するブロックチェーン

この記事は1年以上前に書かれたものです。現在は状況が異なる可能性がありますのでご注意ください。

2023.01.19(最終更新日:2023.03.28)

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変革期を迎えた、教育現場

現在、教育現場は大きな変革期を迎えています。たとえば、2022年4月から、高校の家庭科の授業で「金融教育」がスタートし、資産運用や投資について学ぶ機会が設けられています。早い時期から金融リテラシーを身に付けることは、人生設計における視野を広げ、QOLの向上に役立ちます。また、自ら資産形成の知見を得て、将来のために投資できる教育資金を増やす可能性を模索できることは、職業の選択肢を増やすことにも繋がります。

適応学習(アダプティブラーニング)とは?

また、こうした学習内容の改訂のみならず、学習の仕方そのものの改革の研究も進められています。例えば、文部科学省では適応学習(アダプティブラーニング)を推奨しています。適応学習とは、学習者の理解度などに合わせて、適切な出題内容や学習プランを、テクノロジーを活用して調整し、効果的に学習できる方法です。

同じ授業を、同じ量、同じタイミングで、みんなで一緒に同じ場所で受けるという、従来の教育スタイルの対極にある指導方法です。

これまでのように子どもがカリキュラムや学習環境に合わせるのではなく、カリキュラムや学習環境を子どもに合わせることで、ひとりひとりの資質や能力(スキル)を、効果的かつ効率的に伸ばすことが期待できます。適応学習には「速度」「内容」という2つの切り口があり、子どもたちひとりひとりの個性や能力、また、志望する職業などに応じて、学習の速度と内容を調整します。

小さいようで大きい「教育格差」を埋められる「AI型教材」

一つ目の「速度」について説明しましょう。「速度」のアダプティブ(適応)を可能にしたのがタブレットやスマートフォンなどで学ぶ「AI型教材」です。

テクノロジーを用いて教育サービスを提供するエドテック(Education(教育)とTechnology(技術))を組み合わせた造語)は近年、右肩上がりに市場規模を拡大しています。

(引用元:野村総合研究所「EdTech市場の現状と課題」)

上記の図表のとおり、2016年には1,691億円だった市場規模が、2022年には2,958億円まで成長しました。新型コロナウイルス拡大によりリモート授業が急速に普及したことも追い風となり、この6年間で75%増加しています。

「AI型教材」は、AIが生徒ひとりひとりの習熟度に応じて最適な問題を出題してくれるのが大きな特徴です。問題の「間違え方」は人それぞれです。問題解決に導くロジックにも、個性や思考グセがあります。それらをAI (人工知能)が解析し、数万問もの膨大なデータベースから、一人ひとりに個別最適化された問題を出題してくれるのです。

「AI型教材」はアダプティブラーニング(適応学習)に有効なだけでなく、画期的な長所がたくさんあります。例えば、文房具を購入する費用や労力、文房具を出し入れする手間などを省き、効率的に学習時間を確保することができます。

また、病気やけが、障害などで身体の可動域や活動時間に制限のある子どもたちの、学習へのハードルを下げることも可能です。

さらに、業務過多や過剰労働が度々問題視される教職員の負担軽減にも繋がります。もちろん、ペーパーレスなのでサスティナブルな地球環境への配慮にもなります。

70種類以上の科目から自分で時間割を組むイギリスの中学生

二つ目の「内容」について説明しましょう。

日本の教育は、諸外国と比べて選択科目が非常に少なく、一律のカリキュラムが多い傾向にあることが度々指摘されています。例えばイギリスでは、中学3年生ほどの年齢に達すると、ほとんどの学校で子どもたちは時間割のすべてを70種類以上にも及ぶ科目のなかから自分で組み立てます。必修科目が中心で、選択科目の科目数と時間数が極端に少ない現在の日本とは、大きく異なると言えます。

日本の文部科学省も、「内発的動機の誘発」を重要課題と認識しており、子どもが「興味があるもの」「必要だと思うこと」を能動的に学べる環境にしていくこと目指しています。今後は選択科目を増やし、一律カリキュラムを減少させる方向に舵を切っていく見通しです。

