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生活の変化に寄り添い、自動でピントを調節するオートフォーカスアイウェア「ViXion01」

2024.05.10(最終更新日:2024.05.10)

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本を読んだり、料理をしたり、スマホを眺めたり。私たちは生活のさまざまなシーンで「見ること」から多くの情報を得ています。しかし、目の酷使や加齢にともない、見え方に課題が生じることもあります。今まで通りの見え方が失われると、趣味や仕事に支障をきたし、生活の質が損なわれてしまうかもしれません。

「ViXion01(ヴィクシオンゼロワン)」は、そんな見え方の能力拡張に挑むオートフォーカスアイウェアです。見る距離に応じてレンズの形状が瞬時に変化し、近くでも遠くでもスムーズにピントが調節され、見え方の課題解決をサポートしてくれます。「“見える”を引き出す、取り戻す。」というキャッチコピーには、人によって異なるさまざまな変化に寄り添い、生活や人生の選択肢を増やしていきたいという想いが込められています。

2023年にクラウドファンディングで4億円以上を調達し、2024年3月には家電量販店での一般販売も始まったViXion01。発展段階にある製品ですが、その想いや先進性に惹かれ、多くのユーザーや仲間を集め続けています。見え方の課題に寄り添い続けるViXion01の足跡や、これからの展望について伺いました。

近くでも遠くでも、自動でフォーカスが合うアイウェア

こちらがオートフォーカスアイウェアViXion01。メガネのような形状で、黒くて丸いレンズが特徴的です。使い方はシンプルで、まずはViXion01を装着し、かけ心地に合わせて鼻パットやつるを調整。レンズを左右にスライドして見やすい位置に合わせたら、右手側のつるを開くと電源がオンになります。

今回お話を伺った、ViXion01を開発・販売するViXion株式会社の岑弘一郎さん

続いて約1mほど離れた目標物を見て、本体のダイヤルを回して焦点を合わせます。その設定が完了すると、見ようとしたものに合わせて自動でピントが調節されるようになります。

オートフォーカス機能の動作イメージ

試しに体験した筆者の見え方は、元々裸眼だと手元が少しぼやけ、1mも離れると文字がはっきり読めないくらい。ViXion01を装着して物を見ると、ぼやけた視界のピントが瞬時に調整されることに驚きました。手元から遠く、遠くから手元へと視点を切り替えても、その度すぐに調整される感覚はとても新鮮です。レンズの視野は少し狭いかな?と思いましたが、慣れればViXion01だけで一通りの作業ができるかもしれない、そんな可能性が感じられました。

ここからは、ViXion01を開発するViXion株式会社の岑弘一郎さんに、オートフォーカスの仕組みや開発の経緯について伺っていきます。

開発のきっかけは盲学校での経験

ViXion株式会社 執行役員・経営企画部長兼セールス&マーケティング部長の岑弘一郎さん

——ViXion01を体験して、距離に応じてピントが合う感覚が新鮮でした。そもそも人間の身体は、どのようにピントを調整しているのでしょうか?

人間の目には水晶体という部位があり、その厚みを毛様体筋という筋肉がコントロールすることで、光の屈折率を調整してピントを合わせています。しかし水晶体が硬くなったり、毛様体筋が衰えてしまうと、その機能が働きづらくなっていきます。ViXion01は焦点を合わせたい対象までの距離をセンサーで計測し、その距離に応じてレンズの形状を自動で調節することでピントを合わせているんです。

以前からレンズの形状を変えて見え方をサポートする研究や製品は存在していましたが、手動での調節が必要であったり、非常に大型になってしまうなどの課題がありました。ViXion01はオートフォーカスの仕組みの小型化に成功したことで、人がかけても違和感を感じづらい、約55gという軽さを実現できたんです。

——オートフォーカス機能と小型化を両立したことで、誰でも日常使いしやすいプロダクトになったのですね。ViXion01の開発のきっかけを教えていただけますか?

