当社サイトでは、サイト機能の有効化やパフォーマンス測定、ソーシャルメディア機能のご提供、関連性の高いコンテンツ表示といった目的でCookieを使用しています。クリックして先に進むと、当社のCookieの使用を許可したことになります。Cookieを無効にする方法を含め、当社のCookieの使用については、こちらをお読みください。

法整備、どこまで進んでいる?「暗号資産業界」における近年の規制動向

この記事は1年以上前に書かれたものです。現在は状況が異なる可能性がありますのでご注意ください。

2023.03.06(最終更新日:2023.03.28)

読了時間目安 12

シェアする

近年急速に注目度が高まっている暗号資産(仮想通貨)。暗号資産には、その個々の性質に応じ、決済手段やアプリケーションへの関与などの本来の役割がありますが、日本においては、投機対象として認識されることが多いのが現状です。そのようななか、国内外で暗号資産取引所をめぐる事件が耳目を集めるケースが散見されます。本記事では、暗号資産をめぐる近年の規制の動向についてご紹介します。

暗号資産取引所をめぐる事件

日本での暗号資産取引所にまつわる最初の大規模な事件は、2014年に発生したマウントゴックス事件です。当時世界でも最大級の暗号資産取引所を運営していた株式会社MTGOX(以下「MTGOX」)が債務超過に陥り、民事再生手続きを申し立てました。

債務超過の原因は、MTGOXが取り扱い、保有していたビットコイン(BTC)が、ビットコインの基礎ソフトのシステムバグを悪用した不正アクセスによって引き出され、消失したことが主な原因とされています(※1)。

その後も、2018年にはコインチェック株式会社(以下「コインチェック」)が運営する暗号資産取引所において、580億円分のネム(NEM)が不正アクセスによって流出する事件が発生しました。直近では、米国において、FTX Trading Limited社が顧客から預託された資産を不正に流用した疑いが取りざたされています。

日本の暗号資産をめぐる規制

日本では、資金決済に関する法律(資金決済法)により暗号資産の取扱業者を規制しています。資金決済法は、もともとは前払式支払手段の発行者と資金移動業者を規制対象とする法律でしたが、2017年4月1日に施行された改正法により、当時、仮想通貨交換業という形で取引所を対象とした規制が導入されました。

その後、後掲の仮想通貨交換業等に関する研究会での議論を踏まえ、2020年5月1日に改正資金決済法が施行され(この改正時において仮想通貨から暗号資産へと用語も変更されました)、主に利用者の財産を保護する観点から暗号資産交換業者に対して厳しい規制が課されるに至っています。

事件を受けた法整備

2018年に起きたコインチェックの事件を受け、2018年4月より、「仮想通貨交換業等に関する研究会」が設置され、同年12月までの約9ヵ月にわたり、今後の暗号資産交換業の規制のあるべき姿について議論が行われました。

この研究会では、不正アクセスに対するセキュリティに関する規制や暗号資産の極めて高いボラティリティに対する投資家保護、ICO(※2)などのトークン発行スキームに対する規制など、広範なトピックが議論の対象とされ、我が国における暗号資産取引業界のより適切な姿が模索されました。その結果、2019年5月31日に資金決済法の改正法が成立し、新たな規制が設けられました。

ホットウォレットに関する対応

コインチェックの事件を含む複数の不正アクセスによる暗号資産の不正流出事件は、暗号資産をホットウォレット(オンラインに接続した状態で管理するタイプのウォレット)で管理していたことがひとつの要因であるとされています。

これを受け、改正法では、業務の円滑な遂行等のために必要なものを除き、コールドウォレット(オンラインに接続しない状態で管理するタイプのウォレット)での暗号資産の保管又はこれと同等の安全管理措置を備えた方法で管理しなければならないとされ、ネットワーク経由での不正なアクセスに対するセキュリティの要件が引き上げられました。

また、ホットウォレットで管理する利用者の暗号資産については、これと同種・同量の暗号資産をコールドウォレット等で保管することが義務付けられました(履行保証暗号資産)。

この改正により、悪意を持った第三者の攻撃を受け、万が一ホットウォレットから暗号資産が流出してしまった場合でも、暗号資産交換業者がコールドウォレットに保管している暗号資産をもって填補できる体制を確保することが義務付けられたと解釈することができます。これらの暗号資産の管理の状況は、定期的に公認会計士や監査法人の監査を受けることが義務付けられています。

利用者の優先弁済権

暗号資産交換業者が債務超過に陥り破産するに至った場合には、当該交換業者が破産時に保有する財産を債権者に分配することになります。しかし、破産に至っているということは、通常、破産者にはすべての債権者に全額の支払いを行うに足りる資産がありません。