選択科目が増えるとその組み合わせのパターンは膨大になります。人間には、選択肢が膨大であると判断基準に迷いが生じ、選択が困難になるという行動心理があります。そこで、豊富な経験のデータと多くの統計から、子どもたちに効果的にアドバイスできるのがAIではないでしょうか。

先ほど説明した「AI型教材」は、現在のところ教科や科目を横断して個人に合った学習内容を提案しているものではありません。しかし、将来的には教科や科目を横断して、個人に合った提案をすることも可能かもしれません。

なぜなら、AIのもつ手法のなかに「機械学習」「深層学習(ディープラーニング)」というものがあるからです。

AIはなぜ犬と猫を識別できるのか

機械学習とは、総務省の定義によると

「人間の学習に相当する仕組みをコンピューター等で実現するものであり、一定の計算方法(アルゴリズム)に基づき、入力されたデータからコンピューターがパターンやルールを発見し、そのパターンやルールを新たなデータに当てはめることで、その新たなデータに関する識別や予測等を可能とする手法である。」

(引用元:総務省ウェブサイト)

とあります。

例えば、大量の犬の写真と、猫の写真をAIコンピューターにインプットすることで、犬と猫を区別すれば、犬と猫を区別するパターンやルールを見出し、新しい犬の写真をインプットした際に「犬である」という区別をすることができるというものです。

さらに、この「機械学習」の手法の一つに「深層学習(ディープラーニング)」というものがあります。

「深層学習(ディープラーニング)」とは、総務省の定義によると

「コンピューターがパターンやルールを発見する上で何に着目するか(「特徴量」という。)を自ら抽出することが可能となり、何に着目するかをあらかじめ人が設定していない場合でも識別等が可能になったとされる。」

とあります。

例えば、前述の機械学習の際に、人間がAIコンピューターに「瞳の形に着目する」というヒントを、あらかじめ入力します。犬は瞳(瞳孔)が常に丸形であるのに対し、猫は瞳(瞳孔)がタテ長にある傾向があるからです。このヒントを犬と猫の大量の画像と併せてインプットすることで、AIはよりスムーズに、犬と猫を識別することができるのですが、「深層学習(ディープラーニング)」では、「瞳の形に着目する」のがよいということ自体も、自ら学ぶことができるということです。

AIが子どもたちと将来の夢をマッチング

この「深層学習(ディープラーニング)」という手法を活かせば、統計上、それぞれの子どもに合っている可能性がもっとも高い選択科目を組み合わせた1週間の時間割を提案することが可能です。

さらにその延長として、進学先や就職先など、将来の夢をレコメンドしてくれるAIシステムを開発できる可能性も十分にあります。しかし、このようなAIシステムを確立するには乗り越えなければならない障壁があります。

AIコンピューターによる子どもたちへのレコメンド機能に高い精度をもたせるには膨大な「学習データ」が必要です。たとえば、がんの研究者になりたい子どもがいた場合、もちろんその子どもの学習履歴や生体情報、身体能力、IQ、EQなどの情報は重要です。しかし、その他にも不可欠な情報があります。

それは、すでにがんの研究に携わっている研究者たちの過去の学習履歴です。その学習履歴は、例えば読書履歴や経験したスポーツ、習い事など広義であればあるほど役立つはずです。

そこで、我々の学習履歴を一極化して巨大なデータベースを構築し、必要がある人はアクセスができる「教育ブロックチェーン技術」の導入の研究が近年では進められています。「ブロックチェーン」とはひと言で表すと、一度入力すると上書きすることができない、堅固なデータベースのことです。

その信頼性の高さ、データ改ざんの難しさから、ビットコインをはじめとする多くの暗号資産(仮想通貨)の取引などに活用されています。

また、クレジットカード会社のマスターカードは、独自に開発したブロックチェーン技術を適用した自動決算システムを2017年より導入しています。仮想通貨ではない既存の法定通貨に関するデータを扱っており、ブロックチェーンは活用の幅をどんどん広げています。

ブロックチェーン技術を教育分野に応用するために、現在、文部科学省や総務省が連携して法整備の研究を進めています。

「AIが子どもたちと将来の夢をマッチングしてくれる」「自分自身や周りの大人たちが気づけなかった、気づいてあげられなかった子どもの才能をAIが教えてくれる」、そんなワクワクする未来が実現するかもしれません。

(文:福永奈津美)