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オフィス街でも牧場でも?! 移動式の瞑想空間「(MU)ROOM Ride(ムルーム ライド)」

2024.04.24(最終更新日:2024.04.25)

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コロナ禍による意識変容や、情報社会を背景とした精神疾患患者数の増加によって、近年、瞑想に対する需要が世界的に高まっているという。瞑想におけるマインドフルネスがウェルビーイングの実現やメンタルヘルスを改善する効果的な方法として注目されているのだ。
日本ではメンタルヘルスへのアプローチの一つとして“サウナブーム”が巻き起こったが、瞑想はその次に来るのではないだろうか。

アメリカではその勢いが顕著で、アメリカで瞑想を行う人口(過去1年以内に実施した人数)の割合は、2012年から2017年のあいだで3倍以上増加。アメリカには約2,500箇所の瞑想スタジオがあり、市場は成長(年率10%以上)を続け、現時点でアメリカのみで3,000億円を超える市場であると推測される。(※1)

そんな中、日本で瞑想に対する面白い取り組みをしているプロジェクトがあるという。
多様な場での瞑想体験を可能にする移動式の「(MU)ROOM Ride(ムルーム ライド)」だ。株式会社Chicabi(以下、Chicabi)、一般社団法人関西イノベーションセンター(以下、MUIC Kansai)、パナソニックグループの3社が共同で開発したというプロジェクトだが、一体どのような仕組みなのだろうか。ライターが実際に瞑想体験を行い、その様子をレポート。また、今回のプロジェクトの企画者でもある、Chicabi代表の川上さんと、MUIC Kansaiの村上さんにお話を伺った。


※1 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000012.000083261.html

初めての瞑想体験。感覚を研ぎ澄ませながら、頭の中がからっぽになっていく感覚に

訪れたのは千葉県千葉市にある「千葉ウシノヒロバ」。Chicabiが事業として運営している牧場兼キャンプ場に、瞑想車両「(MU)ROOM Ride」が停まっていました。

外観だけをみると、一見普通のトラックと変わりませんが、この中に秘密があるといいます。荷台のカーテンを開けてみると、そこには部屋と、小さな扉が。
トラックの荷台に瞑想のスペースが広がっているのかと感心していると、スタッフが案内をしてくれました。

スタッフ「ここは前室になります。扉を開けていただくと、瞑想室になっていて、そこで瞑想していただきます。(MU)ROOM Rideには専用のアプリケーションがございますので、こちらに沿って瞑想体験いただけるようになっております。また、瞑想度合いを測るためにこちらの計測デバイスの着用もお願いします。」

さっそくデバイスを着用し、瞑想体験をしていきます。

▲胸に貼ることで呼吸の深さや心拍数を計測してくれるデバイスを装着

小さな扉を開け、奥に入ると、青色の空間が広がります。

座椅子に座り、アプリを起動すると、『集中力の瞑想』と『気づきの瞑想』の2つのモード選択ができるようになっていました。
集中力の瞑想は、自然な呼吸をしながら、お腹や胸の周りで生じている体の感覚に注意を向けるモード。一方、気付きの瞑想は、呼吸をしながら、目の前に現れる感覚やイメージなどをありのままに見守るモードとのことで、今回は気づきの瞑想を行うことにしました。

モード選択後は現在の状態をアンケート形式で聞かれ、自分のリラックス度合いや興奮度合い、緊張度合いなどを選択していきます。筆者は慣れない空間に少し緊張していましたが、瞑想前に自分の状態に自覚的になることができます。

そしていよいよ、瞑想が始まります。
BGMとガイダンスが流れ、「楽な姿勢でゆっくり呼吸していきましょう」と瞑想初心者の筆者にもわかりやすく瞑想方法を教えてくれます。

自分の呼吸に感覚を研ぎ澄ませていると、鳥のさえずりや木々が風になびく音といった心地の良い自然音が流れ、木漏れ日のような光が目の前に広がってきます。まるで自分が山の中の穏やかな場所にいる気分になり、だんだんと気持ちが落ち着いていくのがわかります。

すると、今度はミストが出てきて、周りが霧のように包まれてきました。

ボーっと目の前をみていたのですが、深いミストに包まれると、この部屋がどのぐらいの奥行きなのか、わからなくなる不思議な感覚になります。さきほどまで光が投影され、1メートルほど前にあった壁が、どのぐらい遠いのか、どのぐらい近いのかがわからないのです。
また、徐々に光、音、匂いが変化していくため、トラックの荷台で行われているとわかっていながら、どこか穏やかな場所で瞑想をしている感覚になれます。

