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空飛ぶクルマが現実に! “低空経済”元年への期待

2024.06.10(最終更新日:2024.06.10)

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中国工業情報化部傘下の研究機関が4月1日、「中国低空経済発展研究報告(2024年)」を発表しました。推計では、2023年中国の低空経済の規模が5,059 億 5,000 万元(約10兆6,250億円、1元=約21円)に達する見込み※といいます。低空経済とは、高度1,000メートル以下の空を活用する新技術で、ドローンによる配送、空中タクシー、ドローンによるインフラ検査などを指します。中国政府の報告書で今後の重点産業として名指しされるなど、中国で注目を集めている産業分野です。ジャーナリストの高口康太氏が低空経済の今を解説します。

「低空経済」ってなに?

「2024年は低空経済元年になる」
最近、中国のビジネス界でよく聞く話です。フードデリバリーを注文すると、あっという間にドローンが届けてくれる、空飛ぶ車で渋滞知らずといったSFのような世界がついに到来するのではないかと期待が高まっています。

そもそも、低空経済とはなんでしょうか? 原則的には高度1,000メートル以下(条件によっては3,000メートル程度までをカバー)の低空を活用し、有人、無人のドローンを活用した各種のサービスを意味します。

フードデリバリーや宅配便を自宅まで配送してくれる、空飛ぶ車とでもいうべきeVTOL(イーブイトール/電動垂直離着陸機)という新たなモビリティが代表的な事例となります。

電動の無人航空機やマルチコプター(3つ以上のローターを搭載した回転翼機。小型ドローンでは主流の形態)は20世紀半ばから研究開発が続けられてきました。一般の人でも安くホビー用ドローンが購入できるようになってからもすでに10年以上が過ぎています。おもちゃとしても、産業のための道具としても、あるいはウクライナ戦争で広く報じられているように軍事用途としても、ドローンはすでに珍しい存在ではありません。

すでにドローン操縦士は職業として定着しました。撮影需要から始まりましたが、インフラの点検、各種の調査、消火活動、農薬の散布などさまざまな用途があります。

消防ドローン。2019年10月、広東省深圳市のセキュリティ展示会(筆者撮影)

山間部を走る高圧電線の点検など、ドローンを使うことで労力が数十分の1になる作業もあります。遅延が少ない5G通信を使うことで、都会にいながら田舎のドローン作業を実施する研究も進められています。また、中国のドローン活用で見逃せないのが農村です。中国では農業ドローンを購入し、農家を回って農薬散布の仕事を請け負う、フリーのドローン操縦士が農民の新職業として定着したほど。農業の省人化、高度化には欠かせない存在です。

農薬散布用ドローン。2019年10月、広東省深圳市の農業ドローンメーカー「イーグル・ブラザー」本社にて筆者撮影。

そう考えると、なぜ今さら低空経済なんていう話になるのか、不思議に思う方もいるかもしれません。たしかにドローンはすでにビジネスに使われるようになっていますが、技術的に安全を保障することが難しく、人口密集地などでの利用は困難でした。大都市の空を無数のドローンが飛び回っているという光景はまだ実現していません。

米アマゾンがドローンによる配送計画を発表したのが2013年、世界で初めてeVTOLの量産許可を取得した中国の企業「億航智能(おくこうちのう)」の計画発表が2016年。当時は数年以内に空の革命が起きると騒がれましたが、その期待よりも現実はだいぶ遅れることになりました。ですが、この間に制御ソフトやモーター、バッテリーなど核心技術の向上は続き、ついに一般利用が目に見えるところに近づいてきました。

2024年のパリ五輪、2025年の大阪万博では、空飛ぶクルマとしてeVTOLのデモや一部旅客輸送が予定されており、私たちの目に触れる機会が今後、急速に増えるでしょう。

低空経済に一気にゴーサイン、中国の一大決心

世界各国でドローン活用やeVTOLの開発が進められていますが、その中でも中国の勢いには驚くものがあります。中国は一般用ドローンで世界シェア70%超を誇る巨人、DJIを筆頭に数多くのドローン企業があります。また、無数のセンサーから得た情報をコンピューターが判断して自律飛行するドローンは、技術や部品、ソフトウェアなど多くの面でスマートフォンと共通しています。「空飛ぶスマホ」と呼ばれるゆえんです。

そのため、中国は低空経済確立に向けて優位なポジションを持っているのですが、もう一つ、大きいのが新技術の大胆な実験を許す風土です。昨年、ある自動運転ベンチャーを訪問したのですが会社周囲の公道は特別な認可がもらえたとのことで、一般の車と混じって自動運転車が走っていました。まだまだ危なっかしい動きでいつ事故が起きても不思議ではないとみているこちらが不安になるほどでしたが、このあたりの大胆さが中国からユニークなプロダクトがでてくるヒミツなのでしょう。

