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日本で注目を浴びてから10年。さらなる広がりを見せるプロジェクションマッピングの現在

2023.07.28(最終更新日:2023.07.28)

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東京・丸の内駅舎のイベントで注目を集めたプロジェクションマッピング

プロジェクターを用いて建築物などの立体物に映像を投影するプロジェクションマッピング。リアルな物体とシンクロするバーチャル映像により、建物など投影する対象そのものが動いたり、変化しているように見せる技術です。

プロジェクションマッピングが日本国内で注目を集めたきっかけは、2012年に東京駅・丸の内駅舎保存・復元工事の完成を祝して行われた、国内史上最大規模の3Dプロジェクションマッピングイベント「TOKYO STATION VISION」です。

完成したばかりの駅舎に、計46台の超高輝度プロジェクターにより光を放つ映像が投影され、2日間で2万人以上を動員し、喝采を浴びました。

大正時代の開業当時の姿に蘇った、幅120メートル、高さ30メートルという巨大な東京駅舎が、メディア(媒体)でありながら、映像と一体化することでコンテンツそのものに華麗に変貌を遂げていく姿が、なんとも魅力的でした。

人々の人生の交差点であり続け、これからも人々の夢を運んでいく――東京駅の歴史・アイデンティティーが、蒸気機関車や花火などの華やかなモチーフとともに描かれました。光でつむがれた神秘的なショーは、観客を魅了しました。日本におけるプロジェクションマッピングの歴史が産声をあげた瞬間です。

それから10年以上の時を経て、プロジェクションマッピングにおける投影技術や、コンテンツとしての表現力はますます進化を遂げています。

プロジェクションマッピングの原点は、ディズニーランドの「ホーンテッドマンション」

プロジェクションマッピングとは、「プロジェクション(投影物)」を「マッピング(位置付ける、張り合わせる)」する技術です。最大の特徴は、スクリーンや壁などの平面ではなく、建築物や樹木など、表面に起伏のある、立体物に映像を映し出す点にあります。

プロジェクション(投影物)のデザインやサイズのディティールに合わせて映像を編集し、投影時に投影物と映像がぴたりと重なり合うよう調整するには、最先端の技術が必要です。ですがその原点は、1960年代のアメリカに、すでに見ることができます。

1969年8月、アメリカのディズニーランドにオープンした「ホーンテッドマンション」です。「ホーンテッドマンション」には、現在のプロジェクションマッピングに通ずる投影技術が、すでに使われています。表情のない真っ白な大理石の胸像に、その凹凸とぴったり合うような映像を映し出すことで、その胸像がまるで話しているかのような不気味なシーンを演出しているのです。

この素晴らしい技術をもとに、クリエイターや技術者たちは「表現の幅をもっと増やし、屋外での投影が可能なものに発展させられないか?」と考えました。

機材や映像技術の発展にともない、屋外でも使用できるような高輝度のプロジェクターがクリエイターの手に届くようになったことが追い風となり、ついに大型の建築物に、ショート映像の繰り返しではなく、不可逆的に連続する映像を投影できるようになりました。

海外では2008年頃から建築物へ投影された作品が発表され始めています。2010年にアメリカのファッションブランド「ラルフ・ローレン」のイギリス法人が、ロンドンのニューボンドストリートにある本社の建物に、モデルのウォーキングなどを投影したPRコンテンツを発表し、世界にインパクトを与えました。

投影対象のスケール・活用方法拡大が一気に認知されたプロジェクションマッピングはその後SNSやYouTubeを通して世界的に拡散されます。そして日本でも東京・丸の内駅舎のようなクオリティの高い作品が生まれ、発展していったのです。

10年でさらに進化したプロジェクションマッピング

現在では、人々を魅了するプロジェクションマッピングが次々に生まれています。お城、美術館、地域のランドマークなど、投影の対象もどんどん広がりを見せています。どんなものがあるか、最新の事例を中心に紹介します。

リアルタイムに生成した映像を、水面に投影「チームラボプラネッツ」

プロジェクションマッピングを多用した「デジタルアート」で有名なチームラボ。その作品は国内外で高い評価を得ており、メディアでも多く取り上げられています。プロジェクションマッピングを日本に浸透させた立役者のひとつと言えるでしょう。

チームラボの作品は全国各地にありますが、その作品世界を存分に堪能できるのが東京・豊洲のミュージアム「チームラボプラネッツ TOKYO DMM」です。2023年末までは、「水に入るミュージアム」とふたつの庭園からなる「花と一体化する庭園」などのコンテンツを楽しむことができます。

