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融資は「信用スコア」でAIが決定?「AIレンディング」の広がる可能性

この記事は1年以上前に書かれたものです。現在は状況が異なる可能性がありますのでご注意ください。

2023.01.20(最終更新日:2023.03.28)

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近年、AI (人工知能)は私たちの生活に様々なかたちで関わっています。Google傘下の企業が開発した囲碁AI「アルファ碁」のような分かりやすいものだけでなく、SNSのタイムラインのフィードやファッションサイトの検索結果など、挙げればキリがありません。

「金融」も例外ではありません。金融業界において、AIは特にレンディング(融資)ビジネスに使用されるケースが多くあります。そこで今回の記事では、レンディングビジネスにAIがどう関わり、今後私たちのお金や暮らしにどのような影響を与えうるのか、分かりやすく解説していきます。

レンディングビジネスの基礎

まずレンディングビジネスの基礎からおさらいしておきましょう。

レンディングとは「融資」を意味します。レンディングをサービスとして提供する会社には、銀行やクレジットカード会社、貸金業者といった企業はもちろん、近年ではFintechと呼ばれる、金融とテクノロジーを掛け合わせたビジネスを運営している企業も多くあります。こうした企業では、オンラインで完結するレンディングや、銀行等の金融機関を介さないで資金の貸し借りができるP2Pレンディングなど、新たな形態のレンディングを提供しているものもあります。

そして、これらの企業がレンディングを行う際に、共通する過程があります。それは「与信管理」です。与信とは「取引相手に信用を供与すること」であり、それを管理するのが与信管理です。たとえば銀行ではレンディングを利用する相手がしっかりと返済してくれるかどうかを評価(信用の供与)し、それにあった取引を行います。

与信管理を行う際には、一般的に取引相手の情報を利用します。たとえば一般消費者向けのレンディングであれば、基本的には年収などの個人情報、他社のカードの利用状況、信用情報機関(CICやJICCなど)からの情報を利用します。

また、海外では「信用スコア」というものがあり、それを与信管理に使うことも一般的です。たとえばアメリカでは、金融機関が利用者のデータを信用情報機関に共有し、それをスコア化した「FICOスコア」というものがあります。

ここまでレンディングビジネスにおける与信管理の基礎について解説してきました。ここからは先ほど少し紹介した海外の事例等含め、レンディングにAIが絡んでいくとどうなるのか、実例も交えながらより具体的に紹介していきます。

与信にAIを用いる「AIレンディング」

AIの定義は人や業界によって様々であり、一言ですべてを包括するのは難しいのですが、この記事では「大量のデータを学習して利用し、何かを推論するもの」としてみましょう。

レンディングビジネスにおいて、AIを使用するケースが多いのは特に与信管理の部分です。近年のデジタル化により、お金を借りる人に関する様々なデータが収集できるようになり、AIはその分析に用いられています。既存の与信管理よりも多くの情報を参照するため、より正確な与信管理ができると期待されています。

海外で進むAIレンディング

信用スコアという概念や、AIによる与信の浸透具合など「AIレンディング」の普及は、日本に比べると海外において進んでいます。この理由には、技術的な要素もあると思いますが、レンディングビジネスの市場規模や消費者のプライバシー意識など、その他様々な要因が考えられます。

中国:芝麻信用・WeChat

海外事例として特に有名なのは、中国で一般化している信用スコアの芝麻信用(セサミ・クレジット・ジーマ信用)でしょう。これは同国の巨大テック企業であるアリババ傘下のAnt Groupが提供するサービスで、身分や人脈、信用履歴といった計5つの項目を総合し、AIを用いて信用スコアが計算されます。このスコアは基本的には融資の際の与信管理に利用されていますが、スコアがよければ様々な公共サービスが利用しやすくなったり、ビザが取得しやすくなったりと生活のあらゆる面で活用されており、もはや国のインフラと化しています。

また、同じく巨大テック企業のTencentが提供しているWeChatも独自のクレジットスコアを算出し始めています。

アメリカ:Upstart, BNPL企業など

AIレンディングはアメリカでも盛んに行われています。特に2010年代から台頭してきたレンディングビジネスを営むLending Club, Prosper, OnDeckなどの企業は、AI活用をした与信管理を積極的に行ってきました。

近年、特に目立ってきているのはUpstart(アップスタート)という企業です。銀行などの融資を行う金融機関に対して、AIを用いた与信モデルを提供しています。

前述の通り、アメリカではFICOスコアが一般的に使われています。しかし、Upstartの創業者は「FICOスコアは昔ながらの方法で計算された不完全なものである」と考え、現在ではAIを用いてより多くの変数を収集し、より正確な与信を可能にしたといいます。同社のWebサイトでは、「Upstartの与信管理を利用すれば、融資の承認率を変えずに貸倒率を75%低下させることができる」と主張しています。