そうした感覚になることで、目の前の景色の変化と自分の呼吸に集中でき、頭が空っぽになっていきました。

約15分間の瞑想を行い、体験は終了。
最後にスコアが出てきて、筆者は100点中54点でした。高いとも低いとも言えない、なんとも微妙なスコアになってしまいましたが、初めての体験にしてはまずまずのスコアで終えることができたと思います。

体験自体は、光、音、ミスト、そして香りが変化していくので、視覚、聴覚、嗅覚を研ぎ澄ませながら、目の前に起こっていることをありのまま捉えていくことで、だんだんとリラックスしていくことができました。15分という短い時間でしたが、普段は忙しく考えごとをしている頭の中が、だいぶすっきりとした感覚で、車両を出るととても気持ち良い気分になることができました。

体験後に、「(MU)ROOM Ride」を運営している、Chicabiの川上鉄太郎さんと、MUIC Kansaiの村上弘祐さんにお話をお伺いできました。

さまざまな社会課題を、瞑想を通して解決していきたい

▲写真左・株式会社Chicabi・川上さん、写真右・MUIC Kansai・村上さん

──このプロジェクトはChicabi、MUIC Kansai、パナソニックと3社が共同で開発をしていますが、3社が協業し、開発にいたった背景を教えていただけますでしょうか。

村上:私はMUIC Kansaiという三菱UFJ銀行が設立した組織で勤務しており、弊社の会員様と一緒に社会課題解決のための事業を創出する取り組みをしています。これまでさまざまな企業様と取組をしている中で、Chicabiの川上さんから、パナソニックさんの事業に面白いものがあると「(MU)ROOM」プロジェクトを教えていただきました。弊社の会員にはパナソニックさんが入っていますし、アイディア豊富なChicabiさんとならさらにこのプロジェクトが飛躍していくのではないかと考えたんです。

川上:「(MU)ROOM」はパナソニックさんが開発した、宿泊施設で体験できる瞑想空間で、その名の通り、"無”になれる空間で心をリラックスしてもらうためのプロジェクトです。
ストレスや不眠症を抱えている方や集中力をあげたいといった方にアプローチすることで社会課題を解決できる、素晴らしいプロジェクトだなと思いまして、これをトラックの荷台に設置し、移動式にすることで、オフィス街などでそうした潜在的なニーズを抱える方にも使っていただけるのではないかとひらめいたんです。そこでMUIC Kansaiさんと一緒に、パナソニックさんにご提案をさせていただき、移動式の「(MU)ROOM」を実現することになりました。

──プロジェクトを進めていく中で、工夫した点や苦労した点はどんなところにありましたか?

村上:川上さんと初めてパナソニックさんにご提案しにいったのが、2023年3月で、トラックができたのが11月。かなりスピーディにプロジェクトは進んでいますが、最初のスタートを切るにあたっては、パナソニックさんの社内で、もう一度「(MU)ROOM」開発に携わったメンバーを集めていただくというのに少し苦労しましたね。パナソニックさんは多くの事業会社に分かれており、様々な事業会社の技術を集約したものが「(MU)ROOM」という事もあり、再結成に時間が掛かりましたが、パナソニックさんの中で本提案の窓口になってくれた方が熱意のある方で、どうにか説得して話し合いの場を設けていただきました。

川上:そうですね。ですので、皆で話す場はすごく刺激的でしたね。パナソニックの開発チームには、ミストのプロ、音響のプロ、ライティングのプロ、それぞれにプロフェッショナルな技術を持っていらっしゃっていて、トラックの荷台という制限がある中で、「瞑想体験をいかに向上させるか」を各プロフェッショナルの知見から議論していきました。いろんな立場のプロが集まってくる、映画『アベンジャーズ』のようなチームだと思っていて、プロが皆で一つのものを作っていく工程は、とても意義がありましたね。

瞑想をより身近なものにするために、あらゆる場所でカジュアルな体験を

──実際に移動式の「(MU)ROOM Ride」が完成し、現在は実証実験をしていますが、どのような場所で瞑想体験を行っているのでしょうか?