私たちの会社は、視覚に不自由を感じている方向け電子デバイスの開発と販売を行っています。ViXion01より前に製品化された「HOYA MW10 HiKARI(以下、MW10)」は、暗いところを明るく、狭い視野を広くするための装置で、夜盲症や視野狭窄の方向けに提供しています。

以前、弊社CTOの内海がこのMW10を体験してもらうため盲学校を訪問しました。その際、教室での学生さんたちの姿が印象に残ったそうです。生徒たちは板書をするために、ノートにグッと顔を近づけている。一方で遠くの黒板を見るには単眼鏡を使う必要があります。その勉強しづらそうな様子から、近くと遠くを切り替えられるアイウェアを着想したのです。

CTO・内海さんのデスク。開発者の机にはさまざまな道具・ケーブルが広げられ、ViXionの改良を進めていた

内海はいろいろな技術を組み合わせることが得意で、最初のプロトタイプは数日で完成しましたが、そこから製品化・リリースには2年ほどの歳月がかかりました。多くの体験会を実施する中で、あるとき左右で見え方の違う人に体験していただくと、すごい笑顔で「よく見える!」と言っていただいて。おそらく、その方に合うツールがこれまでなかったのだと思います。まさに深いペイン(悩み・困りごと)を抱える方にお届けできた瞬間で、非常に感慨深いものがありました。

デスクワーカーから仏師まで、見え方に課題を持つあらゆる人に

——Webサイトの「趣味の工作や作業など、さまざまなシーンで利用できます」という記載からは、これまでアイウェアを必要としなかった人たちがViXion01を使うシーンが想像できます。

初めから私たち自身で使い方を想定していたわけではなく、ViXion01を体験いただく中で「こういう場面で使えるのではないか?」と多くの声をいただきました。例えば読書やスマホの時間、パソコンを使う仕事、料理をしたり、プラモデルや電子工作などの細かい作業をしたり……。いろいろな方々が見え方に不便を感じていたり、生活の質が下がっていたりしていることに気付かされたんです。

ViXion01は盲学校での経験から生まれ、深いペインを持つ方に合わせて開発した製品です。しかし、その手前で、見え方にさまざまな課題を持つ方も含めてサポートできれば、私たちが提供できる価値はより大きくなっていくと考えました。

ViXion01をかけた状態での車や自転車等の運転は禁止としており、素早さが求められる動作やスポーツ等での使用も行えませんが、そうした条件を満たさなければ仕事でもご活用いただけます。実際に、ViXion01を使い込んだマンガ家の方から、嬉しいリアクションをいただいたこともあります。




また、京都市にある土御門仏所の仏師の方にも使っていただきました。木から仏像を彫って、最後に目を入れるのですが、ご自身の見え方が悪化してからは、お弟子さんに代わってもらっていたそうです。しかし、ViXion01を使えば作業が以前のように行えるので、技術を継承する意味でもありがたいと言っていただきました。

ViXion01を活用して仏像をつくる仏師

——見え方次第で難しくなる作業であっても、ViXion01があれば続けていけるかもしれないですね。

これまで技術の向上と見え方は、ある意味トレードオフのような関係にありました。何十年も積み重ねてきた技術に、見え方が追いつかなくなっていく状況も、ViXion01があれば変えられるかもしれません。

私たちは加齢をネガティブな「老化」ではなく、純粋な「変化」と捉え、それに適応するためのツールで貢献したいんです。熟練の職人さんや、マンガ家やアニメーターなど目を酷使する仕事に携わる方々が、時間をかけて技術を伝承しながら、現役で仕事を続けることをサポートできたら嬉しいです。

ユーザーと共にプロダクトを育てる

——ViXion01の「01」というネーミングには、これから進化していくという意図が込められていると伺いました。

ViXion01は人によっては、視野が狭いと感じられたり、サイズが合わず上手くかけられないなど、まだまだ発展段階にあるプロダクトです。ただし、それらを踏まえても、現時点で可能性を感じていただける方に手に取ってもらいたいと思いました。一般販売の前に、製品への正しい理解や応援を前提とする、クラウドファンディングという形で世に打ち出したのにも、そうした経緯があります。