また、近年盛んになっているBNPL(Buy Now Pay Later)サービスにおいても、AIを使って与信管理を行う企業が現れています。アメリカ トップクラスのBNPL企業であるAffirmは、自社のテックブログにてAIを用いた与信管理について解説しています。

日本企業の事例

AIを用いた与信管理は、国内でも徐々に成功例が出てき始めています。

1番の成功例「LINE」

メッセージングサービスを手掛けるLINEは、金融子会社のLINEフィナンシャルとみずほ銀行、オリエントコーポレーションの3社が設立したLINE Credit社を通じて、信用スコアサービスのLINE Scoreと個人向け無担保ローンサービスのLINE Pocket Moneyを提供しています。

LINE Scoreでは、ライフスタイルに関する15の質問と、LINEサービスの使用状況を元にAIでスコアを算出しています。そのスコアをLINE Pocket Moneyの与信管理に活用、また融資だけでなく、スコアをもとにお得なクーポンやキャンペーンも提供しています。

LINE Pocket Moneyは2019年にサービスを開始し、2022年3月時点で累計100万件の申し込みと500億円の貸付実行額を記録しています。この成功の要因の一つには、LINE Scoreによる「正確な与信管理」が挙げられることは間違いないでしょう。

一方でこんな事例も…「J.Score」「Yahoo! スコア」

J.Scoreはソフトバンクとみずほ銀行の共同出資で設立され、2017年よりAIによる信用スコアの算定、それを元にした一般消費者向けレンディングである「AIスコア・レンディング」を行ってきました。

日本における初の信用スコアとして話題を集めましたが、2022年12月にサービスの終了を発表し、コア技術やノウハウはLINE Creditに統合するとしました。

また、インターネット検索大手のヤフーが提供するYahoo!スコアも2019年6月に開始され、翌年8月にサービスが終了しています。

日本初の信用スコアサービスとして話題となったJ.Scoreや、誰もが使う巨大サービスであるヤフーでさえも上手くいかないというのはこのビジネスの難しさを物語っているといえるでしょう。

LINE、J.Score、ヤフーはすべてソフトバンクの傘下です。同社は芝麻信用を展開するアリババと深い関係を持っています。信用スコアとそれに付随するレンディングのビジネスは、日本で将来的に大きく育てていきたい事業なのだと考えられます。

日本におけるAIレンディングの未来

今後、AI与信やAIレンディングは日本で普及していくのでしょうか?結論として、私は一定程度は普及していくと思っています。

その大きな理由は、ますます進むデジタル化です。前述の通り、デジタル化によって事業者が得られるデータは大きく拡大しています。また、近年話題になっている、非金融企業が金融サービスを自社事業に埋め込んで提供する仕組みを指す「エンベデッド・ファイナンス(埋込型金融)」や、銀行の取引データを外部の事業者に開放する「オープンバンキング」などもそれに一役買うでしょう。このような大規模なデータをAIが解析すれば、より正確で効率的な与信管理が可能となる可能性があります。

一方で課題もあります。まず日本では信用スコアという概念に馴染みがなく、学歴や経歴といった個人情報を数値化されることにネガティブなイメージを持つ人も多いことです。このイメージを覆すには、消費者に割引や特典などのインセンティブを提示し、信用スコアの利便性をアピールすることが必要です。

またAIが自然と「差別」をしてしまう可能性も課題の一つでしょう。AIの学習に利用されたデータセットに偏りがある場合、AIは差別的な推測をしてしまうことがあります。AIを用いた与信が広がるためには、ジェンダーや住所などで判断する差別的な推測を防ぎ、倫理的に問題のないかたちに調整する必要があります。

これらの課題を解決すれば、AI与信やAIレンディングはより普及していく可能性があります。ただ、借金に対するアレルギーも強い日本では、与信管理が改善されてもレンディングは普及しにくいことも考えられます。しかし、中国のように信用スコアが生活のインフラになるほどの利便性を持てば、与信管理の重要性はレンディングに限らなくなります。今後私たちの生活にも大きく関わってくるこの領域に、これからも注目していきましょう。

[プロフィール]

小林豪
Fintechリサーチャー。国内外のFintech企業やそのビジネスをリサーチ、分析を行う。Twitter(@GOU_0013)やnoteで積極的に情報を発信している。