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赤いキウイに桃の香りのイチゴ!? フルーツの持続的な生産を支えるフードテックとは?

2024.05.17(最終更新日:2024.05.17)

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サニールージュ、サマークリスタル、金星、ゆうぞら……。一体何の名前なのでしょうか? 実はこれらはすべて果物の品種の名前。スーパーの果物コーナーに行くと、ひと昔前の状況とは大きく変わり、聞いたことのない名称のりんごや柑橘類などを見かけることが多くなっているのではないでしょうか?

わくわくするような品種の話だけを聞くと、世界や日本における果実栽培は明るく楽しいイメージだけになりそうですが、実はそうではありません。食糧難や温暖化、人口バランスなどが問題視される状況において、抱えている問題は決して少なくはないのです。おいしい果物の持続的な生産のためには、どのようなことが求められているのでしょうか?

そこで今回は、「フルーツにおけるフードテック最新事情」として、果物の新しい品種改良の事例をわかりやすくご紹介。合わせて現代の果樹業を取り巻く深刻な社会問題にも触れながら、それらを解決していくための技術革新について、実際の事例を交えながらご案内していきたいと思います。

20年以上の歳月をかけて生まれた “ルビー色”のキウイフルーツ

ゼスプリ インターナショナル ジャパンが期間限定で発売している「ゼスプリ・ルビーレッド」。黄色いキウイは、ビタミンCを豊富に含む「ゼスプリ・サンゴールドキウイ」。(著者撮影)

まずは海外産果物の話からはじめていきましょう。ニュージーランドの名産品であるキウイフルーツ、ひと昔前はグリーンが定番でしたが、最近では黄色や赤色が登場しているのをご存じでしょうか? 最も新しい品種として「ゼスプリ・ルビーレッド」という赤い果肉のキウイが2020年から日本での販売が始まっています。

この赤い果肉は、ビジュアル面だけの美しさだけではありません。生活者の嗜好に合わせ、20年以上の歳月をかけて生まれた希少種。風味はベリーのような上品な甘さが特長で、栄養面では女性に嬉しいアントシアニンやビタミンCが豊富に含まれています。

ゼスプリでは国の研究機関と一緒に研究を進めることで、品種改良だけにとどまらない生産技術の開発や果樹園の管理、市場拡大などを進めています。また技術の側面においては、キウイを病気や害虫から守るため、土や葉を採集してデータを集め、翌年度の対策を実施。一部の果樹園にはウェザーステーション(気象観測器)を設置して風・気候・湿度などをモニタリングし、潅水自動システムにより作業を効率化しています。キウイフルーツはニュージーランドの果物・野菜の輸出の55%を占めています。(2022年7月1日~2023年6月30日)、多くの人々が携わる農産業に成長。世界50カ国以上に広く提供されるシステムが確立されています。

それでは次に日本の事例を見ていくことにしましょう。

果房あたりの果数が多い! 桃の香りがするイチゴとは?

モモやココナッツに似た香りを持ち、美しいサーモンピンクの果実が特長の「桃薫(とうくん)」。この新しいイチゴは限定的に出回っていて、タルト専門店の「キルフェボン」では、「静岡県産 “桃薫(とうくん)“のタルト」が登場している。(著者撮影)

新しい果物は海外だけにあらず、日本でも多くの新品種が登場しています。例えば、「桃薫(とうくん)」というイチゴ。モモやココナッツに似た香りや甘いカラメルのような香りの成分が多く含まれている、従来のイチゴの風味とは全く異なる新品種(2011年10月5日品種登録)。美しいサーモンピンク(淡黄橙色)の優しい色味が特長で、短い円錐形ゆえにモモのように見えるとも言われています。

桃薫は、「とよのか」と香りの強いワイルドストロベリーFragaria nilgerrensis「雲南」を交配した「久留米IH1号」に、外観が良く栽培しやすい「カレンベリー」を掛け合わせています。魅力は味や香りだけではありません。生育が旺盛で多収である(収穫量が多い)点でも品種改良が行われた好事例と言えます。

フルーツを使用したタルトで知られる、全国に11店舗を展開するタルト専門店「キルフェボン」では、季節限定のプレミアムなタルトとして「静岡県産 “桃薫(とうくん)“のタルト」が登場し、人気を集めています。

このように、日本における高品質な果物栽培の技術は世界有数であり、輸出品目としてのポテンシャルが高いために、今後ますます期待が寄せられることでしょう。しかし、現実的には、深刻な問題も多く抱えているのです。具体的には、栽培農家も栽培面積も減少傾向に進んでいるのが実情で、人口減少に加え農業就業者の減少に歯止めがかからず、農業の中でも重労働とされる果樹農業は大きな試練を乗り越えなければならない時代に突入していると言っても過言ではありません。

とくに高品質な果実生産は労働生産性を犠牲にして手間をかける手作業により実現されていることが多く、他品目と比較して労働時間が長いことが問題になっています。そこでこれらの問題解決のための重要なカギを握るのが、テクノロジー。ここからは国内ですでに始まっている画期的な農業システムの一例をご紹介していくことにしましょう。

AI技術を活用したスマート農業システム「ゼロアグリ」

ルートレック・ネットワークスが提供する「ゼロアグリ」のコンセプト(同社提供)

生産者の労働省力化だけでなく、作物にストレスのない潅水施肥によって作物の収量、品質向上を実現するAI技術を活用したスマート農業システムとして2013年に登場したのが、「ゼロアグリ」。

“持続可能で稼げる「日本発デジタルファーミング」”をコンセプトに掲げるルートレック・ネットワークスという企業が提供しているサービスで、イチゴ、ブドウ、ナシ、メロンなどの果物はもちろんのこと、トマトやキュウリなどの野菜においても広く導入されています。

潅水(かんすい)や施肥などの作業がスマホやPCから遠隔操作で可能になる。(株式会社ルートレック・ネットワークス提供)

ゼロアグリは、農作業の潅水と施肥をIoTとAI技術により自動化し、「高収量・高品質・省力化」を実現したスマート農業システム。作物やその土地に合った理想的な土壌環境を維持するための潅水や施肥などの作業が、スマホやPCから遠隔操作で可能になるという画期的な仕組みです。例えば、作物が1日に要求する潅水量≒蒸散量を計算し少量多頻度で潅水することで、人の手では難しい高い精度の水やりを実現することができます。

また、ゼロアグリの活用により農業生産における省力化や品質安定が実現するだけではなく、環境にも優しい栽培が可能に。青森県の夏秋トマト栽培における実証実験(※)において、化学肥料の低減によりゼロアグリを使わない慣行栽培と比較して約48%の温暖化効果ガス排出量を削減に成功しています。

さあ、いかがでしたか? 世界における果物の未来を確かな技術革新に期待すること、そしてこれらの取り組みに私たちひとりひとりが関心を寄せ、考え実行していくことに大きな意義と可能性が生まれるのではないでしょうか。


<著者>
スギアカツキ
食文化研究家。長寿美容食研究家。東京大学農学部卒業後、同大学院医学系研究科に進学。基礎医学、栄養学、発酵学、微生物学などを幅広く学ぶ。在院中に方針転換、研究の世界から飛び出し、独自で長寿食・健康食の研究を始める。食に関する企業へのコンサルティングの他、TV、ラジオ、雑誌、ウェブなどで活躍中。