当社サイトでは、サイト機能の有効化やパフォーマンス測定、ソーシャルメディア機能のご提供、関連性の高いコンテンツ表示といった目的でCookieを使用しています。クリックして先に進むと、当社のCookieの使用を許可したことになります。Cookieを無効にする方法を含め、当社のCookieの使用については、こちらをお読みください。

VR、AIロボット……テクノロジーで進化した「ネオ茶道」!伝統芸道の魅力を未来へ

2023.06.14(最終更新日:2023.06.14)

読了時間目安 11

シェアする

伝統芸道と最新ITを融合

日本には、日本人ならではの美意識、わび・さびが表現された伝統芸道がたくさんあります。一方で、これまでそれらに「親しむ機会がなかった」という層には敷居が高く感じられてしまうこともあり、「一部かつ一定数の人たちによって親しまれる傾向にある」という課題を抱えていました。

しかし、近年は最新ITを組み合わせることで、これまで親しむ機会がなかった方でも気軽に体験し、実践的に学ぶきっかけが提供され、伝統芸道の魅力が再発見されています。

たとえば、歌舞伎・能などの伝統芸能や、華道・書道・茶道などの伝統芸道はさまざまな最先端テクノロジーと融合することで、普遍的な魅力を伝えるのみならず、新しい価値を生み出しています。なかでも、今回は茶道に焦点を当ててみましょう。

お茶を通じ、一期一会の交流を楽しむ茶道

茶道は茶の湯とも呼ばれ、「亭主が客人にお茶を振る舞い、客人はそのおもてなしを受け、お茶と茶菓子などを賞味する」という儀式のことです。現在の茶道の基礎は、安土桃山時代に活躍した茶人・千利休が確立しました。

亭主は客人をもてなすために心を込めてお茶を点てるだけでなく、茶室の手入れや茶道具の選定、床の間にかける掛け軸や飾られた花、季節に合った和菓子など、細部にまで気を配ります。

おもてなしを受ける客人もまた、いただき方、座り方など細かな作法を守ることで、互いに清々しい、お茶を通じた一期一会の交流が生まれます。

昨今は茶道人口が年々減少している一方、SNSで魅力を発信する人や日本の伝統文化に注目する外国人観光客は増加しており、新たな局面を迎えています。茶道と最新ITを融合する取り組みは、この新たな潮流を加速させる一助となっています。

茶道の可能性を広げる最新IT

最新のテクノロジーを取り入れることで、茶道の可能性はどのように広がったのでしょうか。実際の事例を紹介します。

VR(バーチャル・リアリティ)やオンラインで、自宅にいながら茶道を体験

「茶室という小さな空間を共有し、少ない人数で交流する」これは、茶道ならではの親密かつ心地よいコミュニケーションを可能にする特徴の一つですが、場所が限定されているため「参加や主催のハードルが高い」という課題がありました。

また、コロナ禍により、日常的に茶道を嗜んでいる層にも「茶会の参加を断念せざるを得ない」という状況に追い込まれました。

そこで、こうした問題を一挙に解決したのが、オンラインやVRで主催される茶会です。ネット環境さえあれば世界中どこにいてもアクセスすることができます。

たとえば、茶道初心者から茶道の先生まで、幅広い参加者から「茶の湯を茶室から、WEB空間へ拡張する」をコンセプトで親しまれているオンライン茶会「茶空会 sakue 」の内容を例に紹介します。

参加者の元には、事前にお菓子、抹茶、懐紙、などが入った「お茶セット」が届きます。自分で用意するものは、お湯とお茶碗、茶筅だけです。参加者全員で同じお菓子・同じ種類の抹茶を堪能し、同じ空間を共有せずとも、お茶会を楽しむことができます。
また、「茶空会 sakue 」でも人数限定のイベントとして開催されることのある、VR茶席が話題を読んでいます。

VRは没入感が高く、臨場感あふれる空間を楽しむことができます。清潔感がただよう茶室や、お茶を通して生まれる参加者同士の親近感など、茶会のエッセンスをしっかり感じることができるため「いきなりリアルなお茶会に行くのはちょっと緊張する」という人にもおすすめです。

また、近年は茶道の作法をオンラインで学ぶことができるオンライン稽古や、配信動画などもあります。動画であれば、自分で出来るようになるまで繰り返し視聴できるので、まずは一人でじっくり勉強したいという人にもぴったりです。

茶室空間をテクノロジーでアップデート

茶室空間をテクノロジーで演出した、大胆な茶道が登場しました。壁面や畳に映像を映し出し、お茶会のシーンに応じて切り替わるような演出を楽しめす。最新技術によるエンターテインメント性と、伝統芸道の奥深さを同時に楽しむことができるため、茶道に親しみのない方が興味をもつきっかけとしても期待されます。