村上:11月から始まった実証実験では、「(MU)ROOM Ride」のターゲットをオフィスワーカーや観光客といった方に設定しました。ターゲットごとにフィールドを設定して、オフィスワーカーには大阪のオフィス街、観光客には京都の神社、主婦やファミリー向けにはショッピングモールの駐車場などで瞑想体験を行っていただきました。

川上:皆さん、とても反応がよくて、満足してご利用いただいていますよね。
瞑想初体験の方から、毎日しているという方まで、さまざまな方に体験していただきましたが、印象的だったのは瞑想の熟練者の声です。
「瞑想は毎日家でできるけれど、(MU)ROOM Rideのこの環境でできることはなかなかないので、新鮮な体験だった」と感想をいただき、この空間だからこそできる価値が(MU)ROOM Rideにはあると感じましたね。また、瞑想の多様化といいますか、新しい瞑想の形を今後も展開できるのではないかとヒントにもなりました。

村上:オフィスワーカーの声も印象的でしたね。「普段休憩の時間でも、あまり休憩した気分にならないけど、15分瞑想するだけでとてもリフレッシュできた」と言っていただけたときは嬉しかったですね。私たちの目的としては、そうした普段ストレスを感じている方や集中したい方に、マインドフルネスの体験をしていただきたいので、オフィス街にもこうした体験ができる場としての価値を感じていただけて、移動式にして良かったと思いましたね。

──最後に「(MU)ROOM Ride」の今後の展開や展望について教えてください。

川上:現在は瞑想だけの体験ですが、瞑想と相性の良い別な体験もできるのではないかと考えています。例えば座禅を組む、お茶を立てる、ヨガをやるなど、そうした体験を含めたプログラムを組むことで、よりこのプロジェクトが広まっていくのかなと感じています。
また、企業様に対しては、現在、人的資本経営が注目される中で、メンタルヘルスケアを目的とした福利厚生で、このサービスがアプローチできるのではないかと感じています。
実証実験をしている中で、この(MU)ROOM Rideの可能性をとても感じているので、もっと様々な場所に展開をしていくことで、カジュアルに瞑想に親しんでいただけると嬉しいなと思います。
特に、日本では瞑想というと、怪しいものだと思われることも多いので、そのイメージを払拭して、皆さんに瞑想体験を楽しんでいただけたらと考えています。

村上:そうですね。この(MU)ROOM Rideには初心者の方が安心して瞑想できるガイダンスがあるので、ぜひいろんな方々に体験していただいて、瞑想を身近なものに感じていただけたら嬉しいですね。
MUIC kansaiとしても、このプロジェクトは皆様の健康課題といった社会解決に繋がるものだと感じていますので、Chicabiさんとパナソニックさんと協業しながら、今後も瞑想を広めていけたらいいなと思っています。

(MU)ROOM Ride 公式サイト
https://muroom.chicabi.jp/
※体験予約は上記サイト内の「体験を予約する」、その他お問い合わせは「お問い合わせフォーム」より

(プロフィール)

川上 鉄太郎
株式会社Chicabi 代表取締役社長

麻布高校、慶應義塾大学法学部卒業、英国バーミンガム大学ビジネススクール修士課程修了。帰国後、株式会社野村総合研究所の経営コンサルタントとして消費財B2C企業中心に経営戦略、マーケティング戦略を担当。現在はChicabi(チカビ)代表のほか、株式会社千葉牧場(千葉ウシノヒロバ)代表取締役社長、株式会社BRAND AND CONSULTING AGENCY(LOCAL FACTORY) 代表取締役社長等を務める。グッドデザイン賞、日本空間デザイン賞「サステナブル空間賞」、IAUD国際デザイン賞、日本サインデザイン賞、千葉県建築文化賞、千葉市都市文化賞など受賞歴多数。


村上 弘祐
一般社団法人関西イノベーションセンター マネージャー

2014年に三菱UFJ銀行へ入行。法人・個人営業に従事。法人では大企業から中小企業までを担当。融資や財務/市場分析・事業承継・運用・外為業務等、個人では富裕層の資産承継や運用・ローン業務等実施。2022年に銀行に在籍しながら現職へ出向。新規事業創出に掛かる課題抽出・チームアップ・企画立案・実証実験・社会実装迄を支援。イベント運営にも従事。



(文・高山諒、写真・飯山 福子、編集・金澤李花子)