少子高齢化で「働く世代の減少」が顕著に
子どもの数があまり増えなくなり、高齢者が増える社会。これを、一般的に「少子高齢化」と表現しています。
そんな少子高齢化の社会において、日本はこれからどのように対応するべきか、ネット、テレビ、新聞での報道やSNSで様々な議論があるところです。
では具体的に、少子高齢化の社会とはどのようなものなのでしょうか?
内閣府の令和4年度「高齢社会白書」によると、令和3年10月1日時点の日本総人口は1億2550万人で、そのうち65歳以上の人口は3621万人です。
65歳以上が総人口に占める割合を便宜上「高齢化率」と呼んでおり、直近での高齢化率は3621万人÷1億2550万人=0.28(28%)となります。
高齢化率の今後の動向については、2025年に30.0%、2030年は31.2%、2040年に35.3%、2050年に37.7%、そして現時点で最も先の予測年である2065年には38.4%と約4割まで高くなると、国は予測しています。
このように、これからの日本は働く世代の総数が減り、日本国民が社会全体を支えていくことが徐々に難しくなると考えられます。
特に、高齢者や子どもたちにとって大切な医療、教育、移動など、生活の中核となる事柄を大切に考えていく必要があるでしょう。
喫緊の課題は「生活インフラ」の維持
こうした「高齢化社会」という現実に直面している日本にとって、大きな課題となるのが「生活インフラ」の維持ではないでしょうか。
インフラとは、インフラストラクチャーのことで、様々な意味がありますが、生活におけるインフラと考える場合、生活を下支えする社会的なサービスと位置付けることができると思います。
電気、ガス、水道などは、まさに生活インフラですが、実際の生活を考えると生活インフラに直結する社会サービスには様々なものがあります。
なかでも近年、日本で議論が高まっている領域が、物流と公共交通機関です。
ともに交通分野に属しており、ここにDX(デジタル・トランスフォーメーション)に関する最新テック技術の導入により、社会課題の解決に対する一層の技術革新の可能性が考えられるため、国が主導し、産学官が連携した実証実験や、それを基盤として社会実装に向けたチャレンジが始まっているところです。
では、順を追っていくつかの事例を紹介していきましょう。
「物流×テック」…トラックドライバーの減少への対応策
まずは、物流についてです。
日本では、いわゆる「2024年問題」が大きな社会課題となっています。働き方改革関連法によって、トラックドライバーの労働時間が従来よりも短くなるため、同法に関連し改正された労働基準法等が施行される2024年4月1日以降、物流全体の取り組みになんらかの変化を取り入れなければ、従来のような物資の輸送や荷物の配達ができなくなる危険性が指摘されています。
また、2024年問題というピンポイントでの課題だけではなく、物流業界におけるトラックドライバーの高齢化や、新規ドライバーの成り手不足が慢性的な課題になっています。
こうした物流業界に対する解決方法としては、データ管理による物流の効率化が考えられます。荷物の動きと、それに伴う作業や輸送の状態を物流業界全体でデータとして把握し、より効率的な物流へとシフトする仕組みづくりが進んでいるのです。
すでに、ネット通販で商品を購入すると、出荷や配送の現状を消費者がスマホやコンピュータ上で確認できるシステムが採用されています。
そうしたデータは今、ネット業者や物流業者が個別に管理していますが、これを物流業界全体での協調領域として捉えるデータプラットフォームの開発が検討されています。
また、トラックや軽貨物車両の製造メーカーでは、トヨタを中心に、いすゞ、ダイハツ、スズキなどが連携したCJPT(コマーシャル・ジャパン・パートナーシップ・テクノロジーズ)という企業が、車両データを協調領域(各社が共通仕様とすることで、顧客価値を向上させる領域)とする研究開発を加速させているところです。具体的には、配車、物流サービスを統合管理するプラットフォーム等があげられるでしょう。