茶道の新たな魅力に触れる「ネオ茶道」な取り組み

伝統芸能に最新テクノロジーを掛け合わせ付加価値を得ることで、茶道は大きく進化しています。「ネオ茶道」と呼びたくなるような、アップデートされた取り組みの一部をご紹介します。

オンライン/VR茶会「茶空会 sakue」

千利休を祖とする千家の家督を継いだ千家流茶道の本家である「表千家」の岡田宗凱(そうがい)氏が主催する「世界茶会」による、オンラインで茶の湯を体験できるイベントです。世界中がコロナ禍にあった2020年9月に、世界初の「VR茶会」を開催し話題になりました。

参加者は事前に送付されたお茶菓子を準備し、岡田氏が抹茶を点てる様子を見ながら自分でも手元の抹茶を点てて味わいます。また、VRならではの取り組みとして仮想空間に再現された茶器の見学も。拡大縮小したり回転させたり、自由にじっくり観察することができるのも特徴です。詳細な意匠を観察するという視点では、実際に手に取るより有効だと言えます。

・茶空会 sakue
https://sakuejapan.com/

茶道チューターロボット「千のロビ」

「茶道は敷居が高くて親しみにくい」という若者たちの声をきっかけに開発されたのが、茶道チューターロボット「千のロビ」です。「千のロビ」という名前は、千利休にちなんで命名されています。

「千のロビ」には音声認識機能が搭載されているため、こちらの呼びかけに応えながら、茶道の作法や歴史などを教えてくれます。英語と日本語に対応しており、茶道の初心者や海外の人にも気負うことなく楽しめます。

また、「千のロビ」が教えてくれるとおりの手順を踏むことで、誰でも簡単にお茶を点てることができます。

茶道チューターとして登場するロボットと会話しながら、参加者とおだやかで楽しい時間を共有できる、ユニークなお茶会を提供してくれます。

・千のロビ
https://www.wachaworld.com/

茶道で使う無数の道具を識別「お茶会ロボットシステム」

2020年1月、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)開催のシンポジウム「AI&ROBOT NEXT」にて人工知能とロボットについての研究発表の展示や各ロボットのデモが行われました。そこで登場したのが、産業技術総合研究所、中京大学、中部大学の連盟で展示された「お茶会ロボットシステム」です。

「お茶会ロボットシステム」はきめ細かな動作で抹茶を点てる姿が印象的なロボットです。映像認識機能を搭載しており、茶道具の種類や機能を認識し、その扱いを自律的に判断します。

抹茶をすくう茶杓の長さを認識し、棗(抹茶を入れるのに用いる茶器の一種)に差し込む深さを調整する……まるで人間のように繊細な動作ができることに驚かされます。さらに、人間の動きの軌跡を学習しているため、お茶を点てる茶筅の動かし方も滑らかで自然です。

・お茶会ロボットシステム
https://www.youtube.com/watch?v=hX6JbjJVUpQ

茶会×DX「CYBER CHAKAI(サイバー茶会)」

富士通が最新技術を駆使して同社の研究所に開設した茶室で、電通のクリエイティブチームとコラボレーションして開催されたインタラクティブな茶会体験です。

茶室の白壁には映像を映し出すことができ、掛け軸や風光明媚な四季の景色などで参加者を茶の湯の世界へと導きます。畳にも映像が投影でき、参加者は表示された「右に茶碗を3回回す」などのメッセージを確認しながらお茶をいただくことができるので、茶道に馴染みのない人でも安心して楽しめます。

・サイバー茶会
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000010.000082501.html

京都にできたデジタル技術融合の茶室「寂隠(じゃくいん)」

ソニーコンピュータサイエンス研究所京都研究室と、学校茶道教材の販売や、茶道普及ツールの企画制作を行う株式会社ミリエームの茶美会(さびえ)文化研究所が開設した、新しい茶室です。

茶室内には数々のセンサーが配置されており、手元の繊細な動きや身のこなしといった作法をキャプチャー(捕獲)できます。この3Dデータを活用することで、茶道文化の保存・継承に貢献します。

そのほか、過去約500年の茶会で使用した道具や食事を記録した「茶会記」を3Dデータで保存したり、障子扉の透明度をプログラミングによって制御したりといった試みも。茶の湯文化を通じ、デジタルとリアルの融合を研究する貴重な茶室となっています。

茶の湯はこれからも進化し続ける

伝統や歴史に裏付けられた茶道。しかし一方で、これまでも時代に合わせてさまざまな変化を遂げてきました。テクノロジーを取り入れて変わっていく、時代の変化に適応できる懐の深さがあるからこそ、伝統として継承され、求められつづけてきたと言えるのかもしれません。茶道に敷居の高さを感じていた人こそ、まずは「ネオ茶道」からはじめてみてはいかがでしょうか。

[プロフィール]
小沼 理
企画から執筆・編集まで多彩なメディアのコンテンツ制作に携わる編集プロダクション・かみゆに所属。得意ジャンルは日本史、世界史、美術・アート、エンタテインメント、トレンド情報など。