そのため、たとえば破産した仮想通貨交換業者に100BTCを預けていた利用者がいた場合であっても、100BTC全部は返ってこないということになります。このような事態に対応するために、暗号資産交換業者の保有する一定の財産については、利用者がほかの債権者に優先して弁済を受けることができる権利が創設されました。優先弁済権の対象となる財産は、分別管理された利用者の暗号資産と、コールドウォレット等で管理されている暗号資産交換業者の暗号資産(履行保証暗号資産)です。

金銭の信託義務

改正前の資金決済法においては、暗号資産交換業者は、利用者の金銭を自己資金とは別の預貯金口座または金銭信託のいずれか片方の方法で管理すればよいこととされていました。これに対して、改正後の資金決済法では、預かった金銭について必ず信託銀行または信託会社を受託者とする金銭信託を行わなければならないものとされました。

これにより、暗号資産交換業者が倒産した場合でも利用者の金銭が保全されることになるほか、暗号資産交換業者による利用者の財産の流用を制度的に防止することが企図されています。

そのほかの新規ルール

以上のような利用者の資産を直接的に保護する規制以外にも、多角的な観点から利用者の保護を促進するルールが設けられました。

まず、それまで存在しなかった広告の規制が設けられ、暗号資産交換業者は、自身に関する情報や暗号資産の性質のうち利用者の判断に影響をおよぼすこととなる重要なものについては広告での表示が義務付けられました。さらに、虚偽広告や誇大広告はもちろん、投機目的を助長するような広告及び勧誘が禁止されました。また、信用取引を行う場合には、当該暗号資産の交換等に係る契約内容について、利用者に対し一定の情報を提供する義務が規定されました。

改正法を受けた暗号資産取引業者の対応

上記の法改正を受け、暗号資産取引業者はそれぞれが新規の規制に対応する体制を整備することとなりました。もっとも、暗号資産取引市場の健全化のためには、規制そのものに加え、その対象となる暗号資産取引業者のコンプライアンス意識が不可欠です。

上記の改正前から暗号資産交換業者に対する規制は存在したものの、2018年前半に行われた金融庁による検査においては、自主廃業をした業者を除き、全事業者に不備が認められ、業務改善命令が発出されるような状況で(※3)、各暗号資産交換業者のコンプライアンス意識が高いとはいい難い状況でした。

しかし、昨今はセキュリティや内部統制に関するノウハウの蓄積や意識の高まりにより、変化がみられるようです。金融庁のモニタリングにおいても、各種流出事件の原因とみられるサイバーセキュリティー対策に関し、インシデント発生時における対応手順の整備に進捗が見られるという報告があります(※4)。

また、利用者の利益に直接かかわらないマネーロンダリング・テロ資金供与対策等においても、担当官が他業態比でも内部管理体制の高度化が進む事例が見受けられると評していることから、コンプライアンス一般に対する意識そのものの高度化・成熟化が進んでいるのではないでしょうか。

まとめ

暗号資産を含むブロックチェーンを用いた技術の発展は目覚ましく、ステーブルコインやNFTなど、新たなワードが一般の目に触れる機会は日ごとに増しています。これに対応すべく、各国政府は法整備を進めています。例えばステーブルコインについては、FSB(金融安定理事会)やG20が声明を出し、監視と規制の強化を強める姿勢が国際的に確認され、わが国でも2022年の資金決済法等の改正でこれに対する規制が整備されました。

このように、法律の面からも利用者を保護する制度が整いつつありますが、完璧な制度というのはありません。過度に厳しい規制を暗号資産交換業者に課すことは、利用者保護に資する一方で、業者に負担を強いることにもなり得ます。過剰な規制は暗号資産分野のイノベーションを阻害するおそれもあり、ひいては利用者が新たなサービスを享受する機会を失ってしまうことにもなりかねません。

暗号資産のサービスを利用する側においても、暗号資産にまつわる正しい知識を身に着け、リテラシーを高めていくことが、今後の暗号資産分野の健全な発展にとって大切なことだと考えられます。

[プロフィール]

菅野 龍太郎(かんの・りゅうたろう)
法律事務所Z 東京オフィス・代表弁護士
第一東京弁護士会
得意分野:企業法務、渉外法務

野口 雄亮(のぐち・ゆうすけ)
法律事務所Z 東京オフィス・パートナー
第二東京弁護士会
得意分野:企業法務、ファイナンス、知的財産法

(※1)破産法157条報告書(東京地方裁判所平成26年(フ)第3830号)

(※2)「Initial Coin Offering」の略で、新規暗号資産(仮想通貨)公開を指す

(※3)曽根康司「暗号資産交換所ビジネスの現状とモニタリングの方向性」『金融財政事情2022年5月17日号(3447号)』(きんざい2022)

(※4)(前掲)曽根康司「暗号資産交換所ビジネスの現状とモニタリングの方向性」『金融財政事情2022年5月17日号(3447号)』(きんざい2022)