ドローン修理教室。2019年10月、広東省深圳市の農業ドローンメーカー「イーグル・ブラザー」本社にて筆者撮影。

技術的な課題と同じぐらいに重要なのが法的整備です。技術的には安全が確保されても、関連する法律が整備されなければ低空経済は実現しません。中国は国全体で社会実験を行っているとまで言われるほどに、アグレッシブにさまざまな技術を試しています。低空経済においても、中国のイノベーションシティとして知られる広東省深圳市では、ドローンによるフードデリバリーの実験が認可されるなど、大胆な取り組みを続けてきました。

そして、機が熟したとみた中国政府は低空経済に一気にゴーサインを出しました。2024年1月1日施行の「無人操縦航空機飛行管理暫定条例」、「民用無人操縦航空機運航安全管理規則」です。これは低空経済に使われる機体の認可、メーカーの責務、運営企業の認可や保険加入などの義務、飛行禁止区域の設定、フライト許可が必要になる場合の要件などが定められています。これによってどのような条件を満たせばいいのかが明確になりました。

特に注目すべきは「適飛空域」と呼ばれる区画の設定です。高度120メートル以下で、空港や軍事基地、発電所などのインフラ、地方政府によって特に定められた地域、それに中国らしいのが共産革命の重要な記念地の上空においては飛行が禁じられますが、それ以外はオフィス街や住宅街も含めた地域が「適飛空域」とされます。この区域では微型、軽型(機体重量4kg以下、離陸重量7kg以下、最高時速10km以下の機体)は飛行許可がなくとも随時飛行させることができます。つまり、3kgまでの荷物を運ぶ配送ドローンは都市内をかなり自由に飛ぶことが法的に認められました。

人間を乗せるような大型のeVTOLについても免許、保険などのクリアすべき条件が確定しました。前述の億航智能のeVTOL「EH216」は2023年2月に日本で試験飛行するなどの実績を積み重ねてきましたが、今年4月には量産許可を取得。年内にも商用飛行をスタートする見通しです。深圳市ではすでに100カ所以上のeVTOL離発着スポットの着工が始まっているとのこと。2025年までに600カ所の整備を目指しています。EH216は最高時速130キロ、航続距離は30キロというスペックです。飛行機に比べれば遅く、飛べる距離も限られていますが、離発着スポットのはるばる空港まででかける手間を考えると、タクシー感覚で使うことができます。当初の路線としては深圳・香港島間、深圳・珠海間など海に隔てられて、来るまでは大きく回り道をしなければならない目的地への便が有力です。

同じく広東省の広州市も低空経済に積極的です。すでに小型貨物の輸送で使われており、病院の血液サンプルや、越境EC(ネット注文で海外から低関税で注文できる仕組み)のお急ぎ便に活用されています。

大きく動き出した、中国の低空経済。中国民用航空局は2030年までに2兆元(約44兆円)の巨大産業になるとの見通しを示しています。今まで2Dだった都市交通が立体的な3Dへと変わることによって、経済活動の効率性が高まることが期待されています。

パソコンでのドローン操縦研修。2019年10月、広東省深圳市の農業ドローンメーカー「イーグル・ブラザー」本社にて筆者撮影。

日本でも取り組みが期待される低空経済

低空経済の発展には安全な機体を開発する技術、サポートする法整備が必要ですが、他にも離発着場の整備や操縦士の訓練学校、免許認可の制度などのインフラ整備も必要です。また、飛行情報や気象情報をリアルタイムに共有する仕組みも必要となります。中国は太陽光パネルや風力発電、EVなどの新時代の技術をいち早く社会実装させることにより、必要なノウハウを身につけ、世界に輸出できる体力を身につけようとしています。確実に巨大産業となる低空経済、日本もスピードアップした取り組みが必要となりそうです。


[プロフィール]
高口 康太
ジャーナリスト、千葉大学客員准教授。2008年北京五輪直前の「沸騰中国経済」にあてられ、中国経済にのめりこみ、企業、社会、在日中国人社会を中心に取材、執筆を仕事に。クローズアップ現代」「日曜討論」などテレビ出演多数。主な著書に『幸福な監視国家・中国』(NHK出版、梶谷懐氏との共著)、『プロトタイプシティ 深圳と世界的イノベーション』(KADOKAWA、高須正和氏との共編)で大平正芳記念賞特別賞を受賞。