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コロナで進化した不動産サービス…賃貸物件は「オンライン内見」から「VR内覧」へ

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2023.03.08(最終更新日:2023.03.28)

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コロナ禍により、不動産業界は大きな変革を強いられています。そこで台頭してきたのがIT業界がリードする新世代サービス「不動産テック」です。日常的に行われる内見案内や契約事務のほか、価格・賃料査定、ローンシミュレーション、賃貸管理などといった幅広い業務をデジタルベースへ置き換えていくのが不動産テックの役割ですが、現場においてどの程度取り入れられているのでしょうか。今回は不動産営業の“入口”ともいえる賃貸物件の内見案内に焦点を絞って見ていきましょう。

話題の「オンライン内見」、どんな感じ?

勤務先近くの賃貸マンションを探している、ある会社員の女性。内見を申し込んだ不動産業者から送られてきたURLをクリックすると、パソコン画面に女性スタッフの笑顔が映し出されました。

これから「オンライン内見」を申し込んだ賃貸物件のライブ中継が始まります。

「まずは建物1階のエントランスからご案内していきますね!こちらのオートロックの開錠方法は…」と女性スタッフの説明は流暢です。共用廊下を通ってエレベーターに乗り、内見目的の部屋へと向かいきます。

「よいしょ…」スマホ片手のスタッフがぎこちなく玄関ドアを開けると、原状回復リフォームが施されたきれいな室内が、画面いっぱいに広がりました。23㎡とちょっと狭めのワンルームですが、高性能のスマホカメラで撮影しているせいか、なかなかの見栄えです。

キッチン、バスルーム、クローゼットと室内を一通り撮影し終えると、「ほかにご覧になりたいところはありますか?」と女性スタッフから声がかかります。「バルコニーからの眺望を見せてください」とリクエストすると、風光明媚とまではいきませんが、上層階の抜け感ある風景が広がります。「これなら、のびのび暮らせそう…」内見者の女性も、生活のイメージが湧いてきます。

バーチャルではあるものの、印象は及第点。初期費用も予算内に収まるため、ネット上の入居申込みフォームに記入・送信しました。

このあとは、家賃保証会社の審査を経て賃貸借契約へと進みますが、従来は対面で行われるはずの重要事項説明もWeb会議アプリで完了。不動産業者の店舗へ一度も足を運ぶことなく入居まで至りました。

不動産業界に重い腰を上げさせた「コロナ禍」

未曽有のコロナ禍が勃発してから早3年。2020年春以降の不動産業界は営業店舗の閉鎖や売買・賃貸契約の延期を強いられ、まさに“青息吐息”状態。「お客様と会えない」ことがこれほどまでに大きな障壁になると誰が予想したでしょう。

コロナ禍によってダメージを受けた業種は多々ありますが、同じ接客業である小売店や飲食店がネット通販やデリバリーでリカバーできる点を考えれば、「一生に一度の買物」とも謳われる高額商品を扱う不動産業が、もっとも痛手を負ったのではないでしょうか。

たとえ賃貸物件でも、数十万円の初期費用がかかる契約です。「ネットでポチッと」なんて安易に成約が取れるわけがありません。そのため、不動産業界団体はこれまで先送りにしていた〈各種業務のオンライン化〉を急ピッチで進めざるを得なくなりました。

真っ先に着手したのは、オンラインによる重要事項説明システムの構築、すなわち「IT重説」の実現です。これまでは宅建士が契約者と相対して重説を行うことが鉄則でしたが、コロナ禍で困難を極める取引状況を鑑み、現在では「zoom」などのWeb会議アプリを活用してリアルタイムの相対環境を作ることができれば、遠隔地間であっても重説義務は果たせるというお墨付きが得られました(国土交通省「IT重説本格運用」)。

不動産業務のオンライン化に欠かせないのはIT業界の後押しです。実はコロナ禍前から、大手IT企業等により水面下で準備が進められていたものの、旧態依然とした不動産業界の体質や、旧来の契約形式にこだわる投資家たちの影響でプロジェクトは停滞・頓挫気味でした。

令和の時代にあっても「契約・引渡の日取りは大安吉日に」と希望する契約者は多く、「日取りはさておき、パソコンを通しての契約なんてもってのほか!」という声もまだ聞かれます。しかし、コロナ禍にあってそんな悠長なことを言っていては商売上がったりです。

東京商工リサーチの「コロナ禍における不動産業のアンケート」調査によると、コロナの影響を受けて「業況が悪化した」と答えた不動産業者は約9割、その原因には「契約キャンセル」「営業自粛」などを挙げているといいます。加えて、政府から受けた事業支援金が過剰債務となり、廃業を余儀なくされる業者も今後増えるのではないかと予想されています。

IT業界主導による「不動産テック」の誕生

この由々しき状況下、不動産業界の窮地を救うべくIT業界が掲げたのが「不動産テック」です。不動産テックとは、一般社団法人不動産テック協会によると「VR(Virtual Reality)・AR(Augmented Reality)」「IOT(Internet of Things」「スペースシェアリング」「リフォーム・リノベーション」「不動産情報」「仲介業務支援」「管理業務支援」「ローン・保証」「クラウドファンディング」「価格可視化・査定」「マッチング」「物件情報・メディア」の12のカテゴリーからなるもので、同協会がつくる「不動産テックカオスマップ」には、カテゴリー毎に各種サービスを提供するIT関連企業の名が連ねられています。

それらの中でもとくに人気のサービスは、

・ネット上で簡単にできる不動産ローン・買取査定
・不動産仲介会社向けの営業サポート
・不動産管理会社や賃貸オーナー向けの賃貸管理サポート
・不動産業者を介さない売主・買主間の直接売買サポート
・売買価格・家賃相場分析サポート
・VR内見サポート

などです。この中で最も多くの不動産業者から重宝されているのは、やはり内見案内に関わるサービスではないでしょうか。

家具配置が自由自在な「VR内覧」も登場

前述の「オンライン内見」は不動産テックの初歩的なもので、まだまだ改善の余地があります。直近の内見サポートツールでは、360度カメラで撮影した賃貸物件の室内画像を不動産会社のホームページに上に掲載した「VR内覧」サービスが好評です。

さらに、バーチャル画像上で室内の寸法を測ったり、設置したい家具や家電を画面上で仮想配置したりできるAI(人工知能)技術を加味した最新鋭のVR内覧サービスもスタートするようです。ここまでできれば、諸事情で現場に行けない顧客、遠方から部屋探しをしなければならない顧客のフラストレーションも大幅に解消できることでしょう。

これらのサービス、実は顧客のみならず、不動産業者のスタッフの身の安全を守るという意味でもメリットがあります。以前、内見案内中の不動産会社スタッフが、内見客から暴行されるという事件がありました。事前に個人情報を得ていたとしても、初見の顧客とスタッフが2人きりの密室に置かれることには、それなりのリスクがあるといえます。オンライン内見やVR内覧の積極的な導入、そしてさらなる進化は、そういった犯罪リスクの軽減にも、大きな役割を果たすと考えられるのです。

まとめ

停滞・頓挫していた不動産業界のIT化は、コロナ禍によって劇的に進展しました。なかでも、内覧、重説をはじめとする各種業務のオンライン化の実現は画期的だといえます。これらが不動産業界のスタンダードとなれば、ウィルス感染リスクのみならず、スタッフの安全確保にもつながります。古い殻を破り、多くのIT企業とリンクすることで、不動産業界に新たな風が吹いているのです。

[プロフィール]

高山敦子
フリーライター。住宅業界、IT業界への取材・執筆経験多数。