おすすめは水面に色鮮やかな映像を映し出した「人と共に踊る鯉によって描かれる水面のドローイング」という作品です。広がる水面に投影された鯉が泳いでおり、鑑賞者は裸足になって水の中へ入ります。鯉は人の動きに影響を受けながら泳ぎ続け、人にぶつかると季節の花に姿を変えて散っていきます。

作品はコンピュータプログラムによってリアルタイムに生成され、鑑賞者の動きによって常に変化し、二度と同じ絵が生まれることはなく、まさに一期一会。大人も童心に戻って人目もはばからず見惚れてしまう、幻想的な光と水のデジタルアートです。

チームラボは2023年秋、東京・麻布台に「チームラボボーダレス」という常設スポットをオープン予定です。新スポットでどのようなデジタルアートを見せてくれるか、期待は膨らむばかりです。

チームラボプラネッツ TOKYO DMM 豊洲
https://planets.teamlab.art/tokyo/jp/

世界遺産を舞台に日本の夏を彩る「NAKED夏まつり 2023 世界遺産・二条城」

アートテクノロジーの最前線で活躍するクリエイティブカンパニー「NAKED」もまた、プロジェクションマッピングを多く手がけています。水族館、動物園などでプロジェクトを実施しているほか、城や寺といった日本の伝統建築とのコラボレーションも精力的に行っています。古典的な和の美しさと最先端技術を組み合わせた華やかな映像表現が、多くの人々を魅了しています。

2023年初には「NAKED FLOWERS 2023 桜」と題し、「桜×日本の伝統文化」をテーマに、重要文化財の唐門に鮮やかな桜が映し出されるダイナミックなイベントを開催しました。NAKEDが定期的にプロジェクトを開催している場所の一つが世界遺産・二条城です。2023年夏には、二条城を舞台にしたアートプロジェクトを開催予定です。

NAKED夏まつり2023 世界遺産・二条城
https://naked.co.jp/works/18760

純白の雪像に映る街の歴史「さっぽろ雪まつり」

大小さまざまな雪像が展示される氷の祭典「さっぽろ雪まつり」も、プロジェクションマッピングを活用しています。2023年には、市制100周年を祝い、札幌市にある重要文化財「豊平館」を再現した高さ10.6メートル、幅22メートルの巨大な雪像に映像を投影。札幌の歴史が華やかな映像と音楽で鮮やかに表現されました。窓や屋根の装飾など、細かな凹凸がある雪像に精緻に映し出された映像が見事です。

「第73回さっぽろ雪まつり」大雪像「豊平館」プロジェクションマッピング
https://www.eizou.com/projects/1183/

町おこしのため高校生が動いた「袋井高校プロジェクションマッピング」

町おこしのためにプロジェクションマッピングを行う事例は多くありますが、静岡県袋井市では高校生たちが実行しました。コロナ禍で花火大会の中止が続いたことを受け、「街に元気を届けたい」という思いから、パソコン部の部員たちが企画しました。

このプロジェクトは大人たちも巻き込み、高校生は「袋井の四季」をテーマに8分間の映像を制作。地元にある法多山尊永寺の本堂でイベントを行い、地域の人々を魅了しました。

パソコン部に在籍しデジタル技術に関心が高いとはいえ、高校生がこれだけの一大プロジェクトを成功させたことに感嘆します。プロジェクションマッピングのさらなる広がりを感じさせる事例です。

袋井ハイスクールチャレンジ【公式】
https://www.instagram.com/fukuroihighschoolschallenge/

市場規模も成長中 エンタメに限らない広がりも

2021年の「REPORT OCEAN」によるレポートでは、世界のプロジェクションマッピング市場は2021年から2027年までの間に23.4パーセント以上成長し、2027年には100億米ドルに達する見込みです。

さらに、現在はエンタメ界での発展が目立ちますが、近年は実際の顔で体験できるメイクのシミュレーションシステムや手術の支援システムなど、さまざまな分野への応用が進んでいます。

10年間で大きく飛躍したプロジェクションマッピング。次の10年でもきっと、私たちの想像を超える展開を見せてくれることでしょう。

[プロフィール]
小沼 理
企画から執筆・編集まで多彩なメディアのコンテンツ制作に携わる編集プロダクション・かみゆに所属。得意ジャンルは日本史、世界史、美術・アート、エンタテインメント、トレンド情報など。