——kibidangoとGREEN FUNDINGで実施したクラウドファンディングでは、5703人から4億円以上の大きな支援を集めて話題になりました。

体験会やクラウドファンディングを通じて、本当に多くの方からご支援をいただきました。その声は開発にも反映され、先ほど述べた利用シーンの具体化や、初期設定の簡易化といった機能改善などに繋がっています。また、今弊社で働いているメンバーにも、クラウドファンディングをきっかけに集まった人もいます。

kibidango / GREEN FUNDING でのクラウドファンディング

—完成した物を販売するだけでは起こらない、ポジティブな変化が起きているんですね。ViXion01の未来的なデザインも、こうした注目に影響していると感じます。

デザインの方向性は社内でも議論し、ViXion01の時点では「メガネの代替品ではない」というニュアンスを持たせることにしました。それらの意図を汲んだデザインを、プロジェクト初期からデザインオフィス「nendo」に手がけていただいています。この近未来的なデザインが功を奏し、技術に興味のある人からも注目されました。なかにはViXion01を自主的に改造している方もいて、拡大鏡をつけたりヘッドセットデバイスと組み合わせたりと、我々の想像を超えた変化が起きています。

「職場に持って行ったら、みんなからリアクションがもらえた」など、コミュニケーションのきっかけになったというご意見も嬉しいですね。クラウドファンディングでの支援や体験会を通じて、ViXion01が持つ価値をユーザーさんと磨き上げていけたのは、弊社にとって大きな財産です。

専用のアプリと連携し、キャリブレーションを行うことも可能。

体験を優先しながら、必要な人に届けていく

——今後の展望を教えてください。

クラウドファンディングで支援いただいた分の発送が終わり、オンラインでの一般予約販売を開始しました。また、2024年3月15日からは「ビックカメラ」の一部店舗での販売も始まりました。店頭販売の場でも、まだ発展段階の製品であることを正しく理解いただくために、買う前に体験いただくことを大事にしています。

——見え方は誰にも関係があるので、一度ViXion01を体験するだけでも「人生のどこかで必要になるかもしれない」という意識が生まれるように思いました。

ViXion01は魔法の道具ではありません。現状の視野が狭いと感じられる方もいるものの、それでもこの製品で救われる方もいるかもしれない、という思いで開発してきました。販売機会も広がり、これからはシビアなご意見も増えると思いますが、誠心誠意向き合って、将来に期待いただけるようにしていきたいです。

2024年1月にラスベガスで開催された世界最大の家電見本市CESに出展したところ、装着して歩いたら、動くたびに声をかけられるくらい好評でした。ViXion01の持つ可能性は日本にとどまらず、グローバルに広がっているものだと実感できました。とはいえ、まずは国内で製品開発をしっかり進めつつ、次世代機の開発や世界での展開にも取り組んでいければと思います。

(プロフィール)
岑 弘一郎
大手電機メーカー、Big4系コンサルティングファーム、メガベンチャー、PwCコンサルティングを経て、ViXion株式会社に2023年2月に参画。PwCでは事業戦略立案・新規事業開発に関するプロジェクトを多数リード。ViXionでは執行役員 経営企画部長 兼 セールス&マーケティング部長として全社的なプロジェクトの企画・推進や、ViXion01等の事業企画・推進等を担当。
公式HP  https://vixion.jp/
お取扱店舗 https://vixion.jp/vixion01-store/

(編集部コメント)
自分自身はそれほど大きな見え方の課題を抱えていないため、ViXionを体験するまで具体的なイメージが湧いていませんでした。しかし、一度ViXion01のオートフォーカス機能を体験すると、自分の体がピントを調整している仕組みが理解でき、それが衰えていくことにもリアリティを感じられました。ViXion01は人によって異なる見え方の課題をサポートするだけでなく、体験を通じてコミュニケーションを生み出す可能性も秘めています。見える人も見えづらい人も、同じように興味を向けられる、非常にインクルーシブなアイテムだと思いました。

(文:淺野義弘、写真:飯山福子、編集:ヤマグチナナコ)