さらに、国が主導して自動運転レベル4の大型トラックの2020年代後半の社会実装を目指しています。レベル4とは、運転席に運転者がいない状態での自動運転を意味しますが、国が目指しているのは、複数トラックが隊列走行する仕組みです。技術課題を段階的に解決するため、まずは先頭トラックのみが有人かつ高度な運転支援システムである自動運転レベル2での実証を始め、その後、段階的に自動運転レベル4に引き上げる予定です。
2024年度には、新東名高速道路の一部区間で、夜間に自動運転専用車線を設けて様々な実証実験が始まることが決定しています。
こうした物流DXは、欧米や中国でも最新技術による実証試験が行われており、日本での
「トラック×テック」分野産業はグローバル向けの新たなビジネスモデルとしても期待されています。
「公共交通機関×テック」…住民ファーストの視点で、市民の新たな交通手段へ
次に、「公共交通機関×テック」分野について紹介します。
経済産業省は2023年度から「RoAD to the L4(ロード・トゥ・ザ・レベル4)」への本格的な取り組みを行い、このなかには前述の高速道路での自動運転トラックが含まれるほか、全国各地で路線バスやコミュニティバスなどの代替手段として、遠隔監視システムを用いた自動運転レベル4の社会実装を目指しています。
運転免許を返納した高齢者や、運転免許を持たない子どもだけではなく、多くの住民のとっても新しい交通手段として受け入れられるかもしれません。
ただ、「最新テック技術ありき」ではなく、実際の生活にどのように役立つのかという「住民ファースト」の視点を、自動運転公共交通機関を導入する市町村や地域の交通事業者が十分に理解し、社会実装したあとでも、その運用について住民と継続的に話し合うことが大切だと思います。
そのほか、自動運転という切り口ではなく、住民からの乗車リクエストをデータ管理システムが最適化して運行する、AI(人工知能)オンデマンドバスについては、すでに全国各地で成功事例が生まれています。この場合、運転者はプロの場合ばかりでなく、「自家用有償旅客運送」と呼ばれる地域住民による互助によるものも運用されています。
社会全体での「持続的な議論」が重要に
このように、「物流×テック」や「公共交通機関×テック」は、住民や消費者にとって、そしてテック系産業界にとって、日本の近未来を切り開くために重要なファクターであると言えるでしょう。
さらには、物流や公共交通機関のデータプラットフォームは、より大きなデータプラットフォームとの連携も必須となるでしょう。また、デジタル庁が2022年6月に公開した「デジタル社会に向けた重点計画」のなかで「準公共分野※のデジタル化」という形で今後、社会実装される可能性があります。
※準公共分野とは、防災、健康・医療・介護、教育、こども、インフラ、港湾(港湾物流)、モビリティ、農林水産行・食関連産業を指します。
そのほか、これら準公共分野を相互に連携するまちづくり構想であるスマートシティや、電子商取引なども加わるという、次世代の日本社会のあり方を抜本的に変えていこうという発想です。
このように、少子高齢化におけるインフラ整備とは、電気・水道・ガスなどのサービス事業や、物流でのトラックや公共交通機関でのバスや電車などのハードウエアを対象とするだけではないということです。
キーポイントとなるのは、クオリティの高いデータをどのように集め、それを社会全体でどのように活用していくのかという方針を、産官学連携という社会全体の枠組みのなかで持続的に議論することではないでしょうか。
今後もDX(デジタル・トランスフォーメーション)の分野での研究開発がさらに進むことで、少子高齢化という社会でも、人々の生活をこれまで通りに維持され、また社会全体が未来に向かって活力が漲っていくことを期待したいと思います。
<プロフィール>
桃田 健史
自動車ジャーナリスト、元レーシングドライバー。専門は世界自動車産業。エネルギー、IT、高齢化問題等もカバー。日米を拠点に各国で取材活動を続ける。日本自動車ジャーナリスト協会会員。